2007年12月29日土曜日

百韻『あら何共なや』もどき


  『あら何共なや』の巻        『首さする』の巻
             延宝五之冬           平成十九年初冬

あら何共なやきのふは過て河豚汁 桃青 首さする河豚にことなきあした哉 蘭
 寒さしさつて足の先迄     信章  手水につかふ温き湯たんぽ   白
居あひぬき霰の玉やみだすらん 京信徳 玉霰凍てつく縁につくばひて   蘭
 拙者名字は風の篠原       青  人は私をただの千代女と    白
相應の御用もあらば池のほとり   章 なんなりと御用の筋は池の端   蘭
 海老ざこまじりに折節は鮒    徳  佃に出向き鮒の甘露煮     白
醤油の後は湯水に月すみて     青 月島でもんじやとやらを頂いて  蘭
 ふけてしば/\小便の露     章  腹にたまるもほんの露の間   仝

きゝ耳や余所にあやしき荻の声   徳 荻吹くや聴耳頭巾いづこにぞ   白
 難波の芦は伊勢のよもいち    青  胡乱なやから今を時めく    蘭
屋敷がたあなたへざらりこなたへも 章 惨国史偽誤蝕とふは此方人等で  白
 替せ小判や袖にこぼるゝ     徳  堪忍切れて小銭こぼるゝ    蘭
物際よことはりしらぬ我涙     青 瀬戸際と知らでか我のなみだ恋  白
 干鱈四五枚是式の恋を      章  焦がれて捩るするめ一枚    蘭
寺のぼり思ひそめたる衆道とて   徳 尼寺にのぼるきだはし道それて  白
 みじかき心錐で肩つく      青  思慮もあさはか茨でつつく   仝
ぬか釘のわづかのことをいひつのり 章 くず鉄のわづかな入りも酒に消え 蘭
 露がつもつて鐘鋳の功徳     徳  あさゆふ拝す野仏露けき    仝
うそつきの坊主も秋やかなしむ覧  青 ねだり屋の女房も秋やなげく濫  白
 その一休に見せばやの月     章  その繰言にふりむけば月    蘭
花の色朱鞘をのこす夕まぐれ    徳 花の色ぼかし珊瑚の夕つかた   白
 いつ焼つけの岸の款冬      青  おいしさうなり若い山蕗    蘭

よし野川春もながるゝ水茶碗    章 水草生ふよしのよくみよ雪解川  白
 紙袋より粉雪とけ行       徳  淀にただよふ紙の捨て雛    蘭
風青く楊枝百本けづるらん     青 黒文字の木肌を削げば風光り   白
 野郎ぞろへの紋のうつり香    章  脂粉のちまたは此処でありんす 蘭
双六の菩薩も爰に伊達姿      徳 長煙管大夫のしぐさ仇っぽく   白
 衆生の銭をすくひとらるゝ    青  見ほれる旦那の財布からつぽ  仝
目の前に嶋田金谷の三瀬河     章 一律に六文かかる三瀬川     蘭
 から尻沈む渕はありけり     徳  ころも頭にのせ偽の経よむ   白
小蒲團に大蛇のうらみ鱗形     青 片恋の姫の気色のおそろしく   蘭
 かねの食つぎ湯となりし中    章  紅鉄漿つけて大蛇となるか   白
一二献跡はさびしく暮過て     徳 一二献ブレーキゆるむ時節にて  蘭
 月はむかしの親仁友達      青  平成の世も配所に月を     白
蛬無筆な侘そきり/゛\す     章 あはれげな景色な見せそきりぎりす蘭
 胸算用の薄みだるゝ       徳  秋園に散る十露盤の珠     白
二ウ
勝負もなかばの秋の濱風に     青 塾がへり薄ヶ原で賭け相撲    蘭
 われになりたる波の関守     章  セコム完備のわたしのお家   白
顕れて石魂たちまち飛鵆      徳 白狐化けたる石を遠目に見    蘭
 ふるい地蔵の茅原更行      青  温泉たまごも人もふけゆく   白
塩賣の人通ひけり跡見えて     章 しほ風に金色夜叉の松古りて   蘭
 文正が子を恋路ならなん     徳  大正昭和の恋路なるらん    仝
今日より新狂言と書くどき     青 才もありロマンもあるとおだてあげ白
 物にならずにものおもへとや   章  物にてさそふものならなくに  蘭
或時は蔵の二階に追込て      徳 三畳間「男の書斎」に押込めて  白
 何ぞととへば猫の目の露     青  残り蛍に我が身かさねる    蘭
月影や似せの琥珀にくもるらん   章 燃えてゐる月がルビーであつたなら白
 隠元ごろもうつゝか夢か     徳  露のこころもやがて金剛    蘭
法の声即身即非花散て       青 妙音も馬耳東風と花の下     白
 余波の鳫も一くだり行      章  帰る鳫あり残る鳫あり     仝

上下の越の白山薄霞        徳 犀川や友禅あらふ春の水     蘭
 百萬石の梅にほふなり      青  白壁沿ひに五彩も麗      白
昔棹今の帝の御時に        章 棹竹の御しめによその吉事知る  蘭
 守隋極めの哥の撰集       徳  きみは秤座われ水瓶座     白
掛乞も小町がかたへ急候      青 札差に伺候してまで俳諧し    蘭
 これなる朽木の横にねさうな   章  草を枕に幾夜か寝つる     白
小夜嵐扉落ては堂の月       徳 あらし過ぐ屋根はいづくか梁の月 蘭
 ふる入道は失にけり露      青  ふる鼠失せ露さむき夜     白
海尊やちかい比まで山の秋     章 次郎吉の心いかでか寺の秋    仝
 さる柴人がことの葉の色     徳  黄金の色葉緑苔に散る     蘭
縄帯のそのさまいやしとかゝれたり 青 羊腸の小径を往く草鞋掛     白
 これぞ雨夜のかち合羽なる    章  尻をからげて笠に雨音     蘭
飛乗の馬からふとや子規      徳 馬子唄に歩をゆるめれば霍公鳥  白
 森の朝影狐ではないか      青  信太の森の売りは葛もち    蘭
三ウ
二柱弥右衛門と見えて立かくれ   章 ワイヤーの見え隠れする白狐かな 白
 三笠の山をひつかぶりつゝ    徳  やんややんやの拍手喝采    蘭
萬代の古着かはうとよばふなる   青 垂涎の革ジャンレノンミュージアム白
 質のながれの天の羽衣      章  想像しよう天国はここ     蘭
田子の浦浪打よせて負博奕     徳 ビギナーズラックか旅のラスベガス白
 不首尾でかへる蜑の釣舟     青  おけらで帰るボウズ軍団    蘭
前は海入日をあらふうしろ疵    章 白浪の大漁旗も色さめて     白
 松が根まくら石の綿とる     徳  ひときは黒く見える島影    蘭
つゞれとや仙女の夜なべ散紅葉   青 あまをとめ藻塩の鍋で大根炊   仝
 瓦灯の煙に俤の月        章  月に匂ひは届くでせうか    白
我恋を鼠のひきしあしたの秋    徳 なさぬ恋利休鼠の霧こめて    蘭
 涙じみたるつぎ切の露      青  蔦唐草の紙を切り継ぐ     白
衣奬繪の姿うごかす花の風     章 かな散らし源氏写せば花の風   蘭
 匂ひをかくる願主しら藤     徳  藤の面影やどす女童      白

鈴の音一貫二百春くれて      青 猫の仔も招く壷焼きふけぬらん  蘭
 かた荷はさいふめてはかぐ山   章  馬手で弓手でそれとも足で   白
雲助のたな引空に来にけらし    徳 雲助をかるくあしらふちりめん屋 蘭
 幽霊と成て娑婆の小盗      青  山椒と酒盗をあてにほろ酔ひ  白
無縁寺の橋の上より落さるゝ    章 忠臣もししと呼ぶなり山くじら  蘭
 都合その勢万日まゐり      徳  「ん」を味方に万マイル貯め  白
祖父祖母早うつたてや者共とて   青 たけざうよここであふたが百年目 蘭
 鼓をいだき草鞋しめはく     章  張扇のおと小屋の外まで    白
米袋口をむすんで肩にかけ     徳 貧相をひげと語りでカバーして  蘭
 木賃の夕部風の三郎       青  どやに宿りて浮世本かく    仝
韋駄天もしばしやすらふ早飛脚   章 アキレスもしばしやすらふ早連句 白
 出せや出せやと責る川舟     徳  次第にあがるヘクトパスカル  蘭
走り込追手顔なる波の月      青 かけくらべ月のうさぎに追ひついて白
 すは請人が芦の穂の声      章  秋潮みちる葦はらの舟     蘭
名ウ
物の賭振舞にする天津鴈      徳 双六の上がりに待つは今年酒   白
 木鑵子の尻山の端の雲      青  南部鉄瓶ちんちん鳴つて    仝
人形の鍬の下より行嵐       章 朝帰り舌を駆使して過ぐあらし  蘭
 畠にかはる芝居さびしき     徳  犬のリードで散歩する老    白
この翁茶屋をする事七度迄     青 鶴亀の絵柄に添へし共白髪    仝
 住吉諸白砂ごしの海       章  高砂住吉あひおひの松     蘭
淡路潟かよひに花の香をとめて   徳 花篝打てや鼓にゆらめいて    白
 神代このかたお出入の春     筆  一座建立めぐるこの春     蘭

    桃青 三十三                 面白 五十
    信章 三十三                 春蘭 五十
    信徳 三十三
    執筆   一
                           
Alternatives:
 首さする河豚にことなきあしたかな吐く息白く赤き足先     蘭
 月島でもんじやとやらを頂いて釣瓶に寄れば朝顔の露      蘭・白
 われ呼ばふ昼の酔夢に観世音脂粉のちまたは此処でありんす*  蘭
 天平の御世よりおはす盧舎那仏白壁沿ひに五彩も麗*      蘭・白

                            2007.12.17-29

写真提供は松下電器産業さん
     

2007年12月25日火曜日

光の都









夕方から
有楽町と丸の内あたりの
年末のイルミネーションを見に行く。
地下鉄を降りて
ペニンシュラホテルの中を通る。
今人気なのかごったがえしている。
仲通りを丸ビルあたりまで歩く。
東京駅前でUターンして線路沿いの道を行く。


写真提供はフォト蔵さん デジカメを忘れた(^^;)

2007年12月20日木曜日

枯れ蓮




  枯れ蓮のみなも騒立つ餌付けかな


 
東京都美術館の水墨芸術なんたらという展覧会。入口が分からず裏の脇の方からそーっと入った。特別招待と書いてあったが入場無料。さしたる感動もなく蕎麦屋に向かう。不忍池の畔を通る。池一面、枯れ蓮でおおわれている。水鳥たちが人影に沿って騒いでいる。目当ての池乃端薮は休み。仕方ないので蓮玉庵に入る。ここは昔は神田薮、雷門の並木薮とともに蕎麦屋の御三家だったが今は今一か。樋口一葉も芸大の図書館の帰りによく寄ったというので彼女を思いつつ心して食すw

2007年12月15日土曜日

冬の日『炭賣』もどき


  冬の日『炭賣』の巻           もどき『炭切』の巻

炭賣のをのがつまこそ黒からめ 重五 冬 炭切つて妻すすけたり片笑くぼ 春蘭
 ひとの粧ひを鏡磨寒     荷兮 冬  PTAに装ひ外寒      面白
花棘馬骨の霜に咲かへり    杜國 冬 刈田づらいちめん霜の花咲いて  蘭
 鶴見るまどの月かすかなり  野水 秋  鴫見るまどに月骨のごと   面白
かぜ吹ぬ秋の日瓶に酒なき日  芭蕉 秋 新ばしり横目使いに今日は我慢  百
 荻織るかさを市に振する   羽笠 秋  萩の花折り朝市に売る     百

加茂川や胡磨千代祭り微近み  荷兮   千代孕み加茂の社に礼参り    蘭
 いはくらの聟なつかしのころ 重五    秘蔵の姫を岩倉に抱き    木槿
おもふこと布搗哥にわらはれて 野水   はやすぎる業は歌にもわらはれて 蘭
 うきははたちを越る三平   杜國    気立てよけれど縁遠い貌    百
捨られてくねるか鴛の離れ鳥  羽笠   鴛のつがいを見てはうらやまし  百
 火をかぬ火燵なき人を見む  芭蕉 冬  ひとり火鉢でつつく素うどん  蘭
門守の翁に帋子かりて寝る   重五 冬 あらいやだ隣の土鍋借りたまま 酔姚
 血刀かくす月の暗きに    荷兮 秋  月に盪けて猫の丸まる     蘭
霧下りて本郷の鐘七つきく   杜國 秋 本郷のお七撞くかや霧に鐘    蘭
 ふゆまつ納豆たゝくなるべし 野水 秋  冬待つへしこ今やスターに  面白
はなに泣櫻の黴とすてにける  芭蕉 春 花に泣き華美にはしやぐも若さ故 蘭
 僧ものいはず款冬を呑    羽笠 春  無口な親父出羽桜飲む    青波

白燕濁らぬ水に羽を洗ひ    荷兮 春 朝寝して洗い髪巻きインド人  酔姚
 宣旨かしこく釵を鑄る    重五    かしこき辺りの御目に止まれり 蘭
八十年を三つ見る童母もちて  野水   七十を過ぎて母から舞習う   青波
 なかだちそむる七夕のつま  杜國 秋  娶ることなき身の星祭    面白
西南に桂のはなのつぼむとき  羽笠 秋 わが恋はとどかぬ月の桂花にて  蘭
 蘭のあぶらに〆木うつ音   芭蕉 秋  蘭医にメタボ告げられひやり 面白
賎の家に賢なる女見てかへる  重五   のみ会後養生訓を買ひかへる   蘭
 釣瓶に粟をあらふ日のくれ  荷兮    軒の貝香かはく日の暮    面白
はやり来て撫子かざる正月に  杜國 夏 流行なら伊達の重ね着うすもので 白
 つゞみ手向る弁慶の宮    野水    みを軽くして向かふ陸奥    蘭
寅の日の旦を鍛冶の急起て   芭蕉   特急に乗れず年玉目減りする  酔姚
 雲かうばしき南京の地    羽笠    これも弥勒にひとめあふため  蘭

いがきして誰ともしらぬ人の像 荷兮   風雪に耐えて涙の白き跡    酔姚
 泥にこゝろのきよき芹の根  重五 春  水澄む泥に田にし蠢く     蘭
粥すゝるあかつき花にかしこまり やすい あかつきに心のしるべ花にみて  蘭
 狩衣の下に鎧ふ春風     芭蕉 春  初陣なれどハ〜レィヨイサ  面白
北のかたなくなく簾おしやりて 羽笠   のど自慢伴奏なかせの北の宿   蘭
 ねられぬ夢を責るむら雨   杜國    おのれを知らぬ方が得とは   蘭



Alternatives    
炭切つて妻すすけたり片笑くぼPTAに装ひ大雪      春蘭・面白
千代孕み加茂の社に礼参り久に待ちしを天晴れ婿よ     春蘭・百

 火をかぬ火燵なき人を見む  芭蕉 冬  冷たい火燵に夫の亡骸     百
門守の翁に帋子かりて寝る   重五 冬 守衛の毛布かぶりてねまる    百
 血刀かくす月の暗きに    荷兮 秋  凶器の刃物月影に隠す     百
霧下りて本郷の鐘七つきく   杜國 秋 朝霜の本郷の寺鐘七つ      百

花に泣き華美にはしやぐも若さゆゑ款冬むせて老師しはぶく 春蘭
のみ会後養生訓を買ひかへるかたまり眠る児らのいとけし   蘭
顔とけて何かわからぬ石の像*これも弥勒にひとめあふため  蘭  
あかつきに心のしるべ花にみて春風はらむ藍の道行き     蘭


写真提供はフォト蔵さん
  

2007年12月5日水曜日

能勢朝次『聯句と連歌』

能勢朝次『聯句と連歌』より

「鎖連歌の第三句は、第一句と第二句とによって作られている世界とは、別の境地を、第二句と第三句とによって作りあげるように構想しなければ、新しい展開の味は出で難いことになる。例を、『続世継』巻八の連歌にとって見ると、

  奈良のみやこを思ひこそやれ    藤原公教
  八重ざくら秋のもみぢやいかならむ 源有仁
  しぐるるたびに色やかさなる    越後乳母

という三句の連歌に於ては、これを解きほぐせば

  八重ざくら秋のもみぢやいかならむ奈良のみやこを思ひこそやれ

という歌と

  八重ざくら秋のもみぢやいかならむしぐるるたびに色やかさなる  

という歌とが成り立ち得るようになっている。即ち、八重ざくらという五七五の句は共通であるが、その二つの歌は明らかに違った意境を表現している。ここにくさり連歌としての展開性があるのである。」(p91-92)

  注:この本で「聯句」とは、中国発の漢詩句を連ねる形式を指している。

うはづら文庫:能勢朝次『聯句と連歌』
      :潁原退蔵『俳諧史』

2007年12月4日火曜日

源氏『色づくも』の巻


    源氏『色づくも』の巻
                    2007.11.5〜12.4

発句  色づくも葉はそれぞれやプラタナス  こやん 秋
脇    絹光して遊糸舞い飛ぶ       みかん 秋
第三  栗虫のもぞりと月に這ひ出でて    木槿  秋月
四    腹をこなしに夜更けの散歩     草栞
五   思切り隠れ煙草を燻らせる       百
六    その目の前に髭の校長       青波

一   椿市これかあれかと紅緒かな     空蝉   
二    歌詠鳥の冴えるこもりく      春蘭  冬      
三   吹き降ろす木枯ばかり心にて      こ  冬       
四    葱負ひくる誰が人の為        槿  冬
五   見合とて縁があるかも試しては?    栞  恋
六    声に惑ひて触るる黒髪        百  恋
七   晴れた夜は嫦娥見えるか共に見る    波  秋月
八    山粧へば金仙も舞ひ         空  秋
九   そゞろ寒尻から銀のスキットル     蘭  秋
十    ならばここらで火吹き芸でも     こ
十一  花疲れ土手の黄昏いまだしき      槿  春花 
十二   お玉杓子もまどろむ休符       栞  春
二オ
一   古井戸の蓋も無くなり薺咲く      百  春
二    人柱なる美女の伝説         波 
三   祈らんか築地の夕日翳るまで      空
四    なごりのいのち燃やす手をどり    蘭
五   ふるさとの島の相撲は塩吹雪      槿  秋
六    仕事サボってみたい秋晴れ      こ  秋
七   菊花賞予想はずれて赤提灯       百  秋
八    もみぢのゆくへ神のみぞ知る     栞  秋
九   免許証お返ししますねお月さま     空  秋月 
十    古い餡子をまた入れてみる      波
十一  残りもの食ふも飽きたる閑古鳥     蘭  夏   
十二   女房こどものいつ帰るやら      槿
二ウ
一   二次元の恋はそれでもやめられず    こ  恋
二    そしらぬ顔で熱いまなざし      百  恋 
三   逢ふ時をちぎりて今朝は旅立ちぬ    栞  恋
四    吸ひこまれさうなコバルトの空    空
五   大根を一本持って礼に行く       波  冬  
六    隣近所にばれる餅搗き        蘭  冬
七   呪われてウサギとなった村の月     こ  秋月
八    柚子の葉陰を吹きすぎる風      槿  秋
九   まだ早きイルミネーション身に入みて  栞  秋
十    サンタクロース衣装点検       百  冬
十一  修善寺の湯にほとびつつ年の花     空  新年花
十二   昔覚えた手毬唄出る         波  新年
ナオ
一   嫁ぐ日をまへに最後のひな飾り     蘭  春
二    パチンコやるも暮の遅さよ      こ  春
三   行く春の鉄塔青き雲居まで       槿  春
四    揺らめく影の伸びたる先に      栞
五   つば広の夏帽子手に少女笑む      百  夏
六    下りてきてから仰ぎ見る山      波
七   ちりとてちん土器投げの一八も     空 
八    やはり金より我が身なりけり     蘭 
九   病院も行けぬ会社をどう思う      こ
十    鴉もおのれに飽きてかアホウ     槿 
十一  つく嘘も実に変はる良夜かな      栞  秋月
十二   税の督促蛇穴へ入る         百  秋
ナウ
一   日曜日茸汁等賞味する         波  秋
二    毒舌こそが老いの生きがひ      空 
三   ふと切れてたたけば映るテレビにて   蘭  
四    田舎暮らしは暇もてあまし      こ  
五   ひとりには何も要らない花盛り     百  春花 
挙句   しきりに喉を鳴らす猫の子      蘭  春

2007年11月21日水曜日

光の山脈


樋口明雄『光の山脈』

ロッタ(六田賢司)は南アルプスの東麓、菰釣(こもつるし)村に住む一匹狼の狩人だ。ロッタの兄洋一郎は山梨の新聞記者で、地元の土建屋植村と韮崎の暴力団弓削組が、産廃を山奥に不法投棄していることを暴く。関係者が逮捕される。

それを恨んだ弓削たちは洋一郎を殺し、みごもっていたロッタの妻亜希を殺す。ロッタは復讐の鬼となり、狼犬シオと弓削組に立ち向かう。やくざたちを冬山に誘い込み、子分をみなやっつけるが弓削につかまってしまう。愛犬シオも力尽きる。

そのとき鳳凰の親方と呼ばれる仙道孫市が現れ、二人を引き離す。孫市は、ロッタと弓削の山の師匠であった。末期癌と診断された彼は山で死にたいと一人山籠りしていた。孫市に恫喝された弓削は逃げるが、物見岩で相討ちとなる。孫市は自分の凶悪な弟子を山から野に放ったと責任をとったのだ。

死んだと思っていたロッタの妻亜希は、兄の同僚沢村の機転で救出され一命をとりとめていた。亜希は沢村に頼みヘリコプターで現場にやってくる。故あって失語していた亜希は「ロッタさん」と声に出す。ロッタは夢かと歓喜し、二人は夕焼けに真っ赤に染まった(アーベント・グリューエンの)八ヶ岳を背にいつまでも抱き合っていた。

菰釣村は、北に白州町、南に武川村、東が長坂町と接しているとしているが、そういう村は実在しない。多分、著者が在住しているという白州町の尾白川から武川村の大武川、小武川あたりまでの地域を想定しているようだ。そのあたりは、八ヶ岳南麓の大泉町にある私の山小屋からも近くよく出かける。

物見岩から私もアーベント・グリューエンの八ヶ岳を見たいものだ。地蔵岳から下る新しくできた山道にあるというがどこだろう、御座石温泉へのルートかまたは架空か。仙道孫市の山小屋が近いという青木鉱泉は実在する。甘利山など前衛の山にも登ってみたい。








写真1 提供はフォト蔵さん
写真2 提供は克月海さんのフォトアルバムさん
写真3 提供は野辺山 ペンションさんかくじょうぎさん

2007年11月19日月曜日

青幻記



一色次郎『青幻記』(土とふるさとの文学全集6)

懐旧と郷愁、稀に見る抒情性に溢れた小説である。第三回太宰治賞受賞と映画化は納得できる。薄倖で若くして亡くなった母は優しく色白の美しい人だった。「私」は遠い記憶をたどり、母が生まれて散った沖永良部島を尋ね母の面影を追う。恩田陸『ある映画の記憶』で引用している映画とは『青幻記』のことだ。
 
 祈らんか築地の夕日翳るまで     空蝉
    なごりのいのち燃やす手をどり 春蘭

                母とゐた潮干は青き珊瑚礁
                   なぎの波間のあはれ草舟    春蘭


2008年1月30日にBS2で映画を観た。母のさわを演じた賀来敦子は本でのイメージにフィットしていた。
青幻記 遠い日の母は美しく(1973) - goo 映画




 
           
 
写真提供はフォト蔵さん

2007年11月18日日曜日

丸柚餅子


庭の小さな柚子の木に、
小さな柚子が百十一個なった。
何個かとりそこなって、
へたがとれてしまったのもあるが、
全部を丸柚餅子にする。

  小粒でも味は同じや丸柚餅子

柚子はへたの部分をカットし、中身をくりぬいて、
中に白玉粉(もち米の粉)、米粉、胡桃、白胡麻、
三温糖、白砂糖を混ぜた具を入れる。
具が真っ黒のものを好む人もいるようだが、うちは逆だ。
膨張するので6、7割程度詰めて空きを残す。

大鍋で二十個ずつ蒸す。
蒸し上がったら大きな笊に並べて冷ます。
しばらくしたら、和紙で一個ずつ包んで笊で干す。
日陰で寒晒しがいいのかも。
二三ヶ月もすれば食べごろになるだろう。

一人で昼前にはじめて、終わったのが午後三時。
昼飯を喰うのを忘れた。

2007年11月15日木曜日

足あと帳




  疲れてはそのつどのぞく万歩計おなじ距離にてひとの倍なり  遍吟


2007年11月10日土曜日

俳諧の付けー要するに

三冊子に「付きの事は千変万化するといへ共、せんずる所、唯、俤と思ひなし、景気、此三つに究まり侍る」と芭蕉が言ったとある。ここでの俤は、広義の匂いとほぼ同義で余情付けのことであろう。これらを、物付け、心付け、余情付けというポピュラーな分類とどう整合をとればよいのか。その思案の結果。

連句(俳諧)の付けとは、
 前々句+前句の世界から離れて(転じて)、
  前句に対してありそうな情景を詠み、前句と新たな世界を創ること。

   1、景気を付ける。             【景気付け】(^^)
     景気とは、人を含む自然の風物を対象とする心象風景。
    「付句は、気色はいかほどつづけんもよし。天象・地形・
     人事・草木・虫魚・鳥獣の遊べる、其形容みな気色なる」
     (去来抄) 

   2、前句に即して、
     a、前句の物や詞の縁によって付ける。   【物付け】
     b、前句の意味内容・情に付ける。     【心付け】
       (句意付け・意味付け)

   3、前句をつきはなし離れて、
     c、前句の余情(気分・雰囲気)に付ける。  【余情付け】
       匂い、俤、位、響き、移り
       (匂い付け・俤付け)

     d、前句の場面の人や場所、状況などを言内、言外を問
       わず、前句の作者の意図と違うように、あるいは勝
       手に思いなし(推量・見込み)して付ける。【思ひなし】

ある句がこのうちのどれに該当するか分析するのは難しい。違いは微妙で分析する人によって結果も異なりそうだ。複数の分類に当てはまる句もあるだろう。

2007年11月7日水曜日

青天の娥眉





    色づくも葉はそれぞれやプラタナス   こやん
  絹光して遊糸舞い飛ぶ           みかん
    青天の峡の城趾に娥眉みえて      春蘭   (かひ)


    甲斐大月の岩殿山の城趾に白い娥が乱舞していたのを思い出した。


写真提供:上はとらじろうの フォト ギャラリーさん
富士山の右上空に娥眉が透けて見える。 下:岩殿山から富士を望む。
 

なさけなや

  なさけなやこわもてすがるやさおとこ


せいじかの茶番劇、どの面さげて会見するのだろう。あの面しかないか(^^) しかし、失ったものはもう戻らない。

2007年11月4日日曜日

茅ヶ岳







茅ヶ岳(かやがたけ) 11月2日(金)

4:00起床 5:00自宅スタート 7:15深田久弥公園 茅ヶ岳登山口 7:32登山開始 10:04茅ヶ岳山頂 11:06下山 13:05登山口

中央自動車道の韮崎インターを下りて右折、コンビニで食い物を調達し、饅頭峠をめざす。夜来の雨は止んだが道や紅葉の木々は濡れている。やがて、深田久弥公園の看板が目に入る。そこが茅ヶ岳の登山口だった。地図で見た饅頭峠への道は公園の奥の方にあるようだ。駐車場には車がすでに一台あった。あとから4人の老男女のパーティがやってきた。山に慣れている様子だ。

  饅頭の峠いづこや濡れもみぢ
 
年寄りに負ける訳にはいかないと先にスタートする。延々とごろごろ石の坂道を登っていく。折り返しながら登る道ではなくまっすぐ上に登って行く。直道とでも言うのだろうか、意外につらい。やがて奇岩の断崖に行き当たる。女岩(めいわ)だ。懸け樋がしてあり細い清水がふた筋流れ落ちている。喉を潤し、目にもよさそうだと目を洗う。力が蘇った。

  とくとくと女岩清水や谷紅葉 

しかし、そこから急勾配の山肌を這うような登山モードとなる。落葉で道がよくわからない上に、登山道としてあまり整備されていないので難渋する。あとどこまでこのモードが続くのかわからない。長いこと視界が開けず同行の士もいやけがさし、私に先頭を譲った。こういうときは上や前を見ないで足下を見て一歩づつ進んで行くしかない。後ろから4人のパーティの楽しげな声が迫ってくる。

  膝わらふ苔の磐根に敷く紅葉

辛抱して進んで行くと、視界が開けた。狭いコル(鞍部)に出た。左に進むと茅ヶ岳、右は敷島と立て札がある。しばし休むべく、右に進み、小さな坪庭に陣取る。加藤文太郎流の甘納豆と干し小魚はもちろんある。4人のパーティは先に茅ヶ岳ににぎやかに向かって行った。

急な狭い岩根を登って行く。しばらく行くと深田久弥氏の小さな碑が建っていた。氏は昭和46年の早春に茅ヶ岳をめざしてここまで来たときに倒れ旅立たれたとのこと。しゃがんで手を合わせたら不覚にも涙が溢れてきた。傍らの団栗を一つ拾い捧げた。

  久弥逝くほそき岩根や七竃

  どんぐりを一つ捧げん久弥の碑

あえぎつつ巌根を登り、ついに上には空しかないところに出た。茅ヶ岳の頂上だ。1704mと低山ながら侮れない山であった。南アルプスと八ヶ岳は霞んでいる。下界の山々は錦秋の中にあった。先に到着した4人のパーティからちょうどいいところに来た、写真を撮ってと言われた。そして女性二人のリュックを残し、隣の金ヶ岳に出かけて行った。おそるべし。我が軟弱チームは、ジェットボイルで湯
を沸かし、カップヌードルと珈琲をいただく。

  これよりも上はなきなり茅の岳

  百の頂に百の喜びあり 深田久弥






        

2007年10月31日水曜日

句に残して俤にたつ

風雅とは何か、と惟然に尋ねられたとき、芭蕉は「句に残して俤にたつ」ことだと答えた。(俳諧一葉集 遺語之部)

三冊子には芭蕉の言葉として「付きの事は千変万化するといへ共、せんずる所、唯、俤と思ひなし、景気、此三つに究まり侍る」「付くといふ筋は、匂・響・俤・移り・推量など、形のなきより起こる所なり。心通じざれば及びがたき所也」とある。

前句の余韻・余情(気分・情調)に対して付ける付け方を芭蕉は発明した。これを余情付けまたは匂い付け(広義)と言う。

当時の蕉門の人たちはどういう匂い付けの句をよしとしたのか、本から洗い出してみた。これからは付句する前にこれを眺めてみよう。

   【三冊子】

 あれあれて末は海行く野分かな  猿雖
鶴のかしらを揚ぐる粟の穂     芭蕉  (笈日記、けふの昔)
 
 鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ 去来
一吹き風の木の葉しづまる     芭蕉  (猿蓑)

 寒菊の隣もありやいけ大根    許六
冬さし籠る北窓の煤        芭蕉  (笈日記)

 しるべして見せばやみのの田植歌 己百
笠改めん不破のさみだれ      芭蕉  (笈日記)

 秋のくれゆく先々の苫やかな   木因
荻にねようか萩に寝ようか     芭蕉  (笈日記)

 菜たね干す筵の端や夕涼     曲翠
蛍逃げ行くあづさゐの花      芭蕉  (笈日記)

 霜寒き旅ねに蚊やを着せ申す   如行
古人かやうの夜のこがらし     芭蕉  (笈日記)

 おく庭もなくて冬木の梢哉    露川
小はるに首のうごく箕むし     芭蕉  (笈日記)

 市中はものの匂ひや夏の月    凡兆
暑しと/\門/\の聲       芭蕉  (猿蓑)

 色々の名もまぎらはし春の草   珍碩
打たれててふの目を覚しぬる    芭蕉  (ひさご)

 折々や雨戸にさはる萩の聲    雪芝
はなす所におらぬ松むし      芭蕉  (続猿蓑)

 縁の草履のうちしめる春     
石ぶしにほそき小鮎をより分けて  芭蕉  (俳諧録、一葉集)

 夕顔おもく貧居ひしげる     其角
桃の木に蝉鳴く頃は外に寝よ    桃青  (次韻)

 笹の葉に小径埋りて面白き    沾圃
頭うつなと門の書付け       芭蕉  (続猿蓑)

 亀山や嵐の山や此山や
馬上に酔ひてかかへられつつ    芭蕉  (ばせを盥)

 野松にせみの鳴き立つる聲    浪化
歩行荷持手ぶりの人と噺して    芭蕉  (となみ(刀奈美)山)

 青天に有明月の朝ぼらけ     去来
湖水の秋の比良のはつ霜      芭蕉  (猿蓑)

 僧やや寒く寺に帰るか      凡兆
猿引の猿と世を経る秋の月     芭蕉  (猿蓑)

 こそ/\と草蛙を作る月夜ざし  凡兆
蚤をふるひに起くるはつ秋     芭蕉  (猿蓑)

 夜着たたみ置く長持のうへ    岱水
灯の影珍しき甲待ち        芭蕉  (韻塞)

 酒にはげたる頭成らん      曲水
雙六の目を覗き出る日ぐれ方    芭蕉  (ひさご)

 そっと覗けば酒の最中      利牛
寝所に誰も寝て居ぬ宵の月     芭蕉  (炭俵)

 煤掃の道具大かた取出し
むかいの人と中直りせり      芭蕉  (俳諧録、一葉集)

 冬空のあれに成りたる北颪    凡兆
旅の馳走に在明し置く       芭蕉  (猿蓑)

 のり出して肱に余る春の駒    去来
摩耶が高根に雲のかかれる     野水  (猿蓑)

 敵寄せ来る村秋の聲       ちり
在明のなし打烏帽子着たりけり   芭蕉  (鶴の歩)

 月見よと引起されて恥づかしき  曽良
髪あふがする羅の露        芭蕉  (旅日記)

 牡丹をり/\なみだこぼるる   挙白
耳うとく妹に告げたるほととぎす  芭蕉  (飛登津橋)

 秋風の舟をこはがる浪の音    曲水
雁行くかたや白子若まつ      芭蕉  (ひさご)

 鼬の聲の棚もとの先       配刀
箒木はまかぬに生えて茂る也    芭蕉  (けふの昔)

 能登の七尾の冬は住みうき    凡兆
魚のほねしはぶる迄の老をみて   芭蕉  (猿蓑)

 中/\に土間にすわれば蚤もなし 曲水
わが名は里のなぶりものなり    芭蕉  (ひさご)

 抱き込んで松山広き在明に    支考
あふ人ごとに魚くさき也      芭蕉  (砂川集)

 四五人通る僧長閑也       浪化
薪過ぎ町の子供の稽古能      芭蕉  (となみ山)

 頃日の上下の衆の戻らるる    去来
腰に杖さす宿の気ちがひ      芭蕉  (砂川集)

 御局のやど下りしては涙ぐみ   丈草
塗つた箱よりものの出し入れ    芭蕉  (となみ山)

 隣へもしらせず嫁を連れて来て  野坡
屏風のかげに見ゆる菓子盆     芭蕉  (炭俵)

 入込に諏訪の湧湯の夕間暮    曲水
中にもせいの高き山ぶし      芭蕉  (ひさご)

 人聲の沖には何を呼ぶやらん   
鼠は船をきしる暁             (宇陀法師)

 榎の木がらしのまめがらをふく
寒き爐に住持はひとり柿むきて   芭蕉  (春と穐)

 桐の木高く月さゆる也      野坡
門しめてだまつて寝たる面白さ   芭蕉  (炭俵)

 もらぬほどけふは時雨よ草の屋ね 斜嶺
 火をうつ音に冬のうぐひす    如行
一年の仕事は麦に収りて      芭蕉  (後の旅、けふの昔)

 市人にいで是うらん笠の雪    芭蕉
 酒の戸たたく鞭の枯うめ     抱月
朝顔に先だつ母衣を引づりて    杜国  (笈日記)

 歩行ならば杖つき坂を落馬哉   芭蕉
角のとがらぬ牛もあるもの     土芳  (笈の小文)

   【去来抄】

 赤人の名はつかれたり初霞    史邦
鳥も囀る合点なるべし       去来  (薦獅子集)

 身細き太刀の反るかたを見よ   重成
長縁に銀土器をうちくだき     柳沅  (既望集)

 上置の干菜きざむもうわの空   野坡
馬に出ぬ日は内で戀する      芭蕉  (炭俵)

 細き目に花見る人の頬はれて
菜種色なる袖の輪ちがい      

 おしろいをぬれど下地が黒い顔  支考
役者もやうの袖の薫もの      去来  (市の庵)

 尼に成べき宵の衣/\      路通
月影に鎧とやらを見透して     芭蕉  (桃の白実)

 ふすまつかむで洗ふあぶら手   嵐蘭
懸乞に戀の心をもたせばや     芭蕉  (深川集)

 草庵に暫く居てはうち破り    芭蕉
命嬉しき撰集の沙汰        去来  (猿蓑)

 発心のはじめにこゆる鈴鹿山   芭蕉
内蔵の頭かと呼ぶ人はたそ     乙州  (猿蓑)

   【芭蕉俳諧の精神】

 游ぎ習ひにあそぶ鴨の子     露荷
夕月に怠る所作をくりうめん    キ角  (続虚栗)

 慈悲斎が閑つれづれにして    其角
木枯の乞食に軒の下を借す     才丸  (次韻)

 梢いきたる夕立の松       キ角
禅僧の赤裸なる涼みして      孤屋  (続虚栗)

 江湖/\に年よりにけり     仙花
卯花のみなしらげにも詠る也    芳重  (初懐紙)

 夕月の朧の眉のうつくしく   
小柴垣より鏡とぎ呼            (秋の夜評語)

 酒の月お伽坊主の夕栄て     揚水
真桑流しやる奥の泉水       芭蕉  (次韻)

 雪駄にて鎌倉ありく弥生山    孤屋
きのふは遠きよしはらの空     キ角  (続虚栗)

 菱の葉をしがらみふせてたかべ啼 文鱗
木魚聞ゆる山かげにしも      李下  (初懐紙)

 柴かりこかす峰のささ道     芭蕉
松ふかきひだりの山は菅の寺    北枝  (山中三吟評語)

 銀の小鍋にいだす芹鍋      曽良
手枕におもふ事なき身なりけり   芭蕉
手まくらに軒の玉水詠め侘     芭蕉  (山中三吟評語)
手まくらにしとねのほこり打払ひ  芭蕉

 まま子烏の寝に迷ふ月      千之
盗人をとがむる鎗の音更て     其角  (虚栗)

 島ばら近きわが草の庵      キ角
忍啼ふるき蒲団に跡さして     蛇足  (続虚栗)

 船に茶の湯の浦哀なり      其角
筑紫迄人の娘を召つれし      李下  (初懐紙)

 二つにわれし雲の秋風      正秀
中れんじ中切あくる月かげに    去来  (去来抄)

 半分は鎧はぬ人も打まじり
舟追ひのけて蛸の喰あき          (宇陀法師)

 夕闌て宮女のすまふめし玉ふ   匂君
大盞七ツ星を誓ひし        其角  (虚栗)

 美女の酌日長けれども暮やすし  其角
契めでたき奥の絵を書く      蛇足  (続虚栗)

 雨さへぞいやしかりける鄙曇   コ斎
門は魚ほす磯ぎはの寺       挙白  (初懐紙)

 方々見せうぞ佐野の源介     信章
かいつかみはねうち払ふ雪の暮   桃青  (奉納二百韻)

 掛乞も小町がかたへと急候    桃青
これなる朽木の横にねさうな    信章  (桃青三百韻)

 いねのはのびの力なき風     珍碩     
発心のはじめにこゆるすずか山   芭蕉  (猿蓑、去来文)

 すみ切松のしづかなりけり    素男
萩の札すすきの札とよみなして   乙州  (猿蓑、去来文)

 手もつかず朝の御膳のすべりけり 
わらぢをなをす墨の衣手          (去来文)

 水飲に起て竃下に月をふむ    翠紅
聞しる声のをどりうき立      一晶  (虚栗)

 人しれず恋する恋の上手さよ   キ角
わかれば見よと床に金をく     破笠  (続虚栗)

 筑紫迄人の娘をめしつれし    李下
弥勒の堂におもひ打ふし      枳風  (初懐紙)
  
   【連句入門】

 この春も盧同が男居なりにて   史邦
さし木つきたる月の朧夜      凡兆  (猿蓑)

 堤より田の青やぎていさぎよき  凡兆
加茂の社は能き社なり       芭蕉  (猿蓑)

2007年10月30日火曜日

俤・匂い付け考(ひとりごと)

俤・匂い付け考(ひとりごと)

連歌・俳諧の付け方は色々な観点から分類される。異なる観点の分類間の関連は分かりにくい。

前句の何に対して付けるかという観点の分類で、貞門の物付け、談林の心付け(句意付け)、蕉門の余情付けは、大方受け入れられているのだろう。

余情付けは匂い付けとも呼ばれるむきがある。芭蕉は匂い付けを「付方の一名には如何ならん」と言って注意したが、弟子達は構わず使い続けたようだ。匂い付けは、移り、響き、匂いなどとその付けの結果の様態で細分類することもある。ますます初心にはわかりにくくなるばかりだ。

三冊子に、
「付きの事は千変万化するといへ共、せんずる所、唯、俤と思ひなし、景気、此三つに究まり侍る」「付くといふ筋は、匂・響・俤・移り・推量など、形のなきより起こる所なり。心通じざれば及びがたき所也」と芭蕉が言ったとある。

前段では俤を匂・響・俤・移りの代表もしくは広義に使っていると見られる。これは匂に広義と狭義があるのと同じで、広義の匂と広義の俤はほぼ同じことを予感させる。

後段では俤を余情付けのワンノブとして狭義、主に歴史的事件や人物について、その事や人を直接言わずにぼんやりと偲ぶように付ける付け方に使っている。

当時の蕉門の弟子たちにも混乱があったらしく、去来抄には杜年が「面影にて付くるはいかが」と質問をしている。去来はそれに答え「うつり・響・匂ひは付けやうのあんばい也。おもかげは付けやうの事也。むかしは多く其事を直に付けたり。それを俤にて付くる也。たとえば、」として以下で説明している。付けようの塩梅と付けようそのもの、苦しい答弁を聞いているようだ。

   草庵に暫く居てはうち破り  ばせを
    命嬉しき撰集の沙汰     去来


さて、芭蕉はわかりにくい連句の付け方を三つの分かりやすそうなものにせんじつめて分類してくれた。

●俤
これは広義でイコール、広義の匂(移り、響き、匂いの総称)と置き換えてよいと思われる。参考文献(2)で赤羽氏は「このように面影はにほひと区別つけ難い。」という結論に達している。また論拠ともなるべき記述が俳諧一葉集 遺語之部*に載っているらしい。それを引用したネット上の論文の断片をURLとともに添付に載せる。

●思ひなし
推量と同じことで、前句を十分に見定め、かつ前句をつきはなして新たな情景を前句から推量(思いなし)して付けることであろう。

●景気
景色、気色と同義で、去来抄に「付句は、気色はいかほどつづけんもよし。天象・地形・人事・草木・虫魚・鳥獣の遊べる、其形容みな気色なる」と芭蕉は言ったとある。なんと柔軟な考え方だろう。このことからも北枝の自他場論を芭蕉がよしとしたというのは嘘と信じたい。

蕉門は余情付けが専売特許としても余情付けばかりではなく物付け、心付けも使っていたことを忘れてはいけない。思ひなしや景気も前句の余情に付けるので余情付けの一種だとはまさか言うまい。

この俤(匂い)、思ひなし、景気の付け方の分類は、私にはわかりやすい。そして俤(匂い)付けは今までほとんどできていないことに気付かされ唖然とする。


参考文献
●三冊子、去来抄、日本古典文学大系、岩波書店
●芭蕉俳諧の精神、赤羽学、清水弘文堂
●連句入門ー芭蕉の俳諧に即して、東明雅、中公新書
●俳諧一葉集 遺語之部  古学庵佛写・幻窓湖中 文政10(1827)江戸青雲堂(未見)

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添付
蕉風俳諧の美学:匂い付け

    うすうすと色を見せたる村もみじ   芭蕉

に対して、どういう付けがよいのか。その場では、次の四句がでたが、どれも芭蕉によって却下された。

一 下手も上手も染屋してゐる
二 田を刈りあげて馬曳いてゆく
三 田を刈りあげてからす鳴くなり
四 よめりの沙汰もありて恥かし

最後に    御前がよいと松風の吹く   丈草

という付けが出たときに、はじめて芭蕉は印可したという。芭蕉の門弟達が、この附合を「匂ひ」付けと呼んだことは、俳諧芭蕉談のつぎの言葉に明らかです。 「御前がよいと云う松風は、うすうすと色を見せたる匂ひを受けて句となる。心も転じ、句も転じ、しまこその力をとどめず、これを「にほひ附」といふ。」

2007年10月27日土曜日

歌仙『秋祭り』の巻 補遺




【Alternative】

14    息もつかせぬプレゼンを聴く     蘭
15  スキューバの新製品を探しては    こやん
16    どこか南の島へ行こうと
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    うるむまなこがものをいいけり    蘭
15  鬼太郎の父はのんびり湯につかり   こやん
16    外では猫が鼠追いかけ
17  裏さびた寺の畳は擦り切れぬ
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    講義さぼって文藝座地下       蘭
15  遊ぶとて大義名分ほしいもの     こやん
16    ボケ防止にと前置きをする
17  九十の翁は朝にシャワー浴び
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    憑かれたように歩く川べり      蘭
15  友達のピレネー犬のお守りして    こやん
16    いつか獣医になれたらなんて
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    自転車こいで春の明日香路      蘭
15  あさっては名張を越える伊勢の道   こやん
16    五十鈴の川で心清めん
17  投げ技でボクシング界追い出され
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭 
17  定年であの頃の夢思い出す      こやん
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭
17  人生は脚本のない夢芝居         
18    千両役者今は忍ぶ身       こやん
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭
17  常識の呪縛を断てば新世界        
18    浪速は人の波も途切れず     こやん
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭 


写真提供は、フォト蔵さん

歌仙『秋祭り』の巻




    歌仙『秋祭り』の巻
                 2007.10.7〜10.27

発句  気にかかる迷子放送秋祭り      こやん
 2    やっと見つけた伯母に照る月
 3  虫の鳴くバス停留所降り立って
 4    しばし普段の疲れ忘れる
 5  学校の便所の話題盛り上がり
 6    蝉じりじりと線路を歩く

 7  雷が落ちたところが変電所
 8    飛んでしまった途中の連句
 9  脳トレにはまり忘れた付け順に
10    話が前後している展示
11  花の下催しものもいろいろと
12    遅日終日街のにぎわい 
13  かふん症または風邪かとマスクして   春蘭
14    咳とくしゃみのまざるテレフォン   
15  交渉をしようとしてもさえぎられ   こやん
16    苦い気分で一人酒飲み
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える       青波

19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭
20    薄ばかりがおいでおいでと    こやん
21  月影に糞も艶めく獣みち         蘭
22    漫ろ寒さに立てる襟元         
23  講談師真に迫つてもの凄く
24    楽屋で弟子を叱りつけたり    こやん
25  とりおきの利休饅頭みあたらず      蘭
26    ブートキャンプもしばしお休み  こやん
27  愛猫を鍋に入れよとがんばって
28    やっぱり冬はキムチが旨い
29  木枯らしに歌仙挑まんキムサッカ
30    海を隔てて言の葉の道

31  モルジブに沈む新月いつか見ん
32    いつしかのびた薄い爪切る      蘭
33  ネットゲークリア目前裏切られ    こやん
34    クールダウンはいつも猫鍋      蘭
35  花盛り犬に引かれて長散歩
挙句    草にてこそぐ靴の春泥


写真提供は、フォト蔵さん 

2007年10月26日金曜日

歌仙『後の彼岸』の巻




      歌仙『後の彼岸』の巻
                     2007.10.1〜10.25

発句  夫とゐて迎ふる後の彼岸かな      酔姚    秋
脇     朝市に来て間引き菜を買ふ     青波    秋
三   月見にと汁の一つもととのえむ     こやん   秋月
四     手前うどんを飽かず三食      春蘭    
五   洋上に油さす船影もなく        面白 
六     黄昏迫る夕凪の空         草栞    夏
ウ 
一   夏祭り迷子放送紛れ込み        みかん   夏  
二     戻らぬ嫗探しあぐぬる       紫桜    
三   砂時計さかさにしてもおもひかぬ    酔     恋 
四     冷めてるはずが恋に落ちると    こ     恋
五   それらしい言葉並べて意味不明     波
六    「ポンパ」「ホエミャウ」アサッテの僕  白
七   をとつひの望からずつと酒の月     蘭     秋
八     忘れ扇の舞ひ落つままに      栞     秋
九   みむらさき小枝揺すれば色映えて    栞     秋
十     新作映画どれもよささう      酔
十一  6区より墨堤までの花篝        み     春花
十二    山が笑へば私も笑ふ        波     春
ナオ
一   行春に未だ行く先決まらねど      こ     春
二     黄色いえんぴつ倒れた方へ     白 
三   奔放か晩生かどちも魅力的       蘭      
四     兎狩る日も若きおもひで      酔     冬
五   囲炉裏端ばっちゃの話眠くなる     波     冬
六     腰痛体操念入りにして       み     
七   レオタード姿の君に一目ぼれ      栞     恋
八     ライバルおほき戀に勝たまし    蘭     恋   
九   メール来て悩むはレスのタイミング   こ  
十     明日は一日お出かけなのよ     み
十一  スタンダードながれる夕べ朱夏の月   白     夏
十二    水朝顔の映れる川面        酔     夏
ナウ
一   かはせみがゐると言ふからやつて来た  波     夏
二     似たものばかりカメラ抱えて    こ
三   数ばかり見るべきものの少なさよ    み 
四     憧る心いよよ深まる        白
五   奥山の庵隠すや花吹雪         栞     春花
挙句    あてなき身にもあたる春風     蘭     春

                  
                      (捌き 酔姚)



    

写真提供は、フォト蔵さん:彼岸花

2007年10月25日木曜日

歌仙『錦秋』の巻



     歌仙『錦秋』の巻
                2007.10.14〜10.24

発句   錦秋の片隅を借りて居たりけり    遊      
脇      水車小屋よりかをる新蕎麦    春蘭     
第三   大振りの朱塗りの杯に月汲みて    みかん
 四     汲めども尽きぬ昔話に      こやん
 五   東雲のしじまひきやる明け烏     蘭  
 六     冬薔薇の棘触れぬようにし    遊
ウ一   凍てついて心を閉ざす人の並     こ
 二     パズル解けずにはや日曜日    み  
 三   薪はぜて愛の行方の揺らめける    遊 
 四     もつれる髪を梳いて紅引く    蘭
 五   抱かれて抱かれるたび遠い君     み
 六     成田を発ってあと何時間     こ
 七   モルディブの裸にしみる海の色    蘭
 八     だれも月など気にならぬらし   遊
 九   秋風も吹かず命の常ならば      こ
 十     添水修理に爺さまはりきる    み
 十一  道普請日の出に染まり花開く     遊
 十二    左利きには倍の独活和へ     蘭
ナ一   高坏に色とりどりの雛あられ     み
 二     旧家といえば伝承もあり     こ
 三   紅殻の土間にまつれる竃殿      蘭  
 四     農地改革半世紀前        遊
 五   エタノールなんて思いもかけぬもの  こ
 六     神谷バーにて軽く一杯      み
 七   新妻の頬ほんのりと鬼灯市      遊
 八     浴衣とほして肌の温もり     蘭
 九   思いこめスラブ舞曲を連弾で     み
 十     逃げし故郷にかへる面無し    蘭
 十一  柳枯れ月のみかかる六地蔵      こ
 十二    赤い帽子に初時雨して      遊
ウ一   サバイバルゲームの戦士凛々と    こ
 二     タイブレークで準決勝に     み
 三   還暦と勝利を祝ふ大拍手       遊
 四     胸弾ませて趣味に邁進      み 
 五   ひたぶるに彼は誰時の花愛でて    蘭    
揚句     今日も長閑な一日であれ     こ





写真提供は、フォト蔵さん

2007年10月23日火曜日

十月桜




  道かへてみれば十月桜かな





  


  

思郷


『放浪の天才詩人 金笠』崔碩義

金笠(キムサッカ)1807ー1863 乞食詩人:ボヘミアン。朝鮮の山頭火とも呼ばれる。本名は炳淵(びょんよん)。号は蘭皐(なんご、らんこう *注)。

名門の生まれだが没落後、22才で妻子を残し出奔。24才で一時家に帰るが再び家出。57才で路傍に倒れるまで家に帰ることはなかった。

才気、機智に富み、諷刺とユーモアのある多くの漢詩を詠んだ。食や宿を乞い受け入れられないとすぐ相手をこけおろした憤懣の詩を残して立ち去るのはあまりに人間的だ。高僧や妓生との共吟詩、某女への誘いの詩などは自由奔放でもある。三教との関わり合いはどうだったのだろうか。

異郷にあっても心は常に故郷に向いていた、でも帰るに帰れない、かといって一カ所に留まれず、白髪になるまで路傍を彷徨してしまったと慨嘆する詩には心を揺さぶられる。

     
    可憐江浦望 明沙十里連 令人個個拾 共数父母年(贈還甲宴老人)

    人性本非無情物 莫惜今宵解汝裙 (贈某女)

    玉館孤燈応送歳 夢中能作故園遊 (思郷)

    心猶異域首丘狐 勢亦窮途触藩羊 (蘭皐平生詩)

    帰兮亦難イ至亦難 幾日彷徨中路傍 (蘭皐平生詩)

    
余談:

 青邱 自分の別の号であるが、朝鮮を意味するとは知らなかった。

 蘭皐 *注  
    歩余馬於蘭皐兮 馳椒丘且焉止息 (屈原『楚辞』離騒)

   (余が馬を蘭皐に歩ませ、椒丘に馳せてしばらくここに止息す
    蘭皐:蘭の香る沢  椒丘:山椒の匂う丘 )

2007年10月20日土曜日

とくとく歌仙 & すばる歌仙

『とくとく歌仙』&『すばる歌仙』丸谷才一、大岡信ほか

三吟の13歌仙、両吟の2歌仙、合計15歌仙について、一句ずつ説明し、枚数の大半はこれに費やされている。句を詠む人は一般に自句を解説することが大好きなようであるが、私はするのも聞くのもあまり好きではない。多くの芸術と同じように作品を読む個人ごとの印象・感想・解釈でよいと思うからだ。

『とくとく歌仙』の冒頭に「歌仙早わかり」があり、彼らの俳諧(連句)観をかいま見ることができた。


○現代俳句で歌仙の発句にならない句がある。それは完結して人を寄せ付けない(二の句が継げない)句だ。発句は余情として挨拶性があり、他者に心を開いている。発句にならない俳句は、言い切ってしまって余情がなく、他者への呼びかけもない。これは現代俳句の大問題であろう。(芭蕉の言葉「謂い応せて何かある」を思い起こせ。)多くの現代俳人はうすうす感じてはいるようだが、耳が痛いのか、俳句が変になると思ってか、連句と聞くとパッと心を閉ざす人が多い。

○第三は、難しい。発句と脇の挨拶の世界から離れる。動きのある句をもってくるのがコツだ(丸谷)

○四は、軽くさりげなくきれいに。遣句としてもよい。

○月、花の句ははじめから用意しておいてもよい(手控えの句)

○素春(花なし)は一回はオーケー。でも早めに。

○芭蕉の歌仙は『古今集』『新古今集』を読み抜いたことによってできたという感じがする。連句の技術は編集の技術だ。

○『武玉川』は歌仙の雑の句からなっている。日本のいまの俳人たちは自分たちを支えてくれているものは、ああいうものだということをもう少し認識しないといけない。認識しないから、痩せ細っちゃうというところがあると思う(大岡)現代俳人は滑稽な句をつくれないからね。だからつまらないんだね(丸谷)

○歌仙の半分には雑がないと面白くない。雑の人事の滑稽な句が大事。2句以上は続けたい。そして抒情的な句(やはり2句以上)とラリーをするとよい。

○井上ひさしさんの付けで、想像した状況や経緯も含めて多くのことを575の一句の中に詠み込もうとしてえらい苦労したことがあった。一句の中でストーリを作るのではなく、一句は断片の場面で、場面が連句として集まってストーリになるということを忘れてはいけない。初心が陥りやすい。

○自分の思い込みであったが、前句と同じ時間軸で詠まなければならないということはない。(丸谷)


要するに、現代俳人は連句をしなさい、そして失なわれた開いた心と余情、滑稽を取り戻しなさい、と両氏は言っているようだ。

2007年10月18日木曜日

とりあえず

 
  「とりあえず」多用の謝罪とりあえず

口癖は恐ろしいもので、謝罪の弁で「とりあえず」を連発した人がいる。「まぁ」という人もかなり多いが、これも謝罪には適さないだろう。口語を正すにも俳諧がいいかも知れないw

(メールで投稿)

2007年10月17日水曜日

法華経を読む

  どの田にも蛙鳴くなり星の山


源氏物語には、法華経と法華八講という言葉がよく出てくる。 光源氏も傾倒していたと見られる法華経とは何か。どんなことが書かれているのか興味がある。

初心者がいきなり経文を読むのもつらそうなので、概要をつかむべく『妙法蓮華経』久保田正文 宝文館出版を読んだ。

で、要点は。。。 まとめてはいけないものをまとめたような気がする(^^;)


●これまで説いてきた経は、人の機根に応じたもので方便である。ここに説くことー法華経こそ仏の本懐である。【一乗妙法】

●釈迦こそ久遠の過去から教化してきた本仏である。【久遠実成】

●世界のすべてのものは、相・性・体・力・作・因・縁・果・報によって生じ、変化し現象として差が見られるがすべて道(真如)を離れたものはなく、本質的に平等である。 【諸法実相、十如是】
 
 変わらないものはない【諸行無常】 自分だけで成り立っているのもはない【諸法無我】 ー> 生けとし生けるものへの慈悲心と万物を平等に見る心

●浄土はこの世の外にあるのではない。【娑婆即寂光土】
 
●人にはだれでも仏性があり菩薩、仏になれる。【二乗作仏】
 
●煩悩(迷い)を断じ尽くしたのち、菩提(悟り)の境地が得られると小乗の教えでは説いてきた。本来、煩悩と菩提は対立するものではなく、同じものー真如の両面である。煩悩はそのまま菩提にほかならない。衆生救済という煩悩はそのまま菩提となる。【煩悩即菩提】

 法華経を受持しその教えに従って修行すれば、在家のまま、煩悩に満ちた現実生活をしているままで菩提を得ることができる。【生死即涅槃・即身成仏】

古今和歌集 百歌撰

古今和歌集 百歌撰

 古今和歌集の全体に目を通し、百首を目処に和歌を選ぶ。選ぶ観点は、新古今和歌集でのそれと同じ。一にリズム、二にわかりやすく共感できるもの。古来有名でも、詞、姿がたくみでも、内容が陳腐だったり感動を共感できないものは撰ばず。その結果、百首に至らず、66首。

 成立:905年  1111首 
 撰者:醍醐天皇  紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑
 部立:春、夏、秋、冬、賀 離別、羇旅、物名、恋、哀傷、雑、雑体、他
 参照:新潮日本古典集成『古今和歌集 奥村恆哉校注』1978年




袖ひちてむすびし水の凍れるを春たつ今日の風やとくらむ     貫之
     
雪のうちに春は来にけり鶯のこぼれる涙今やとくらむ       二条后
                     
君がため春の野に出でて若葉摘むわが衣手に雪は降りつつ     光孝天皇

春日野の若菜摘みにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ      貫之
   
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける    貫之
  
世の中にたへて桜のなかりせば春の心はのどけからまし      業平

見わたせば柳桜をこきまぜてみやこぞ春の錦なりける       素性法師

見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし       伊勢

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ      紀友則

春雨の降るは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ        大伴黒主

ふる里となりにし奈良の都にも色はかはらず花は咲きけり     平城帝

花のいろは霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風     良岑宗貞

三輪山をしかも隠すか春霞人に知られぬ花や咲くらむ       貫之

花の色はうつりにけるないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町




夏の夜の臥すかとすれば時鳥鳴くひと声に明くるしののめ     貫之

蓮葉のにごりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく      遍昭

夏の夜はまだよひながら明けぬるを雲のいづこに月やとるらむ   深養父




秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる   藤原敏行

奥山にもみぢふみわけ鳴く鹿の声きくときぞ秋はかなしき     よみ人しらず

里はあれて人はふりにし宿なれば庭もまがきも秋の野らなる    遍昭

心あてに折らばや折らむはつ霜のおきまどはせる白菊の花     凡河内躬恒

恋しくは見てもしのばむもみぢ葉を吹きな散らしそ山おろしの風  よみ人しらず

ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは    業平

見る人もなくて散りぬるおく山のもみぢは夜の錦なりけり     貫之




冬ごもり思ひかけぬを木の間より花と見るまで雪ぞ降りける    貫之

あさぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪      坂上是則




わがきみは千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで   よみ人しらず

桜花散りかひくもれ老ひらくの来むといふなる道まがふがに    業平

住の江の松を秋風吹くからにこゑうちそふる沖つ白波       躬恒 

千鳥なく佐保の川霧立ちぬらし山の木の葉も色まさりゆく     忠岑


離別

むすぶ手の雫ににごる山の井の飽かでも人を別れぬるかな     貫之


羇旅

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも      安倍仲麿

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人にはつげよ海人の釣舟    小野篁
 
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れゆく船をしぞ思ふ       人麿

唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ   業平

名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと    業平

狩り暮らし織女(たなばたつめ)に宿からむ天の河原に我は来にけり  業平




川の瀬になびく玉藻の水隠れて人に知られぬ恋もするかな     友則

東路の小夜の中山なかなかに何しか人を思ひそめけむ       友則

有明のつれなくみえし別れより暁ばかり憂きものはなし      忠岑

君や来しわれや行きけむおもほえず夢かうつつか寝てか覚めてか  よみ人しらず

さむしろに衣かたしきこよひもやわれを待つらむ宇治の橋姫    よみ人しらず

里人の言は夏野のしげくとも離(か)れゆく君に逢はざらめやは  よみ人しらず

須磨の海人の塩やく煙風をいたみおもはぬかたにたなびきにけり  よみ人しらず

紅のはつ花ぞめの色ふかくおもひし心われ忘れめや        よみ人しらず

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふわれならなくに    河原左大臣

月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして  業平

色みえでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける     小町


哀傷

色の香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人のかげぞ恋しき      貫之

かずかずに我を忘れぬものならば山の霞をあはれとは見よ     よみ人しらず
 
もみぢ葉を風にまかせて見るよりもはかなきものは命なりけり   大江千里

つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを   業平

かりそめの行き甲斐路とぞ思ひ来し今はかぎりの門出なりけり   在原滋春




むらさきの一本ゆゑに武蔵野の草は皆がらあはれとぞ見る     よみ人しらず

大原や小塩の山も今日こそは神代のこともおもひ出づらめ     業平

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめのすがたしばし止めむ     宗貞

かたちこそみ山がくれの朽木なれ心は花になさばなりなむ     兼芸法師

飽かなくにまだきも月のかくるるか山の端にげて入れずもあらなむ 業平

いにしへのしづのおだまき賤しきもよきも盛りもありしものなり  よみ人しらず

世の中はなにか常なる明日香川昨日の淵ぞ今日は瀬となる     よみ人しらず

わびぬれば身を浮き草の根をたえて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ  小町

あはれてふ言の葉ごとにおく露は昔を恋ふる涙なりけり      よみ人しらず

白雲のたえずたなびく峰にだに住めば住みぬる世にこそありけれ  惟喬親王

世を捨てて山に入る人山にてもなほ憂き時はいづち行くらむ    躬恒

忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪ふみわけて君を見むとは     業平

わがいほは京(みやこ)の辰巳しかぞ住む世を宇治山と人はいふなり  喜撰法師

みち知らば摘みにも往かむ住の江の岸に生ふてふ恋忘れ草     貫之

新古今和歌集 百歌撰

新古今和歌集 百歌撰

 新古今和歌集の全体に目を通し百首を選ぶ。選ぶ観点は、一にリズム、二にわかりやすく共感できるもの。

 成立:1205年  1979首 (隠岐本:1576首)
 撰者:後鳥羽院(○) 藤原有家(ア) 定家(サ) 家隆(イ) 雅経(マ)
 部立:春、夏、秋、冬、賀 哀傷、離別、羇旅、恋、雑、神祇、釈教
 参照:岩波文庫『新古今和歌集 佐佐木信綱校訂』昭和五十年


春歌

山ふかみ春とも知らぬ松の戸に たえだえかかる雪の玉水     式子内親王                                 ○マ
明日からは若菜摘まむとしめし野に 昨日も今日も雪は降りつつ  赤人                                    ○マサイヤ
若菜摘む袖とぞ身ゆるかすが野の 飛火の野辺の雪のむらぎえ   教長                                    ○アマ
今さらに雪降らめやも陽炎の もゆる春日となりにしものを    よみ人知らず                                ○サ
夕月夜しほ満ちくらし難波江の あしの若葉を越ゆるしらなみ   藤原秀能                                  ○
岩そそぐたるみの上のさ蕨の 萌えいづる春になりにけるかな   志貴皇子                                  ○アサイマ
見わたせば山もとかすむ水無瀬川 夕べは秋となに思ひけむ    後鳥羽上皇                                 ○
春の夜の夢のうき橋とだえして 峯にわかるるよこぐもの空    定家                                    ○アイマ
春雨の降りそめしよりあをやぎの 糸のみどりぞ色まさりける   凡河内躬恒                                 ○イ
薄く濃き野辺のみどりの若草に あとまで見ゆる雪のむらぎえ   宮内卿                                   ○
吉野山去年のしをりの道かへて まだ見ぬかたの花を尋ねむ    西行                                    ○サイマ
はかなくて過ぎにしかたを数ふれば 花に物思ふ春ぞ経にける   式子内親王                                 ○マ
山里の春の夕ぐれ来て見れば 入相のかねに花ぞ散りける     能因法師                                  ○サイマ
花さそふ比良の山風吹きにけり 漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで   宮内卿                                   ○サイマ
花さそふなごりを雲に吹きとめて しばしはにほへ春の山風    雅経                                    ○アイ
吉野山花のふるさとあとたへて むなしき枝にはるかぜぞ吹く   良経                                    ○アサイマ
暮れて行く春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟   寂蓮                                    ○サイマ

夏歌

春過ぎて夏来にけらししろたへの ころもほすてふあまのかぐ山  持統天皇                                  ○サイマ
折ふしもうつればかへつ世の中の 人の心の花染の袖       俊成女                                   ○サイマ
郭公こゑ待つほどはかた岡の 森のしづくに立ちや濡れまし    紫式部                                   ○サイ
鵜飼舟あはれとぞ見るもののふの やそ宇治川の夕闇のそら    慈圓                                    ○アサイマ
いさり火の昔の光ほの見えて あしやの里に飛ぶほたるかな    摂政太政大臣                                ○イ

秋歌

おしなべて物をおもはぬ人にさへ 心をつくる秋のはつかぜ    西行                                    ○サイ
あはれいかに草葉の露のこほるらむ 秋風立ちぬ宮城野の原    西行                                    ○アサイマ
吹きむすぶ風はむかしの秋ながら ありしにも似ぬ袖の露かな   小野小町                                  ○サイマ
うらがるる浅茅が原のかるかやの 乱れて物を思ふころかな    坂上是則                                  ○
をぐら山ふもとの野辺の花薄 ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ    よみ人知らず                                ○アサイ
おしなべて思ひしことのかずかずに なお色まさる秋の夕暮    摂政太政大臣                                ○サマ
心なき身にもあはれは知られけり しぎたつ沢の秋の夕ぐれ    西行                                    ○サイマ
見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ    定家

風わたる浅茅がすゑの露にだに やどりもはてぬ宵のいなづま   有家                                    ○サイマ
ながむればちぢにもの思ふ月にまた わが身一つの嶺の松かぜ   鴨長明                                   ○アサイマ
下紅葉かつ散る山の夕時雨 濡れてやひとり鹿の鳴くらむ     家隆                                    ○
まどろまで眺めよとてのすさびかな 麻のさ衣月にうつ声     宮内卿                                   ○アサイマ
村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕ぐれ     寂蓮                                    ○アイマ
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりす やや影さむしよもぎふの月   太上天皇                                  ○アイマ

冬歌

秋篠やとやまの里やしぐるらむ 生駒のたけに雲のかかれる    西行                                    ○サイマ
影とめし露のやどりを思ひ出でて 霜にあととふ浅茅生の月    雅経                                    ○サイ
しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれど 霜のまがきに匂ふ色かな   延喜御歌                                  ○イ
寂しさに堪えたる人のまたもあれな 庵ならべむ冬の山里     西行                                    サイ
かつ氷かつはくだくる山河の 岩間にむすぶあかつきの声     俊成                                    ○マ
志賀の浦や遠ざかりゆく波間より 氷りて出づるありあけの月   家隆                                    ○アサイ
さざなみや志賀のから崎風さえて 比良の高嶺に霰降るなり    法性寺入道                                 ○アイマ
ふればかくうさのみまさる世を知らで 荒れたる庭に積る初雪   紫式部                                   ○アイマ
降り初むる今朝だに人の待たれつる み山の里の雪の夕暮     寂蓮                                    ○アサイマ
明けやらぬねざめの床に聞ゆなり まがきの竹の雪の下をれ    刑部卿範兼                                 ○アサイマ
降る雪にたく藻の煙かき絶えて さびしくもあるか塩がまの浦  前関白太政大臣                                ○アサイ
田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ  山部赤人                                  ○イマ
日数ふる雪げにまさる炭竈の けぶりもさびしおほはらの里    式子内親王                                 ○サ

哀傷歌

あはれなりわが身のはてやあさ緑 つひには野べの霞と思へば   小野小町                                  ○サイマ
誰もみな花のみやこに散りはてて ひとりしぐるる秋の山里    左京大夫顕輔                                ○ア
玉ゆらの露もなみだもとどまらず 亡き人恋ふるやどの秋風    定家                                    ○イ
露をだに今はかたみの藤ごろも あだにも袖を吹くあらしかな   秀能                                    ○
思ひ出づる折りたく柴の夕煙 むせぶもうれし忘れがたみに    太上天皇                                  ○

離別歌

思ひ出はおなじ空とは月を見よ ほどは雲居に廻りあふまで    後三条院                                  ○
君いなば月待つとてもながめやらむ 東のかたの夕暮の空     西行                                    ○アイマ

羇旅歌

あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば 明石のとよりやまと島見ゆ  人麿                                    ○サイマ
ささの葉はみ山もそよに乱るなり われは妹思ふ別れ来ぬれば   人麿                                    ○サマ
信濃なる浅間の嶽に立つけぶり をちこち人の見やはとがめぬ   業平                                    ○アサイマ
さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風に あはれうちそふ波の音かな    肥後                                    ○アイ
年たけてまた越ゆべしと思ひきや いのちなりけりさ夜の中山   西行                                    ○サイ
 
恋歌

春日野の若紫のすりごろも しのぶのみだれかぎり知られず    業平                                    ○アサイマ
かた岡の雪間にねざす若草の ほのかに見てし人ぞこひしき    曽禰好忠                                  ○アサイ
わが恋は松を時雨の染めかねて 真葛が原に風さわぐなり     慈圓                                    ○アサイマ
思あれば袖に蛍をつつみても いはばやものをとふ人はなし    寂蓮                                    ○アサイマ
みるめ刈るかたやいづくぞ棹さして われに教えよ海人の釣舟   業平                                    ○アサイマ
靡かぎなあまの藻塩火たき初めて 煙は空にくゆりわぶとも    定家                                    ○イマ
逢ひ見てもかひなかりけりうば玉の はかなき夢におとる現は   藤原興風                                  ○アサイマ
君待つと閨へも入らぬまきの戸に いたくな更けそ山の端の月   式子内親王                                 ○サイマ
言の葉の移ろふだにもあるものを いとど時雨の降りまさるらむ  伊勢                                    ○サ
浅茅生ふる野辺やかるらむ山がつの 垣ほの草は色もかはらず   よみ人知らず                                ○アサイマ
春雨の降りしくころは青柳の いと乱れつつ人ぞこひしき     後朱雀院                                  ○サ
さらしなや姨捨山の有明の つきずもものをおもふころかな    伊勢                                    ○アサイマ
面影のわすれぬ人によそへつつ 入るをぞ慕ふ秋の夜の月     肥後                                    ○サ
いくめぐり空行く月もへだてきぬ 契りしなかはよその浮雲    左衛門督通光                                ○サイマ
あと絶えて浅茅がすゑになりにけり たのめし宿の庭の白露    二条院讃岐                                 ○サイマ
消えわびぬうつろふ人の秋の色に 身をこがらしの森の下露    定家                                    ○イマ
露はらふねざめは秋の昔にて 見はてぬ夢にのこるおもかげ    俊成女                                   ○
心こそゆくへも知らね三輪の山 杉のこずゑのゆふぐれの空    慈圓                                    ○アマ
かよひ来しやどの道芝かれがれに あとなき霜のむすぼほれつつ  俊成女                                   ○アサイマ

雑歌

世の中を思へばなべて散る花の わが身をさてもいづちかもせむ  西行                                    ○サイマ
すべらぎの木高き蔭にかくれても なほ春雨に濡れむとぞ思ふ  八条前太政大臣                                ア
ほととぎすそのかみ山の旅枕 ほのかたらひし空ぞわすれぬ    式子内親王                                 ○アサイマ
五月雨はやまの軒端のあまそそぎ あまりなるまで漏るる袖かな  俊成                                    ○アサイマ
思ひきや別れし秋にめぐりあひて またもこの世の月を見むとは  俊成                                    ○サイマ
藻汐くむ袖の月影おのづから よそにあかさぬ須磨のうらびと   定家                                    ○
葛の葉のうらみにかへる夢の世を 忘れがたみの野辺の秋風    俊成女                                   ○
晴るる夜の星か河辺の蛍かも わが住む方に海人のたく火か    業平                                    ○アサイマ
難波女の衣ほすとて刈りてたく 葦火の煙立たぬ日ぞなき     貫之                                    ○サイマ
和歌の浦を松の葉ごしにながむれば 梢に寄する海人の釣舟    寂蓮                                    ○アサイマ
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てて いかになりゆくわが身なるらむ 西行                                    ○アイ
吉野山やがて出でじと思ふ身を 花ちりなばと人や待つらむ    西行                                    ○アサイマ
しきみ摘む山路の露にぬれにけり あかつきおきの墨染の袖    小侍従                                   ○アサイマ
思ふことなど問ふ人のなかるらむ 仰げば空に月ぞさやけき    慈圓                                    ○アサイマ
ねがはくは花のもとにて春死なむ その如月の望月のころ     西行


神祇歌

やはらぐる光にあまる影なれや 五十鈴河原の秋の夜の月     慈圓                                    ○

釈教歌

阿耨多羅三藐三菩提の佛たち わがたつ杣に冥加あらせたまへ   伝教大師                                  ○アサイマ
願はくはしばし闇路にやすらひて かがげやせまし法の燈火    慈圓                                    ○アサイ
これやこのうき世の外の春ならむ 花のとぼそのあけぼのの空   寂蓮                                    ○アサイマ
道のべの蛍ばかりをしるべにて ひとりぞ出づる夕闇の空     寂然                                    ○サイマ

歌仙『秋時雨』の巻

    歌仙『秋時雨』の巻

               2007.9.14〜2007.10.17

発句  秋時雨きみと寄り添ふ傘うれし   紫桜 秋恋
脇     紅葉に映えて匂ふ黒髪     春蘭 秋恋
第三  子らと来て千草を手折る川辺にて   紫 秋
四     ゆふべの鐘にみれば月の出    蘭 秋月
五   米とぎて庭で火起こし肴焼く     紫 雑
六     西瓜を冷やす裏の古井戸     蘭 夏
初折裏
一   じりじりと蝉鳴く午後はいねもせず  蘭 夏  
二     はなを愛でつつ早き湯あみす   紫 雑
三   せつかちの旅のプランはせはしなく  蘭 雑
四     笑む声こぼる居間の窓辺に    紫 雑
五   一人だけ大正琴の音はづれ      蘭 雑
六     そぞろの宵にひとすじの星    紫 雑     
七   聖し夜の月にうつせしわが心     紫 冬月
八     いやな上司に賀状書きけり    蘭 冬
九   差し向かひ酌み交はす酒ほろ苦し   紫 雑
十     不義理せしまに老いし父母    蘭 雑
十一  花片をつなぎ遊びし髪飾り      紫 春花
十二    先をきそつて泳ぐ若鮎      蘭 春
名残折表
一   浪人も今年で終わり新入生     青波 春
二     鼻すり付ける仔犬なでつつ    紫 雑
三   こはもての破顔慮外にかはいくて   蘭 雑
四     髭面男眉毛細いぞ        波 雑
五   太鼓の音浴衣羽織りて路地急ぐ    紫 夏
六     蚊ばしらはらふ白き二の腕    蘭 夏
七   寂しげにたたずむ女誰を待つ     波 雑恋
八     時計の針を少し戻して      紫 雑恋
九   ときめきの軌跡たどればおろかしき  蘭 雑恋
十     覆ひ隠せぬ我が思ひかな     紫 雑
十一  残業の帰りを照らす白い月      波 秋月
十二    わられし石榴道で蹴飛ばす    蘭 秋
名残折裏
一   鳴子鳴り逃げる猪遠ざかる      波 秋
二     窯にくぶ薪明々と燃ゆ      紫 雑
三   虚も実もおのが頭の骸のなか     蘭 雑 
四     春の女神は気まぐれなのよ    波 春
五   ぎふ蝶は花見しながら蜜を吸ひ    蘭 春花
挙句    畦塗り終へて鍬にやすらふ    波 春

2007年10月13日土曜日

新蕎麦

  新蕎麦や普通のことのありがたさ

  新蕎麦に笑みのこぼれる古妻かな   

             (ふるめ)

2007年10月4日木曜日

象と耳鳴り

『象と耳鳴り』恩田陸

「好奇心を失い始めると人間は少しずつ死んでいく」という言葉が特に印象に残った。元判事の関根多佳雄は、悠々自適の身の上ながら好奇心の塊で、世の中の事件や怪奇の謎を推理で解いて行く。江戸川乱歩やシャーロック・ホームズものを想起させる短編集。

そういうことであれば、私も雅俗にかかわらず、好奇心だけは持ち続けていくことにしよう。

2007年10月1日月曜日

モルディブで爆発、邦人2人含む外国人観光客12人負傷



ロイターの記事

娘がちょうどモルディブに観光に行っている。大丈夫かと心配したが夜中にメールがあり無事とのこと。帰りのフライトの直前のようだ。安堵する。旅はわくわくし楽しい反面、不安でストレスもかかる。しかも金も。家が一番いいと言っていた親の気持ちが最近わかるようになってきた。

写真提供:
ウィキペディア

2007年9月28日金曜日

まひるの月を追いかけて


『まひるの月を追いかけて』恩田陸 

静には、異母兄妹の兄、研吾がいた。早春のある日、研吾の恋人で優佳利と名乗る女性から研吾が行方不明なので、奈良方面に一緒に探しに行こうと誘われる。

実は、優佳利は交通事故(自殺?)ですでに死んでいた。優佳利と名乗っていたのは妙子で、高校時代の同級生であった。妙子も昔から研吾が好きだった。静を旅に誘った目的は、研吾が本当に好きなのは誰かを探ることらしい。明日香村の亀石のところで二人は研吾を見つける。

研吾はしばらく同行するが、ライターの仕事で忙しいからと夜会う約束をして別れる。静と妙子は旅を続ける。妙子は夜ひとりホテルを抜け出す。約束の場に研吾と静は行ったが妙子が来ない。そのとき病院から通報があり、妙子が来院ののち急死したと告げられる。妙子には心臓の持病があった。

研吾は静に後は引き受けるから東京に帰れと促す。その前に研吾は、自分が好きな人に会ってほしいと言う。その人は橘寺で待っているはずだと。二人で橘寺に向かう。門前で待っていた女性は、静の母であった。研吾はすでに出家する決意を固めていた。


本を読んでいてはじめの方からどうも研吾は父の後妻、静の母を慕っているようだと感じていたが当たった。三年前の早春に、妻と明日香を旅したことがある。思い出が蘇った。岡寺の民宿、あすか鍋と土筆のおひたし、高松塚、橘寺、石舞台、岡寺、甘樫丘、懐かしい。明日香を思うたびにこれからはこの小説も思い出しそうである。

   鶯の声や煙雨の山の寺    
   岡寺に旅のやどりや春の膳
  

写真は、岡寺への辻、平成17年早春。

明日香の花の春

2007年9月26日水曜日

全手葉椎

妻の入院中に妻が仲良くしていた近所の主婦が逝った。一年半前に脳梗塞となり植物状態のままであった。よく二人で川縁を散歩していたという。その川縁をたどって森の公園に行った。法師蝉がしきりに鳴いていた。


  秋の蝉つくづく惜しと鳴きにけり


四百メートルの競走路の周りには全手葉椎(まてばしい)の遊歩道がある。妻は体力を戻したいと手を大きく振って歩き出した。私はその後についていく。保育園の子供たちが競走路にころがり落ちてきた椎の実を拾っている。そういうこともあろうかと、袋を持ってきていたので保母さんに袋を一つあげ、私たちも拾い始める。これは炒るとうまいのだ。


  競走路きそつてひろふ全手葉椎

2007年9月24日月曜日

夕影草

  やみあがる妹とうちみる橋詰の濃いむらさきのゆふのあさがほ

朝顔を夕影草とも言うらしい。退院から一週間、妻が外に歩きに行きたいと言った。夕方、病院への通い路で見かけていた橋のたもとの朝顔を見に行く。しぼみがちではあるが大輪の見事な花を咲かせていた。今度、こぼれた種を拾いに行こう。

2007年9月22日土曜日

風の墓碑銘

『風の墓碑銘』乃南アサ

相棒というテレビドラマはなかなか面白いが、直木賞受賞の『凍える牙』で初登場した女刑事音道貴子とベテラン刑事滝沢保の相棒も面白い。

男女と嬰児の白骨死体がある貸家の床下から発見された。その後、元大家で今は施設に出たり入ったりしている徘徊老人が殺害された。

相棒はぎくしゃくしながらも真相に一歩一歩と迫りついに一人の犯人を突き止める。ただ足でしらみつぶしに聞き込みをする訳ではなく、ひらめきや勘がこの世界でも大切なのだ。二人の勘やひらめきは他の追随を許さない。二つの事件はつながっていた。

お互いに苦手でいやな奴、できれば一緒に仕事をしたくないと思いつつも、相手のいいところを認め合っている。人間関係の処し方としても勉強になりそうだ。

川柳探求

『川柳探求』前田雀郎著 1958 有光書房

自分の区にはなく、余所の区の図書館から借りて読んだ。川柳と俳諧の部分から、

【谷中竜泉寺に慶紀逸の墓があると聞いて、明治38年、川柳中興の祖、阪井久良伎らが訪ねたら寺の僧は知らず、どうやら無縁仏となってしまったらしい。

紀逸は連句(俳諧)から単独で面白い付句を選んで『武玉川』を編んだ。これは好評を博し、前句付の点者であった柄井川柳はそれに触発されて、前句付から単独で面白い付句を選んだ。それを呉陵軒可有が編んで『柳多留』と題し出版した。

やがて前句が形骸化し、前句なしで独立した面白い句を詠むようになっていった。それは点者の名前をとって川柳と呼ばれるようになる。

これは俳諧の平句が独立したことを意味する。子規は俳諧の発句のみを文学とみなし、俳句として独立させたが、それよりずっと前に平句は川柳として独立していたのだ。

  俳諧 発句ー>俳句 季語を使った花鳥諷詠の詩
     平句ー>川柳 季語からフリーな人間諷詠の詩  】


慶紀逸の『武玉川』がなければ、『柳多留』はなく、<川柳>はなかったと雀郎は言っている。私も谷中散策の折りに竜泉寺に立ち寄ったことがあるが、寺の女に白い目で見られ、とりつく島の無い感じだったので尋ねるのはやめた(^^;)

俳諧(連句)のほとんどは平句(歌仙36句ー発句/脇/第三/挙句4句=32句)であり、平句=川柳とすれば、俳諧はほとんどが川柳からできている。俳諧は俳句を連ねるものではなく、発句の俳句に川柳を連ねるものと言える。俳諧はむしろ川柳なのだ。

しかしながら、俳句は花鳥諷詠に飽き、現代川柳に影響されて、人間諷詠(探求)も範疇にしていったようである。川柳と俳句の違いは季語/切れの有無くらいと言われる。無季俳句や切れのある川柳もあり違いはますます微妙になってきた。俳諧は俳句を連ねる、俳諧は川柳を連ねると言ったところで、今や実質的な違いはないのかも知れない。


 

2007年9月20日木曜日

新蕎麦

  まづ蝦夷の新蕎麦とどく入彼岸


茨城の製粉所から今年の新蕎麦が届いた。新蕎麦の札がいつも
ながらうれしい。この後は本命、茨城産の常陸秋蕎麦だ。

2007年9月19日水曜日

けふの月

  退院を勝ち取る妻やけふの月

2007年9月18日火曜日

歌仙『艶やかな』の巻

    歌仙『艶やかな』の巻

             2007.9.1〜2007.9.18


発句 艶やかな露店の茄子に手を伸ばす   青波   
脇    になへばさやぐ青萩の束      木槿
第三 み山辺はしづ山賤の園生にて      春蘭   
四    四季折々に鳥の詩あり       酔姚
五  待ち侘びし涼月軽く飛行雲       草栞
六    婚姻色のサケも遡上す       面白       

一  草もみぢ幼きひとと別れ来て      槿
二    つのる想いに枕濡らして     みかん
三  朝立ちの列車で向かう東京へ      波
四    AからBへ伝言ゲーム       酔
五  ケータイの「着信あり」に胸騒ぐ    栞
六    岸辺のアルバム悪夢ふたたび    白
七  さりとてもしず心なる冬満月      酔
八    海鼠のなさけたれかしるらん    蘭
九  通販のカタログ厚く持ち重り      み
十    棚にはばかるダッチオーブン    槿
十一 日暮時鬼女も舞うかに花の山      み
十二   春風にのり謡聞こえる       波

一  朝寝して蒸けたやうなり若隠居     蘭   
二    スローフードにスローライフで   酔
三  気もそぞろ小止みの雨に歩まれず    栞
四    プラグを抜くか琴光喜に土     白
五  火花散る手筒花火の勇壮さ       波
六    赤い金魚に黒が一匹        み
七  兵児帯も箪笥にいねて幾年か      槿
八    妻の下着を持ちて病棟       蘭
九  ようするに今でも夫を好きなのだ    酔  
十    なしのつぶての裏をはかりて    栞
十一 月光にかくすものなしわがこころ    蘭
十二   拝み太郎が謝っている       波
ナウ
一  父祖の血を騒がし秋の永田町      白
二    食い散らされし皿の行列      槿
三  山手線一周ウォーク完歩せり      み 
四    そして季節の歌はダカーポ     栞
五  わが脳は花を主とメイクされ      白
挙句   春の装い吉野山にも        酔

               (捌き 青波)

2007年9月13日木曜日

秋霖

 秋霖や外をみたいと妻がいふ

2007年9月8日土曜日

野分

 柿の葉も掻けば重たき野分かな

2007年9月6日木曜日

初あらし

 妻入院独り素飯よ初あらし

2007年9月1日土曜日

ひまはり





 ひまはりの畠もなどころ白日傘



写真は、山梨県北杜市明野のひまわり畑

岨菜



岨菜(そばな)と釣鐘人参は似ている。両方ともききょう科つりがねにんじん属。釣鐘形の花はよく似ているが花のつきかたがちょっと違う。先の山行で両方に出逢った。
写真上 釣鐘人参:霧ヶ峰池のくるみ湿原  写真下 岨菜:川俣渓谷、


  うちふるふ青き岨菜や瀧しぶき


ひととき、ネットで俳句や連句をご一緒したそばなさんは、お元気だろうか。

2007年8月30日木曜日

稲妻

 いなづまやでんき待ち侘ぶ闇の町


近隣に落雷があり停電した。雷雨が去ってわさわさと闇の通りに出てくる人々。電力会社は復旧に苦労しているようだ。家で蝋燭のともしびも情緒があるがなにもできない。二時間後やっと復旧したが、風呂が着かない。ガス風呂給湯器の基板がいかれたらしい。翌日、基板を交換してもらい復旧。35000円(^^;)、でも全取っ替えでなくてよかった。

業者が火災保険をチェックしろという。たいてい落雷による電気器具の損傷も対象になっているはずだと。保険の約款をはじめてみたらたしかに落雷も書いてある。だめもとで保険会社に給付請求をした。東京ガスの社員はこういうサジェスションをしないんだよね〜とその業者は得意顔だが、どうなることやら。

雷は電気のはずだが、その電気で電気が止まるとは。雷を電気として利用することはできないのか、雷は荒ぶる電気でそれをしずめないと普通の電気としては利用できないか? ものを知らないおやじの素朴な疑問。

牽牛花





 青く咲き閉ぢつつ赤む牽牛花


先日までの猛暑がうそのように、今朝はすずしい。庭では虫のこえがひときわ高い。中垣に伸びていった朝顔が青い花を一面に咲かせている。しばらくして閉じてくると赤みを帯びるのが人生のようでもあり面白い。

2007年8月27日月曜日

ねたばれ:ハリーポッター大団円

ハリー・ポッターの最終巻「Harry Potter and the Deathly Hallows(Harry Potter 7)」については、発売前からねたばれ情報が乱れ飛んだが、誰が死ぬかがメインであった。興味は半減したが、エラップス1ヶ月で読んだ。

前巻ではダンブルドアがスネイプにより殺されるというショッキングな事件があった。ダンブルドアは本当に死んだのか。スネイプにダンブルドアが自分を殺してくれるように直前に依頼しているのはなぜか。スネイプは本当にダーク・サイドなのかという大きな疑問が残っていた。これらは最終巻の最後の方で夢か幻かハリーの前にダンブルドアが現れてあきらかになる。

●ダンブルドアは本当に死んだ。
 ハリーがベルデモートにヒットされたとき朦朧としていたハリーの頭の中にダンブルドアが限りなくリアルに出現し、ダンブルドアは生きていたとハリーや読者に思わせる場面がある。

●スネイプはダンブルドアのスパイであった。
 スネイプは子供の頃からハリーの母リリーを愛していた。リリーの遺児ハリーを守るため、スネイプとダンブルドアは盟約を交わしていた。

●死期を悟ったダンブルドアはスネイプに後事を託し、自分をみんなの前で殺してくれるように依頼した。そうすることによりダーク・サイド側がスネイプに疑いを一切持たないようにしたのだった。

●死の秘宝
 死の秘宝とはエルダー・ワンド(Elder Wand(魔法の杖))、復活の石(Resurrection Stone)、見えない外套(Cloak of Invisibility)でダンブルドアが若い頃友人と探し当てたらしい。見えない外套と復活の石(スニッチの中にある)はハリーの手中にあるが、エルダー・ワンドはベルデモートの手にあった。ダンブルドアの墓からゲットしたらしい。

●七番目のホークラックス(分霊箱)はハリーの体の中に隠されていた。
 ベルデモートの魂が分割されて保管されているホークラックスはあと三つ残っていたが二つは破壊された。最後のホークラックスはなんとハリーの体の中に埋め込まれていた。ハリーとベルデモートがお互いに相手の心を読めるのはこれが理由だった。

●ルピンはダークサイドとの戦いで亡くなる。ドビーは危機にあったハリーたちを救出して亡くなる。ドビーは人ではないがハリーや読者のあわれを誘う。

●スネイプはベルデモートにより殺される。エルダー・ワンドは、前の所有者を殺したものが所有することで一番威力を発揮する。エルダー・ワンドを持っていたダンブルドアを殺して最後に所有したのがスネイプとベルデモートは見たからであった。しかしこの殺人は依頼であってあてはまらず、ベルデモートの持つエルダー・ワンドの威力は最大にはならなかった。エルダー・ワンドの最後の所有者はダンブルドアから取り上げたドラコ・マルフォイということになるらしい。

●ハリーは自分が七番目のホークラックスであることを悟り、死を覚悟しベルデモートに無抵抗でヒットされるが死ななかった。

●ベルデモートはハリーをヒットしたが、その攻撃が自分自身へのリバウンド(跳ね返り)となり死ぬ。

●19年後
 ハリーとジニーは結婚し3人の子供(ジェームス、リリー、アルバス)がいる。ロンはハーマイオニーと結婚し2人の子供(ローズ、ヒューゴ)がいる。子供たちがホグワーツ魔法学校に向かうところで大団円となる。ハリーとロンの仕事については言及がないようだが、魔法省のサラリーマンだろうか。

著者は最終巻で重要人物が二人死ぬと言っていたが、スネイプとルピンのことか。ベルデモートはダークサイドの主人公だが、人物と言うには霊的で怖すぎる(^^) 

著者ローリングさんへ感謝。この六年間楽しませていただきました。ありがとう。

歌仙「春蘭山居」の巻

歌仙「春蘭山居」巻
スタート 平成十九年六月二十八日
ゴール  平成十九年八月三日

発句  郭公を耳に草刈る山居かな        蘭 夏
脇     庄内おぼこサクランボ熟れ      兔 夏
第三  大勢の踏切急ぎ間ゆるりにて       倭 雑
四     碁会所へ行く孫の来ない日      寅 雑
五   躓けば月ゆれている岡遠く        青 秋月
折端    渡る舟降り野菊に出合い       侘 秋

折立  椋鳥が那珂の瀬に居る日暮れ時      兔 秋
二     薄灯ちらほら揺れ揺れめいて     倭 雑
三   頬染めて君と乗ったね観覧車       寅 恋
四     須磨の海辺を歩いたことも      青 恋
五   風に乗る淡いスカート舞い可愛い     侘 恋
六     ポスター溢れ選挙公示日       兔 雑
七   神留守居正心之保持難無垢心       倭 冬
八     寒月照らすペテン師の肩       寅 冬月
九   唐突に垣の向こうでバッハ鳴る      青 雑
十     山の香含む遠野の小川        侘 雑
十一  花明かり仏喰いたる魚が浮く       兔 春花
折端    残り雪ツンとつつく幼女子      倭 春
ナオ
折立  春の虹分校の屋根跨ぎ行く        寅 春
二     鞄重たく郵便配達          青 雑
三   宵深くつまみ作るも相手なし       侘 雑
四     吾が家の猫もスヤスヤ眠り      兔 雑
五   ラムネ瓶、陽に透かし見ゆ実母仕草    倭 夏
六     車椅子押す木陰涼しき        寅 夏
七   懐に便箋の文字匂い立つ         青 恋
八     歩けば探す銀色ブレス        侘 恋
九   占いは上々吉日これで行く        兔 恋
十     悲しみ顔の薄紅の月         倭 秋月
十一  団体で赤とんぼ飛ぶ観光地        寅 秋
折端    コスモス畑に下駄を落として     青 秋
ナウ
折立  肌寒さ夕風さらに脇をぬけ        侘 秋
二     何故か淋しい安倍の晋三       兔 雑
三   武士をさらとあしらうみやびびと     倭 雑
四     二枚の舌はいとも滑らか       寅 雑
五   ぼんぼりの灯影に隠れ花舞いて      侘 春花
挙句    春月上る千年の古都         青 春





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投票による選句結果

梅雨入やなにを好んで山籠り   3 25.00%
刈草のけむり入り込む車窓かな  0 0.00%
郭公を耳に草刈る山居かな    4 33.33%
夏沢の汗はいのちや滝の音    2 16.67%
崖の草食む羚羊や雲の峰     2 16.67%
五月雨や生ごみ捨てに出る女   0 0.00%
とどくうち高枝伐らん時鳥    1 8.33%
蕎麦打つて独り食みをり青時雨  0 0.00%
かるがもの池にくつろぐ植田かな 0 0.00%
夏あざみ落ちゆく径の稚児落し  0 0.00%

2007年8月26日日曜日

吾亦紅








冬瓜や黒き板の間とほる風
ゆふがほの実の大きさの定まらず
山の湯の青きたたみやとろろそば
骨董屋つばめの巣には五つの子
ゆだち過ぐ葭簀のつゆに蜂のかげ
石走る吐龍の滝や常乙女
森の背にうつろふ雲や夏野原
客送る山の露店のまくはうり
蝉しぐれ二泊三日の客帰る
草刈り機手慣らす姥の山田かな
沢蟹の子らの子生(あ)るる流の泥
ひぐらしやにじます燻すドラム缶
忘れじの丘の鐘鳴る吾亦紅
さそはれて路ふみたがふ花野かな
湿原や清水とくとく白樺(かんば)