2010年2月28日日曜日

萱草第六 雑連歌(四)




2007年05月23日09:19

京都大学附属図書館所蔵 古典籍 『萱草』(わすれぐさ)


 浪にかすめる夜はのいさり火
難波がたあしのかりねに鐘なりて

 たへにあそびのそのぬしやたれ
夕なみの江口の月に舟とめて

 都をいくかへだてきぬらむ
船出せし淀のわたりの西のうみ

 やはたの宮ゐあふかゐはなし
箱ざきや松をゆききの舟にみて

 いたらむにしの国ねがふなり
追風をもろこし舟にまつらかた

 出(いで)やすらひしたびのあはれさ
泪さへもろこし舟のわかれ路に


 夜ふかきみちに舟まよふ也
うき旅をたれしらぬひのつくしがた

 あふさかちかき三井の古寺
たれにそのをしへをまたむ旅の道

 山かぜさむし霜やをくらむ
古郷は草木もいかに旅のくれ

 もしやとをくる文の一ふで
故郷の友をはかなく聞なして

 こころぼそくもこゆる山道
後の世もかくやとひとり旅立て


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0064.html



 旅は身をしるかぎり也けり
いかにせむ都をいづる老のすえ

 いのちあらばとかたりてぞなく
おもひやれよはひの末の旅の空

  北畠大納言家に奉し追加の百句に
 霞の庭のくれのさびしさ
雨はれて遠山のこる窓のまへ

 こころぼそきはきぬぎぬの空
しののめの山のはうすく雲引て

 一日一日とをくりこそゆけ
ほどもなく入会の鐘に夜の明て


  千句のうちに
 うき身の行ゑいかがさだめむ
ありはてむ故郷にだに住わびて

 そのままなりし別路のすゑ
故郷のほかにおもはすすみつきて

 かきほの松のときはなる色
さとはあれぬさやは契し人もみよ

 くち木のなかにすめる山陰
水あさきふる井のゐげた苔むして

 真砂をうがつ夕浪のあと
生わぶる磯まの小草むらむらに


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0065.html



 しづかなる湖ごしに野はみえて
船に草かるむらの人こゑ

  専順法眼坊にての百韻に
 柴とりかへる人もこそあれ
のこる日に塩くむ浦の遠ひがた

  ある所の会のうちに
 ほたるのかげぞともし火となる
蘆はらにあまの釣せし舟くちて

 すみぬるさまもかはる家々
庭にせく水のながれを田にうけて


 きのふにかはる世中のさま
人もねぬ市のかりやに夜は明て

 いづくへゆけばほたる飛らん
野にむすぶ道芝くちて人もなし

 ならの葉すずし露こぼるらん
ゆく人のおほぢのうへ木陰ふかみ

 たづぬれば又みちまよふなり
帚木のとをきよそめはさだかにて

  北畠大納言家にあつめ給へる百句に
 君が車のあとのこれなを
分いづる道に小松のかたよりて


http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/k107/image/1/k107s0066.html

0 件のコメント: