2010年5月12日水曜日

座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立


『座の文学 ー 連衆心と俳諧の成立』尾形仂、講談社学術文庫

メモ その1:座の文学

 芭蕉にとって座とは、その詩情を誘発し、増幅し、普遍化する、いわばかれの詩の成立・定着にとっての不可欠の媒体であった ...

「師の曰く、其角は、同席に連なるに、一座の興に入る句を言ひ出でて、人々いつとても感ず。師は一座そのことなし。後に人の言へる句はあることもあり、となり」(三冊子)という芭蕉の述懐は、其角との比較に触れて、詩の当座性への埋没の危険を指摘したものにほかならない。

 其角が ... 座を離れた連句一巻の作品としての完成にはさして意を払わなかった、無頓着だったということになる。”座の文芸”を”書かれた文芸”に定着させようと願った芭蕉の努力は、座の文脈を作品の文脈に転位することにかかっていたといっていい。

 芭蕉の旅は、座の閉鎖性から脱出し、... 積極的に新しい座との触れあいを求め、いくつかの座との交響をかさねる中で、詩の普遍性を獲得することをめざしての旅にほかならなかったともいえはしないか。

感想:
 芭蕉は、其角という俳諧の座の申し子のような弟子には、座では叶わないと思っていた。芭蕉は其角とは違うことで自分の存在価値を示す必要に迫られた。芭蕉が誠の風雅や色々な美的理念を模索し続け、江戸を離れ地方の座で実験しつつ旅をし続けたのも、この奇才の弟子の存在が大きかったのではないか。すなわち大人気の其角がいる江戸には芭蕉の居場所がなく、旅をせざるをえなかったのだ。(I think)

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