2007年7月11日水曜日

現代川柳作品一〇〇

『現代川柳ハンドブック』
 日本川柳ペンクラブ 尾藤三柳監修 1998年


現代川柳作品一〇〇

寝転べば畳一帖ふさぐのみ     麻生路郎
飲んでほしやめても欲しい酒をつぎ 麻生葭乃
もの書きの刃を研ぐ喉のうすあかり 飯尾麻佐子
天井に棋譜を浮かべて鬼才病み   池田秋の月
筍もみな竹になり寺しづか     池田可宵
白足袋の白というのも色のうち   伊志田孝三郎
何も願わじ水の流れを見ていたり  石原伯峯
津軽地吹雪新墓ひとつ呼応せり   伊藤律
国境を知らぬ草の実こぼれ合い   井上信子
通夜の酒月は頭上を通過せり    海地大破

或る危機の予感に光る春の潮    卜部晴美
地球儀に愛する国はただ一つ    近江砂人
肝臓に会って一献ささげたい    大木俊秀
八重桜散らぬ男を迎えけり     大森風来子
門標に竹二としるすいのちかな   大山竹二
ああ家があったと夫婦旅帰り    奥美瓜露
胃袋のかたちしてねむる都営住宅12の5 奥室数市
相擁く和紙の折り目を深くして   尾田左桐子
馬鹿な子はやれず賢い子もやれず  小田夢路
妻をかくに汚れた指を見る     加賀破竹

人を焼く炉に番号が打ってある   柏原幻四郎
膝を抱くだけの手にして人去れり  柏葉みのる
風鐸に風がある日の法隆寺     片岡つとむ
今日と言う幕が台本なしで開く   片倉沢心
冬の序曲か演技の風に舞うすすき  加藤翠谷
枯尾花霧の中なる声さがす     花岡井可
生きていなされ何度でも悔いなされ 唐沢春樹
河童起ちあがると青い雫する    川上三太郎
永住と決めて東京空っ風      河村露村女
雪に死ぬとき乳房に似たる山ありき 岸本吟一

標札は岸本とある旅帰り      岸本水府
小糠雨やにわにおどり出す兵士   北野岸柳
辯證の諸君見給え無精卵      北村雨垂
莫迦と違うのか俺と歩けり     草刈蒼之助
地吹雪に噫と吐く息持ち去らる   工藤寿久
駄馬なりに矢印があり明日を追う  黒沢かかし
荒縄をほぐすと藁のあたたかさ   後藤柳允
うるさいのは世間ではなくお前だよ 酒井駒人
啄木が泣いたかこんな蟹一つ    坂本一胡
にんげんのことばで折れている芒  定金冬二

子らの子に伝えるジョークなど探し 佐藤良子
いい人のままで定年きてしまい   塩見草映
妻と佇つ庭のさくらも散るばかり  清水米花
スケールの大きな恋がある神話   白井花戦
目出度目出度と貧しい村の唄    白石朝太郎
旅烏心を空の色にする       杉野十佐一
皆咲けば百花繚乱妻の庭      椙元紋太
風りんの音色を金の鈴と聞く    鈴木可香
舟あしの何と重たい別れだな    田頭良子
上ばかり見て歩いても墓へ来る   高木夢二郎

乞食にもなれず強盗にもなれず   高須唖三昧
時の立つ早さにおびえ老いて行く  高橋春造
兄弟が寄るとお袋生きている    竹本瓢太郎
なぐさめてくれる火鉢の火をひろげ 田中空壷
人間を掴めば風が手にのこり    田中五呂八
すでに遠きまなざし独り蜜柑むく  田辺幻樹
電光ニュース政治は闇に消えるのか ちば東北子
手と足をもいだ丸太にしてかへし  鶴彬
風呂敷の米どうしても米に見え   土橋芳浪
川底の石を生涯ひとつ持つ     外山あきら

モンロー忌聖なるものは遠くなる  中尾藻介
悠遠を斬る一瞬の流れ星      中島國夫
浮き草は浮き草なりの花が咲き   中島生々庵
独り寝のムードランプがアホらしい 永田帆船
パチンコ屋オヤ貴方にも影が無い  中村冨山人
志ん生を笑い直して下足札     西島○丸
手術記念日鰯の味が舌にある    西山金悦
燃えやすい冷めやすい身のかすり傷 野口初枝
運つかむときどの指も競わない   橋爪まさのり
生まれては苦界死しては浄閑寺   花又花酔

基礎知識大根おろしにして食べる  速川美竹
火の女もろくも母の名に屈し    林ふじを
はじめに言葉ありてよごれつづける 尾藤三柳
通り抜けあの頃ポンポン船が見え  広瀬反省
孫の写真に俺の顔が半分      福永清造
子の着く日弾むでもなく菊をきり  房川素生
いくさあればふつふつと湧く土下座の血 藤井比呂夢
政治家と比較にならぬ僕の嘘    藤沢岳豊
定期券モシモシ君も亀ですか    藤沢三春
むくむくむくむくまさしく青年の雲よ 藤本静港子

島の地に母のさいはてわがさいはて 細川不凍
録音にはっきり僕の出雲弁     本庄快哉
音もなく花火があがる他所の町   前田雀郎
馬鹿さ加減がゆらゆらとある洗面器 前田夕起子
また弾丸になる鉄塊と人夫の糧   松本芳味
眼にさぼてんを植えてあきらめる  三浦以玖代
老来の妻に黙すること多き     三浦太郎丸
一本の葦を小さな笛にする     宮本紗光
家に居て飲んでればいゝ星廻り   村田周魚
舌を咬む事の痛さに今日も負け   森田一二

まだ言えないが蛍の宿はつきとめた 八木千代
ためる金たまった金にたまる金   矢野錦浪
ふぐりころころ僕を殺しにどこへ行く 山崎蒼平
いい話妻にも受話器替わらせる   山崎凉史
ふりむけばがんじがらめの老眼鏡  山本克夫
胸襟を開くくすりを酒という    山本翠公
むかし海ありき僕の青春を刻む   山本卓三太
だからさああのさあ子等の善後策  山本半竹
青空を吊して眠るダリのヒゲ    脇屋川柳
太陽に問えば明日があると言う   渡辺銀雨

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