2009年5月13日水曜日

恩田陸『光の帝国』常野物語


恩田陸『光の帝国』常野物語

 僕たちは、光の子供だ。どこにでも、光はあたる。
 光のあたるところには草が生え、風が吹き、
 生きとし生けるものは呼吸する。
 それは、どこででも、誰にでもそうだ。
 でも、誰かのためにでもないし、誰かのおかげというわけじゃない。

 僕たちは無理やり生まれさせられたのでもなければ、
 間違って生まれてきたのでもない。
 それは、光があたっているということと同じように、
 やがては風が吹き始め、花が実をつけるのと同じように、
 そういうふうに、ずっとずっと前から決まっている決まりなのだ。

 僕たちは、草に頬ずりし、
 風に髪をまかせ、くだものをもいで食べ、
 星と夜明けを夢見ながらこの世界で暮らそう。
 そして、いつかこのまばゆい光の生まれたところに、
 みんなで手をつないで帰ろう。

 常野(とこの)
   権力を持たず、群れず、常に在野の存在であれ という意味。
   そういう理念のもとに、予知能力や途方もない記憶力など人
   並みはずれた能力を持つ一族が昔、共同体を作って人里離れ
   た所に住んでいたという。その人々のことも、住んでいた場
   所も常野と呼ぶ。

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