2007年10月31日水曜日

句に残して俤にたつ

風雅とは何か、と惟然に尋ねられたとき、芭蕉は「句に残して俤にたつ」ことだと答えた。(俳諧一葉集 遺語之部)

三冊子には芭蕉の言葉として「付きの事は千変万化するといへ共、せんずる所、唯、俤と思ひなし、景気、此三つに究まり侍る」「付くといふ筋は、匂・響・俤・移り・推量など、形のなきより起こる所なり。心通じざれば及びがたき所也」とある。

前句の余韻・余情(気分・情調)に対して付ける付け方を芭蕉は発明した。これを余情付けまたは匂い付け(広義)と言う。

当時の蕉門の人たちはどういう匂い付けの句をよしとしたのか、本から洗い出してみた。これからは付句する前にこれを眺めてみよう。

   【三冊子】

 あれあれて末は海行く野分かな  猿雖
鶴のかしらを揚ぐる粟の穂     芭蕉  (笈日記、けふの昔)
 
 鳶の羽もかいつくろひぬ初しぐれ 去来
一吹き風の木の葉しづまる     芭蕉  (猿蓑)

 寒菊の隣もありやいけ大根    許六
冬さし籠る北窓の煤        芭蕉  (笈日記)

 しるべして見せばやみのの田植歌 己百
笠改めん不破のさみだれ      芭蕉  (笈日記)

 秋のくれゆく先々の苫やかな   木因
荻にねようか萩に寝ようか     芭蕉  (笈日記)

 菜たね干す筵の端や夕涼     曲翠
蛍逃げ行くあづさゐの花      芭蕉  (笈日記)

 霜寒き旅ねに蚊やを着せ申す   如行
古人かやうの夜のこがらし     芭蕉  (笈日記)

 おく庭もなくて冬木の梢哉    露川
小はるに首のうごく箕むし     芭蕉  (笈日記)

 市中はものの匂ひや夏の月    凡兆
暑しと/\門/\の聲       芭蕉  (猿蓑)

 色々の名もまぎらはし春の草   珍碩
打たれててふの目を覚しぬる    芭蕉  (ひさご)

 折々や雨戸にさはる萩の聲    雪芝
はなす所におらぬ松むし      芭蕉  (続猿蓑)

 縁の草履のうちしめる春     
石ぶしにほそき小鮎をより分けて  芭蕉  (俳諧録、一葉集)

 夕顔おもく貧居ひしげる     其角
桃の木に蝉鳴く頃は外に寝よ    桃青  (次韻)

 笹の葉に小径埋りて面白き    沾圃
頭うつなと門の書付け       芭蕉  (続猿蓑)

 亀山や嵐の山や此山や
馬上に酔ひてかかへられつつ    芭蕉  (ばせを盥)

 野松にせみの鳴き立つる聲    浪化
歩行荷持手ぶりの人と噺して    芭蕉  (となみ(刀奈美)山)

 青天に有明月の朝ぼらけ     去来
湖水の秋の比良のはつ霜      芭蕉  (猿蓑)

 僧やや寒く寺に帰るか      凡兆
猿引の猿と世を経る秋の月     芭蕉  (猿蓑)

 こそ/\と草蛙を作る月夜ざし  凡兆
蚤をふるひに起くるはつ秋     芭蕉  (猿蓑)

 夜着たたみ置く長持のうへ    岱水
灯の影珍しき甲待ち        芭蕉  (韻塞)

 酒にはげたる頭成らん      曲水
雙六の目を覗き出る日ぐれ方    芭蕉  (ひさご)

 そっと覗けば酒の最中      利牛
寝所に誰も寝て居ぬ宵の月     芭蕉  (炭俵)

 煤掃の道具大かた取出し
むかいの人と中直りせり      芭蕉  (俳諧録、一葉集)

 冬空のあれに成りたる北颪    凡兆
旅の馳走に在明し置く       芭蕉  (猿蓑)

 のり出して肱に余る春の駒    去来
摩耶が高根に雲のかかれる     野水  (猿蓑)

 敵寄せ来る村秋の聲       ちり
在明のなし打烏帽子着たりけり   芭蕉  (鶴の歩)

 月見よと引起されて恥づかしき  曽良
髪あふがする羅の露        芭蕉  (旅日記)

 牡丹をり/\なみだこぼるる   挙白
耳うとく妹に告げたるほととぎす  芭蕉  (飛登津橋)

 秋風の舟をこはがる浪の音    曲水
雁行くかたや白子若まつ      芭蕉  (ひさご)

 鼬の聲の棚もとの先       配刀
箒木はまかぬに生えて茂る也    芭蕉  (けふの昔)

 能登の七尾の冬は住みうき    凡兆
魚のほねしはぶる迄の老をみて   芭蕉  (猿蓑)

 中/\に土間にすわれば蚤もなし 曲水
わが名は里のなぶりものなり    芭蕉  (ひさご)

 抱き込んで松山広き在明に    支考
あふ人ごとに魚くさき也      芭蕉  (砂川集)

 四五人通る僧長閑也       浪化
薪過ぎ町の子供の稽古能      芭蕉  (となみ山)

 頃日の上下の衆の戻らるる    去来
腰に杖さす宿の気ちがひ      芭蕉  (砂川集)

 御局のやど下りしては涙ぐみ   丈草
塗つた箱よりものの出し入れ    芭蕉  (となみ山)

 隣へもしらせず嫁を連れて来て  野坡
屏風のかげに見ゆる菓子盆     芭蕉  (炭俵)

 入込に諏訪の湧湯の夕間暮    曲水
中にもせいの高き山ぶし      芭蕉  (ひさご)

 人聲の沖には何を呼ぶやらん   
鼠は船をきしる暁             (宇陀法師)

 榎の木がらしのまめがらをふく
寒き爐に住持はひとり柿むきて   芭蕉  (春と穐)

 桐の木高く月さゆる也      野坡
門しめてだまつて寝たる面白さ   芭蕉  (炭俵)

 もらぬほどけふは時雨よ草の屋ね 斜嶺
 火をうつ音に冬のうぐひす    如行
一年の仕事は麦に収りて      芭蕉  (後の旅、けふの昔)

 市人にいで是うらん笠の雪    芭蕉
 酒の戸たたく鞭の枯うめ     抱月
朝顔に先だつ母衣を引づりて    杜国  (笈日記)

 歩行ならば杖つき坂を落馬哉   芭蕉
角のとがらぬ牛もあるもの     土芳  (笈の小文)

   【去来抄】

 赤人の名はつかれたり初霞    史邦
鳥も囀る合点なるべし       去来  (薦獅子集)

 身細き太刀の反るかたを見よ   重成
長縁に銀土器をうちくだき     柳沅  (既望集)

 上置の干菜きざむもうわの空   野坡
馬に出ぬ日は内で戀する      芭蕉  (炭俵)

 細き目に花見る人の頬はれて
菜種色なる袖の輪ちがい      

 おしろいをぬれど下地が黒い顔  支考
役者もやうの袖の薫もの      去来  (市の庵)

 尼に成べき宵の衣/\      路通
月影に鎧とやらを見透して     芭蕉  (桃の白実)

 ふすまつかむで洗ふあぶら手   嵐蘭
懸乞に戀の心をもたせばや     芭蕉  (深川集)

 草庵に暫く居てはうち破り    芭蕉
命嬉しき撰集の沙汰        去来  (猿蓑)

 発心のはじめにこゆる鈴鹿山   芭蕉
内蔵の頭かと呼ぶ人はたそ     乙州  (猿蓑)

   【芭蕉俳諧の精神】

 游ぎ習ひにあそぶ鴨の子     露荷
夕月に怠る所作をくりうめん    キ角  (続虚栗)

 慈悲斎が閑つれづれにして    其角
木枯の乞食に軒の下を借す     才丸  (次韻)

 梢いきたる夕立の松       キ角
禅僧の赤裸なる涼みして      孤屋  (続虚栗)

 江湖/\に年よりにけり     仙花
卯花のみなしらげにも詠る也    芳重  (初懐紙)

 夕月の朧の眉のうつくしく   
小柴垣より鏡とぎ呼            (秋の夜評語)

 酒の月お伽坊主の夕栄て     揚水
真桑流しやる奥の泉水       芭蕉  (次韻)

 雪駄にて鎌倉ありく弥生山    孤屋
きのふは遠きよしはらの空     キ角  (続虚栗)

 菱の葉をしがらみふせてたかべ啼 文鱗
木魚聞ゆる山かげにしも      李下  (初懐紙)

 柴かりこかす峰のささ道     芭蕉
松ふかきひだりの山は菅の寺    北枝  (山中三吟評語)

 銀の小鍋にいだす芹鍋      曽良
手枕におもふ事なき身なりけり   芭蕉
手まくらに軒の玉水詠め侘     芭蕉  (山中三吟評語)
手まくらにしとねのほこり打払ひ  芭蕉

 まま子烏の寝に迷ふ月      千之
盗人をとがむる鎗の音更て     其角  (虚栗)

 島ばら近きわが草の庵      キ角
忍啼ふるき蒲団に跡さして     蛇足  (続虚栗)

 船に茶の湯の浦哀なり      其角
筑紫迄人の娘を召つれし      李下  (初懐紙)

 二つにわれし雲の秋風      正秀
中れんじ中切あくる月かげに    去来  (去来抄)

 半分は鎧はぬ人も打まじり
舟追ひのけて蛸の喰あき          (宇陀法師)

 夕闌て宮女のすまふめし玉ふ   匂君
大盞七ツ星を誓ひし        其角  (虚栗)

 美女の酌日長けれども暮やすし  其角
契めでたき奥の絵を書く      蛇足  (続虚栗)

 雨さへぞいやしかりける鄙曇   コ斎
門は魚ほす磯ぎはの寺       挙白  (初懐紙)

 方々見せうぞ佐野の源介     信章
かいつかみはねうち払ふ雪の暮   桃青  (奉納二百韻)

 掛乞も小町がかたへと急候    桃青
これなる朽木の横にねさうな    信章  (桃青三百韻)

 いねのはのびの力なき風     珍碩     
発心のはじめにこゆるすずか山   芭蕉  (猿蓑、去来文)

 すみ切松のしづかなりけり    素男
萩の札すすきの札とよみなして   乙州  (猿蓑、去来文)

 手もつかず朝の御膳のすべりけり 
わらぢをなをす墨の衣手          (去来文)

 水飲に起て竃下に月をふむ    翠紅
聞しる声のをどりうき立      一晶  (虚栗)

 人しれず恋する恋の上手さよ   キ角
わかれば見よと床に金をく     破笠  (続虚栗)

 筑紫迄人の娘をめしつれし    李下
弥勒の堂におもひ打ふし      枳風  (初懐紙)
  
   【連句入門】

 この春も盧同が男居なりにて   史邦
さし木つきたる月の朧夜      凡兆  (猿蓑)

 堤より田の青やぎていさぎよき  凡兆
加茂の社は能き社なり       芭蕉  (猿蓑)

2007年10月30日火曜日

俤・匂い付け考(ひとりごと)

俤・匂い付け考(ひとりごと)

連歌・俳諧の付け方は色々な観点から分類される。異なる観点の分類間の関連は分かりにくい。

前句の何に対して付けるかという観点の分類で、貞門の物付け、談林の心付け(句意付け)、蕉門の余情付けは、大方受け入れられているのだろう。

余情付けは匂い付けとも呼ばれるむきがある。芭蕉は匂い付けを「付方の一名には如何ならん」と言って注意したが、弟子達は構わず使い続けたようだ。匂い付けは、移り、響き、匂いなどとその付けの結果の様態で細分類することもある。ますます初心にはわかりにくくなるばかりだ。

三冊子に、
「付きの事は千変万化するといへ共、せんずる所、唯、俤と思ひなし、景気、此三つに究まり侍る」「付くといふ筋は、匂・響・俤・移り・推量など、形のなきより起こる所なり。心通じざれば及びがたき所也」と芭蕉が言ったとある。

前段では俤を匂・響・俤・移りの代表もしくは広義に使っていると見られる。これは匂に広義と狭義があるのと同じで、広義の匂と広義の俤はほぼ同じことを予感させる。

後段では俤を余情付けのワンノブとして狭義、主に歴史的事件や人物について、その事や人を直接言わずにぼんやりと偲ぶように付ける付け方に使っている。

当時の蕉門の弟子たちにも混乱があったらしく、去来抄には杜年が「面影にて付くるはいかが」と質問をしている。去来はそれに答え「うつり・響・匂ひは付けやうのあんばい也。おもかげは付けやうの事也。むかしは多く其事を直に付けたり。それを俤にて付くる也。たとえば、」として以下で説明している。付けようの塩梅と付けようそのもの、苦しい答弁を聞いているようだ。

   草庵に暫く居てはうち破り  ばせを
    命嬉しき撰集の沙汰     去来


さて、芭蕉はわかりにくい連句の付け方を三つの分かりやすそうなものにせんじつめて分類してくれた。

●俤
これは広義でイコール、広義の匂(移り、響き、匂いの総称)と置き換えてよいと思われる。参考文献(2)で赤羽氏は「このように面影はにほひと区別つけ難い。」という結論に達している。また論拠ともなるべき記述が俳諧一葉集 遺語之部*に載っているらしい。それを引用したネット上の論文の断片をURLとともに添付に載せる。

●思ひなし
推量と同じことで、前句を十分に見定め、かつ前句をつきはなして新たな情景を前句から推量(思いなし)して付けることであろう。

●景気
景色、気色と同義で、去来抄に「付句は、気色はいかほどつづけんもよし。天象・地形・人事・草木・虫魚・鳥獣の遊べる、其形容みな気色なる」と芭蕉は言ったとある。なんと柔軟な考え方だろう。このことからも北枝の自他場論を芭蕉がよしとしたというのは嘘と信じたい。

蕉門は余情付けが専売特許としても余情付けばかりではなく物付け、心付けも使っていたことを忘れてはいけない。思ひなしや景気も前句の余情に付けるので余情付けの一種だとはまさか言うまい。

この俤(匂い)、思ひなし、景気の付け方の分類は、私にはわかりやすい。そして俤(匂い)付けは今までほとんどできていないことに気付かされ唖然とする。


参考文献
●三冊子、去来抄、日本古典文学大系、岩波書店
●芭蕉俳諧の精神、赤羽学、清水弘文堂
●連句入門ー芭蕉の俳諧に即して、東明雅、中公新書
●俳諧一葉集 遺語之部  古学庵佛写・幻窓湖中 文政10(1827)江戸青雲堂(未見)

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添付
蕉風俳諧の美学:匂い付け

    うすうすと色を見せたる村もみじ   芭蕉

に対して、どういう付けがよいのか。その場では、次の四句がでたが、どれも芭蕉によって却下された。

一 下手も上手も染屋してゐる
二 田を刈りあげて馬曳いてゆく
三 田を刈りあげてからす鳴くなり
四 よめりの沙汰もありて恥かし

最後に    御前がよいと松風の吹く   丈草

という付けが出たときに、はじめて芭蕉は印可したという。芭蕉の門弟達が、この附合を「匂ひ」付けと呼んだことは、俳諧芭蕉談のつぎの言葉に明らかです。 「御前がよいと云う松風は、うすうすと色を見せたる匂ひを受けて句となる。心も転じ、句も転じ、しまこその力をとどめず、これを「にほひ附」といふ。」

2007年10月27日土曜日

歌仙『秋祭り』の巻 補遺




【Alternative】

14    息もつかせぬプレゼンを聴く     蘭
15  スキューバの新製品を探しては    こやん
16    どこか南の島へ行こうと
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    うるむまなこがものをいいけり    蘭
15  鬼太郎の父はのんびり湯につかり   こやん
16    外では猫が鼠追いかけ
17  裏さびた寺の畳は擦り切れぬ
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    講義さぼって文藝座地下       蘭
15  遊ぶとて大義名分ほしいもの     こやん
16    ボケ防止にと前置きをする
17  九十の翁は朝にシャワー浴び
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    憑かれたように歩く川べり      蘭
15  友達のピレネー犬のお守りして    こやん
16    いつか獣医になれたらなんて
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    自転車こいで春の明日香路      蘭
15  あさっては名張を越える伊勢の道   こやん
16    五十鈴の川で心清めん
17  投げ技でボクシング界追い出され
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭 
17  定年であの頃の夢思い出す      こやん
18    黒帯をして子供教える        波
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭
17  人生は脚本のない夢芝居         
18    千両役者今は忍ぶ身       こやん
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭

14    黙っていれば佳人なるらん      蘭     
15  渋いけどどこから見てもホームレス  こやん
16    自由アートは場所を選ばず      蘭
17  常識の呪縛を断てば新世界        
18    浪速は人の波も途切れず     こやん
19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭 


写真提供は、フォト蔵さん

歌仙『秋祭り』の巻




    歌仙『秋祭り』の巻
                 2007.10.7〜10.27

発句  気にかかる迷子放送秋祭り      こやん
 2    やっと見つけた伯母に照る月
 3  虫の鳴くバス停留所降り立って
 4    しばし普段の疲れ忘れる
 5  学校の便所の話題盛り上がり
 6    蝉じりじりと線路を歩く

 7  雷が落ちたところが変電所
 8    飛んでしまった途中の連句
 9  脳トレにはまり忘れた付け順に
10    話が前後している展示
11  花の下催しものもいろいろと
12    遅日終日街のにぎわい 
13  かふん症または風邪かとマスクして   春蘭
14    咳とくしゃみのまざるテレフォン   
15  交渉をしようとしてもさえぎられ   こやん
16    苦い気分で一人酒飲み
17  定年であの頃の夢思い出す
18    黒帯をして子供教える       青波

19  腰のある振り売りの声遠ざかり      蘭
20    薄ばかりがおいでおいでと    こやん
21  月影に糞も艶めく獣みち         蘭
22    漫ろ寒さに立てる襟元         
23  講談師真に迫つてもの凄く
24    楽屋で弟子を叱りつけたり    こやん
25  とりおきの利休饅頭みあたらず      蘭
26    ブートキャンプもしばしお休み  こやん
27  愛猫を鍋に入れよとがんばって
28    やっぱり冬はキムチが旨い
29  木枯らしに歌仙挑まんキムサッカ
30    海を隔てて言の葉の道

31  モルジブに沈む新月いつか見ん
32    いつしかのびた薄い爪切る      蘭
33  ネットゲークリア目前裏切られ    こやん
34    クールダウンはいつも猫鍋      蘭
35  花盛り犬に引かれて長散歩
挙句    草にてこそぐ靴の春泥


写真提供は、フォト蔵さん 

2007年10月26日金曜日

歌仙『後の彼岸』の巻




      歌仙『後の彼岸』の巻
                     2007.10.1〜10.25

発句  夫とゐて迎ふる後の彼岸かな      酔姚    秋
脇     朝市に来て間引き菜を買ふ     青波    秋
三   月見にと汁の一つもととのえむ     こやん   秋月
四     手前うどんを飽かず三食      春蘭    
五   洋上に油さす船影もなく        面白 
六     黄昏迫る夕凪の空         草栞    夏
ウ 
一   夏祭り迷子放送紛れ込み        みかん   夏  
二     戻らぬ嫗探しあぐぬる       紫桜    
三   砂時計さかさにしてもおもひかぬ    酔     恋 
四     冷めてるはずが恋に落ちると    こ     恋
五   それらしい言葉並べて意味不明     波
六    「ポンパ」「ホエミャウ」アサッテの僕  白
七   をとつひの望からずつと酒の月     蘭     秋
八     忘れ扇の舞ひ落つままに      栞     秋
九   みむらさき小枝揺すれば色映えて    栞     秋
十     新作映画どれもよささう      酔
十一  6区より墨堤までの花篝        み     春花
十二    山が笑へば私も笑ふ        波     春
ナオ
一   行春に未だ行く先決まらねど      こ     春
二     黄色いえんぴつ倒れた方へ     白 
三   奔放か晩生かどちも魅力的       蘭      
四     兎狩る日も若きおもひで      酔     冬
五   囲炉裏端ばっちゃの話眠くなる     波     冬
六     腰痛体操念入りにして       み     
七   レオタード姿の君に一目ぼれ      栞     恋
八     ライバルおほき戀に勝たまし    蘭     恋   
九   メール来て悩むはレスのタイミング   こ  
十     明日は一日お出かけなのよ     み
十一  スタンダードながれる夕べ朱夏の月   白     夏
十二    水朝顔の映れる川面        酔     夏
ナウ
一   かはせみがゐると言ふからやつて来た  波     夏
二     似たものばかりカメラ抱えて    こ
三   数ばかり見るべきものの少なさよ    み 
四     憧る心いよよ深まる        白
五   奥山の庵隠すや花吹雪         栞     春花
挙句    あてなき身にもあたる春風     蘭     春

                  
                      (捌き 酔姚)



    

写真提供は、フォト蔵さん:彼岸花

2007年10月25日木曜日

歌仙『錦秋』の巻



     歌仙『錦秋』の巻
                2007.10.14〜10.24

発句   錦秋の片隅を借りて居たりけり    遊      
脇      水車小屋よりかをる新蕎麦    春蘭     
第三   大振りの朱塗りの杯に月汲みて    みかん
 四     汲めども尽きぬ昔話に      こやん
 五   東雲のしじまひきやる明け烏     蘭  
 六     冬薔薇の棘触れぬようにし    遊
ウ一   凍てついて心を閉ざす人の並     こ
 二     パズル解けずにはや日曜日    み  
 三   薪はぜて愛の行方の揺らめける    遊 
 四     もつれる髪を梳いて紅引く    蘭
 五   抱かれて抱かれるたび遠い君     み
 六     成田を発ってあと何時間     こ
 七   モルディブの裸にしみる海の色    蘭
 八     だれも月など気にならぬらし   遊
 九   秋風も吹かず命の常ならば      こ
 十     添水修理に爺さまはりきる    み
 十一  道普請日の出に染まり花開く     遊
 十二    左利きには倍の独活和へ     蘭
ナ一   高坏に色とりどりの雛あられ     み
 二     旧家といえば伝承もあり     こ
 三   紅殻の土間にまつれる竃殿      蘭  
 四     農地改革半世紀前        遊
 五   エタノールなんて思いもかけぬもの  こ
 六     神谷バーにて軽く一杯      み
 七   新妻の頬ほんのりと鬼灯市      遊
 八     浴衣とほして肌の温もり     蘭
 九   思いこめスラブ舞曲を連弾で     み
 十     逃げし故郷にかへる面無し    蘭
 十一  柳枯れ月のみかかる六地蔵      こ
 十二    赤い帽子に初時雨して      遊
ウ一   サバイバルゲームの戦士凛々と    こ
 二     タイブレークで準決勝に     み
 三   還暦と勝利を祝ふ大拍手       遊
 四     胸弾ませて趣味に邁進      み 
 五   ひたぶるに彼は誰時の花愛でて    蘭    
揚句     今日も長閑な一日であれ     こ





写真提供は、フォト蔵さん

2007年10月23日火曜日

十月桜




  道かへてみれば十月桜かな





  


  

思郷


『放浪の天才詩人 金笠』崔碩義

金笠(キムサッカ)1807ー1863 乞食詩人:ボヘミアン。朝鮮の山頭火とも呼ばれる。本名は炳淵(びょんよん)。号は蘭皐(なんご、らんこう *注)。

名門の生まれだが没落後、22才で妻子を残し出奔。24才で一時家に帰るが再び家出。57才で路傍に倒れるまで家に帰ることはなかった。

才気、機智に富み、諷刺とユーモアのある多くの漢詩を詠んだ。食や宿を乞い受け入れられないとすぐ相手をこけおろした憤懣の詩を残して立ち去るのはあまりに人間的だ。高僧や妓生との共吟詩、某女への誘いの詩などは自由奔放でもある。三教との関わり合いはどうだったのだろうか。

異郷にあっても心は常に故郷に向いていた、でも帰るに帰れない、かといって一カ所に留まれず、白髪になるまで路傍を彷徨してしまったと慨嘆する詩には心を揺さぶられる。

     
    可憐江浦望 明沙十里連 令人個個拾 共数父母年(贈還甲宴老人)

    人性本非無情物 莫惜今宵解汝裙 (贈某女)

    玉館孤燈応送歳 夢中能作故園遊 (思郷)

    心猶異域首丘狐 勢亦窮途触藩羊 (蘭皐平生詩)

    帰兮亦難イ至亦難 幾日彷徨中路傍 (蘭皐平生詩)

    
余談:

 青邱 自分の別の号であるが、朝鮮を意味するとは知らなかった。

 蘭皐 *注  
    歩余馬於蘭皐兮 馳椒丘且焉止息 (屈原『楚辞』離騒)

   (余が馬を蘭皐に歩ませ、椒丘に馳せてしばらくここに止息す
    蘭皐:蘭の香る沢  椒丘:山椒の匂う丘 )

2007年10月20日土曜日

とくとく歌仙 & すばる歌仙

『とくとく歌仙』&『すばる歌仙』丸谷才一、大岡信ほか

三吟の13歌仙、両吟の2歌仙、合計15歌仙について、一句ずつ説明し、枚数の大半はこれに費やされている。句を詠む人は一般に自句を解説することが大好きなようであるが、私はするのも聞くのもあまり好きではない。多くの芸術と同じように作品を読む個人ごとの印象・感想・解釈でよいと思うからだ。

『とくとく歌仙』の冒頭に「歌仙早わかり」があり、彼らの俳諧(連句)観をかいま見ることができた。


○現代俳句で歌仙の発句にならない句がある。それは完結して人を寄せ付けない(二の句が継げない)句だ。発句は余情として挨拶性があり、他者に心を開いている。発句にならない俳句は、言い切ってしまって余情がなく、他者への呼びかけもない。これは現代俳句の大問題であろう。(芭蕉の言葉「謂い応せて何かある」を思い起こせ。)多くの現代俳人はうすうす感じてはいるようだが、耳が痛いのか、俳句が変になると思ってか、連句と聞くとパッと心を閉ざす人が多い。

○第三は、難しい。発句と脇の挨拶の世界から離れる。動きのある句をもってくるのがコツだ(丸谷)

○四は、軽くさりげなくきれいに。遣句としてもよい。

○月、花の句ははじめから用意しておいてもよい(手控えの句)

○素春(花なし)は一回はオーケー。でも早めに。

○芭蕉の歌仙は『古今集』『新古今集』を読み抜いたことによってできたという感じがする。連句の技術は編集の技術だ。

○『武玉川』は歌仙の雑の句からなっている。日本のいまの俳人たちは自分たちを支えてくれているものは、ああいうものだということをもう少し認識しないといけない。認識しないから、痩せ細っちゃうというところがあると思う(大岡)現代俳人は滑稽な句をつくれないからね。だからつまらないんだね(丸谷)

○歌仙の半分には雑がないと面白くない。雑の人事の滑稽な句が大事。2句以上は続けたい。そして抒情的な句(やはり2句以上)とラリーをするとよい。

○井上ひさしさんの付けで、想像した状況や経緯も含めて多くのことを575の一句の中に詠み込もうとしてえらい苦労したことがあった。一句の中でストーリを作るのではなく、一句は断片の場面で、場面が連句として集まってストーリになるということを忘れてはいけない。初心が陥りやすい。

○自分の思い込みであったが、前句と同じ時間軸で詠まなければならないということはない。(丸谷)


要するに、現代俳人は連句をしなさい、そして失なわれた開いた心と余情、滑稽を取り戻しなさい、と両氏は言っているようだ。

2007年10月18日木曜日

とりあえず

 
  「とりあえず」多用の謝罪とりあえず

口癖は恐ろしいもので、謝罪の弁で「とりあえず」を連発した人がいる。「まぁ」という人もかなり多いが、これも謝罪には適さないだろう。口語を正すにも俳諧がいいかも知れないw

(メールで投稿)

2007年10月17日水曜日

法華経を読む

  どの田にも蛙鳴くなり星の山


源氏物語には、法華経と法華八講という言葉がよく出てくる。 光源氏も傾倒していたと見られる法華経とは何か。どんなことが書かれているのか興味がある。

初心者がいきなり経文を読むのもつらそうなので、概要をつかむべく『妙法蓮華経』久保田正文 宝文館出版を読んだ。

で、要点は。。。 まとめてはいけないものをまとめたような気がする(^^;)


●これまで説いてきた経は、人の機根に応じたもので方便である。ここに説くことー法華経こそ仏の本懐である。【一乗妙法】

●釈迦こそ久遠の過去から教化してきた本仏である。【久遠実成】

●世界のすべてのものは、相・性・体・力・作・因・縁・果・報によって生じ、変化し現象として差が見られるがすべて道(真如)を離れたものはなく、本質的に平等である。 【諸法実相、十如是】
 
 変わらないものはない【諸行無常】 自分だけで成り立っているのもはない【諸法無我】 ー> 生けとし生けるものへの慈悲心と万物を平等に見る心

●浄土はこの世の外にあるのではない。【娑婆即寂光土】
 
●人にはだれでも仏性があり菩薩、仏になれる。【二乗作仏】
 
●煩悩(迷い)を断じ尽くしたのち、菩提(悟り)の境地が得られると小乗の教えでは説いてきた。本来、煩悩と菩提は対立するものではなく、同じものー真如の両面である。煩悩はそのまま菩提にほかならない。衆生救済という煩悩はそのまま菩提となる。【煩悩即菩提】

 法華経を受持しその教えに従って修行すれば、在家のまま、煩悩に満ちた現実生活をしているままで菩提を得ることができる。【生死即涅槃・即身成仏】

古今和歌集 百歌撰

古今和歌集 百歌撰

 古今和歌集の全体に目を通し、百首を目処に和歌を選ぶ。選ぶ観点は、新古今和歌集でのそれと同じ。一にリズム、二にわかりやすく共感できるもの。古来有名でも、詞、姿がたくみでも、内容が陳腐だったり感動を共感できないものは撰ばず。その結果、百首に至らず、66首。

 成立:905年  1111首 
 撰者:醍醐天皇  紀友則、紀貫之、凡河内躬恒、壬生忠岑
 部立:春、夏、秋、冬、賀 離別、羇旅、物名、恋、哀傷、雑、雑体、他
 参照:新潮日本古典集成『古今和歌集 奥村恆哉校注』1978年




袖ひちてむすびし水の凍れるを春たつ今日の風やとくらむ     貫之
     
雪のうちに春は来にけり鶯のこぼれる涙今やとくらむ       二条后
                     
君がため春の野に出でて若葉摘むわが衣手に雪は降りつつ     光孝天皇

春日野の若菜摘みにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ      貫之
   
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香ににほひける    貫之
  
世の中にたへて桜のなかりせば春の心はのどけからまし      業平

見わたせば柳桜をこきまぜてみやこぞ春の錦なりける       素性法師

見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし       伊勢

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ      紀友則

春雨の降るは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ        大伴黒主

ふる里となりにし奈良の都にも色はかはらず花は咲きけり     平城帝

花のいろは霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風     良岑宗貞

三輪山をしかも隠すか春霞人に知られぬ花や咲くらむ       貫之

花の色はうつりにけるないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町




夏の夜の臥すかとすれば時鳥鳴くひと声に明くるしののめ     貫之

蓮葉のにごりにしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく      遍昭

夏の夜はまだよひながら明けぬるを雲のいづこに月やとるらむ   深養父




秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる   藤原敏行

奥山にもみぢふみわけ鳴く鹿の声きくときぞ秋はかなしき     よみ人しらず

里はあれて人はふりにし宿なれば庭もまがきも秋の野らなる    遍昭

心あてに折らばや折らむはつ霜のおきまどはせる白菊の花     凡河内躬恒

恋しくは見てもしのばむもみぢ葉を吹きな散らしそ山おろしの風  よみ人しらず

ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは    業平

見る人もなくて散りぬるおく山のもみぢは夜の錦なりけり     貫之




冬ごもり思ひかけぬを木の間より花と見るまで雪ぞ降りける    貫之

あさぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪      坂上是則




わがきみは千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで   よみ人しらず

桜花散りかひくもれ老ひらくの来むといふなる道まがふがに    業平

住の江の松を秋風吹くからにこゑうちそふる沖つ白波       躬恒 

千鳥なく佐保の川霧立ちぬらし山の木の葉も色まさりゆく     忠岑


離別

むすぶ手の雫ににごる山の井の飽かでも人を別れぬるかな     貫之


羇旅

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも      安倍仲麿

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人にはつげよ海人の釣舟    小野篁
 
ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れゆく船をしぞ思ふ       人麿

唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ   業平

名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと    業平

狩り暮らし織女(たなばたつめ)に宿からむ天の河原に我は来にけり  業平




川の瀬になびく玉藻の水隠れて人に知られぬ恋もするかな     友則

東路の小夜の中山なかなかに何しか人を思ひそめけむ       友則

有明のつれなくみえし別れより暁ばかり憂きものはなし      忠岑

君や来しわれや行きけむおもほえず夢かうつつか寝てか覚めてか  よみ人しらず

さむしろに衣かたしきこよひもやわれを待つらむ宇治の橋姫    よみ人しらず

里人の言は夏野のしげくとも離(か)れゆく君に逢はざらめやは  よみ人しらず

須磨の海人の塩やく煙風をいたみおもはぬかたにたなびきにけり  よみ人しらず

紅のはつ花ぞめの色ふかくおもひし心われ忘れめや        よみ人しらず

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れむと思ふわれならなくに    河原左大臣

月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして  業平

色みえでうつろふものは世の中の人の心の花にぞありける     小町


哀傷

色の香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人のかげぞ恋しき      貫之

かずかずに我を忘れぬものならば山の霞をあはれとは見よ     よみ人しらず
 
もみぢ葉を風にまかせて見るよりもはかなきものは命なりけり   大江千里

つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを   業平

かりそめの行き甲斐路とぞ思ひ来し今はかぎりの門出なりけり   在原滋春




むらさきの一本ゆゑに武蔵野の草は皆がらあはれとぞ見る     よみ人しらず

大原や小塩の山も今日こそは神代のこともおもひ出づらめ     業平

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめのすがたしばし止めむ     宗貞

かたちこそみ山がくれの朽木なれ心は花になさばなりなむ     兼芸法師

飽かなくにまだきも月のかくるるか山の端にげて入れずもあらなむ 業平

いにしへのしづのおだまき賤しきもよきも盛りもありしものなり  よみ人しらず

世の中はなにか常なる明日香川昨日の淵ぞ今日は瀬となる     よみ人しらず

わびぬれば身を浮き草の根をたえて誘ふ水あらばいなむとぞ思ふ  小町

あはれてふ言の葉ごとにおく露は昔を恋ふる涙なりけり      よみ人しらず

白雲のたえずたなびく峰にだに住めば住みぬる世にこそありけれ  惟喬親王

世を捨てて山に入る人山にてもなほ憂き時はいづち行くらむ    躬恒

忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪ふみわけて君を見むとは     業平

わがいほは京(みやこ)の辰巳しかぞ住む世を宇治山と人はいふなり  喜撰法師

みち知らば摘みにも往かむ住の江の岸に生ふてふ恋忘れ草     貫之

新古今和歌集 百歌撰

新古今和歌集 百歌撰

 新古今和歌集の全体に目を通し百首を選ぶ。選ぶ観点は、一にリズム、二にわかりやすく共感できるもの。

 成立:1205年  1979首 (隠岐本:1576首)
 撰者:後鳥羽院(○) 藤原有家(ア) 定家(サ) 家隆(イ) 雅経(マ)
 部立:春、夏、秋、冬、賀 哀傷、離別、羇旅、恋、雑、神祇、釈教
 参照:岩波文庫『新古今和歌集 佐佐木信綱校訂』昭和五十年


春歌

山ふかみ春とも知らぬ松の戸に たえだえかかる雪の玉水     式子内親王                                 ○マ
明日からは若菜摘まむとしめし野に 昨日も今日も雪は降りつつ  赤人                                    ○マサイヤ
若菜摘む袖とぞ身ゆるかすが野の 飛火の野辺の雪のむらぎえ   教長                                    ○アマ
今さらに雪降らめやも陽炎の もゆる春日となりにしものを    よみ人知らず                                ○サ
夕月夜しほ満ちくらし難波江の あしの若葉を越ゆるしらなみ   藤原秀能                                  ○
岩そそぐたるみの上のさ蕨の 萌えいづる春になりにけるかな   志貴皇子                                  ○アサイマ
見わたせば山もとかすむ水無瀬川 夕べは秋となに思ひけむ    後鳥羽上皇                                 ○
春の夜の夢のうき橋とだえして 峯にわかるるよこぐもの空    定家                                    ○アイマ
春雨の降りそめしよりあをやぎの 糸のみどりぞ色まさりける   凡河内躬恒                                 ○イ
薄く濃き野辺のみどりの若草に あとまで見ゆる雪のむらぎえ   宮内卿                                   ○
吉野山去年のしをりの道かへて まだ見ぬかたの花を尋ねむ    西行                                    ○サイマ
はかなくて過ぎにしかたを数ふれば 花に物思ふ春ぞ経にける   式子内親王                                 ○マ
山里の春の夕ぐれ来て見れば 入相のかねに花ぞ散りける     能因法師                                  ○サイマ
花さそふ比良の山風吹きにけり 漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで   宮内卿                                   ○サイマ
花さそふなごりを雲に吹きとめて しばしはにほへ春の山風    雅経                                    ○アイ
吉野山花のふるさとあとたへて むなしき枝にはるかぜぞ吹く   良経                                    ○アサイマ
暮れて行く春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟   寂蓮                                    ○サイマ

夏歌

春過ぎて夏来にけらししろたへの ころもほすてふあまのかぐ山  持統天皇                                  ○サイマ
折ふしもうつればかへつ世の中の 人の心の花染の袖       俊成女                                   ○サイマ
郭公こゑ待つほどはかた岡の 森のしづくに立ちや濡れまし    紫式部                                   ○サイ
鵜飼舟あはれとぞ見るもののふの やそ宇治川の夕闇のそら    慈圓                                    ○アサイマ
いさり火の昔の光ほの見えて あしやの里に飛ぶほたるかな    摂政太政大臣                                ○イ

秋歌

おしなべて物をおもはぬ人にさへ 心をつくる秋のはつかぜ    西行                                    ○サイ
あはれいかに草葉の露のこほるらむ 秋風立ちぬ宮城野の原    西行                                    ○アサイマ
吹きむすぶ風はむかしの秋ながら ありしにも似ぬ袖の露かな   小野小町                                  ○サイマ
うらがるる浅茅が原のかるかやの 乱れて物を思ふころかな    坂上是則                                  ○
をぐら山ふもとの野辺の花薄 ほのかに見ゆる秋のゆふぐれ    よみ人知らず                                ○アサイ
おしなべて思ひしことのかずかずに なお色まさる秋の夕暮    摂政太政大臣                                ○サマ
心なき身にもあはれは知られけり しぎたつ沢の秋の夕ぐれ    西行                                    ○サイマ
見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕ぐれ    定家

風わたる浅茅がすゑの露にだに やどりもはてぬ宵のいなづま   有家                                    ○サイマ
ながむればちぢにもの思ふ月にまた わが身一つの嶺の松かぜ   鴨長明                                   ○アサイマ
下紅葉かつ散る山の夕時雨 濡れてやひとり鹿の鳴くらむ     家隆                                    ○
まどろまで眺めよとてのすさびかな 麻のさ衣月にうつ声     宮内卿                                   ○アサイマ
村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕ぐれ     寂蓮                                    ○アイマ
秋ふけぬ鳴けや霜夜のきりぎりす やや影さむしよもぎふの月   太上天皇                                  ○アイマ

冬歌

秋篠やとやまの里やしぐるらむ 生駒のたけに雲のかかれる    西行                                    ○サイマ
影とめし露のやどりを思ひ出でて 霜にあととふ浅茅生の月    雅経                                    ○サイ
しぐれつつ枯れゆく野辺の花なれど 霜のまがきに匂ふ色かな   延喜御歌                                  ○イ
寂しさに堪えたる人のまたもあれな 庵ならべむ冬の山里     西行                                    サイ
かつ氷かつはくだくる山河の 岩間にむすぶあかつきの声     俊成                                    ○マ
志賀の浦や遠ざかりゆく波間より 氷りて出づるありあけの月   家隆                                    ○アサイ
さざなみや志賀のから崎風さえて 比良の高嶺に霰降るなり    法性寺入道                                 ○アイマ
ふればかくうさのみまさる世を知らで 荒れたる庭に積る初雪   紫式部                                   ○アイマ
降り初むる今朝だに人の待たれつる み山の里の雪の夕暮     寂蓮                                    ○アサイマ
明けやらぬねざめの床に聞ゆなり まがきの竹の雪の下をれ    刑部卿範兼                                 ○アサイマ
降る雪にたく藻の煙かき絶えて さびしくもあるか塩がまの浦  前関白太政大臣                                ○アサイ
田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ  山部赤人                                  ○イマ
日数ふる雪げにまさる炭竈の けぶりもさびしおほはらの里    式子内親王                                 ○サ

哀傷歌

あはれなりわが身のはてやあさ緑 つひには野べの霞と思へば   小野小町                                  ○サイマ
誰もみな花のみやこに散りはてて ひとりしぐるる秋の山里    左京大夫顕輔                                ○ア
玉ゆらの露もなみだもとどまらず 亡き人恋ふるやどの秋風    定家                                    ○イ
露をだに今はかたみの藤ごろも あだにも袖を吹くあらしかな   秀能                                    ○
思ひ出づる折りたく柴の夕煙 むせぶもうれし忘れがたみに    太上天皇                                  ○

離別歌

思ひ出はおなじ空とは月を見よ ほどは雲居に廻りあふまで    後三条院                                  ○
君いなば月待つとてもながめやらむ 東のかたの夕暮の空     西行                                    ○アイマ

羇旅歌

あまざかる鄙のなが路を漕ぎくれば 明石のとよりやまと島見ゆ  人麿                                    ○サイマ
ささの葉はみ山もそよに乱るなり われは妹思ふ別れ来ぬれば   人麿                                    ○サマ
信濃なる浅間の嶽に立つけぶり をちこち人の見やはとがめぬ   業平                                    ○アサイマ
さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風に あはれうちそふ波の音かな    肥後                                    ○アイ
年たけてまた越ゆべしと思ひきや いのちなりけりさ夜の中山   西行                                    ○サイ
 
恋歌

春日野の若紫のすりごろも しのぶのみだれかぎり知られず    業平                                    ○アサイマ
かた岡の雪間にねざす若草の ほのかに見てし人ぞこひしき    曽禰好忠                                  ○アサイ
わが恋は松を時雨の染めかねて 真葛が原に風さわぐなり     慈圓                                    ○アサイマ
思あれば袖に蛍をつつみても いはばやものをとふ人はなし    寂蓮                                    ○アサイマ
みるめ刈るかたやいづくぞ棹さして われに教えよ海人の釣舟   業平                                    ○アサイマ
靡かぎなあまの藻塩火たき初めて 煙は空にくゆりわぶとも    定家                                    ○イマ
逢ひ見てもかひなかりけりうば玉の はかなき夢におとる現は   藤原興風                                  ○アサイマ
君待つと閨へも入らぬまきの戸に いたくな更けそ山の端の月   式子内親王                                 ○サイマ
言の葉の移ろふだにもあるものを いとど時雨の降りまさるらむ  伊勢                                    ○サ
浅茅生ふる野辺やかるらむ山がつの 垣ほの草は色もかはらず   よみ人知らず                                ○アサイマ
春雨の降りしくころは青柳の いと乱れつつ人ぞこひしき     後朱雀院                                  ○サ
さらしなや姨捨山の有明の つきずもものをおもふころかな    伊勢                                    ○アサイマ
面影のわすれぬ人によそへつつ 入るをぞ慕ふ秋の夜の月     肥後                                    ○サ
いくめぐり空行く月もへだてきぬ 契りしなかはよその浮雲    左衛門督通光                                ○サイマ
あと絶えて浅茅がすゑになりにけり たのめし宿の庭の白露    二条院讃岐                                 ○サイマ
消えわびぬうつろふ人の秋の色に 身をこがらしの森の下露    定家                                    ○イマ
露はらふねざめは秋の昔にて 見はてぬ夢にのこるおもかげ    俊成女                                   ○
心こそゆくへも知らね三輪の山 杉のこずゑのゆふぐれの空    慈圓                                    ○アマ
かよひ来しやどの道芝かれがれに あとなき霜のむすぼほれつつ  俊成女                                   ○アサイマ

雑歌

世の中を思へばなべて散る花の わが身をさてもいづちかもせむ  西行                                    ○サイマ
すべらぎの木高き蔭にかくれても なほ春雨に濡れむとぞ思ふ  八条前太政大臣                                ア
ほととぎすそのかみ山の旅枕 ほのかたらひし空ぞわすれぬ    式子内親王                                 ○アサイマ
五月雨はやまの軒端のあまそそぎ あまりなるまで漏るる袖かな  俊成                                    ○アサイマ
思ひきや別れし秋にめぐりあひて またもこの世の月を見むとは  俊成                                    ○サイマ
藻汐くむ袖の月影おのづから よそにあかさぬ須磨のうらびと   定家                                    ○
葛の葉のうらみにかへる夢の世を 忘れがたみの野辺の秋風    俊成女                                   ○
晴るる夜の星か河辺の蛍かも わが住む方に海人のたく火か    業平                                    ○アサイマ
難波女の衣ほすとて刈りてたく 葦火の煙立たぬ日ぞなき     貫之                                    ○サイマ
和歌の浦を松の葉ごしにながむれば 梢に寄する海人の釣舟    寂蓮                                    ○アサイマ
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てて いかになりゆくわが身なるらむ 西行                                    ○アイ
吉野山やがて出でじと思ふ身を 花ちりなばと人や待つらむ    西行                                    ○アサイマ
しきみ摘む山路の露にぬれにけり あかつきおきの墨染の袖    小侍従                                   ○アサイマ
思ふことなど問ふ人のなかるらむ 仰げば空に月ぞさやけき    慈圓                                    ○アサイマ
ねがはくは花のもとにて春死なむ その如月の望月のころ     西行


神祇歌

やはらぐる光にあまる影なれや 五十鈴河原の秋の夜の月     慈圓                                    ○

釈教歌

阿耨多羅三藐三菩提の佛たち わがたつ杣に冥加あらせたまへ   伝教大師                                  ○アサイマ
願はくはしばし闇路にやすらひて かがげやせまし法の燈火    慈圓                                    ○アサイ
これやこのうき世の外の春ならむ 花のとぼそのあけぼのの空   寂蓮                                    ○アサイマ
道のべの蛍ばかりをしるべにて ひとりぞ出づる夕闇の空     寂然                                    ○サイマ

歌仙『秋時雨』の巻

    歌仙『秋時雨』の巻

               2007.9.14〜2007.10.17

発句  秋時雨きみと寄り添ふ傘うれし   紫桜 秋恋
脇     紅葉に映えて匂ふ黒髪     春蘭 秋恋
第三  子らと来て千草を手折る川辺にて   紫 秋
四     ゆふべの鐘にみれば月の出    蘭 秋月
五   米とぎて庭で火起こし肴焼く     紫 雑
六     西瓜を冷やす裏の古井戸     蘭 夏
初折裏
一   じりじりと蝉鳴く午後はいねもせず  蘭 夏  
二     はなを愛でつつ早き湯あみす   紫 雑
三   せつかちの旅のプランはせはしなく  蘭 雑
四     笑む声こぼる居間の窓辺に    紫 雑
五   一人だけ大正琴の音はづれ      蘭 雑
六     そぞろの宵にひとすじの星    紫 雑     
七   聖し夜の月にうつせしわが心     紫 冬月
八     いやな上司に賀状書きけり    蘭 冬
九   差し向かひ酌み交はす酒ほろ苦し   紫 雑
十     不義理せしまに老いし父母    蘭 雑
十一  花片をつなぎ遊びし髪飾り      紫 春花
十二    先をきそつて泳ぐ若鮎      蘭 春
名残折表
一   浪人も今年で終わり新入生     青波 春
二     鼻すり付ける仔犬なでつつ    紫 雑
三   こはもての破顔慮外にかはいくて   蘭 雑
四     髭面男眉毛細いぞ        波 雑
五   太鼓の音浴衣羽織りて路地急ぐ    紫 夏
六     蚊ばしらはらふ白き二の腕    蘭 夏
七   寂しげにたたずむ女誰を待つ     波 雑恋
八     時計の針を少し戻して      紫 雑恋
九   ときめきの軌跡たどればおろかしき  蘭 雑恋
十     覆ひ隠せぬ我が思ひかな     紫 雑
十一  残業の帰りを照らす白い月      波 秋月
十二    わられし石榴道で蹴飛ばす    蘭 秋
名残折裏
一   鳴子鳴り逃げる猪遠ざかる      波 秋
二     窯にくぶ薪明々と燃ゆ      紫 雑
三   虚も実もおのが頭の骸のなか     蘭 雑 
四     春の女神は気まぐれなのよ    波 春
五   ぎふ蝶は花見しながら蜜を吸ひ    蘭 春花
挙句    畦塗り終へて鍬にやすらふ    波 春

2007年10月13日土曜日

新蕎麦

  新蕎麦や普通のことのありがたさ

  新蕎麦に笑みのこぼれる古妻かな   

             (ふるめ)

2007年10月4日木曜日

象と耳鳴り

『象と耳鳴り』恩田陸

「好奇心を失い始めると人間は少しずつ死んでいく」という言葉が特に印象に残った。元判事の関根多佳雄は、悠々自適の身の上ながら好奇心の塊で、世の中の事件や怪奇の謎を推理で解いて行く。江戸川乱歩やシャーロック・ホームズものを想起させる短編集。

そういうことであれば、私も雅俗にかかわらず、好奇心だけは持ち続けていくことにしよう。

2007年10月1日月曜日

モルディブで爆発、邦人2人含む外国人観光客12人負傷



ロイターの記事

娘がちょうどモルディブに観光に行っている。大丈夫かと心配したが夜中にメールがあり無事とのこと。帰りのフライトの直前のようだ。安堵する。旅はわくわくし楽しい反面、不安でストレスもかかる。しかも金も。家が一番いいと言っていた親の気持ちが最近わかるようになってきた。

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