2008年12月31日水曜日

晦日蕎麦


 やゝ太く年越し蕎麦を打ちにけり

 常よりは念入りに打つ晦日蕎麦


写真提供は川越蕎麦の会さん たしか三本目の包丁はこちらで買ったのではなかったか。

木守り




 鵯を囲み柿とりもどす雀かな   (ひよ)

 さかさまに木守りつつく雀かな  (きまもり)


写真提供はフォト蔵さん

2008年12月30日火曜日

庭の湯




近すぎて行ったことがなかった豊島園の庭の湯にはじめて出掛ける。各種の風呂のうち、クリスタルブルーのバーデゾーンと屋外ジャクジー(混浴)、露天信楽焼風呂、古代ローマ風呂風ミストサウナが特によかった。

  湯けむりに恥ぢらひ隠す冬木立

リラクゼーションエリアもすばらしい。そこでしばし休んでから、生のジョッキと枝豆のセットを手始めに緑水亭で食事、これが我が家の忘年会だ。

庭の湯

 

2008年12月25日木曜日

草加『梅庵』



梅庵

元旦は日本橋のホテルでおせちをいただくことにした。おせちの準備の必要がなくなり、暇なのでちょっと草加まで師走の町をドライブする。カーナビも地図も持っていない。道を間違えた。石臼挽き手打ちそばの看板が目に入る。ちょうど昼時。うどんって書いてあるわよ、何でも屋みたいと妻が言う。まぁ、いいかと、私はもりそば(800円)、妻はたぬきそば(900円)をたのむ。

薄みどりがかった常陸秋蕎麦の九一、つゆも本格的辛汁。そば湯はとろりとして釜のぬき湯ではない。そば湯のおかわりを頼んでいる客もいる。たぬきには分厚い蒲鉾と厚みのある海苔も入っている。たまたま入った店でこういうレベルの高い蕎麦に出会うとうれしくなる。本やネットの評判を真に受けて期待して行って何度裏切られたことか。帰りに玄関脇の打ち場を覗いたら、捏ね鉢で水まわしを一心不乱にやっている大将の背中が見えた。なるほどと思った。

奥の細道 (草加)
【ことし元禄二とせにや、奥羽長途の行脚、只かりそめに思ひたちて、呉天に白髪の恨を重ぬといへ共、耳にふれていまだめに見ぬさかひ、若生て帰らばと、定なき頼の末をかけ、其日漸早加と云宿にたどり着にけり。痩骨の肩にかゝれる物、先くるしむ。只身すがらにと出立侍を、帋子一衣は夜の防ぎ、ゆかた雨具墨筆のたぐひ、あるはさりがたき餞などしたるは、さすがに打捨がたくて、路次の煩となれるこそわりなけれ。】
  

2008年12月24日水曜日

悪意なき欺瞞


悪意なき欺瞞ー誰も語らなかった経済の真相ー ジョン・K・ガルブレイス、佐和隆光訳、ダイヤモンド社
(原題:The Economics of Innocent Fraud - Truth for Our Time, John Kenneth Galbraith)

○1929年の大恐慌。収束に10年かかった。資本主義に代わる経済体制の模索。
○その結果、資本主義は名前を市場システムと変えた。これを新しい思いやりのある資本主義とする欺瞞。
○消費者主権という欺瞞
◎大学の経済学の教科書は実態と乖離しており実経済には役に立たない。
◎GDPという欺瞞 国内総生産だけで国の進歩レベルを計っている。文化、芸術、教育、科学、福祉など物心両面を考慮した物差しが必要。
○労働をめぐる欺瞞 貧者と富者からの二つの意味付けは相反する。
○民間企業に官僚主義はありえないという欺瞞
○小規模優良企業のやり方に学べという欺瞞
○企業オーナー主権という欺瞞
○株主主権という欺瞞
◎連邦準備制度は有効とする欺瞞 金融政策が無効であることほど歴史によって繰り返し証明されてきた経済法則は他に例がない。実質は無為無策の歴史。エコノミストも学者も色々経済予測をするがあたったためしはない。
◎消費低迷、設備投資減少によって、景気が底入れすれば反転して自ずから回復傾向となる。金融政策は一切関係ない。

もともと経済学や国の経済話は苦手だが目からうろこ。でも、これだとまずどん底に落ちて、そこから自ら立ち上がってくるのを10年のスパンで気長に待つしかないということになってしまうが(^^;)

2008年12月19日金曜日

七夕しぐれ


『七夕しぐれ』熊谷達也 (ネタばれ)

 五年生の和也は宮城県の小さな町から大都会の仙台市に引っ越して来た。とは言っても市の中心から離れた広瀬川沿いの色あせた小さな家が新しい住まいだ。そのあたりは昔、穢多(えた)と呼ばれ差別されていた人たちが住んでいたという。同級生のヒロユキとナオミはそこに住んでいるためクラスで差別されていた。ヒロユキの父は元香具師で今はラーメンの屋台を引いている。ナオミの父は公務員だというが刑吏らしい。二人はいとこで母が姉妹だという。他の家には小指のない元香具師の沼倉のおんちゃんやストリッパーの安子ねえが住んでいる。

 和也はユキヒロとナオミと仲良くしたい。しかし二人は自分たちが被差別民の子孫だと知り、和也は結局離れていくだろうと思い、和也を避けている。和也は安子ねえに悩みを打ち明ける。安子ねえは、ユキヒロとナオミがラーメン屋台を手伝っている所に和也を連れていき事情を教える。そして何が正義かあとは自分で考えなさいという。

 三人は心を開いて友情を誓う。和也ははじめてナオミを見かけた瞬間から彼女を好きになっていた自分に気がつく。和也は二人と仲良くしているとクラスでいじめを受ける。あわやというところで、ユキヒロに助けられる。三人はこのままではいけないと力でいじめの仕返しをしようと画策するが、おんちゃんに止められる。それじゃやくざの出入りと変わらない、他の方法を考えろと。
 
 ペンは剣よりも強し、と学校新聞を使って差別はいけない、いじめはいけないと訴えようとするが、寝た子を起こすなと先生に止められる。先生に失望した三人は、実力行使しかないと、原稿をビラとして印刷する。そして決行日、ユキヒロとナオミが放送室を占拠し檄を飛ばし、和也は屋上からビラをばら撒く。近隣の人も放送を聞きつけ生徒に混じりビラを拾う。その中に和也の父も居た。父は頭の上に両手で丸を描いて和也に示した。

 三人は家庭訪問を受けるが大きなお咎めはなかった。和也の父は学習塾を経営していたがうまく行かずもとの田舎町の教師に戻ることになった。七夕の夜、広瀬川の川原でユキヒロ、ナオミ、おんちゃん、安子ねえが和也のためにささやかな送別会をしてくれた。流れ星が流れ、和也とナオミは願い事をした。和也はナオミの願い事が自分と同じだと直感した。
 
感想
 重いテーマをよく少年少女向けの小説のようにわかりやすく、軽いタッチで書けたものだと感心する。沼倉のおんちゃんとストリッパーの安子ねえの存在は大きい。ふたりの何気なく押し付けがましくない言葉は小説の中で重く生きてくる。学校向けの推薦図書にしたいが、事なかれ主義の教師の対応に失望する場面もありそれは無理かもしれない。
 

2008年12月18日木曜日

宅配屋

昨日の早朝、近所のワンルーム・マンションに強盗が入り一帯は封鎖された。包丁を持った犯人は逃走したままのようだ。宅配を装った強盗だろうか。訪問販売、勧誘はドアを開けないでお引き取りいただいているが、宅配だとつい無条件でドアを開けてしまう。これからは、誰に何を持って来たのか問い質してからにしよう。

   ドア越しに問い質される宅配屋  春蘭

2008年12月15日月曜日

年賀状


 雲開萬壑春
         
  本年もよろしくお願い
      申し上げます

   己丑元旦  春蘭 印   


新修墨場必携の春に載っている廖道南の「雲開萬壑春」を年賀状に書くことにきめた。読みは、くもはひらく、ばんがくのはる とか、他にもありそうだが。意味は、雲が晴れて谷間に春景色があらわれるとある。谷底で先の見えない日本にも早く春が来てほしいものだ。 

2008年12月14日日曜日

茂吉の歌



斎藤茂吉全歌集 筑摩書房 1968年

「赤光」(明治38年〜大正2年)

罌粟はたの向うに湖の光りたる信濃のくにに目ざめけるかも

死に近き母に添寢のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる

春なればひかり流れてうらがなし今は野のべに蟆子も生れしか

のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり

あま霧し雪降る見れば飯をくふ囚人のこころわれに湧きたり

さにはべの百日紅のほそり木に雪のうれひのしらじらと降る

かぎろひの夕なぎ海に小舟入れ西方のひとはゆきにけるはも

みちのくの我家の里に黒き蚕が二たびねぶり目ざめけらしも

ぬばたものさ夜の小床にねむりたるこの現身はいとほしきかな

しづかなる女おもひてねむりたるこの現身はいとほしきかな

あかときの草の露玉七いろにかがやきわたり蜻蛉うまれぬ

はるさめは天の乳かも落葉松の玉芽あまねくふくらみにけり

竹おほき山べの村の冬しづみ雪降らなくに寒に入りけり

かへりみる谷の紅葉の明らけく天にひびかふ山がはの鳴り

山川のたぎちのどよみ耳底にかそけくなりて峰を越えつも

やはらかに濡れゆく森のゆきずりに生の命の吾をこそ思へ

白雲は湧きたつらむか我ひとり行かむと思ふ山のはざまに

ながらふる日光のなか一いろに我のいのちのめぐるなりけり


「あらたま」(大正2年〜大正6年)

あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり

草づたふ朝の蛍よみじかかるわれのいのちを死なしむなゆめ

ゆふされば大根の葉にふる時雨いたく寂しく降りにけるかも

いささかの為事を終へてこころよし夕餉の蕎麦をあつらへにけり

やまみづのたぎつ峡間に光さし大き石ただにむらがり居れり

山路をのぼりつめつつむかうにはしろがねの色に湖ひかりたり

山あざみの花をあはれみ丘貫きて水おち激つほとりにぞ来し

さびしさに我のこもりし山川をあつみ清けみまたかへりみむ


「ともしび」(大正14年〜昭和3年)

人恋ひて来しとおもふなあかねさす真日くれてより山がはのおと

おのづから寂しくもあるかゆふぐれて雲は大きく谿にしづみぬ

山のうへに光あまねく月照りて真木の木立にきほひ啼く鳥

壁に来て草かげろふはすがり居り透きとほりたる羽のかなしさ

さむざむと時雨は晴れて妙高の裾野をとほく紅葉うつろふ


「小園」「白き山」(昭和18年〜昭和22年)

沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ

最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも

最上川の上空にしてのこれるはいまだうつくしき虹の断片

おしなべて人は知らじな衰ふるわれにせまりて啼くほとどぎす

あたらしき時代に老いて生きむとす山に落ちたる栗の如くに

コメント
茂吉は「短歌声調論」や「万葉短歌声調論」で万葉調は順直でわかりよいとする。藤原定家は屈折が多く、くだくだしく抽象的なところがあり読んでもぴんとこない、村田春海は、てにをはや作用言が多過ぎごたごたしており調がくだけて弛緩してしまっていると評している。

声調が心地よく、わかりやすく、共感できるものという観点から茂吉の歌を選んだ。茂吉自身が批判していた、くだくだしく、ごたごたした感じの歌もなくはない。まして現代歌人をや。



写真提供はフォト蔵さん

冬歌仙「風花の巻」



   冬歌仙「風花の巻」     
              首 2008年11月26日   
              尾 2008年12月13日

発句  風花や我にも低き軒ひとつ     木槿  冬
脇     色なき床に挿せる侘助     春蘭  冬
第3  飲み干せる金継ぎ茶碗手に取りて  草栞
4     久闊を叙する趣味の輩      百
5   日も月もぼんやり在す春の暮    面白  春月
6     鞦韆の影園庭に揺れ       合  春

1   初蛙後ろ歩きの女の子       みかん 春
2     新劇団の稽古始まる      青波
3   練り上げて蜜度深まりゆく二人    亮  恋
4     顎軋むまで厚きバーガー     槿   
5   名声も財も失う著作権        百
6     小人閑居徹夜の博奕       栞
7   妻を恋ふ鹿の遠音の身にしみて    白  秋恋
8     盗み服する嫦娥の秘薬      み  秋月恋
9   兎に角に若返りたや菊枕       蘭  秋
10    笑みを忘れて黙する日々は    合
11  思い出の千年の花仰ぎ見る      波  春花
12    港よこはま丘のあたたか     亮  春
名オ
1   地図にない小さな橋や夕霞      百  春
2     数寄な武将は歌を詠むらん    蘭
3   茂吉にも燃えてもだえた恋のあり   亮  恋
4     青き天使に心焦がしつ      栞  恋
5   減量の成果ばっちり更衣       み  夏
6     軽鳬の子よちよちお濠を出づる  白  夏
7   赤信号関係無しに歩いてる      波
8     三年ぶりの帰郷坂道       槿
9   表札の残ったままに酔芙蓉      合  秋
10    兄の面影西瓜提灯        亮  秋
11  ハロウィンの月に妖雲かかる頃    栞  秋月
12    キャノンもソニーも元気であつた 白
名ウ
1   見わたせば蒼く浮き立つ四方の山   蘭
2     ひとり留守居に蕎麦を打ちつつ  槿
3   大根抜く穴は鋳型になりさうな    百  冬
4     白いハートで想い伝える     波  
5   いただいたご縁頼りに花の旅     合  春花
挙句    村をあげての利茶大会      み  春

                   (捌き 木槿)


風花や我にも低き軒ひとつ    木槿
色なき床に挿せる侘助      春蘭
飲み干せる金継ぎ茶碗手に取りて 草栞
久闊を叙する趣味の輩       百
日も月もぼんやり在す春の暮   面白
鞦韆の影園庭に揺れ        合
初蛙後ろ歩きの女の子     みかん
新劇団の稽古始まる       青波
練り上げて蜜度深まりゆく二人   亮
顎軋むまで厚きバーガー      槿   
名声も財も失う著作権       百
小人閑居徹夜の博奕        栞
妻を恋ふ鹿の遠音の身にしみて   白
盗み服する嫦娥の秘薬       み
兎に角に若返りたや菊枕      蘭
笑みを忘れて黙する日々は     合
思い出の千年の花仰ぎ見る     波
港よこはま丘のあたたか      亮
地図にない小さな橋や夕霞     百
数寄な武将は歌を詠むらん     蘭
茂吉にも燃えてもだえた恋のあり  亮
青き天使に心焦がしつ       栞
減量の成果ばっちり更衣      み
軽鳬の子よちよちお濠を出づる   白
赤信号関係無しに歩いてる     波
三年ぶりの帰郷坂道        槿
表札の残ったままに酔芙蓉     合
兄の面影西瓜提灯         亮
ハロウィンの月に妖雲かかる頃   栞
キャノンもソニーも元気であつた  白
見わたせば蒼く浮き立つ四方の山  蘭
ひとり留守居に蕎麦を打ちつつ   槿
大根抜く穴は鋳型になりさうな   百
白いハートで想い伝える      波  
いただいたご縁頼りに花の旅    合
村をあげての利茶大会       み


写真提供は、木槿さん

2008年12月11日木曜日

短歌に於ける四三調の結句


江戸時代後期の歌人、香川景樹は「歌は感動を言葉によって調べるもの。調べとは性情の声である」と述べ、歌の本質を「しらべ」とした。古今和歌集の歌風を理想とし、歌集「桂園一枝」、評釈「古今和歌集正義」を著した。 香川景樹1 香川景樹2
 
香川景樹に私淑した井上通泰は、「結の句の七は必ず三四ならざるべからず。万葉には四三なるもの往々之あれども苟も重きを調べに置くを知りてよりこの方古今然り金葉然り。四三にすれば自然に耳立ちて諧調を得ず。」と述べた。(森田義郎「現代六歌仙評」)井上通泰

斎藤茂吉は、四三の結句も多い万葉調を理想としている。茂吉はこの井上通泰の弁を聞き捨てならずと、最初の歌論「短歌に於ける四三調の結句」(明治四十一年十一月二十三日:26才)を『アララギ』に載せた。

斎藤茂吉「短歌に於ける四三調の結句」
万葉集から四三で成功している例を沢山示した後、結論として、

○万葉集を読めば分かるように、四三調の結句で佳作がある。そして四三調でなければならない結句も少なからずある。

○四三調は程度の差はあるが概して敏活なる内的・外的な運動を表現するのに適しているようである。

○日本語の性質上四三にせざるを得ない場合も少なからずある。結句は必ず三四にしろとか四三にしろというような説は私は支持しない。

◎「一首は五音の軽きに初まり七音の重きに終われる形式乃至一種の美術として統一せる作品たる以上は少なくも安定の姿ならずべからず。正岡先生の結句を八釜しく云はれたるもこれが為めなり。四三調の結句の失敗する時は不安定の姿に陥り一首を結ぶに足らず。」(斎藤茂吉選集 第16巻 岩波書店)

感想
四三の結句に成功と失敗があるというのは同感である。万葉、古今、新古今に限らず採られている四三結句の歌はすべて成功例なのだろう。
現代歌人の歌は一般に意味内容重視で盛り込み過ぎ気味で散文のようであり、歌として声に出して朗詠するには苦しく、全体的に声調が崩れているので、安定感を欠く失敗作の四三の結句も紛れて目立たないであろう。


写真:一位(いちい)の実。一位の別名がアララギとのことだが、蘭と書くとは知らなかった。

2008年12月10日水曜日

茂吉の有妻恋



「斎藤茂吉・愛の手紙によせて」永井ふさ子著、昭和56年

茂吉は昭和11年(満54才)から昭和12年(55才)にかけて、美貌の弟子、永井ふさ子と恋に落ちた。ふさ子の父は、茂吉の師、子規と幼なじみであった。

茂吉は手紙を読んだら焼却するようにその都度指示していたが、彼女はほとんど焼かずに保存していた。斎藤茂吉全集にも載っていない、歌人茂吉の相聞として公開する価値があると関係者から勧められ、コメントを付けて出版した。

     *  *  *

昭和11年の正月の夜、浅草公園の池の藤棚の下ではじめての接吻をした。そのとき巡査に暗がりで何をしているのかと怪しまれ連行されてしまった。

    口吸ひて挙動不審と咎められ 春蘭

茂吉 「老山人もふさ子さんの御きまりの時に諦念に入ります」
ふさ子「非常に素朴で純粋で偉い方のようでなく子供の様なところが好きです」

 白玉のにほふ処女をあまのはらいくへのおくにおくぞかなしき 茂吉
 夜もすがら松風の音きこゆれどこほしきいもが声ならなくに   同
 玉のごとき君はをとめぞしかすがにわれは白髪の老人あはれ   同 
 冷やびやと暁に水を呑みにしが心徹りて君に寄りなむ     ふさ子

次の歌は二人の合作だが、ふさ子の下句を評して茂吉は「人麿以上だ」と言った。

 光放つ神に守られもろともにあはれひとつの息を息づく 茂吉・ふさ子
                             (S11.11.17)

男の老いてからの恋は自分ではやめられないものだ、やめるには女の方が去るしかない、とふさ子は茂吉の周辺の人から言われる。二人の秘密のはずの恋愛は周辺にも感づかれていた。原節子より美しいとふさ子に言い寄ってきた人もあっただろう。茂吉は、老残の諦念と恋しさのはざまで疑心暗鬼や嫉妬も加わり、身も狂わんばかりであった。

茂吉「ふさ子さん!ふさ子さんはなぜこんなにいい女体なのですか。何ともいへない、いい女体なのですか、どうか大切にして無理してはいけないと思います。玉を大切にするやうにしたいのです。」 (S11.11.26)

茂吉は、一度は分別よくあきらめ別れようと思った。
茂吉「あなたはやはり清純な玉でありました。人に怖ぢつつの清い交はりであり
ました。天地にただ二人の清浄なる交流でありました。僕は老残の身をいたはり
つつせい一ぱいの為事をして、世を去りませう。この時に、あなたとの清純な交
流を得たことは非常な幸福でありました。僕は山河に向って号泣しませう。そし
て天地に向って虚偽・計略・残忍等を絶した「生」を幽かに保ちませう。恋しき
人よ。さようなら。」                      (S12.1) 

と言いながら、この年、80通の文をふさ子に送る。

 西の風なま暖く日もすがら吹きしくなべにきみをしぞおもふ  茂吉
                    きみをこそおもへ
                    きみぞこほしき
                    ただにひとこほし
                    きよき肌はも 々々無限也
                           
昭和12年5月頃、ふさ子は岡山のM氏と婚約する。茂吉はお祝いに短歌を贈る。9月に結納を済ませる。

 春の光若葉のまにま照るときをさきはひの道の上にたちます  茂吉

しかし、周辺の人の言葉通り、茂吉の恋は、ふさ子の婚約・結納で逆に燃え上がってしまった。それはふさ子も同じだった。二人は郊外での逢瀬と旅を重ねた。

ふさ子は自責の念から婚約を解消し、茂吉からも身を引く決心をした。東京を去り、松山に帰ったが肋膜炎を再発した。茂吉に直接指導を受けていた歌もやめた。
ふさ子「・・・その草花を摘みながらも、憶いは始終遠く先生のうえにあった」 ふさ子は生涯独身を通したという。

    想うだけでやめる分別哀しかり  春蘭

茂吉の歌集「白桃」「暁紅」「寒雲」(昭和8年~昭和14年)の中にある以下の歌はこの恋愛に関係しているようだ。

 清らなるをとめと居れば悲しかりけり青年のごとくわれは息づく  茂吉
 秋みづの清きおもひをはぐくみてひむがしの野を二人し行かな
 くれなゐに染めたる梅をうつせみの我が顔ちかく近づけ見たり
 まをとめにちかづくごとくくれなゐの梅におも寄せ見らくしよしも
  
昭和28年2月25日 茂吉没 満70才

昭和49年10月初め、ふさ子は茂吉の故郷、山形を訪れる。

 最上川の上空にしてのこれるはいまだうつくしき虹の断片   茂吉
 最上川の瀬音昏れゆく彼の岸に背を丸め歩む君のまぼろし   ふさ子

    想い出す恋はフィルターかけている 春蘭

2008年12月9日火曜日

短歌一家言


斎藤茂吉「短歌一家言」昭和22年
 (斎藤茂吉選集 第十六巻 歌論、には「短歌道一家言」という題で収録)

○実地(実際)を歌ふ。実地に自然に観入して直裁に歌ふ。

○声調のひびき。

○画の賛などといふものは余り即き過ぎるとおもしろくない。不即不離のところに面白味がある。

○天然に観入すればそこには幾多の自己の象徴たるものがある。

○西洋のものでも、日本のものでもそれが自然にさうなるのが矢張りよい。象徴象徴と狙ったのはどうも僕にはおもしろくない。

○一見客観的に見えるものでも一見主観的に見えるものでも、これを「実相観入」の語に打って一丸となすことが出来る。

○実相に観入しておのづから歌ひあぐるのが即ち歌である。これを「写生」と謂ふ。「写生」とは実相実相と行くことである。そしてその生を写すことである。生はイノチの義である。

○観入の実行を突き詰めて行けばおのづから「感動」は一首の短歌の中に流露する。

○子規は、晩年になるに従つて、ますます万葉調になって行った。古語もどんどん用ゐた。僕もさうである。

○短歌は三十一音の詩であるから、その中に色々の事柄を詰めると余裕が取れずに抒情詩本来の面目がなくなってしまふ。

○情が切実であればあるほど、盛る意味合が単純になるのが自然の行方である。つまり短歌では「単純化」が自然に行はれねばならぬといふことになる。

○短歌の形式は五七、五七と行き軽から初まって重に終ってゐる。即ち一首の形態は三角錐体のごときもので、安定の姿をなしてゐる。この事は結句が好く据わってゐなければならぬといふことに関聯してゐる。

○万葉、古今、新古今は日本の三つの大切な歌集で、革新の何のと言っても、いざとなれば此の三つの歌集を目当としたのである。

○明治三十年、和歌革新の烽火 主義は何であっても偉い者が出なければ駄目だ。
  落合直文の浅香社 与謝野鉄幹の新詩社 佐佐木信綱の竹柏会  
  正岡子規の根岸短歌会 尾上柴舟らの雷会 八杉貞利らの若葉会
 
○新しく変化した歌が古い歌に優ってゐるとは限らず、却って堕落して行った歴史はすでに上に述ぶるところがあった。新しい歌について論ずるものは常にこの理法を知らなければならぬ。けれども作者としては飽くまで自己に執するより道はない。かくしてなほ古人に劣らば、かうべを俯して懺悔すべきである。

2008年12月7日日曜日

篤姫

  別れとはまた逢ふときの楽しみに離ればなれになるだけなのです  春蘭


 口語歌のつもり。今生の別れに幼なじみの天璋院篤姫を訪れた小松帯刀が言った言葉に泣けた。「短歌一家言」で斎藤茂吉は、口語歌には同情する(異を唱えないくらいの意味か)が、万葉調や古語にひかれている自分は今後も口語では詠まないだろうと言っている。

2008年12月5日金曜日

凛としてリストラ受ける人はなし
お茶会にだんだん妻は凛とする   
凛々しさのなごり変じて無愛想 

鬼に喰われた男


与謝野鉄幹 ー鬼に喰われた男ー  青井史著、深夜叢書社

歌風がますらお(益荒男)ぶりの与謝野鉄幹は、たおやめ(手弱女)ぶりの妻である鬼、与謝野晶子に喰われてしまった。晶子(ら?w)との恋愛を機に鉄幹は慷慨調・虎剣調から星菫調・明星調の感傷的な歌風に転じたが、晶子にはかなわず彼女の伯楽に徹した。と一般には言われるが、この本では鉄幹のたおやめぶりの歌風はもともとあったもので転じたわけではないとする。ますらおぶりは時代背景から壮士気取りしただけで鉄幹の生来のものではなく、生来なのはたおやめぶりだと言っているようだ。(鉄幹の歌は句読点を省略)

  野に生ふる草にも物を言はせばや涙もあらむ歌もあるらむ  鉄幹
  うるはしく心はもたむ飛ぶ蝶をまねくも花のにほひなりけり  同
  春の野の小草になるる蝶見ても涙さしぐむ我身なりけり   晶子

  ますらをを喰らふ手弱女実は鬼  春蘭

これと相似のことが川柳でも起こっているのかも知れない。現代川柳は詩的抒情・浪漫(たおやめぶり)を強調して女性の賛同と進出をうながした。しかしそれによって伝統的な川柳の滑稽で軽くうがちのある骨太の句風(ますらおぶり)は、恋と感傷の鬼の女性たちに喰われてしまった。現代のますらお達はそれに追従している図式なのか。



写真提供はウィキペディアさん

2008年11月30日日曜日

真央の仮面舞踏会


浅田真央は仮面舞踏会(マスカレード)の曲に乗ってフリーを舞いNHK杯優勝、見事に復活した。グランプリファイナルでは、トリプルアクセルを二回成功させ優勝。

2008NHK杯優勝の舞
2008フランプリファイナル優勝の舞
  曲:Khatchaturian - Masquerade


写真提供はウィキペディアさん 動画提供はYouTubeさん

2008年11月26日水曜日

江戸川柳を味わう


『江戸川柳を味わう ー誹風柳多留全巻の名句鑑賞ー』東井淳

抜粋
江戸川柳と言えば、とかく、風刺、諧謔を主体とするおかしさだけが強調されがちであるが、実際には詩的抒情あるれる現代的作品が数多く存在しているのである。

川柳界の現状をよくながめてみるといわゆる古川柳および江戸川柳と言われる明治初期までの川柳と、それ以後の近代川柳および現代川柳と称される川柳とにおいて、何か異質の文学であるかのような錯覚が存在しているようである。

現代川柳作家は古川柳を軽んじる傾向があり、また、古川柳研究家は現代川柳を鑑賞するということはないようである。

本書は主に。。。狂句調時代の詩的柳句を、全「柳多留」の中から現代川柳作家の目で拾い出したものである。

 流行唄覚える頃に最うすたり    151篇
 読経に美音のまじる嵯峨の奥    143
 世を辞して寝心広き四畳半     142
 美しいものできたない化粧部屋   141
 鐘無くば暮れるも知らじ雪の庵   138
 初雪や鹿の足跡割り胡桃      129
 神前へ世界の無理が溜つてる    123
 梅が枝にこよりを残す春の雨    別・中
 借りに来た時は正直そうな顔    121
 風のくる度に隣の梅をほめ     119
 人間万事さまざまの馬鹿をする   117
 埋み火もやせて炬燵にもの思い   101
 性は善なりモシ何か落ちました   101
 そのままに買いたき雪の一軒家    79
 大みそか命別条ないばかり      68
 明ぬるも暮るるも同じ鐘の声     67
 果てはみな仏の道に落葉かな     64
 ところてんつきのめされてかしこまり 48
 血達磨のじつは本来無一物      47
 這えば立て立てば歩めの親ごころ   45
 一年を二十日で暮らすいい男     44


 俳句と川柳
 よろしくない俳句・短歌
 水府風川柳の練習

2008年11月22日土曜日

新蕎麦


 新蕎麦をあてに観にゆく里神楽


神楽坂のたかさごで新蕎麦。妻はおかめそばにご満悦。近くの箪笥センターで妻の友達が道楽でやっているという里神楽公演(稲荷山、悪鬼退治)を観る。

2008年11月12日水曜日

歌仙『秋に立つ』


                     
発句  秋に立つ旅さへあては吉野山  春蘭
脇    月をめざして山越ゆる雁    百
第三  刈田面隠者の影の揺れるらむ   合
 四   拾ふ落穂に袂ふくるる     蘭
 五  年木樵蓑笠つけて枝払ひ     百
 六   暮れた苫屋にしばし宿借り   合
ウ一  美麗なる武者絵に精魂かたむけて 蘭 
 二   滝修行せし清めたる身を    百
 三  雨乞ひのあやしき呪文口籠り   蘭
 四   小松を植ゑて記念にしたる   合
 五  まぼろしの兜跋国をば探しゆく  百
 六   思ひがけなく出遭ふ緑泉    蘭
 七  忍ぶれど墨染めの身の色香まし  百
 八   未練がましき蝉のこゑかな   蘭
 九  蚊遣火の子を寝かしたる月を待ち 合
 十   秘蔵の古酒をそそぐ古伊万里  蘭
十一  花陰の世捨て人にも笑ひ声    百
十二   髪に小手毬風にこぼれて    合
ナ一  安曇野に光あふるゝ春の水    蘭
 二   開山遠忌幡翻る        百
 三  早暁に般若心経書き終へて    蘭
 四   乳しぼるままこぼるる涙    合
 五  弓張に来世も共と誓ひ合ふ    蘭
 六   一夜限りの月下美人待ち    合
 七  深き野をはるばる鞍に露分けて  蘭
 八   虚空のぞめば燃える水煙    〃
 九  音もせぬ猫の隠れ家タマイブキ  合
 十   軽口ほどに溶ける初雪     〃
十一  是非もなく神籤で決まる社守   蘭
十二   綴れを纏い墨磨る夜は     合
ウ一  こし方を思ひ物狂ほしくなり   蘭
 二   魂うらぬ身こそ誉れぞ     〃
 三  われこそは源氏の君の血筋ぞと  百
 四   衣香匂へる舞ひのうつくし   蘭
 五  掉させど流れの速き花筏     合
挙句   同行二人春の虹たつ      百

      2008.10.27〜2008.11.12

2008年11月6日木曜日

Change! Yes, We Can.

Change! Yes, We Can.

変革しよう!私たちはきっとできる。

歌仙『青空と』の巻


    句集『時の舟』上梓記念興行
      歌仙『青空と』の巻 
                 起首 2008.10.22
                 満尾 2008.11.6
                          
発句  青空と同じ広さに秋桜       百 秋  
脇    蜻蛉の目がね遠く見てゐる   草栞 秋  
第三  十三夜水影ゆれる能舞台    みかん 秋月
 四   潮みちくらし浜の浦風     春蘭
 五  老鶯の鳴いてバス停バスは来ず   亮 夏
 六   牛が道路を占拠する村     青波
ウ一  まみ深き裸足の行者慕ひきて   木槿
 二   乱れた髪に揺れるかんざし    合 恋
 三  君写す魔法の鏡持つてたら     栞 恋
 四   宇宙船まで持ち行くものを    百  
 五  酔ひ止めに梅干し臍に貼り付けて  蘭
 六   飲めもせぬのに選ぶカクテル   み          
 七  照り映える紅葉の色を目の前に   波 秋
 八   美術の秋の大琳派展       亮 秋  
 九  立ち並ぶビルの隙間に月かすか   合 秋月
 十   解散選挙遠のきにけり      槿
十一  ドラ声の邪魔が入らぬ花見宴    波 春花 
十二   紋白蝶の子らに追はれて     百 春   
ナ一  風光る引込線に止まる貨車     み 春  
 二   君に土産の草だんご下げ     槿 春
 三  噂ではなかなかもてるマメをとこ  亮  
 四   やり手婆にそそのかさるる    栞
 五  榾あかり寝入る武蔵をねらふ影   蘭 冬 
 六   松風を聞く軒の寒干し      合 冬
 七  ボタ山の黒黒としてのしかかる   亮
 八   君待ちきれず仰ぐ銀漢      百 秋恋
 九  鵲に機織り姫の文託し       栞 秋恋
 十   数珠玉つなぎペア・ブレス結ふ  み 秋恋
十一  学芸会道具係りは忙しい      波 
十二   月は涼しき顔でいませり     蘭 夏月
ウ一  母恋し夢の中ではまだ子ども    槿
 二   間々に取り出す宮沢賢治     亮
 三  なだらかな稜線描く過疎の村    合   
 四   ゆかりの井戸の釣瓶あたらし   み
 五  凡愚われ花の浄土を遠くして    百 春花
挙句   時に乗りあふ夕東風の舟     槿 春
  
               ( 捌き 春蘭 )

2008年11月5日水曜日

レッドクリフ(赤壁)


  六十で千円と知り映画みる


 レッドクリフ(赤壁) 三国志の赤壁の戦いを描く。金城武の諸葛亮孔明は姿が実にいい。周瑜と孔明の琴の合奏の場面はこころに沁みた。周瑜の愛妻小喬を曹操はねらっているようだ。続編でそこらへんのからみもあるのだろう。続編があるとは知らず、途中の休憩時間だと思って座っていたらみんな帰ってしまった。出口で係員の青年に聞いたらpart2は来年4月です。中途半端ですみませんと言ったw



2008年10月27日月曜日

百韻『秋澄める』


発句  秋澄める北の海色紺深し       百 秋
脇    萩のこぼれる岬から見る     青波 秋
第三  望月の供に愛犬すわらせて     春蘭 秋月
四    あ忘れちゃった今日の講演     合
五   まいいかお茶をすすって髭なぜる   波
六    昇った坂をだらだら降りて     百
七   徒労人トンネル内の土合駅      合
八    慣らしにしてはきつ過ぎるかも   蘭     
ウ一  蕨採り秘密の場所は教えない     百 春
二    薮に知られず咲ける春蘭      蘭 春
三   麗日や君が顔心根も         百 春恋
四    旅路の人と忘るものかは      蘭 恋
五   ノーベル賞学生時代を原点に     合
六    ひねくれもんもつひに号泣     蘭
七   ねじりんぼ越後駄菓子を噛み締める  百
八    雪の便りに今年も帰れず      合 冬
九   別荘はできれば囲はぬ方が良い    蘭
十    こころ開かん月は隈なし      〃 秋月
十一  無人駅コスモス好きとゆらゆらり   合 秋
十二   昼はビールと言へど身に入む    蘭 秋
十三  花吹雪子供歌舞伎の見得をきる    百 春花
十四   菜飯の箸をやすめ喝采       蘭 春
二折
一   飛んでくるおひねりいっぱい山笑う  百 春
二    隣の君は頼りないナビ       合
三   運まかせ試行錯誤で探る道      蘭
四    初心者ゆえか大儲けする      波
五   けちけちのパックツアーでカジノ行く 蘭
六    円高チャンス勝負しどころ     百
七   木の葉沈んで石が浮くよなこの世界  波
八    明日も地球があるとおもはん    蘭
九   ゴリゴリと香り引き立つ豆を挽く   合
十    しばしの時間薀蓄を聞く      波
十一  小鳥来る朝の窓辺にパンくずを    百 秋   
十二   金木犀の香りが椅子に       合 秋
十三  眠り姫蒼き月光浴びて待つ      百 秋月
十四   たかが百年一瞬の夢        蘭
ウ一  北山の守りし杉ぞ天に伸び      合
二    たちまち此の身まとふ風花     蘭 冬
三   年の瀬の引越し荷造り皿割って    百 冬
四    清算します愛と友情        合 恋
五   夫より長いつきあい人の知る     百 恋
六    プラトニックなゆゑに永遠     蘭
七   願掛けて苦しいときの神頼み     百
八    増えるばかりの小銭放出      蘭
九   煙草買う月皓々と自販機へ      百 秋月
十    下を探れば竈馬飛び出る      蘭 秋
十一  庭に植ゑし薄どうやらさまになり   〃 秋
十二   田舎暮らしのブログなんぞを    合
十三  メル友に花の盛りを知らせおり    百 春花
十四   羽音で虻をかはすひとびと     蘭 春
三折
一   どの手にもソフトクリーム春の牧   〃 春
二    ベンチをさがす家族づれいて    百
三   ためらはずやさしく声をかける彼   蘭 恋
四    僕も一緒にそこで降ります     波 恋
五   踊子に峠の茶屋で追ひついて     蘭 恋
六    水かさ増した流れ激しく      合
七   五月雨に嵩むプラごみ出しにでる   蘭 夏
八    若奥様はショートパンツで     波 夏
九   からす2羽電線の上覗き居る     百  
十    トボトボダチョウ邪魔な金網    合
十一  すきあらばいっそ逃げたやくさり縁  蘭
十二   秋の蚊叩き溜飲下げる       百 秋
十三  月の舟銚子二本で止められて     蘭 秋月
十四   お芋つるりと未練を残し      合 秋
ウ一  嫁の里居やすくなるも心がけ     蘭
二    形ばかりのエプロンつけて     百
三   蕎麦を伸しかなりゆがんで世界地図  蘭
四    切ってしまえばわかりゃしないさ  〃
五   老獪の術も持たずにぬくぬくと    合
六    政治を野球にたとへ口出す     蘭
七   あっという逆転劇もたまにある    波
八    空気を読めばわかるはずなり    蘭
九   門閉めに新月いでし空の澄み     百 秋月
十    垣根はみ出す盗人萩ぞ       合 秋         
十一  虫しぐれ人の気配にやみにけり    蘭 秋
十二   なぜか分らぬ胸騒ぎする      波     
十三  一斉に花は咲けども身は一つ     蘭 春花
十四   彼方此方と佐保姫さがす      百 春
名残折
一   けふもまたいざと蜜蜂飛び立って   蘭 春
二    朝晩いつも橋が渋滞        合
三   給料は口座振込み慌てずに      百   
四    加齢とともにどじの連続      蘭
五   抱きしめる妻の体は細くなり     合 恋
六    糟糠ゆゑにみればいとしき     蘭 恋
七   遥けくも来たりしものよ五十年    百
八    何か伝えるものはあるのか     蘭
九   けちけちとしている割に財もなし   〃   
十    裏の竹やぶ掘ってみてくれ     波
十一  地下潜る悪の帝国根を張って     合
十二   拉致と核とを天秤にかけ      百
十三  なにしてんの月に代わってお仕置きよ 蘭 秋月
十四   ブーツで走る畔に吾亦紅      合 秋
ウ一  秋霖にけむる明日香の道遠く     蘭 秋
二    貸し自転車のペダル踏みこむ    百
三   夏草のゲレンデ一気にダウンヒル   蘭 夏
四    露天風呂浴び干す生ビール     百 夏
五   酪農の仕事に慣れた日々若く     合   
六    靴に分厚く着ける春泥       蘭 春    
七   花の香の馳走いただく古き家     合 春花
挙句   われも翁と同じ麗らか       蘭 春

                 2008.10.6〜10.27

写真提供はフォト蔵さん

2008年10月25日土曜日

草紅葉


湿原はどこまで行っても草紅葉

2008年10月14日火曜日

ノルウェイの森、海辺のカフカ



長いこと著者はノーベル賞を待っているようだが、この二冊あたりが
代表作だとすると無理ではないかと思った。もし間違って受賞するよ
うなことがあったら、ノーベル文学賞もおちたもんだとまた思うひと
は私だけではないだろう。

両方とも女性が若いときに親密だった男性を失った傷みから立ち直れ
ない姿を描いている。またストレートな性愛描写が売りのようだ。短
歌における与謝野晶子のように、最初はそれも新鮮だったのであろう
がまたかよと思ってしまう。

海辺のカフカはそれにファンタジーとミステリーの要素を加味し難解
性によって話をひっぱる。ほとんど通俗小説と変わらないのではない
か。

想像性の乏しい狭量で非寛容なやからが世の中には多いだったか、そ
れはまったく同感だ。世界はメタファー(隠喩)だという言葉も印象
に残る。言葉はメタファーだ。だから言葉によって表現される世界も
メタファーだ、ということか。これ自体メタファー。


ビートルズのノルウェイの森
海辺のカフカの詩 隠喩を使えば使うほど詩的なの?

2008年10月13日月曜日

歌仙『江戸の地図』



発句  江戸の地図たどれば辻は秋の風    亮   秋
脇    燃ゆるかまつか纏のいづこ     面白  秋    
第三  あの月へ梯子をかけて上るらん    青波  秋月
 四   カメラかついでスニーカー履く   みかん
 五  メタ腹を気にも留めずに味めぐり   草栞
 六   エプロン似合う第二の人生     合
ウ一  そそくさと祭囃子の音あわせ     百   夏
 二   ひかれるかたのまなこ涼しき    春蘭  夏恋
 三  屋根伝ひ忍び入る夜もけふかぎり   白   恋
 四   アッケラカンと出来ちゃった婚   亮   恋
 五  三陸のリアスラインは波静か     み
 六   松の枝ぶりまるで絵のよう     波
 七  名を問へば紫匂ふホトトギス     合   秋
 八   王の黄昏そぞろ身に入む      栞   秋
 九  引退も悲喜こもごもや今日の月    蘭   秋月
 十   回覧板のもどって来たる      百
十一  花ひとつふたつをつけてランドセル  亮   春花
十二  「ぎちょぉ〜」と啼きし初雲雀かな  白   春
ナ一  寅さんも来ているうわさ春の暮    波   春
 二   あなたこなたの光る小流れ     み 
 三  種火でも三人寄ればうふふのふ    栞
 四   試験管中酸素は有りや       合
 五  冬ぬくし恋の妙薬欲しいから     百   冬恋
 六   軟派マニュアルマスクして買ふ   蘭   冬恋
 七  はてしなく下降を描くスパイラル   白
 八   めまい恍惚天鵞絨の艶       亮
 九  勉強せいとのたまう父はノーベル賞  み
 十   僕は母似で連句三昧        波
十一  窓開けて共有したのよこの月を    合   秋月
十二   蔦這ふ壁の崩れ落つまで      栞   秋
ウ一  へだたれて嘆くさ牡鹿こゑ嗄れて   蘭   秋
 二   眠れぬ夜は万葉集を        百
 三  しばらくはカルチャー教室マナビスト 亮  
 四   男の料理試食目的         波
 五  いつの間に見知らぬ人も花見酒    み   春花
挙句   森羅万象春いとおしむ       百   春

                 捌き 亮

                    2008.9.26〜10.12

写真提供はフォト蔵さん
江戸切絵図

2008年10月9日木曜日

歌こそは一期の病ひ

「折口信夫の記」岡野弘彦 より

  歌こそは 一期の病ひー。
   しきしまの 倭の国に、
    古き世ゆもちて伝へし 病ひなるべき

  倚桃両吟
  
   入会山の見とほしに草紅葉かな  迢空(折口信夫)
    日和つづきに木叢の頬白    杜壮(加藤守雄)
   気のとほくなるほど秋の海越えて 空
    忘れは思ふ村のもめごと    壮
   藍壷に月のさし入るころなれや  空
    ほのぼのぬくし昼の温石    壮
    。。。
 
   ナウ 
   陽炎の畷の鴉立ち行きぬ     壮
    鰯のけぶりどこもかしこも   空
   谷町の瓦一枚光るなり      壮
    夜業の傷にしみる深霜     同
   花のあと八十八夜ひそとして   空
    霞吹きとく塔の水煙      壮


   樟若葉夕日照るなり屋敷墓    迢空
    木馬の油菁莪にしむ道     杜壮


  芭蕉と杜國の関係のような関係が二人の間にあったとか
  なかったとか。みんなそっちかい、がくっw

菊なます


株安はもつてのほかや菊なます



花弁が筒型のもってのほかはことのほかうまい、今までで最高! しかし暴落した株価を考えるとがっくし(^^;)


写真提供はフォト蔵さん

2008年10月6日月曜日

百韻『名月や』


発句  名月や十百韻の九の巻きを      合 秋月
脇     つづれつづれと綴刺鳴く     蘭 秋
3   さつま芋出来は上々早生種にて    百 秋
4     ひとに喜びおすそわけする    蘭
5   人の世は人の世ながらさりながら   波 
6     暗い土蔵に風が吹き込み     合
7   思ふほど住みやすくなき故郷かな   蘭
8     月餅買いに中華街まで      百

1   マドンナに僕のやうな恋をして    蘭
2     術もなきまま闇に手探り     合
3   雷神は忿怒相なり大停電       蘭 夏
4     損保会社へ被害届けを      百
5   薄雪の下りS字で脱輪し       蘭 冬
6     出鼻くじかれ頭真っ白      〃
7   理髪店パーマヘヤダイいたします   百
8     泡立つ海に臭いたちこめ     合
9   月高し夜っぴき塩焚く破れ小屋    蘭 秋月
10    夜食しながら昔語りを      百 秋
11  菊いじり鼻歌交じる爺さんは     合 秋  
12    江戸っ子でなく東京っ子だ    波
13  花のころ隅田あたりをかけめぐる   蘭 春花  
14    大蛤の糶にかけられ       百 春

1   霾晦り笑ふ金歯の老漁師       蘭 春
2     お酌が地獄の使いと知らず    合
3   お上手にだんだん伸びる鼻の下    蘭
4     父の日忘れ娘迎えに       百 夏
5   Tシャツの汗の匂いが誇らしげ    合 夏
6     学校登山落伍者はなし      蘭
7   うるさくてクマは近くに寄り付かず  波
8     メッカの峠集ふ走り屋      蘭
9   赤城山やくざによつて名が売れて   〃
10    極道育ちの先生人気       合     
11  優男強い女性が好きになり      百 恋
12    親の縁談蹴つて駆け落ち     蘭 恋
13  有明に別れを告げし清滝の      合 秋月
14    大河となりて秋の野をゆく    百 秋

1   鰯雲みては腹鳴る山頭火       蘭 秋
2     鉄鉢一つ命の頼り        百
3   仏法で食は修行の一部なり      蘭
4     不味いなどとは言語道断     〃
5   添加物見えぬところが恐ろしい    百
6     未来に残す豊かな自然      合
7   故里の緑私の目を洗う        波 夏
8     汗をながして縮み着流し     蘭 夏
9   梅雨晴れ間半片の月うすうすと    百 夏月
10    観音菩薩に母の俤        蘭
11  遍路して過ぎにしかたに思ひはす   〃 春
12   蕗味噌詰める備前の小鉢      合 春
13  花見舟杭に繋げど去りがたく     百 春花
14   人の曲まで歌ふカラオケ      蘭

1   だみ声の負け知らずにはえへへへへ  合
2    一年幾度首のすげ替へ       蘭
3   早々とマフラーをしてジョギングし  百 冬
4    葉っぱが欲しいともらう大根    合 冬
5   残りめし粥にのばして日を暮らす   蘭
6    二日剃らねば顔もごま塩      〃
7   無精髯しぶしぶすれば良い男     百 恋
8    鏡の中に妻微笑んで        〃 恋
9   湯あがりのうす桃色の美しく     蘭 恋
10   かはいいままでゐてね初孫     〃
11  ブランコも滑り台まで家の中     百 春
12    雛飾る日の待ち遠しくて     〃 春
13  朧月嫁入り支度する母と       蘭 春月
14   ランチをかねてケーキバイキング  合

1   今晩の食事のしたくサボりたい    百
2    コンビニ弁当食はしといたろ    蘭
3   今日もまた夫は山に行くらしい    波
4    どこへ行っても山ノ神のいる    百
5   若い娘にミステリアスと迫られて   蘭 恋
6    ついに名前をどうだんつつじ    合 春恋
7   鳥さかるスリル味わう葉隠れに    百 春恋
8    微笑む如き春の月かな       蘭 春月
9   ポケットのサクマドロップかさばって 亮
10   歩くたんびにカラカラと鳴る    蘭
11  通せん坊カウベル付けた牛の群れ   〃 
12   ガンジス河の沐浴ビデオ      合
13  よみがえる吾が花嫁よハネムーン   蘭 雑花
14   シャンパンの栓隣席に飛ぶ     百

1   二本目になるとさすがに酔ひがきて  蘭
2    忘れたなんて罪な言葉を      合
3   もしここで断わられたら死ぬといい  蘭 恋
4    はねっかえりのこのしおらしさ   亮 恋
5   黒ぶちのグラサン胸にヨットハーバー 合
6    隠し通さん実はかなづち      蘭
7   建売の今日も売れずに旗しまい    百
8    外目いいけど中はどうだろ     蘭
9   笑顔よきあの子はおみず馴れていて  合
10   僕は静かな君が好きだよ      蘭
11  言の葉をこころの底より絞り出す   〃
12   鳴いて血を吐く杜鵑かな      波 夏
13  思ひ寝の目覚めおぼろげ朝月夜    蘭 夏月恋
14   タクラマカンに棄ててきたこと   亮

1   遥かなるわが彷徨をなほ傷む     蘭
2    かくあることに付ける折り合ひ   〃
3   宿六をとりかへるほどの気力なし   〃
4    大江戸小江戸ぶらり散策      波
5   古いもの内に感じる新しさ      蘭     
6    芝居に残るしぐさ美し       波
7   花灯り闇にけざやぐ薪能       蘭 春花
挙句   これぞこれこそ春の夜の夢     〃 春

             2008.9.14〜10.6

2008年9月20日土曜日

捨案山子


さみどりの欅空みつ蝉しぐれ

遅れ来て惜しむ命や法師蝉

葬式も墓もいらぬよ捨案山子

野分過ぎ虫の音しげき朝かな



写真提供はフォト蔵さん

2008年9月14日日曜日

百韻『いろいろの』


発句  いろいろの制服通る初夏の朝    青波 
脇     見分けつかない軒の子燕    春蘭 
3   図書館で借りて重たい図鑑にて    亮 
4     パラリパラリと眺め楽しむ    波
5   透きとほる傘に降り来る六花     蘭 
6     今年の寒さ厳し一際       波 
7   顔見世の招き大きく照らす月     亮 
8     暫くぶりに飲んでいこうか    蘭

1   この前のあの事につき話そうよ    波
2     パイプくゆらす破れジーパン   亮
3   武勇伝おもひ出してはにやついて   蘭
4     時の総理があげる強盗      波  
5   電脳でみれば世界は夢の滓      蘭
6     漂白出来ず消せぬいらだち    亮
7   学校の教師が書いた落書きを     波
8     運が悪いと思ふ政治家      蘭      
9   お月様ご覧下さいこの日本      波 
10    汚れちまった白砂青松      亮
11  ひぐらしやわれも別宅ほしくなり   蘭
12    乱開発で家はむき出し      波
13  水汲にゆく深山路は花のころ     蘭
14    孕み鹿らしチラと駆け行く    亮

1   フンフンと春風のよう小百合ちゃん  波
2     いつたい何をたべてるんだろ   蘭 
3   糊舐めて舌切りすずめものがたり   亮
4     手元不如意と嘆く侍       波
5   下思ひの新造に声を掛けられて    蘭
6     よくあることよ壁に耳あり    亮
7   覗き見の有名人が出所した      波
8     悔いたやうには見えぬ会見    蘭
9   隠れ蓑卑しきものと紙一重      亮             
10    不惑の年に大惑いする      波
11  足許を見つめ直せと山が呼ぶ     蘭  
12    又会う日までいてね元気で    波
13  シャガールの自転車で追う月の径   亮
14    宇宙空間邪魔物は無し      波

1   UFOのかけら砂漠で見つかった   波
2     ソレッとばかりに霊能者達    亮
3   懐かしき東北弁のお告げ聴く     波
4     耳を澄ませて肩を凝らせて    亮
5   我話す中国人に通じない       波
6     のどかに行こう身振り手振りで  亮
7   久しぶり郷里で踊る盆踊り      波          
8     時折遠く走る稲妻        亮
9   吾亦紅母を泣かした子も老いぬ    蘭
10    先急く犬をとどむ月の出     蘭
11  あらなんでこんな所に蛙居る     波
12    ぬれても心地よきははるさめ   蘭
13  ほの白くみっしりと浮く花の夜    亮
14    言葉少なく宿る円山       蘭

1   追いかけて追いかけて来た都から   波
2     乙女にまぎれ出待ち入り待ち   蘭
3   倖せは自分が夢中になれること    蘭  
4     新蕎麦を打ち食わすみんなに   波
5   問はれぬに蘊蓄垂れるは野暮つたい  蘭
6     今は逆転妹に叱られ       亮
7   オリンピック女ばかりが活躍し    波
8     度胸愛嬌も兼ねて具はる     蘭
9   日本を洗濯せんとゆく竜馬      蘭
10    激流下る竿をあやつり      波
11  ここいらでカラス殺して朝寝せむ   亮
12    君がおつむにかひな痺るる    蘭
13  窓辺まで月寄って来る旅の宿     波
14    一夜かぎりの烏瓜のはな     蘭

1   夏の果軒の簾を巻き上げて      蘭
2     雀右衛門さん米寿祝宴      亮
3   華やかな江戸の香りを東京へ     波
4     花魁道中口あいて見る      蘭
5   人間の欲と欲とが絡み合う      波
6     どつちにしても騙される民    蘭
7   明日への乗換駅を探してる      亮
8     行こか戻ろかはて思案橋     波
9   月影にひともと柳枝ゆれて      蘭
10    欠けた茶碗で白粥すすり     合
11  節約はふたたび美徳とされにけり   蘭
12    ゴミも資源と進む研究      波
13  夢の島花の名所となりぬべし     蘭
14    松並木にはキツネもいたか    合

1   おそろしさまさる旅籠の留女     蘭 
2     飯食ふときに気づく流し目    蘭
3   居候三杯目にはそっと出し (古川柳)波          
4     けつこう使へる鈍感のふり    蘭
5   ため口の部下に仕事を頼む午後    合
6     昔のようなゴリ押しは駄目    波
7   理不尽な輩こはがる世間の目     蘭
8     へこきかずらがはびこる屋敷   合
9   さみどりの欅空みつ蝉しぐれ     蘭
10    腕白時代思い出す場所      波
11  好きな子の家のブザーを押し逃げる  蘭
12    やっぱりカレー土曜の夕餉    合
13  中秋の月を愛でつつ家路へと     波 
14    オペラの余韻でかるく中汲み   蘭

1   封筒に入れた銀杏爆ぜ始め      合
2     呼ばぬに子等は膳に集まる    蘭
3   手土産をおいてお客は帰りけり    蘭
4     鑑定しますクリスマスラブ    合
5   枯蓮の池にさざなみ番鴛鴦      蘭
6     妻の帰りを夫待ってる      波
7   忍の文字背中に付けた花衣      合
挙句    花粉症とてしたい風流      蘭

               2008.7.5〜9.14


写真借用:
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080519/trd0805191241006-n1.htm

2008年8月30日土曜日

夏の野に











夏の野に道付けをれば我さがす妻のかそけき声ぞ聞こゆる


 
 山小屋の北側の森が防火のために大きく切り開かれ野ができた。しかし鬱蒼とした薮と化していて入り込めない。植木鋏をもって草木を刈りつつ道を付けはじめた。道といってもけもの道レベルだが、こころがうきうきし、ものすごく面白い。夢中で刈り進み道を造っていく。日差しが強くなり汗だくだ。遠くの方で呼び声がする。私が熱中症で倒れていないか心配して妻が出来立ての道を踏み分けてやってきたのだ。

2008年8月28日木曜日

でかプリン



高原の秋立つ牧やでかプリン


八ヶ岳南麓 日野水牧場にて

2008年8月23日土曜日

原因と結果の法則

『原因と結果の法則』ジェームズ・アレン

   自分の思いが人生を創る
   環境はコントロールできる
   自分自身を変える

『グッドラック』アレックス・ロビラ他

   幸運をつかむためには、自ら下ごしらえをする必要がある
   幸運の下ごしらえは、今すぐに始めることができる
   幸運のストーリーは、、、絶対に偶然には訪れない



2008年7月20日日曜日

都々逸 

今も早よから太鼓をたたく隣家六十路のドラムすこ
隣家漏れ来る宴の奇声理解不能の多国籍
姉は口だけいもとが動く声のでかさは負けて居ず

むかし望んだ無用の人になれど銭なくひき籠り
老いて若いと言はれる妻のサプリをもらひ飲んでみる
尻が出てると気にする汝れをわれは可愛と恋初むる

2008年7月19日土曜日

都々逸


体が悪いぞ無職の欄はかっこ悠々自適とす (旧作)
寿司と我が家で呼んでるものは巻きと稲荷のパックなり
妻の財布の千円抜いてかさむ小銭を入れておく



写真借用:http://ekibento.jp/cb-mishima-sushi.htm

2008年7月17日木曜日

こんちきちん



鉾の稚児人形なりきこんちきちん


写真借用:http://www7a.biglobe.ne.jp/~kyonosato/gion00yamahoko00.html

2008年7月14日月曜日

「渡り鳥」歌仙

渡り鳥傘なきゃ雲の上にあり    狸
 虫の音哀し里の古寺       寅
やあやあと大きな月が顔出して   寅
 真冬の海を北へ流れる      狸
雪しづか百五十屯の雪像に     狸
 いつも通りの軽い冗談      寅
いいひとねそれで話はちよんとなり 蘭
 枕はずして大の字に寝る     奴
モナリザの二重の顎に恋をして   奴
 行列嫌ひがむしろ微笑み     蘭
ふるさとに許され妻子見せにゆく  蘭
 妙に静まる森のかなかな     奴
萩に沿う道のいつやら潮の風    奴
 掻い弾く琵琶の澄める夜の月   蘭
あゝうれし夢のお告げのとほりにて 蘭
 吉野の水のやや温むころ     奴
花守に墨衣着せ写真撮る      奴
 経読み谷をわたる鶯       蘭

ポケットに錆の浮き出たハーモニカ 智
 古き友よりうれしき誘い     正
七夕に願い事書きドン集う     正
 なにはともあれビールに枝豆   智
携帯にあなただけよとこのメロディ 智
 細々連呼あの浮名の音      正
なやましく姿態くねらせめおと猫  正
 ヒップホップでメタポ解消    智
代々木から渋谷に抜ける大通り   智
 ケヤキ並木を秋色に染め     正
月煌々勝閧橋は今跳ねず      正
 芸術祭の演目揃う        智
文化庁にぎにぎ少しありゃせぬか  修
 今も昔も同じしきたり      光
天の声雪降る夜は重く聞く     光
 意見はあるが言葉にならず    修
目覚めれば志野のぐい呑み花うけて 修
 春風似合う塩瀬羽二重      光

      首尾 2008.6.28〜7.14

2008年7月7日月曜日

みだれ髮(抄)  


    みだれ髮  
            鳳晶子

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
たまくらに鬢のひとすぢきれし音を小琴と聞きし春の夜の夢
牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君
ゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ
くれなゐの薔薇のかさねの唇に靈の香のなき歌のせますな

春の夜の闇の中くるあまき風しばしかの子が髮に吹かざれ
わかき小指胡紛をとくにまどひあり夕ぐれ寒き木蓮の花
みだれ髮を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす
紫の紅の滴り花におちて成りしかひなの夢うたがふな
乳ぶさおさへ神祕のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き

ひく袖に片笑もらす春ぞわかき朝のうしほの戀のたはぶれ
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
ゆあみして泉を出でしやははだにふるるはつらき人の世のきぬ
小傘とりて朝の水くむ我とこそ穗麥あをあを小雨ふる里
うながされて汀の闇に車おりぬほの紫の反橋の藤

ゆふぐれを篭へ鳥よぶいもうとの爪先ぬらす海棠の雨
かたみぞと風なつかしむ小扇のかなめあやふくなりにけるかな
小百合さく小草がなかに君まてば野末にほひて虹あらはれぬ
こころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露
おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしら百合

むねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子
みなぞこにけぶる黒髮ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる
くろ髮の千すぢの髮のみだれ髮かつおもひみだれおもひみだるる
夏やせの我やねたみの二十妻里居の夏に京を説く君
舞姫のかりね姿ようつくしき朝京くだる春の川舟
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ

2008年7月5日土曜日

「蛍獲て」百韻


  蛍獲て少年の指みどりなり       誓子
   河童でさうな村の夏川        春蘭    
  坂東太郎暴れ刀を振り上げて      青波
   髭を剃つたら意外美男子        蘭
  方言のこぼるるさまもご愛嬌       亮
   絵文字にはつか癒されてゐる     面白
  有明に霊感湧いて解読す         蘭
   虫売りの声聞きつつ眠る        波
ウ 目覚めては先ず一献に焼く秋刀魚     亮
   かひがひしさに身もぞ焦がるる     蘭
  十七の春をたすきで洗ひ張り       蘭
   記念日の今日摘むはサラダ菜      波
  野蒜食ふ僕はとつくにロハスだね     蘭
   シンプルが好き身辺整理        亮 
  向かふには一切合財もつてけず      蘭
   とげはあるけど薔薇は綺麗だ      波
  嫦娥出づ見なほすきみの初浴衣      蘭
   花火の音に近づける顔         波
  パレードにおとなも児らも夢心地     蘭
   明日の試験はいいさどうでも      波
  ニッポンのお城を飾る飛花落花      亮
   舞ひ込む蜂に沸ける婆沙羅座      蘭
二 野馬群れて小高い丘を疾走す       波
   眉くっきりとイザ戦さ場へ       亮
  マーメイド北京五輪は負けられぬ     波
   同じ条件かぎはメンタル        蘭
  息災に過ごす貴重な千羽鶴        亮
   イメージしようこの地球船       蘭
  緑あふれ大気あまやか我が故郷      波
   胡瓜トマトは山の朝採り        蘭
  腕白小僧よその畑で食べちらす      波
   服も体も泥で真つ黒          蘭
  祭りから帰ればみんないい女       波
   群れて愛らし桃色ペリカン       亮
  深閑として悠久の月の下         亮
   それよそれこそ宮城野の萩       蘭
ウ 虫々はこゑをかぎりと鳴いてをり     蘭
   我も負けずにコーリューブンゲン    波
  巻き舌のサザン休業なる話題       亮
   白け錆びたる浦の浜小屋        蘭
  波音を子守唄とし一眠り         波
   鳶が空からわれを見てゐる       蘭 
  謀られているやも知らぬノーテンキ    亮
   ピュアな思ひは人を動かす       蘭
  月天心貧しき町を通りけり    (蕪村)波
   からくれないに割れる実石榴      亮
  ちはやぶる神とも見えぬ竜田姫      蘭
   何を食べるか年をとらない       波
  薄墨の花はろばろと見上げおり      亮
   かすむや千代に雪の白山        蘭
三 田楽の味懐かしき峠茶屋         波
   ナナハン連ね老若男女         亮
  青春はこころに若さあるかぎり      蘭
   立って半畳寝て一畳    (織田信長)波
  わが城で茶漬けかけこみいざ出陣     蘭
   網タイツの脚どぶ板を踏み       亮
  破障子のぞく長屋の野郎ども       蘭
   えらい美人の嫁がきたらし       波
  かの子には一平がいたながい雨(時実新子)亮
   愛の地獄を越える大乗         蘭
  父母の星が見守る四川の子        波
   おなかいっぱい食べているやら     亮
  牡鹿啼く片山陰のゆふまぐれ       蘭
   配所の月に想う都を          波
ウ 栄転とだまされ来たる島の秋       蘭
   軒下を行く青大将           波
  きゃっとすがる君の重みを受けとめて   蘭
   上向き加減笑顔美し          波
  赤い道ゆけば群がるちまき売り      蘭
   自分を見つめ直す初旅         同
  鞄捨て杖一本で四国へと         波
   かつを漁師に海はゆりかご       蘭
  海神の吐息聞こえる月涼し        波
   昭和は遠くなりにけらしも       蘭
  反戦の思想封印された時         波
   ひそかに流行るリリーマルレーン    亮
  花開き静かに眠る子を悼む        波
   風の光ればこころ鎮もる        亮
名 うぐひすにゆかしくなるや雑木山     蘭
   歴史の道にすみれ草咲く        波
  ここがその都の跡か燃ゆる野馬      蘭
   独りの時間独りの至福         亮
  写し彫る利休泪の竹茶杓         蘭
   雨の降る日は雨を見つめて       波
  ピストルを一発胸に受けて恋       亮
   親の縁談蹴って駆け落ち        蘭
  考えたどうせ行くなら地の果てへ     波
   砂漠のリビア・ビルがニョキニョキ   亮
  オアシスはひとそれぞれの憩ひの場    蘭
   二度と会えない人と会うかも      波
  月光にこころの底を覗かれて       亮
   閃光きらめき妖剣の露         蘭
ウ ほろほろと首が落ちるか秋の暮      波
   回転ドアはスコンと回る        亮
  頭越し子分は所詮らちのそと       蘭
   現世精進来世往生           波
  チンチラを抱いてざあます血統書     亮
   散歩にドレスとくと紅引く       蘭
  花見坂美男と美女の勢ぞろい       波
   のどかに過ぐる春昼の夢        亮

        首尾 2008.6.2〜7.5



写真提供はフォト蔵さん