2010年2月28日日曜日

オブリビオン〜忘却

2007年05月24日11:09

『オブリビオン〜忘却』大石直紀

ねたばれ:
水沢梓は六歳のときジャングルジムから転落し記憶を喪失した。お前は六歳のとき生まれたんだよと兄の良介は言う。中学のとき家族のアルバムに自分の小さいころの写真がないことに疑問を抱いた。

渋井と名乗るルポライターから自分が事件の関係者だと言われる。図書館に行き過去の新聞記事を調べ、自分が1990年熊谷で殺害された主婦、岸田麻子の娘で、犯人は父の信彦であることを知った。

信彦は当時、香港のマイケル・ヤンと組んで偽ブランド品の輸入販売をしていた。事件直後、信彦は偽パスポートで香港に逃亡し、ヤンにかくまってもらっていた。しかし支払った2500万円では1年が限度だという。最悪死んでもらうと脅かされるが偽ブランド品の品質チェックの仕事で生き延びていた。

1997年7月7日香港は中国へ返還される。犯罪の取り締まりが強化され、ヤンはアメリカに、信彦はアルゼンチンに逃亡する。

梓は事件後、麻子の姉景子と夫の水沢俊一のもとに引き取られた。良介はその一人息子で11才だった。梓は良介にとって、いとこから四歳下の妹になった。


【岸田信彦の生い立ち】ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 アルゼンチンのブエノスアイレスは信彦の生まれ故郷だった。
 母菊枝は六歳のとき、家族四人でパラグアイに移住した。母と
 弟はマラリアでなくなった。父と菊枝は自力開墾はあきらめ、
 インディオの農場に雇われ奴隷のような生活を送った。心がす
 さんでしまった父は菊枝に暴力をふるうようになる。菊枝は正
 当防衛で父を死なす。菊枝はブエノスアイレスに逃亡した。ま
 だ14歳だった。掃除係のあとホステスをしていたとき、バン
 ドネオン奏者のロベルト・マルコーニと恋仲になり同棲する。
 1950年にアルフレドを産む。菊枝はアル中で暴力をふるう
 ロベルトを殺し刑務所送りとなる。アルフレドは菊枝の妹加代
 夫婦の養子になり名前を信彦と変えた。
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音大生になった梓は、ルポライターの渋井に事件の真相と父の消息を聞くために接近する。渋井はアメリカのヤンに会った後、ブエノスアイレスに住む菊枝のもとを訪れる。菊枝は惚けてきていたが息子の信彦を守るため渋井を殺害する。菊枝はやがて亡くなる。信彦はインディオの農場に身を隠しけしの栽培をする。アヘンと劣悪な生活で体が弱ってきた。死ぬ前になんとしても日本に帰りたいと思う。

少しずつ金をためてようやく日本に帰ってきた信彦は良介に会う。そして真実を話す。

【真実】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 梓の母麻子を殺したのは麻子の姉景子であること。景子と信彦
 はピアノ奏者とバンドリオン奏者として意気投合し、不倫関係
 にあり、景子は信彦の子を宿していたこと。信彦は愛する景子
 とお腹の子のため身代わりになり逃亡した。しかし二人の子は
 流産だった。
 梓は小さい頃、景子にピアノを教えてもらっていた。そして家
 で父と景子の演奏をなんども聴いていたのだ。
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梓はバンドリオン奏者となった。バンドリオンは父信彦が使っていたものだ。今日はアルゼンチン・タンゴの演奏会。信彦は全身に癌がまわり余命一ヶ月と宣告されていたが、車イスでやってきた。もう一つ車イスがきた。景子が乗っている。景子は15年の時効が成立しておりおとがめなしだった。惚けがきているが音楽は違うようだ。梓の体の中に小さい頃から鳴り響いていた『オブリビオン』の曲が外に溢れ出した。


こめんと:
Milva & Astor Piazolla - Tango Argentino - Oblivion (『オブリビオン』アストル・ピアゾラ作曲/演奏 ミルバ歌)を聴いてみた。

歌詞はわからないが、すごくゆっくりしたテンポで、忘却されつつある過去への懐旧と郷愁を感じさせる曲だ。この曲から小説を着想したのだとしたらすごい想像力である。適当に複雑でサスペンス、ロマン、紀行、音楽ありとテレビ化も納得。

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