2007年12月29日土曜日

百韻『あら何共なや』もどき


  『あら何共なや』の巻        『首さする』の巻
             延宝五之冬           平成十九年初冬

あら何共なやきのふは過て河豚汁 桃青 首さする河豚にことなきあした哉 蘭
 寒さしさつて足の先迄     信章  手水につかふ温き湯たんぽ   白
居あひぬき霰の玉やみだすらん 京信徳 玉霰凍てつく縁につくばひて   蘭
 拙者名字は風の篠原       青  人は私をただの千代女と    白
相應の御用もあらば池のほとり   章 なんなりと御用の筋は池の端   蘭
 海老ざこまじりに折節は鮒    徳  佃に出向き鮒の甘露煮     白
醤油の後は湯水に月すみて     青 月島でもんじやとやらを頂いて  蘭
 ふけてしば/\小便の露     章  腹にたまるもほんの露の間   仝

きゝ耳や余所にあやしき荻の声   徳 荻吹くや聴耳頭巾いづこにぞ   白
 難波の芦は伊勢のよもいち    青  胡乱なやから今を時めく    蘭
屋敷がたあなたへざらりこなたへも 章 惨国史偽誤蝕とふは此方人等で  白
 替せ小判や袖にこぼるゝ     徳  堪忍切れて小銭こぼるゝ    蘭
物際よことはりしらぬ我涙     青 瀬戸際と知らでか我のなみだ恋  白
 干鱈四五枚是式の恋を      章  焦がれて捩るするめ一枚    蘭
寺のぼり思ひそめたる衆道とて   徳 尼寺にのぼるきだはし道それて  白
 みじかき心錐で肩つく      青  思慮もあさはか茨でつつく   仝
ぬか釘のわづかのことをいひつのり 章 くず鉄のわづかな入りも酒に消え 蘭
 露がつもつて鐘鋳の功徳     徳  あさゆふ拝す野仏露けき    仝
うそつきの坊主も秋やかなしむ覧  青 ねだり屋の女房も秋やなげく濫  白
 その一休に見せばやの月     章  その繰言にふりむけば月    蘭
花の色朱鞘をのこす夕まぐれ    徳 花の色ぼかし珊瑚の夕つかた   白
 いつ焼つけの岸の款冬      青  おいしさうなり若い山蕗    蘭

よし野川春もながるゝ水茶碗    章 水草生ふよしのよくみよ雪解川  白
 紙袋より粉雪とけ行       徳  淀にただよふ紙の捨て雛    蘭
風青く楊枝百本けづるらん     青 黒文字の木肌を削げば風光り   白
 野郎ぞろへの紋のうつり香    章  脂粉のちまたは此処でありんす 蘭
双六の菩薩も爰に伊達姿      徳 長煙管大夫のしぐさ仇っぽく   白
 衆生の銭をすくひとらるゝ    青  見ほれる旦那の財布からつぽ  仝
目の前に嶋田金谷の三瀬河     章 一律に六文かかる三瀬川     蘭
 から尻沈む渕はありけり     徳  ころも頭にのせ偽の経よむ   白
小蒲團に大蛇のうらみ鱗形     青 片恋の姫の気色のおそろしく   蘭
 かねの食つぎ湯となりし中    章  紅鉄漿つけて大蛇となるか   白
一二献跡はさびしく暮過て     徳 一二献ブレーキゆるむ時節にて  蘭
 月はむかしの親仁友達      青  平成の世も配所に月を     白
蛬無筆な侘そきり/゛\す     章 あはれげな景色な見せそきりぎりす蘭
 胸算用の薄みだるゝ       徳  秋園に散る十露盤の珠     白
二ウ
勝負もなかばの秋の濱風に     青 塾がへり薄ヶ原で賭け相撲    蘭
 われになりたる波の関守     章  セコム完備のわたしのお家   白
顕れて石魂たちまち飛鵆      徳 白狐化けたる石を遠目に見    蘭
 ふるい地蔵の茅原更行      青  温泉たまごも人もふけゆく   白
塩賣の人通ひけり跡見えて     章 しほ風に金色夜叉の松古りて   蘭
 文正が子を恋路ならなん     徳  大正昭和の恋路なるらん    仝
今日より新狂言と書くどき     青 才もありロマンもあるとおだてあげ白
 物にならずにものおもへとや   章  物にてさそふものならなくに  蘭
或時は蔵の二階に追込て      徳 三畳間「男の書斎」に押込めて  白
 何ぞととへば猫の目の露     青  残り蛍に我が身かさねる    蘭
月影や似せの琥珀にくもるらん   章 燃えてゐる月がルビーであつたなら白
 隠元ごろもうつゝか夢か     徳  露のこころもやがて金剛    蘭
法の声即身即非花散て       青 妙音も馬耳東風と花の下     白
 余波の鳫も一くだり行      章  帰る鳫あり残る鳫あり     仝

上下の越の白山薄霞        徳 犀川や友禅あらふ春の水     蘭
 百萬石の梅にほふなり      青  白壁沿ひに五彩も麗      白
昔棹今の帝の御時に        章 棹竹の御しめによその吉事知る  蘭
 守隋極めの哥の撰集       徳  きみは秤座われ水瓶座     白
掛乞も小町がかたへ急候      青 札差に伺候してまで俳諧し    蘭
 これなる朽木の横にねさうな   章  草を枕に幾夜か寝つる     白
小夜嵐扉落ては堂の月       徳 あらし過ぐ屋根はいづくか梁の月 蘭
 ふる入道は失にけり露      青  ふる鼠失せ露さむき夜     白
海尊やちかい比まで山の秋     章 次郎吉の心いかでか寺の秋    仝
 さる柴人がことの葉の色     徳  黄金の色葉緑苔に散る     蘭
縄帯のそのさまいやしとかゝれたり 青 羊腸の小径を往く草鞋掛     白
 これぞ雨夜のかち合羽なる    章  尻をからげて笠に雨音     蘭
飛乗の馬からふとや子規      徳 馬子唄に歩をゆるめれば霍公鳥  白
 森の朝影狐ではないか      青  信太の森の売りは葛もち    蘭
三ウ
二柱弥右衛門と見えて立かくれ   章 ワイヤーの見え隠れする白狐かな 白
 三笠の山をひつかぶりつゝ    徳  やんややんやの拍手喝采    蘭
萬代の古着かはうとよばふなる   青 垂涎の革ジャンレノンミュージアム白
 質のながれの天の羽衣      章  想像しよう天国はここ     蘭
田子の浦浪打よせて負博奕     徳 ビギナーズラックか旅のラスベガス白
 不首尾でかへる蜑の釣舟     青  おけらで帰るボウズ軍団    蘭
前は海入日をあらふうしろ疵    章 白浪の大漁旗も色さめて     白
 松が根まくら石の綿とる     徳  ひときは黒く見える島影    蘭
つゞれとや仙女の夜なべ散紅葉   青 あまをとめ藻塩の鍋で大根炊   仝
 瓦灯の煙に俤の月        章  月に匂ひは届くでせうか    白
我恋を鼠のひきしあしたの秋    徳 なさぬ恋利休鼠の霧こめて    蘭
 涙じみたるつぎ切の露      青  蔦唐草の紙を切り継ぐ     白
衣奬繪の姿うごかす花の風     章 かな散らし源氏写せば花の風   蘭
 匂ひをかくる願主しら藤     徳  藤の面影やどす女童      白

鈴の音一貫二百春くれて      青 猫の仔も招く壷焼きふけぬらん  蘭
 かた荷はさいふめてはかぐ山   章  馬手で弓手でそれとも足で   白
雲助のたな引空に来にけらし    徳 雲助をかるくあしらふちりめん屋 蘭
 幽霊と成て娑婆の小盗      青  山椒と酒盗をあてにほろ酔ひ  白
無縁寺の橋の上より落さるゝ    章 忠臣もししと呼ぶなり山くじら  蘭
 都合その勢万日まゐり      徳  「ん」を味方に万マイル貯め  白
祖父祖母早うつたてや者共とて   青 たけざうよここであふたが百年目 蘭
 鼓をいだき草鞋しめはく     章  張扇のおと小屋の外まで    白
米袋口をむすんで肩にかけ     徳 貧相をひげと語りでカバーして  蘭
 木賃の夕部風の三郎       青  どやに宿りて浮世本かく    仝
韋駄天もしばしやすらふ早飛脚   章 アキレスもしばしやすらふ早連句 白
 出せや出せやと責る川舟     徳  次第にあがるヘクトパスカル  蘭
走り込追手顔なる波の月      青 かけくらべ月のうさぎに追ひついて白
 すは請人が芦の穂の声      章  秋潮みちる葦はらの舟     蘭
名ウ
物の賭振舞にする天津鴈      徳 双六の上がりに待つは今年酒   白
 木鑵子の尻山の端の雲      青  南部鉄瓶ちんちん鳴つて    仝
人形の鍬の下より行嵐       章 朝帰り舌を駆使して過ぐあらし  蘭
 畠にかはる芝居さびしき     徳  犬のリードで散歩する老    白
この翁茶屋をする事七度迄     青 鶴亀の絵柄に添へし共白髪    仝
 住吉諸白砂ごしの海       章  高砂住吉あひおひの松     蘭
淡路潟かよひに花の香をとめて   徳 花篝打てや鼓にゆらめいて    白
 神代このかたお出入の春     筆  一座建立めぐるこの春     蘭

    桃青 三十三                 面白 五十
    信章 三十三                 春蘭 五十
    信徳 三十三
    執筆   一
                           
Alternatives:
 首さする河豚にことなきあしたかな吐く息白く赤き足先     蘭
 月島でもんじやとやらを頂いて釣瓶に寄れば朝顔の露      蘭・白
 われ呼ばふ昼の酔夢に観世音脂粉のちまたは此処でありんす*  蘭
 天平の御世よりおはす盧舎那仏白壁沿ひに五彩も麗*      蘭・白

                            2007.12.17-29

写真提供は松下電器産業さん
     

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