2012年9月27日木曜日

正岡子規『俳諧大要』より第八章 俳諧連歌を抜粋

第八 俳諧連歌

一、易、源氏、七十二候など、その外、種々の名称あれども多くは空名に過ぎず。実際に行はるる者は歌仙を最も多しとし、百韻これに次ぐ。

一、歌仙は三十六句を以て成り、百韻は百句を以て成る。長句、短句にかかはらずこれを一句といふ。発句と最後の一句を除きて外は各句両用なるを以て、歌仙には三十五首の歌(則ち長句短句合わしたる者)あり、百韻には九十九首の歌あるわけなり。

一、歌仙は長に過ぎず、短に過ぎず、変化度に適せり。故に芭蕉以後は歌仙最も多く行はれたり。初学の人、連句を学ぶ、また歌仙よりすべし。

一、連句は変化を貴ぶ故に、その打越に似るを嫌ふ。即ち第三の句は第二句に附くこと言ふまでもなく、しかして第一句とはなるべく懸隔せるを要す。けだし第一句、第三句共に第二句に附く故に、両句動もすれば同一の趣向となり、あるいは正反対の趣向(黒と白、男と女、戦争と平和等の如し)となるを免れず。同一の趣向の変化せざるは勿論にして、正反対の趣向もまた変化せざるものなり。

一、「二句去り」、「三句去り」などといふことあり。「何句去り」とは、何句の間その物を泳みこむを禁ずといふことなり。例へば「竹は木に二句去りなり」といへば、木を詠み込し句より後二句の中には、竹を詠まれぬが如し。これらの法則は余りうるさきやうなれども、つまり法則的に変化せしめんとの意より出でたる者にして、愚人に連歌、連句を教へんがためなり。いやしくも変化の本意を知る者は、かかる人為の法則に拘泥するに及ぱず。ただ我が思ふままに馳駆して可なり。試みに芭蕉一派の連句を披き見よ。その古格を破りて縦横に思想を吐き散らせし処、常にその妙を見はすを。

一、古来定め来りし「去り」「嫌ひ」は、やや寛に過ぐるを憂ふ。二句去り、三句去りといふもの、多くは五句も六句も去らざれば変化少かるべし。

一、歌仙は分ちて表六句、裏十二句、名残の表十二句、名残の裏六句となす。

一、「月花の定座」なる者あり。そは月と花とを詠みこまざるべからざる句をいふ。即ち「月の定座」は表の第五句、裏の第七句、名残の表の第十一句とし、「花の定座」は裏の第十一句、名残の裏の第五句とす。但しこの句と固定せるにはあらず。時に応じて種々に動くべし。

一、表六句(百韻は八句)には神祗、釈教、恋、無常、述懐、人名、地名、疾病等を禁ず。窮屈なるやうなれども一理なきにあらず、従ふべし。元来歌仙全体を一つの物と見る時は、表は詩の起句の如し、故に此処はなるべくすらりとして苦の無きやうに致し、以て後段に変化の地を残し置くなり。二の表は、更に変化を要する所なりとぞ。

一、脇(第二句)には字止といふ定めあり。字止は名詞止なり。第三には「て止」といふ定めあり。これら、あながち固守すべきにもあらねど、また一理なきにもあらず。初学は古法に従ふべし。

一、春秋二季は三句乃至五句続き、夏冬二季は一句乃至三句続くを定めとす。時の宜しきに従ふべし。

一、月といふ者、必ずしも秋月なるを要せず。殊に裏の月は秋月ならぬ方、かへつて宜しからん。

一、花といふ者、必ず桜花なるを要せず。梅、桃、李、杏、もとより可なり。他季の花を用うる、また可なり。花と言はずして桜といふ、もとより可なり。各人の適宜に任すべし。 *注:古式の引用であろう。芭蕉門では桜以外の植物の花を正花とはみなしていない。

一、恋を一句にて棄てずといふ定めあり。従ふに及ばず。

一、百韻は初折表八句裏十四句、二の折表十四句裏十四句、三の折表十四句裏十四句、四の折表十四句裏八句なり。

一、百韻の月の定座は、表の終より二句目、裏(名残の裏を除く)の九句目なり。花は、裏の終より二句目なり。百韻にては殊に月花の定座に拘泥すべからず。

一、百韻は長き故に、ともすれば同一の趣向に陥りやすし。全体の変化に注意すること、最も肝心なり。一句々々の附具合も、歌仙に比すれば親句多かるべし。しからざれば窮屈なる百韻 となりをはらん。

一、規則、附様等、一々に説明しがたし。古書について見るべし。

一、俳諧連歌における各句の接続は、多く不即不離の間にあり。密着せる句、多くは佳ならず、一見無関係なるが如き句、必ずしも悪しからず。切なる関係なしとは見えながら、また前何と連続せざるにもあらざる処に、多く妙味を存するなり。初学のために一例を挙げて解釈すべし。

一、左に録する俳諧連歌は十八句より成り、召波十三回の迫悼会に催せし者と知らる。脇起とは、その座にをらぬ人の俳句を竪句(第一句)として作る者にて、追善の場合に亡き人の句を竪句とすること普通の例なり。これもまたしかなり。*注:以下各句の評釈は省略。

冬ごもり五車の反古のあるじかな  召波
  ひとり寒夜にホトギうつ月   維駒
郊外何焚やらん煙して       鉄僧
  流れの末の水は二筋      臥央
枝伐て一のまぶしを定むらし    蕪村
  甥の太郎が先づ口をきく    百池
新宅の夏を住みよき柱組      也好
  水打ちそゝぐ進物の鯛     春坡
裂けやすき糸の乱れの古袴     正巴
  妻を奪ひ行く夜半の暗きに   之兮
ちら/\と雪降る竹の伏見道    道立
  小荷駄返して馬嘶ふらん    我則
泣く/\も棺を出だす暮の月    自笑
  よからぬ酒に胸を病む秋    佳棠
小商ひ露のいく野の旅なれや    湖柳
  燕来る日の長閑なりけり    湖嵓
反古ならぬ五車の主よ花の時    几董
  春や昔の山吹の庵       田鶴


一、この連句にて、各句の附具合はそれぞれに味ひありて面白し。ただ一句として面白き句は
水うちそゝぐ進物の鯛
裂けやすき糸の乱れの古袴
妻を奪い行く夜半の暗きに
ちら/\と雪降る竹の伏見道
なく/\も棺を出だす暮の月

など、などなるべし。

明治二十八年十月二十二〜十二月三十一日

2012年9月24日月曜日

俳諧武玉川 三篇

俳諧武玉川 三篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )

冬嶺之部(十五点)
1549 牡丹を入れてかしこまる駕籠
1550 浮沓を馬鹿にして居る都鳥 
1551 女の智恵の青い庚申  
1552 鼓打女の肘は乳へ付け 
1553 夫の盆へ残すさかづき  
1554 さられた足で早乙女に出る 
1555 おもひ出したる井戸掘の聲 
1556 耳も歯も浮世はなれて知恩院 
1557 直切た鐘の恥しい聲 
1558 役の行者の行当る市 
1559 遠くから楽しみにする立すがた 
1560 よしのゝ山をかじる小座頭 
1561 鳶を見て居る桶伏の穴 
1562 寺の名の立つ夜の大名 
1563 みんな寐た夢の上行く面白さ 
1564 新地の障子菜の上で張る 

1565 柱ごよみ寐て見る程に春近き 
1566 胴につかれて帰る舟宿 
1567 古河の番所の管簾なる こが、くだすだれ
1568 雪隠を借リた所でほとゝぎす 
1569 帆かけ船何もない日の取ざかな 
1570 夜は鼠のかゝる天秤 
1571 惚ぐすり吝いながらも都にて しわい:けちる
1572 京の異見の届くはつ春  
1573 売つぱな水を二日の仮枕 つばな:茅花
1574 新造の二人前付く奉加帳 
1575 間合を見ては笑ふ連弾 
1576 雲の峰碇の綱に湯気が立 
1577 尻もちはきのふと見える大根引 
1578 手代を付て初の勘当 
1579 むつ言に問ひかけて見る爪の星
1580 砂に育てゝ貰ふ大磯 
1581 吹るゝだけは螺貝へ銭 ほらがい
1582 我ものと思へば遠き三世相
1583 出家にしても末の松山 
1584 傘を廻して通る念仏 

1585 物おもひ葵咲日を見抜きけり
1586 大三十日いらぬ所に灯がとぼる
1587 掌へ貰ふたやうに星が飛
1588 汐汲の男をなぶる肩の上
1589 いき過る比丘尼の顔に腹が立
1590 青物の中に玉子の突出され
1591 死そこなうて辞世仕直す 
1592 藤の使は立て請取る 
1593 あかつきかけて寒い廻状 
1594 ころぶ子の稲妻は目へ這入る也  
1595 塩がまに赤い天窓の姉いもと 
1596 長刀の師匠と聞て寄付かず 
1597 物音へ心々に名を付けて 
1598 雪掻のはじめは片手懐手   
1599 師走にあはぬ御師の顔付 おし 
1600 剃刀に羽子の程の息を懸け はごこ
1601 さればこそ様子有べき普門品 
1602 樽拾ひあやふい恋の邪魔をする 
1603 約束の紀念も後家のもみかへし かたみ
1604 遠くから娘の逃る焚火陰

1605 引舟に連立て行く烏打
1606 馴染が付とかはる取親 
1607 眼の下の物を見くびる崖作リ
1608 飛鳥の先にたゝんと木の葉ちる
1609 取あげ婆々をもどす引汐 
1610 両袖に秋風つゝむ寺小性 
1611 小荷駄の首の正直に行く 
1612 見送て行く蟬の小便 
1613 御幸の牛の物喰ひもよし 
1614 いく度だまして畳むちりめん 
1615 田渋汲たらひは妻のきぬさらき たしぶくむ 
1616 巻紙の二重心は跡へまき 
1617 猿の戻リのみゆる高橋 
1618 石切の火が飛んでから猶寒し 
1619 正平紋に侘る大兵 だいひょう
1620 もしほ焼伊達はなけれど瓦がま 
1621 臍へりきみの廻る堪忍 
1622 庄屋の産にほらの貝ふく 
1623 足軽の鞘鳴リがして電り いなびかり 
1624 気のもめる時はつき出す置巨達 

1625 百万遍にゆれる蓬生  
1626 灯籠に手間を入れてもあぢきなし
1627 朝夕の間も大工の遅ざくら
1628 母の心へひとつ合鍵 
1629 臍の緒は松坂に有リ若だんな
1630 気違を淋しく通す京の町
1631 桜川西瓜の皮も流れけり
1632 うき秋を焚て紛るゝ八王寺
1633 女が勝て捨たる光陰 
1634 内侍といへば聞惚がする 
1635 箔代の雨の舎りも手向草 はくしろ やどり 
1636 帯した妾明るみへ出る 
1637 ゆるさぬ路次の夏に破られ 
1638 もたれた壁のほめく立聞  
1639 根津のやき物今にすめかね 
1640 背中で蠅の遊ぶ腰ぬけ 
1641 旅を哀にしたる順礼 
1642 聞出して無理に買せる惚ぐすり 
1643 基佐を取残す大原 もとすけ 
1644 百度参の跡を掃出す 

1645 郭公思ひ〳〵に漕出させ  
1646 初午の裏はかけ菜に気が腐リ 
1647 娘が逃て追人なくなる おって 
1648 過去帳に惜しい男をとめて遣る 
1649 落馬を恥に立ぬ意地張 
1650 追人の腰の抜るはし詰 
1651 六ツと六ツとが鐘のおもいれ 
1652 蚊ばしらの顔へ崩れる半太夫 
1653 とし忘夫婦で仕舞ふ八重むぐら 
1654 牛盗人の棒で仕かける 
1655 浅草に舅が出来て歩行かね 
1656 鍔の鳴る刀の売れる八王寺 
1657 命あるものを残して汐干がた 
1658 苦いきせるをはふる鹿聞  
1659 鶯が能けれは籠に欲が出来 
1660 まだ捨切らぬ神へ言伝  
1661 鵜遣ひの流につれて身のひねり 
1662 鰒といふ奴が出てより面白き 
1663 幡に隠るゝ衣屋の嫁 はた  
1664 篠懸を這ふぼんぼちの虫

1665 物思ひ蝕の盥へ寄つかず 
1666 面打の振向方にかゞみ立 
1667 娘の意地を立る負公事 
1668 気のながい遣手へ猫の行当り 
1669 能なし猿を居ゑる摂待 
1670 仮名を書せてなぶる金剛 
1671 かき立る手も真青に石燈籠 
1672 たいこが顔にすり付る伽羅 
1673 本陣のはるか奥より針の銭 
1674 うまい息子のあそぶ朔日  
1675 天の川淋しい幮に若旦那 かや 
1676 抱付て明るく成リし恋の闇 
1677 裄丈の揃はぬ内が誠なり ゆきたけ
1678 引出の走リ過たる噂言ひ 
1679 いつ見た儘かけいせいの夢  
1680 うき世絵書へ隣から膳  
1681 めぐるいんぐわのはやい銭箱 
1682 妾の親の見飽く人参 
1683 開帳に下る仏を小笹ばら
1684 鰹の罪は酔て顕れ 

1685 泣く子をば乳母に預けて立姿
1686 だうらくで痒い所へ手が届き
1687 うき秋をたき付て行く黒木うり
1688 鰯ある日の空に知らるゝ 
1689 声を立るといふが奥の手  
1690 蓬生に左まへなる風の神 
1691 昼顔も溜息をつく小名木沢 
1692 双六に片手のきかぬ五月雨 
1693 生ながら何にあはれて常念仏 
1694 燈籠の火を細々と梅寒し 
1695 青いもの着るかるい疱瘡 
1696 新造のわつかな願をかけながし 
1697 強飯の訳も知らずに目出度日 めでたい 
1698 かい敷の笹に手を引く稲びかり 
1699 入智恵に口の揃はぬ恋衣 
1700 念者に似合ふ大づゝみ打 
1701 文盲な駕は寐て行くかゞみ山 
1702 須磨とあかしは曠な知行所 
1703 野守の鷹の水底を飛ぶ 
1704 晦日ほど人の心にあかれけり みそか 

1705 行脚の夢の顔へふろしき 
1706 口留をして出す庵の小さかづき 
1707 夕顔咲て汁が喰れる 
1708 身の代もつて這入る蓬生 
1709 寺にさへふしょう〳〵な午まつり 
1710 明後日とかるく請合ふ水浅黄 
1711 赤蛙国主の腹へ這入けり 
1712 大黒の吝い所をゑびす講 しわい
1713 寄つてかゝつて憎む六波羅 
1714 座頭の口で止る売居ゑ 
1715 能い顔をさがしに出たる朝がすみ  
1716 死で願ひの叶ふ書置  
1717 及の笑ひのうまければ降 ぎゅう
1718 帯といふものは日本の後ろつき
1719 色々に夜着を着て見る翌る晩
1720 分別ざかり北面の武士
1721 物干へ鳶の蹴落す蟬の聲 
1722 下戸の差出を責る盃 
1723 紅紙燭夫から先は御意次第 べにしそく 
1724 涅槃像あらゆる泪こぼしけり 

1726 蕣に狐を馬の草履とり あさがお
1727 一盛リ二人の親を淋しがり 
1728 蘇生の隠居人に見らるゝ 
1729 枕の数を持たぬ獨リ寐 
1730 そといふ文字を嬉しがる婆々
1731 喰摘にことしの物はなかりけり 
1732 水に寄るわが黒髪も二つ折 
1733 瀧の調子の狂ふ荒行 
1734 酒にする気でぬるい雩 あまごい
1735 言たてに一つもならぬ恋の闇 
1736 漸々と臍の緒落る雛の主
1737 奇麗な京に高い小便 
1738 退た狐の急に餲ゑる のいた かつえる
1739 礫のやうな法の返答 
1740 小姓の棹で水門を出る 
1741 暖な咄して行く鉢たゝき
1742 蘆芦分舟のいたいめをする あしわけぶね
1743 嵐の巻て通る小むしろ 
1744 佛より先に言るゝ毘首羯磨 びしゅかつま 

1745 かばやきの煙の中に善の綱 
1746 三味せんは乞食の膝へ作り付け 
1747 角力取髭人参に助られ 
1748 きしむ戸を踏放されて雲の峰 
1749 残らず紅絹のわたる看病 もみ 
1750 破軍の下を歩行く傾城 
1751 三条へ出て元の気違ひ 
1752 勘当された一周忌来る 
1753 合口の友に成るなら御納戸茶 
1754 棒を習つて憎い口聞く 
1755 翌京と言ふ近江路の心持 あす 
1756 茅の輪を抜ける不拍子な顔 
1757 髪際に無理の残る墨染 
1758 おもひ錆付くお物師の針 
1759 むかしの事を思ひ切る親 
1760 去年のけふ逢ふたまゝなる紋所 
1761 初嵐広い通りを横に行 
1762 三十に成ると女の世がすたる 
1763 また針指の出来る囲れ かこわれ
1764 両方の目のいそがしき中の町 

1765 誓文を立る若衆の聲高く 
1766 遊行の札をさがす綻び ほころび
1767 かはらの煙リ白髭へ行く 
1768 木馬の側にかゞみ見て居る 
1769 土器師ともに鶉を誉て居 かわらけし
1770 にはたづみ夜も鳴鳥の水かゞみ 
1771 百日法華また杖をつく 
1772 寒聲の仲間はづれは物おもひ 
1773 太鼓へあたり曠な散銭 はれ
1774 灌仏の湯気に隠れて一二町 
1775 だかれて来たる鶏の身振ひ とり
1776 大屋も知らず玉のこし来る 
1777 御物語に低い手まくら  
1778 凩に向て奴の反かえり やっこ
1779 梓にかゝる若衆さびしき 
1780 うき時の丁子頭に唱へ事 
1781 風巾を貰ひに吉はらの屋根 たこ
1782 薬いぢりのうゑる桑の木 
1783 結納にあたりのわるい若手代 
1784 寐入られぬ心につかふ有つたけ 

1785 枕かや見て吹かぬ山ぶし 
1786 洗つた馬のかはく松かぜ 
1787 小僧が智恵は飛ながら出る 
1788 何所やら匂ふ新御所の雨 
1789 関守に時宜をして行く傀儡師 
1790 明暮に糸ゆふを汲む油うり 
1791 家守の耳を鳴つぶす蟬 
1792 物ぐるひ関の清水に聞惚て 
1793 幮を振つて枕見出され かや 
1794 本阿弥に星をさゝれて跡しさり 
1795 乞食寐て居る売居ゑの門 うりすえ 
1796 焚火に塩の落る腰簔 
1797 雨乞に力を添へる尾長鳥 
1798 こせ〳〵と何ぞ言たい念者の気 
1799 二日つゞいて買かつぐ夢 
1800 通れと声の尖る関もり
1801 小さい手からうまい小つゞみ 
1802 はらを立とき黒髪は殖えて見へ 
1803 孕器用も尻知らずなり はらみ きよう
1804 夜はほのぼのと古市の文

1805 雨の祈の光る山ぶし 
1806 大造に可愛がられて長恨歌 
1807 呼屋の婆々のうか〳〵と老 
1808 先達の棒を集めて宿を取 
1809 どつかりと寄る牢人のとし 
1810 道具鄽ほど頃日の髪かたち てん:店 このごろ  
1811 寡のおもひ念佛て消す   やもめ 
1812 らうそくに力くらべの緋縮緬 
1813 焙烙売のだます村雨    ほうろく
1814 病人が看病人を連れて逃げ 
1815 石の様なる名ぬし派が利く 
1816 借筆に言訳くらき恋の山
1817 子宝に喰立られて歌まくら
1818 烏の子一雨づゝに羽の光り
1819 暮六つまへに大またな武士 
1820 乳母乗て動かぬ池の捨小ぶね
1821 七曜へ吐く船頭の息  七曜:火星・水星・木星・金星・土星・太陽・月
1822 針箱へ額が付とかんこ鳥
1823 常念仏声が替れば近くなり
1824 隠す事なくて女房の老にけり

1825 物悦びのよごれもの着ず
1826 妾の尼の言いじらけ也 
1827 灸のすゑ人を持たぬ墨染 
1828 吉はらの恥もおもへば一周忌 
1829 縄代に夕べころんだ下駄が浮 
1830 幾度か聞く何がしの寺 
1831 上戸のぶんは残る子の刻 
1832 糸細工人の気を置く当麻寺 
1833 春の野や飯粒をふむ山かづら 
1834 恋風の横からあたる涼ぶね  
1835 座頭の噺飛々に行 
1836 清瀧迄はかつぐ挑灯     
1837 湯どうふの有ゆゑ人の二日酔 
1838 子には噺のあわぬふりつけ 
1839 鳴聲は葎の宿のふとり牛  
1840 鉢たゝきたゝき仕舞へば鉦の音 
1841 曲だいこ若い姿のかげぼふし 
1842 目の覚た縞を着て居る名代乳母 
1843 呑たい折に見えぬ丸薬  
1844 子にふろしきを かける日蝕

1845 つげ口は鳥に成つても憎がられ
1846 うれしさの袖も涙の大あぐら 
1847 みのわの言葉問ふに及ばす 
1848 隣の反吐にあはす鶏  
1849 涙の雨は殿をかろしめ 
1850 旦那寺春の道具に遣はれて 
1851 笙の師へちらり〳〵と御扶持方
1852 若衆の肘の袖笠に出る 
1853 一本松のぬれてとし寄 
1854 紙雛の物にかまはぬ立すがた
1855 片折戸立ても内は生ざかな
1856 目がねでも今は暦に歯が立ず 
1857 三輪の山夜の女にふりかへり 
1858 側で口舌も知らぬ夢助 くぜつ
1859 くろもじに足軽の手も香ばしき 
1860 色には出さぬ京の貧乏 
1861 十日ほど覗かぬ様にとうがらし 
1862 浪人の門田を植るやりぱなし 
1863 京を相手にきつい事いふ 
1864 緋の衣眠たい朝の仕事也

1865 谷七郷の魚ひかる也 やつ 鎌倉
1866 隙な日は系図見て居るゑぼし折 
1867 未来の種も捨ものゝうち 
1868 呼子どり青い顔から先へ出る 
1869 悟り尽して元の羽二重 
1870 可愛がらるゝ種の三味せん  
1871 取揚婆々のおどる乗もの 
1872 異見せぬ遊びははやく倦が付 
1873 畳の上の蝶はふり袖  
1874 家督あぶなく器用過たり 
1875 稀に吉田の二階から顔 
1876 桟留を着るもさかりの草履取 さんとめ
1877 山伏の火の草へ来て消へ 
1878 美しい気を捨る三十 
1879 よく似た顔に遠いさゝやき 
1880 光陰の中にも八日十二日 
1881 費な顔の見へる九重 ついえな
1882 鼓も下手に狸老けり    
1883 此日ざかりに昼がほの淡  
1884 茶碗ではあたりの濡る硯ばこ

1885 夢に見るつもりで昼も文まくら
1886 灯に向ふ女の顔へ夏の虫 
1887 涙をかつぐ供の乗もの  
1888 人形遣ひの惚どころなき 
1889 貰ふたを扇で分るかきつばた  
1890 はだかな人によける清水 
1891 春の夜を少し買ばや宝ぶね 
1892 巡礼の棒をひくのも気の転じ  
1893 腹立つて着る裄が揃はず 
1894 まだ寐ぬ伏見つゞく売物 
1895 世のまこと忽くろむ善の綱 たちまち 
1896 銀閣寺斗見残す出養生 ばかり
1897 松風ともに質に取る山 
1898 遠くへ知恵を廻す餞別 
1899 仲人を二階の上ではつて居る 
1900 中間一人たよりない恋 
1901 振袖に稲妻よけてやり過し 
1902 瘭疽を病んで起請こはがる 
1903 打れる瀧をにらむ剛力 
1904 仲人が来れば娘は針を取

1905 宝引縄の表奉公
1906 大門で車一輛しかられる 
1907 旅衣工夫を頼む同い年 
1908 有たけの姿を作る願ほどき 
1909 気の付ぬ林の煙をむら時雨 
1910 稲妻這入窓に念佛 
1911 一つ穴からわび言が出る 
1912 よそ目から案じて貰ふ懸リ舟 
1913 鰐口の惣名代にお乳の人 おち 
1914 鳴子引よその宝を守りつめ 
1915 雨まで誉て戻る仲人  
1916 顔上げて空を伺ふ出かし口 
1917 酢があれば生で喰れる春の海 
1918 子共が持て遊ぶ錦木   
1919 なまりぶし若葉の中に哀也 
1920 近付の名のかはる浜萩 
1921 仲人の器量が能て片だより 
1922 鰹の恥の多い日暮里 
1923 袖留てからよく夢を見る 
1924 辛味大根をくばる小原女

1925 鍋ぶたで蚊やり押へる八重葎
1926 住吉は草へはね出す膳の露 
1927 娘の唄の篳篥に合ふ ひちりき 
1928 先徒士の通りに曲る潦 にわたずみ
1929 昼寐して居ても床しき葭簾 よしすだれ  
1930 あほう遣ひに代々の森  
1931 前うしろ陽炎もゆる四十七 
1932 執行者に薪の行衛打抜れ しゅぎょうしゃ
1933 売喰の裏に淋しき捨徳利 
1934 去られた妻の去リ跡へ行 
1935 慈悲有る母をうらむうば玉 
1936 丸山で琴三味せんに合はぬ唄 
1937 大きく這入る昼の忍び路 
1938 薄紅葉人形を塗る九老僧 
1939 あぶない義理の出来る男色 
1940 一人づゝ鏡借リ合ふ松が岡 
1941 盃に追廻さるゝ大をとこ 
1942 日蓮の世も僅十月 
1943 汗かきの命めでたき今朝の秋 
1944 一夜鮓宮と桑名の人ごゝろ

1945 忍べば内も盗人の分
1946 大宮人も蚤を取る顔 
1947 蓬生へ左り前なる風の神 
1948 取リさへて肌入るのを見て帰る 
1949 市の有る日は遠い入相 
1950 豊のあかりに拝人が来る  
1951 水入れて麩も朝顔も遣ひ物 
1952 こゞとの口で燈明を消す  
1953 二度迄はたてかけて見る銅盥 
1954 生玉子いで呑といふ時の事 
1955 経師屋の刷毛は塗師屋の影を行 
1956 一重ほどおとつたやうにならの京 
1957 植かへの内は早苗の男業 
1958 蕣に足跡の有る物がたり
1959 女が減らす八瀬の松風 
1960 夕すゞみつまる所は丸はだか
1961 惚てから遥後也恋の闇 
1962 鉋ばかりが仕舞はれる音 
1963 役者の駕にしぐれ見送る 
1964 うき別れ臂に畳の筋を引

1965 只縫ふて居て額にて見る
1966 傘かりて絵馬の郭巨の長咄 かくきょ 
1967 放し鳥行く黙礼の間 
1968 事ぶれの鼻かむ袖を鈴の音 
1969 四季ともに松虫のある長局 
1970 子の生い立もさくい吉原 
1971 軒から棒の下る夜あらし 
1972 寒念仏呼込内も鉦の音  
1973 此やうな顔してといふ顔は似ず 
1974 奥へ召すのが武士のおとろへ 
1975 草履へ飛んで下る棚経 
1976 解けば妾の気に障るなぞ 
1977 局の部屋へ狐なくなる 
1978 房までもむやつく室の長枕 
1979 あきらめて居る口へ人参 
1980 追詰て見てまだ後家でなし  
1981 棒突は欠びの顔を水かゞみ 
1982 三味せんの隣をうらむ山ざくら 
1983 はたけば匂ふ宇治のさむしろ 
1984 心程行かれぬ年の茶碗うり

1985 見立違で夜を長く寐る
1986 蚊がたかる取あけ婆々の足のうら 
1987 舟引の筋違ふ形りに雨が降 
1988 母は半に戻る軽業 
1989 蕣のさきて結れるみだれ髪 
1990 一口の湯も養生のはしとなり 
1991 世捨人むかしの気にて夏を待 
1992 蘭の香に出入心もうつくしき  
1993 掃出せば廻つて這入蝸牛 
1994 むかしのさらぬ人形の顔
1995 池上参り珠数のふり合 
1996 ゆさばりに小僧を乗せて誤らせ 
1997 人みせにせぬ孝行は人が知る 
望楼之部(二十点) 
1998 可愛がられて今に浪人 
1999 犬追ふ物も仕立屋が付く 
2000 連の出る内雞を抱く 
2001 むかしの㡡の余る隠れ家 かや 
2002 いつの間に刀をさして夷講 
2003 待わびのむしられ物に桜草

2004 波風の相応に立男ぶり
2005 見事に濡れて母へ傘 
2006 向うの軒の近い正月 
2007 屋根板の飛ぶ冬の白川 
2008 若葉に成て御鬮隠るゝ  みくじ
2009 見もせぬ文でげぢ〳〵を追ふ 
2010 人知れずこそ面白い科 
2011 俗で拍子のぬける柴の戸 
2012 たゝかれる人も扇も其日切 
2013 わかめの波へ投ふる松明 
2014 あぶなく乗て通る馬医者  
2015 松風に気の付かぬ剛力 
2016 殖ずに仕廻ふ母上の金 
2017 聞よりはやく母は呪  まじない 
2018 萩の上からやせる蚊の聲 
2019 百夜を越して傘が干る 
2020 椽へならべる蛍見の膳 
2021 けふからは帯の短い菊の花 
2022 江戸のぬかりは夜のあみ笠 
2023 山伏の一間置に低く吹

2024 鼬に棒を投る大門  いたち
2025 手を引た女別れるにはたづみ 
2026 西日の町に捨てゝ有る人 
2027 よし原で翌の仏の凄く成 
2028 鶏のなみだのかゝる俎板 
2029 仲人が来て笑ふ神主 
2030 恋にひかれて若いかんきん 
2031 奈良に三日は一生の損 
2032 傾城の住ふ所に夜はなし 
2033 旅でも茶屋は生た物いひ 
2034 純子は繻子の若い兄分  どんす 
2035 鼠の痩に這入る新蔵 
2036 大晦日もうばはうきもの 
2037 志賀のむかしを近く言なす 
2038 今度も女伯母ひとり誉 
2039 平鬠のうごくうたゝ寐 もとゆひ 
2040 河風を串にさゝばや御祓川 
2041 懐の子をゆり起す願解き ほどき 
2042 樹の上で追人の者の小言聞 
2043 警固の杖の黄ばむ六月

2044 強力を先へ押出す丸木ばし
2045 古郷は木綿の強い斗也
2046 桜草にて過る中陰 
2047 馬を呵るに馬士の一声 
2048 関守の手を洗ふ黒髪 
2049 傘提るひより見の伊達 
2050 空也寺へうたんのなる垣を結
2051 糠屋へ来るは聟の本望  
2052 女に垣のゆるい九重 
2053 金剛杖を倒す松風 
2054 干鮭の目もこがらしの道 
2055 哀は上へ知れぬよし原  
2056 尼に成つても乳の張る寺 
2057 問屋の向ひ鸚鵡つたなし 
2058 六十四州眠る元日 
2059 鳥居が立つて夜明新らし 
2060 家内が立つて見たる鮟鱇 
2061 陽炎の中に乞食の物狂ひ
2062 盛上られて動くこんにやく  
2063 雷の落つく後家をあてこすり

2064 むかし咄に庵の戸が明
2065 此ごろの銭座つぶれて松の風
2066 色に出て其行末は青あらし 
2067 死んだ女郎を誉る初雪  
2068 都鳥若衆の舟は漕おくれ
2069 六月のひなたにぬかる長まくら 
2070 酔ぬ鰹を草の戸の曠 はれ
2071 本卦がえりも同じ魂
2072 かたみの髪の見る度に減 
2073 鹿を夢見て奈良に落着 
2074 新地に道の殖る優婆塞 
2075 栗の花ほうけて簔も草の音 
2076 京には肌をぬいだ佛閣 
2077 万歳馴し婆々の挨拶 
2078 開帳の江戸に着日は初松魚 
2079 役の行者の松明に酔ふ 
2080 かまくらで寄る勘当の年 
2081 けいせい買の内のなりふり  
2082 双六の賭に夫の顔を見る 
2083 黒焼でした恋も生死

2084 鉋屑ふく若い入相
2085 柄杓のそこをさらす蓬生   
2086 いひ訳済むと元の大聲  
2087 腹たつ顔の坤見る  ひつじさる
2088 さゞ波や古あみ笠の流れ行 
2089 四十八夜は後家の光陰  
2090 臑から灯す今の万灯  
2091 木挽の臍の燃る昼がほ  
2092 高尾が願ひ道哲を見る  
2093 黄檗は障つても鳴る物斗 
2094 ひそ〳〵そゝる伶人の顔 
2095 大工の知恵の凄い唐門 
2096 賃仕事たまる所に草の露 
2097 犬追ふ物に急な元服 
2098 日数経た肴を誉るはまちどり 
2099 今戸の旭煙から出る 
2100 倦はしの手斧はじめは面白き 
2101 鳥甲着た人の百つら 
2102 分別もない夏のふところ 
2103 箱御祓に少し物音 

2104 宵に寐た所の違ふうき寐鳥 
2105 紗綾ちりめんの中に盃 
2106 おつかなそうに踏ならす胞衣 
2107 へうたんを扇に乗せて世を観じ  
2108 妙やくは母の覚えて初がつを 
2109 ひじり窓をば振ぬ錫杖 
2110 高野ひじりを留る大聲 
2111 世に出る乞食瀧にうたれる 
2112 横日淋しく後家の縫物 
2113 琴のうしろをふせぐ母親 
2114 露の身の浮世へ出ると雨が降 
2115 三代先を婆々の大口 
2116 草分の思案のもどる祭リ前 
2117 あぶない茶屋へ蓮の実が飛ぶ 
2118 百稲荷すむ小野の古道 
2119 連添ふた元の起は書はじめ 
2120 中間の綻を縫ふ衣がへ 
2121 双六も灯の来る内の仮まくら 
2122 真木も家老も御国から着く 
2123 思案極て辻駕を呼ぶ

2124 四手に憎いものはふり袖 
2125 付木遣ひのあらい勘当 
2126 ふいご祭りに消へる鍛冶の火 
2127 琵琶の聞人を持たぬ四阿 
2128 ひづんだ家を誉る築しま 
2129 恥しめられて寐入るものゝけ 
2130 剃る気で打か夜半の柴の戸   
2131 赤穂へ送る狂歌案じる 
2132 床へ坐つて直す寐みだれ 
2133 勘当させた人も勘当  
2134 楊弓射も爪はづれもの  
2135 夜の葎をたゝく借り金  
2136 禁酒〳〵も気の知れた人    
2137 むすんだ形りですたる水引  
2138 やつこと言ふもむかし吉原  
2139 高野聖にうそのない年  
2140 面白くせんべいを喰ふゑぼし折   
2141 うつくしい後家を怖がる節句前 
2142 戸の締る音に崩るゝ辻ずまふ 
2143 つゝみかね小間物売をはつせ山 

2144 八重むぐら臼ぬすまれて広く成  
2145 取巻て聞く聟の白状  
2146 帆かけ舟半分はまだ夜が明ず 
2147 つゝまれて浮人形のうき沈み 
2148 昼つる蚊屋に出来た岩倉 
2149 四十二の子の美しい袈裟 
2150 高い手代の九重を出る 
2151 薮蚊追出す夕がほのやど 
2152 灯を掻立に這入る六月 
2153 よく似た顔をふところへ入  
2154 一つ咄の届く難波津 
2155 弟出来て譲る朔日 
2156 隅田のかすみを親子して漕ぐ 
2157 順見送る跡の大聲 
2158 川柳流れしだいに戸を洗ふ
2159 脈のうしろを仰ぐお局  
2160 近く行姿はもたぬ帆かけ舟
2161 赤子拾うて邪魔な物知リ 
2162 あみ笠は今の世にての隠れ笠
2163 犬追ふ物にもたぬ近づき

2164 夫婦おろかに同じ事泣 
2165 宇津の谷は喰れぬ物に銭の音
2166 愛染はゑくほを守る形でなし
2167 年季が明くと重い着る物 
2168 土産にならぬけふの詫宣 
2169 鬼門に当る枝の我まゝ 
2170 柴の戸をあなづる鶴の下リ所
2171 土蔵を建てゝ家の息継  
2172 精進にうそもつかれず暮遅き 
2173 ふるい日の心がゝりハ合歓の花 
2174 母は命をほめる凱陣 
2175 夏山の汁の枝折はたうがらし 
2176 数珠きるあしたさんごじゅを買 
2177 味噲汁に御意の下たる若たばこ 
2178 薺のつらをふんで行く春 
2179 笋に一夏もめる神宮寺  たけのこ 
2180 捨舟に木食一人雲の峰 
2181 起請の灰もさゆのいきほひ  
2182 暑き日を追廻したる夕河原 
2183 こらへ兼てか清水へ行 

2184 男ひでりの中に長刀 
2185 鶏買ふて夜も見に行 
2186 剃刀の刃へひける光陰 
2187 尾花がもとへ通ふ仲人  
2188 降る雪の明リ程なるたうがらし 
2189 秤に軽き水の本望 
2190 口留をする精進も有リ 
2191 まだ夜は縞を羽折て桑門 よすてびと 
2192 狐にほれる若草の中 
2193 寐かして置ていなのさゝ原 
2194 罾引大きな慾はなかりけり よつでひき
不騫不崩之部(二十五点)
2195 初て雨にぬれるつり鐘 
2196 麻上下の世話も寒だけ 
2197 側のもの見る手枕の夢 
2198 七小町気楽な時もなかりけり 
2199 並んで飛べば憎い人魂 
2200 帆をかけて来る京の分別 
2201 喰ふ雪の降る蒸籠の上 
2202 座当つくねて仕舞ふ横雲 

2203 細工が出来て唇を噛む 
2204 牛馬に喰立らるゝ八庄司 
2205 兜巾押へて舟へ飛込む 
2206 一晩は扇のしめる音頭とり 
2207 高座へ立た女見たがる 
2208 よい事はさせぬ西日のひがし山 
2209 文が届いてかはる夕ぐれ 
2210 男に持つて見れば皆夢  
2211 夜食の喰人殖る宵鳴 
2212 役の行者の立て居て喰ふ  
2213 つれない心羽二重に倦  
2214 内から帯の締るかんにん  
2215 愛宕から見る祝言の家   
2216 ぢろりと見ては通る桶伏  
2217 宵の気で胞衣を埋れば山かづら 
2218 腹立ふりを恋のはたらき  
2219 浪人の心に着せる蓑と笠 
2220 娘のほどく生鯛の糸 
2221 迎揃て下戸のぬき足  
2222 口のはしこい方が村雨 

2223 雨が止んでもくらい中宿 
2224 翌日は気のぬけて居るぬくめ鳥 
2225 律儀に持つてくらい松明 
2226 下女の奢も荒神の荒れ 
2227 三つに成と枕はかなし 
2228 真じ目に成るが人の衰へ  
2229 跡から消える後家の分別 
2230 見合て向ふの家も毒に成 
2231 文を逆さにふるふ瓜網 
2232 気違も春のものとは也にけり  
2233 子の声も鼻にかゝつて紀三井寺 
2234 思ひがけなく比丘尼有る町 
2235 稲妻の大きく這入る金閣寺 
2236 高い物買ふ嫁の相談 
2237 二代目からは常の人間 
2238 恨にも要はたつた一所
2239 若後家の二言迄は聞ぬふり
2240 鳥居からはだしに成つて願解
2241 あぶなく見ゆる名人の年 
2242 江戸の言葉で借リ座敷出る 

2243 無仏世界の行先に寐る 
2244 乞食生るゝ松風の中 
2245 新地の夢の覚る引汐 
2246 旦那に成つて見たる晴天
 
俳諧武玉川 三篇 終

初篇
二篇

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俳諧武玉川 二篇

俳諧武玉川 二篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )

冬嶺之篇(十五点)
718 あんばいのよい朔日の空 
719 陽炎やとかく何ぞに倦た時 
720 口洗ふ馬のくはへるかきつばた 
721 紙漉のたま〳〵よめてかこち草 
722 雑司谷駕から顔が二つ三つ 
723 親父が見ては済ぬからかさ  
724 去られてもさられても未だ美しき 
725 鰒の師匠の駒下駄で来る  
726 四十から老曾の森へ飛んで行(おいそ)
727 さし上て見る縫紋の出来  
728 眼薬をさして大事に起あがり 
729 病上り工夫して居る遊び所 
730 年忘何ぞ降のを待て居る 
731 隅田の渡しの夕暮を骨 
732 物買て背筋のゆがむ小侍 
733 河竹の本のこゝろは女也

734 赤子は膳で見えぬ正月 
735 井戸掘の心覚えに蛙啼 
736 一分くはへて内へ引く息 
737 九つは禿の消える鐘の聲 
738 朝顔を粉にして歩行く男の子 
739 春寒く廻り人のない法輪寺
740 子を持妾観音を引
741 奥に娘の光るかざり屋 
742 やもめがらすに張のない風 
743 切賃は金のなくなる始なり  
744 足で鼠をおどす万歳 
745 薮入の田の近道をうち忘れ 
746 うまい事言うた師走に助け舟 
747 一葉づゝきたなびれずに散る柳 
748 似ぬ顔を産んで我が身も疑はれ 
749 掟が有て同じ黒髪 
750 隣の顔も飽るくすり湯 
751 はね馬に逃込む顔の久しぶり 
752 札配リ遠くも来ぬる角田川 
753 日向で灸をすゑる四阿 

754 あぶない義理の届く吉原   
755 富士を見て田植の髪をゆり直し 
756 更るほど気の若くなるとし忘  
757 辛子が利て時過た声  
758 物ぐさひ瞽女に引るゝ糸ざくら
759 鹿聞の淋しい足をうち違 
760 犬死の側で妾に成リおほせ 
761 鳥屋の前でおりる遠乗  
762 榊来て鱠の山は低く成 
763 投れば切る枚方の銭   
764 東路は仕舞仕事に風の神 
765 袷着て新地は寒い赤蜻蛉 
766 婆々が死んで中垣がとれ  
767 節句前文も五尺のあやめ草 
768 あふひの上の袖に護摩の香  
769 身のうちに帯がふえると芥川 
770 入相に向ふ姿の膝をたて 
771 田楽がみじかく成と冬籠 
772 かんこ鳥江戸の暑さはしらぬ也 
773 若菜に揃ふ桶川の君 

774 角万字屋で折るゝ稲妻  
775 出代の門四五間はかけて行 
776 しかられた日の分けて夕ぐれ 
777 宵闇の夜のしまる行燈 
778 尖に毛抜もありがたき物 
779 うそがかうじて上下で来る 
780 蕣にあついきせるの打違 
781 をどりを押てはいる蓬生 
782 たいこの年の星をさゝれる 
783 聞捨にしてはおかれぬ梓弓 
784 をとこのほしい勢田の真中 
785 蜘の巣ぎりで戻る売居(うりすえ) 
786 ふすまを覗く太郎国経 
787 我たつ杣のしらぬ年号 
788 曳たび袖のみえる罔両(かげぼうし) 
789 行燈にまだ気のつかぬ暇乞 
790 浪人の羽のぬける元日 
791 妾の智恵も河竹の風 
792 虫の命の燃るあさぢふ 
793 他人の足に負る鳥辺野 

794 雲の行衛の住吉で散る 
795 嵯峨より深きあみ笠の奥 
796 雉子鳴て震か〳〵と撥を留 
797 鏡にせいてかゝる庭鳥  
798 けふ九重を裸にて立 
799 入墨を消す気に成れば夜が明 
800 紅裏のないも笑止な土用干 
801 心ある酒とはしらぬ従弟間 
802 三人傘にうたがひはなし 
803 様と云ふ名で来る時は忍ぶ草 
804 神風に吹消れたるもみぢの火 
805 吾妻くだりの青いからかさ 
806 不沙汰の顔に合ふ面がなし 
807 つまみ洗ひの手を振て置 
808 あり甲斐なしの笙吹の鼻 
809 陰間の声の二筋にたつ 
810 四十二の子の親が沢山 
811 ほとゝぎす皆出来合の葉也けり
812 三味線の跡を因果と引かぶり
813 朝みれば御油赤坂の家計(ばかり)

814 宵のうらみの二段目が出る 
815 女房も只取るやうに通り者
816 夏野に家のつまむほど出  
817 降ものゝおのれを諷ふ板庇
818 酔狂の翌は浮世に突あたり(あす)
819 明がたの戸をたゝく高声 
820 情しらずの笑ひ大きし 
821 看病に薬のやうな顔一つ
822 座頭はなせば文のうへ行 
823 鰒買て余所の流しへ持て行
824 夫婦喧嘩の外で小便 
825 倒れ序でに住よしの市 
826 松風の裾わけをする萩の上 
827 帆かけ舟先が直てたはいなし 
828 隠居の小判うごくあつかひ
829 子の口吸うて音頭分れる 
830 立ながら見て帰る金元 
831 紙燭の反りを土器で摺(かわらけ)
832 海馬もらへば背中たゝかれ  
833 生酔の次第〳〵に丸く寝 

834 瑞軒を見た杣の長命  
835 利そうに思ふは銀のくすり鍋 
836 鯲の中へはかるうの花(どじょう) 
837 めぐろの犬も冬がれに成  
838 検使にこ〳〵下帯に金  
839 旦那へさして逃るさかづき 
840 向ふ木挽の揃ふ鼻息 
841 浅草も上野もなりて郭公(ほととぎす)
842 三疋ではねれば馬も詠あり(ながめ) 
843 早乙女の笠は裏から日があたり 
844 醫者に二度まで積らるゝ顔 
845 二つ重なる囁きの傘 
846 後家のやうなる牛若の影 
847 くやしい声で横顔へ向  
848 下戸ふたり起して廻る司召(つかさめし) 
849 通りの傘へあたる豆蒔  
850 物思ふ相手がなさに幮を釣り(かや) 
851 うしろ姿はしれぬ関守  
852 狩衣は茶を呑たびに腕まくり 
853 肩へかけると活る手ぬぐひ(いきる)  

854 むだ書をして梶の葉をかむ  
855 雨だれ越にかるい相談  
856 朝日のあたる盗まれた窓 
857 掌を死所にするきりぎりす 
858 鳥辺山送り出して耳が鳴 
859 工夫してきのふへ返る紺屋形 
860 美しい顔で咄が長く成 
861 誘ひに来ると見えて割膝 
862 へん〳〵と扣く御寺の大工小屋 
863 母の自慢は錦木の数 
864 ながらへて新地にすたる真桑瓜 
865 向ふへ鑓のしづむ長橋 
866 いつ逃て樒に光る飼蛍(しきみ)
867 弟に余つた乳の水くさき 
868 鐘の音計黒き雨乞(ばかり) 
869 銀のちろりの通ふ紅閨(こうけい)
870 京町のやりての声で猫の真似 
871 土埃うしろへ請けて梅の花 
872 長い祈に割れる勝山  
873 両陣をすくひ仕廻て勧化帳 

874 取楫は畳のうへで成仕事 
875 巻くのも手間のとれる国状  
876 泊客主の口が辛くなり 
877 金に勝のは只ならぬ顔 
878 売家を隣に持て淋しがり 
879 雪やくそくは雨性の伊達  
880 直のなつた跡の祭にはつせ山(ね:値)
881 鶯は谷へ戻してかたみ分 
882 夜は老そめる九つの鐘(ふけ)  
883 人のくすりに燈す峰の火  
884 書置に引くらべたりあづさ弓 
885 蚊屋一重向ふに人をあやまらせ 
886 言訳のくらい男へ飛ぶ蛍 
887 傾城と見たはひが目か竹の奥 
888 をどり子下地しぼり出す声 
889 腹だちの手元へ見える鳴子引 
890 水を女の怖そうに掃く 
891 我物に師走は戻る貸座鋪 
892 精進落に大判を見る 
893 さし合を抜けば聞へぬ願書(ねがいがき) 

894 ゆく〳〵は蛍にならん草の菴 
895 痞の毒を知りてかむふみ(つかえ) 
896 鏡から崩れそめたるおさな顔
897 畳んだ物の見へぬ独身 
898 人形に惚れて禿はしばられる 
899 後藤が馬の帰る夕陽 
900 雨あられ雪と替りて日がつぶれ 
901 楼船と聞てぞつとする冬(やかた)
902 針仕事手がるく成て夏近し
903 勘定づくの馬でよめ入 
904 塩気の抜る蜑のおとろへ(あま) 
905 ふつた所がけいせいの禅 
906 我身ひとりのやうな神託
907 ういた浪とやむかし人乗 
908 山科や集るうちによいをとこ
909 奢かへしておごる逗留 
910 夕顔咲て井戸掘の帯 
911 飯入て少賤しきあま小舟 
912 初老のまだ竪縞をはなれ兼(はつおい) 
913 夜に飽く初は奥の紙きぬた 

914 凩も生れのまゝの材木屋 
915 五人に問へば五色な墓 
916 哀れさは千両箱に鰹ぶし 
917 六はらにしくじりさうな顔計(ばかり) 
918 帆を揚てから咄なくなる 
919 ちぎれ〳〵に石燈篭つく 
920 草履打片々足を洗ひけり 
921 汐曇はれて主なき桶二つ
922 青物や玉子の色の目にかはき 
923 こよりと聞て起る狸寐 
924 伐られぬ卯木九日にさく 
925 唐扇の自慢をしたる通り雨 
926 橋守の煙の高きわかれ霜
927 かる焼の忍び心はしめり合
928 帆におそはつて傘は売行 
929 烏帽子計で生て居る顔 
930 惚られた事を思へば気が抜けて
931 地紙うり笠着る時は物詣
932 さまざまに世はかはる呑喰 
933 咄しにも千人切は多過て

934 病人の手へしつとりと秋袷 
935 大江の岸を浮て行く下駄 
936 新地の間夫に蚊柱がたつ(まぶ) 
937 元服に又改て言かはし 
938 おつぼねの名に近い子卸 
939 ゆるひ黒木に笋をさす(たけのこ) 
940 栄花な腹を医者は怖がり 
941 呼声を母のにくがる李売(すももうり) 
942 うそのない旭を戻る小松原 
943 死ねば煙ではひるよしはら 
944 誰植ゑて人に淋しき峰の松 
945 けいせいの親に逢ふ日は雪が降 
946 糸遊のたんごに早きうつの山 
947 寐姿がよくて哀なすまふ取 
948 放し鳥とまれと思ふ木を過て 
949 事納着かへる程の日ではなし(ことおさめ) 
950 朝顔に追立らるゝさしむかひ 
951 背中へしれる猫の腹立 
952 雪の日はころげた侭の樒桶(しきみおけ) 
953 闇のとぎれるうどん屋の前 

954 須磨寺に夜着きて寐るぞ怖しき 
955 角力とりめと撫る子の尻 
956 母も哀と思ふほど惚れ 
957 夜かぐらやつめつた前へ廻りけり 
958 洛外へ出して目にたつ拂物 
959 若党をだいなしにする初蛍 
960 死だ和尚を誉るとうふ屋  
961 机ではたく梶の葉の虫  
962 直切ころして歩行く巡礼(ねぎり) 
963 葉桜に成つて気の減る銭の音   
964 指櫛が網に懸つて人だかり(さしぐし) 
965 馳走に竿を添る柹の木(かき)  
966 夜着の日陰に臼の目を切る 
967 いらたかを投ればしばし湯気が立 
968 段々に音のなくなるとろゝ汁 
969 みどり子に膳をとられて茶漬くふ 
970 竹植る日を主の聞捨 
971 脇の下から寒い羽ごの子 
972 送り火は他人の手にて燃上リ 
973 初奉公のこりるくらやみ 

974 よいおとこにも二通り大つゞみ
975 買人の手でつまゝせる薺草(なずな)
976 凩に買物使あはれなり
977 恋しい時は猫を抱上 
978 つむじ風格子の前で二つ巻
979 疱瘡にうどんの桶も出して見せ
980 郷侍の名を付る神 
981 あみ笠の鼻につかへるむかう風
982 座頭が出るとこぼす居風呂(すえふろ) 
983 娘から手代の間は紙一重(あい)
984 よい日和子守をなぶる松の影
985 従弟夫婦の両方に伯父 
986 町のはづれで仕舞ふ錫杖
望楼之篇(二十点) 
987 吉次が供のしたい事する 
988 狼の命拾ひは寒のうち
989 今がよいとは言ぬ後添 
990 燃る間を柄杓で扣く八重葎 
991 給仕の顔の遠い住吉 
992 辛崎は狐火までも朧にて 

993 人の物着て夜の岩倉 
994 そむけて糸を結ぶ綻び 
995 酒買時に灯のうつる川 
996 阿部川で人と思はぬふとり肉(じし)
997 高野聖も金の明るみ 
998 遊び尽した人を後見
999 伽藍の雨戸昼過にくり 
1000 朝顔くらく馬の髪結ふ 
1001 噛む爪も極つて居る物思ひ 
1002 庵の主聞へる方の耳を出し 
1003 我家へ漏をあてゝ雨乞 
1004 寺の余情に匂はせる蓮 
1005 烏帽子の跡の伏見まで見え 京都宝泉院の血天井
1006 門口へ野分の届く住居也 
1007 初雪のつまみ心もなくてよし 
1008 撫子に火の出る鍬の夕河原 
1009 我智恵で逃げた心の放し鳥 
1010 質に直のせぬ寶久しき(直:ね) 
1011 石をおろせばゆれる四阿 
1012 礫を拾ふうちに小舅 

1013 重着の数をあらそふ冬籠 
1014 放下遣ひの来ると見渡す 
1015 合羽の下の痒い志賀越 
1016 妻の小袖の尽る七種(ななくさ) 
1017 面白さうに振廻す幣 
1018 赤子の顔の似ても水物 
1019 夕顔が宿取人の眼にとまり 
1020 遠い思案に蚊屋を出て居  
1021 笈摺を縫ふ母の野心 
1022 憎い女を誉る薙刀 
1023 道成寺人のかけ出す雲が出る 
1024 拵すます殿のあけぼの(こしらえ) 
1025 下前にさゞ浪よせる志賀の浦 
1026 きりぎりす踊の足を間違せ 
1027 手数が入て返る羽衣 
1028 参宮とおもひ立にも身を忍び  
1029 こんにやく桶をこぼす弔ひ 
1030 八十七は手をあてる年  
1031 外を見ながら這入る乗もの  
1032 市迄は桶屋の夫婦身をちゞめ 

1033 葉薑も笹の雫の振心(はしょうが)
1034 総領は土蔵へ向てものおもひ 
1035 直きに妹と見える人代(にんだい)  
1036 律義に宿へ帰る節分  
1037 船の喧嘩の棒が流るゝ  
1038 一つはちすのもめる後添  
1039 ぐみがくばつて目鼻ちゞまる  
1040 むぐらの宿へ夜々の客  
1041 山茶花を折て左官はしらぬ振 
1042 起々は女の顔が大事也  
1043 損もなく遊んで歩行く屋形舟 
1044 行水こぼす先を皆飛ぶ 
1045 何ぞ鳴らして見たい護摩壇 
1046 虫干に仕舞ひ残して貸小袖 
1047 広げた所怖しい夜着 
1048 柏の虫の台所這ふ 
1049 短い袖に娘出で兼ね 
1050 棒の中行く外科の挑灯 
1051 新尼のことばのはしに貸しなくし 
1052 鵜舟の掃除子が付て来る 

1053 蜑も恵方へ潜る身祝(あま)
1054 先づ媒のなびく吉日(なかだち) 
1055 風車外山の松の吹あまり 
1056 隣へ行も鶴の粧ひ 
1057 疱瘡の後に仲人の寄付かず 
1058 娘にあてゝ誉る水仙 
1059 山伏のなぶられて越す日高川 
1060 広々と物を思へと留守に置 
1061 座頭の下駄の知れぬ五月雨
1062 大釜へ投込む薪のうはの空 
1063 軒をはなれて杖の商 
1064 江戸の起請を見せる島原 
1065 小声にて暇をさはぐ草履取 
1066 関取の巾着に行く若旦那 
1067 一日をきれいに歩行く藁草履 
1068 鹿聞の都へ出ても耳が痩せ(しかきき) 
1069 江戸見物の怖さうに寐る 
1070 河がつぶれて亭の捨うり(ちん) 
1071 黙礼の中を流るゝ割下水 
1072 三味線の次第に憎き年と成 

1073 姉の礫の届く蓬生 
1074 音のつめたい夜神楽の銭 
1075 くらい心に智恵は借し損 
1076 せきれいの尾のうごく筆癖 
1077 子心にさへ嫌ふ半襟 
1078 鏡売日に成て女気 
1079 衣々に木辻の鹿を追廻し(きぬぎぬ) 
1080 揚屋でつらのにくい伽羅利き(きゃらきき) 
1081 鶯や我罔両に啼ならひ(かげぼし) 
1082 舞子の親の橋へ来て居 
1083 椀へなみだのかゝる松山 
1084 鳴ながら身を振ほどく朝烏 
1085 南湖の銭の一両はなし(なんこ)
1086 むすめに智恵を付る雷 
1087 金剛杖でありく闇の夜 
1088 ひだるい猿の桃色に成 
1089 隣の蔵が涼風を蹴る 
1090 闇のうち曾我へ片身は届けり 
1091 なぶつた舟の一所へ着く 
1092 請られてから産んで見たがる 

1093 鎌倉で嫌らひに成し夕間暮 
1094 我膝を見て笑ふ病人 
1095 乗掛へ伸上る茶はいとま乞ひ 
1096 ひやうきんな人の仕当る汐干狩 
1097 元結の入らぬ女となりにけり 
1098 身をさまざまにひねる霜解 
1099 衣紋の顔の矢に付て行 
1100 泉水を挑灯で見るいとま乞 
1101 手代まで蚊を疵にして内に寐ず 
1102 来た先を聞けばあはれな拂物 
1103 そとば小町も言懸りなり 
1104 検校の咄の下卑る年忘 
1105 橋を限りに帰る抱守 
1106 出る恋に内へ来る恋摺違ひ 
1107 ついへな顔の多い正月 
1108 つまむほど寐て明るはつ春 
1109 気のつかぬうち通るのり物 
1110 鏡研顔に飽れば日がくれる
1111 日本の金のうごく晴天 
1112 妾のふりにこまるふり付け 

1113 なぶりついでに聟の弟 
1114 洗粉の身を逆様に摺みがき
1115 夜泣の屋根を見舞ふて寐る  
1116 鮎くへとさそひ人もなく鶉鳴(うずら)
1117 出舟へ見廻住吉の祢宜  
1118 枇杷の花千畳敷はねかし物 
1119 又降る雪に鮟鱇を吹く  
1120 天秤棒に遣ふ手はなし   
1121 蛍が好きで気の抜けた昼  
1122 所化うき〳〵と九十台射る(しょけ)
1123 むらさきに合ふ江戸の根性 
1124 下女は男をほめる小つゞみ 
1125 握りこぶしは母の奥の手 
1126 二親有て夢を忘るゝ 
1127 三味線引に山下の埃(ちり) 
1128 飛脚の膳は目の前で盛 
1129 呑めと計は主の和らぎ(ばかり) 
1130 立のまゝにて遠い約そく 
1131 庭のたき火も知て居る顔 
1132 嗅いで退く人を見限る肴売(のく) 

1133 かゝり舟鷗の中に銭の音 
1134 紬から上のすくなき奈良の京 
1135 峠の家の尾も鰭もなし 
1136 首途の草鞋履かせてうち詠め(かどいで) 
1137 供を呵つて這入る検校 
1138 日蓮記よむ聟は入智恵 
1139 船は捨るに乗物の恥 
1140 又一度十六七で人見知り 
1141 逆おもだかが質の始り 
1142 有馬筆鰒と言ふ字に顔を出(ふぐ) 
1143 しやぼんの玉の門を出て行 
1144 乞食の壁もあたり狂言 
1145 よい中は人形よりも静也 
1146 めつたにはねる五奉行の馬 
1147 神鬮にあたる聟は不器量(みくじ) 
1148 聞干た跡のつまらぬ丙午
1149 雪さへふれば女房ぬからず 
1150 冬のすがたへ戻る人の日 
1151 彼岸ざくらを後家の喰物 
1152 先見た物の帰る引汐 

1153 軽業へ残リすくなく日があたり
1154 九十九両は駕舁の損(かごかき) 
1155 生洲の魚の耳が聞える 
1156 俄分限の我顔に倦く(成金) 
1157 身のうちつれて後家の足早 
1158 船頭の闇をつかんで蚊遣り草
1159 身請の顔を村の眼ざまし 
1160 我内で評判に合肘まくら
1161 匂ふ物皆追詰て菊の花
1162 二度子おろしに逢ふではなし 
1163 別霜人の奉公の跡を行 
1164 梅咲て手心かろき鉢たゝき 
1165 まだ惚た気で追善の歌 
1166 瘧のうへに乗て居る母(おこり=マラリア、経験あり(^^;)) 
1167 雛形に最う手の切る枯野原 
1168 娘は尾羽のかれぬ顔付 
1169 ゑびす講から嫁のしこなし 
1170 六人の子のうちに玉川 
1171 金の減たもしらで本服 
1172 夜はしらじらと生残る下戸 

1173 小僧の仕落舌をちらりと 
1174 眉毛から算へ覚える若狐 
1175 投出す財布うそにない音 
1176 柔取此度の店も追出され(やわらとり) 
1177 誉ちぎられた笛で歯がなし 
1178 後家若々ときりぎりす飼 
1179 煉供養笑ひそうなを跡に立
1180 瀬戸物鄽に余念なき尼(みせ)
1181 雨やみを行聟のだいなし 
1182 あばら屋のとう〳〵松に寄懸り
1183 笠から先はしらぬ生霊
1184 玉の緒のぐる〳〵巻に五十両
1185 曳舟の引かぬ時にも荻の風
1186 三念仏へ引ける銭さし 
1187 日陰〳〵とすいかづら売 
1188 膝抱てうらみの泪あつくなり 
1189 伊達を残して戻る奉公 
1190 弁慶ふたり貰ふ五月雨 
1191 田は寒く夫婦烏の口を明 
1192 三嶋のもぐさ夜計うれ 

1193 我恋の人の恋まて眼に懸リ 
1194 最う似た顔の出来る元服 
1195 汁粉の使戸も明ぬ家 
1196 同じはちすの夜着を踏さく 
1197 紙燭の反リの出来合で済 
1198 雁金の棹の先には鈴鹿山
1199 女房にくれぬ戸板へ夜入道(よにゅうどう:ヘマムシヨ入道の落書き)
1200 看病へ突出して遣る忍冬酒(にんとうしゅ)
1201 春に似た日も十日ほど八手咲(やつで)
1202 言せて置けば傾城はなし 
1203 くぼく見られてづぶぬれて行 
1204 よいをとこ悪い男に逃かくれ
1205 手代へ錠をおろす高聲 
1206 反橋を先へ渡て口を利き
1207 三味線免す親のあやまり 
1208 母も内證は知て寐る金 
1209 質屋の口をとめる束帯(くげが質)
1210 門跡へ向く大舟の尻 
1211 生れた事は誉ぬ晴天 
1212 二親も背中へは手の届きかね 

1213 衣着て見る孫のよめ入 
1214 朝顔のかき廻さるゝ奈良の町 
1215 妻のゑくぼの段々に減 
1216 居つただけの低い口よせ(すわった) 
1217 若衆の髢を辷る雨だれ
1218 二三畳雀目の闇は日が残り(とりめ)
1219 湯治からひよつと気のつく内普請  
1220 法印の早合点で闇になり 
1221 引摺おとす御油の近付
1222 只有體に瞽女の手まくら  
1223 住持代リの味に若やぐ  
1224 地頭の智恵の出ると夜が明  
1225 初午にむす子の供の口が過 
1226 翌といふ紺屋の女房美しき 
1227 心ほど言かねて居る袖だゝみ 
1228 もとの京から通ふ棚経 
1229 寺に寐たのも吉原のうち 
1230 新しくなる九日の釈迦  
1231 堪忍はくらい所へ連れて行 
1232 まだ塗箸に逢ぬ正月 

1233 聟は大事のうは言をいふ 
1234 うつくしい意趣を柱に寄かゝり  
1235 機嫌直しの夜着に三人 
1236 夜中ふまれて大坂へ着く  
1237 胸の火は拵へ物の奉公人 
1238 音羽の瀧にぬれる乗もの 
1239 三味線を弾く斎日の嫁 
1240 日本の伊達に筑た耳塚 
1241 野郎に成て帰る浜荻
1242 男自慢の誉めぬはつ雪 
1243 ほんに泣時地女のこゑ 
1244 辷た時に悪心はなし 
1245 裸で歩行く海士の貰乳 
1246 遣唐使青海原に口を明き
1247 泣止まぬ子に蔵の戸が明く 
1248 先も女で恥る借り物 
1249 寐せる心で我も手枕  
1250 祝日の持料ほどは美しき
1251 来ると鸚鵡の日本物言(ものいい) 
1252 精進を落て目出度人に成 

1253 戸へとりつくと地震ゆり止 
1254 吉原見せて伯母を立せる 
1255 衣にたすき蕎麦奇妙なり
主寿昌之篇 
1256 初めて青し十月の猪口 
1257 きのふけふ翌は見捨る小松原 
1258 寄合て解く牛若の帯 
1259 傘を外れて歩行く若殿 
1260 ふるへば塩の落る行平 
1261 やはぎは橋のうちで大名 
1262 鎌倉の代に喰ぬ鰹ぶし 
1263 菅笠の加賀を通れば田うゑ笠
1264 互に笑ふそも〳〵の文 
1265 寒い所の多い義経記 
1266 沈んではうく質の行末 
1267 雨風にかき廻されて十二月
1268 合歓の葉の涼しい夜を握詰
1269 大名戻リさびしがる蓑
1270 子の口をふさいだ窓へ顔二つ
1271 通すと眉の下る関守 

1272 家督の祝義仰向に寐る 
1273 鯨のうそを七村がつく 
1274 黒小袖どちらへ出ても口が合
1275 銭提て大津を帰る山法師 
1276 親孝行の蓑を着て泣く 
1277 有し世の一つ残リし釘隠し 
1278 面白い人と言れて草の庵  
1279 莚帆の恥を思はず岸を行 
1280 駕に乗たは弔のまゝ 
1281 友達のひや〳〵おもふ誉詞 
1282 冬からのうそが溜つて鯛を買ひ 
1283 林間の今焼付と又しぐれ  
1284 猟師の妻の虹に見とれる 
1285 四も五もくはぬ下戸の関守  
1286 佃の休み貝で髭ぬく 
1287 いつの間に喰ふ神子の弁当 
1288 せちがらい都で歌をよみ習ひ 
1289 尻も結ばず神無月降 
1290 書たい事の多い去リ状 
1291 都の雪の鱛ほど降る(なます) 

1292 落すがいやで廻る雪の戸 
1293 石の地蔵の清い唇 
1294 瞳すわらぬ四辻の顔 
1295 親に奢て見せる籔入 
1296 恋風も思へば四季に替へて吹き  
1297 物縫の誉られはじめ衣がへ 
1298 腕づくの女房見に行く交肴(まぜざかな) 
1299 人を呼ぶ鉦に我子を膝へ上げ 
1300 泊客言訳過てうたがはれ 
1301 題目おどり顔も手も筋 
1302 度々壁を拝む門前 
1303 酔て戻つた妻を見上る 
1304 天下に知れた愚癡な吉原 
1305 誠皆うそに消さるゝ落し文 
1306 うたれた瀧の末に膏薬 
1307 つまぐつて帰る昔のしのび道 
1308 酸いもの並ぶ小梅梅若 
1309 年明の心にしづむ灯篭の火 
1310 抜身を軽く思ふ高縄 
1311 草の中にも傘は三本 

1312 朝顔が咲と蛍は馬鹿に成 
1313 もはや男に成果し後家  
1314 風呂敷の度々主を取違ひ 
1315 膏薬の二重心は穴を明け 
1316 干鰯の仕切見ても眼が覚(ほしか)
1317 記念の琴になみだかき交ぜ(かたみ) 
1318 五月雨に肴の顔を見忘れる 
1319 六畳敷へ無理な藝呼ぶ 
1320 蒸薬息を吹のが癖に成り 
1321 口のうちで言ふ念佛がほんの事 
1322 客夜着に土蔵の鍵をのせて出 
1323 十月の霞のかゝる本願寺
1324 古い屋敷で椶櫚の葉を買(しゅろ)
1325 黒雲かゝる焚出しの飯 
1326 ぬれずに戻る傘にうたがひ 
1327 看病の一間隔てころもがへ
1328 小判へも鏡の息のあいしらへ
1329 旅だちの跡の座敷へ日が当リ
1330 塩鳥のおよいだ形に堅く成
1331 だまつて瞽女をすゑる明るみ 

1332 燕より一月はやきつばめ口
1333 珍らしく見る旅のからかさ 
1334 こらへ〳〵て鐃鉢に泣(にょうはち) 
1335 藤の花最う此うへは日も延びず
1336 見附の屏風盃を見ず 
1337 蜊鳫木に汐の見合せ(あさりがんぎ) 
1338 縮緬も繻子も仏の道しるべ
1339 昼寐の顔へ掃かけて見る 
1340 木馬に似たりうどん屋の音 
1341 寒念仏鳥屋の門も野辺の数 
1342 手の届くだけはたふして松囃子 
1343 わさびおろしに日の残る留守 
1344 挑灯が消ると直に突あたり 
1345 脇から見える公事の近道 
1346 吉原近く尖るからたち 
1347 松風や関の障子の喰違ひ
1348 格子から禿の髪へあやめ指し 
1349 碁うちの見出す宵の明星 
1350 かつがれて初会へ上る枝紅葉 
1351 気の勝て居る品川の猪牙 

1352 伴頭の異見に下る春の空 
1353 浄るりで殺した声を鉢扣き
1354 桑の杖おもへば遠きはかりごと 
1355 水かゞみ見る舟の退屈 
1356 焼塩を削る女房の膝せまき 
1357 地紙売我物好も言うて見る 
1358 蚊屋越にゆり起されて早合点 
1359 他人の目からしれる一生 
1360 逗留の二晩めから能く寐入 
1361 抱つくまでが恋の道行 
1362 大工の智恵を寐ころんで見る 
1363 猪牙のふとんを撫る椎の実 
1364 真顔に成て武士の付ざし 
1365 さくらを浴る馬の横面 
1366 大根馬ふしょうぶしょうに引廻し 
1367 気の軽ひ母は見て居る水浴せ 
1368 淋しさは巨燵やぐらのゆるく成 
1369 まがらぬ心瞽女の手を引 
1370 母は箸にも楊枝にも栗 
1371 沈んで乳を隠す居風呂(すえふろ) 

1372 鳥屋の見世のくらい年越
1373 畑の鶴をみせに遣る雪 
1374 須磨の浦雛も柄杓に汲込れ(ひしゃく)
1375 明星がくるりとふれて淀へ着く 
1376 恥かしの火燵の出来る煤拂 
1377 半夏生隣も合ぬ井戸の蓋 
1378 むかしの通り念仏て起 
1379 四ツ谷の埃に伊達染が行 
1380 負た子の目ばたきをする葭簀編(よしずあみ) 
1381 生男も琴柱に落る中の町 
1382 髪かたち笠もかたちの内に入 
1383 鬼と言るゝ後家の革足袋 
1384 富士の夢見てまめに成る母 
1385 女ごゝろに見たい竜宮 
1386 かんこ鳥啼く庵に鳶口 
1387 ひとりで飯のにえるかみなり 
1388 二百十日にあぢなよめ入 
1389 石の井筒を母の念願 
1390 手品きれいに紙燭よる妻 
1391 袂で銭を遣ふ墨ぞめ 

1392 鏑木を内から立て縁遠き
1393 松明を結ふ村の葬礼(ゆふ) 
1394 俤の夜の障子やたばこ鄽(店)
1395 小つゞみに恋を仕まける大つゞみ 
1396 糊立のせぬ衛士の顔付 
1397 清書は障子に残りたゝき鉦(きよがき) 
1398 五箇村すくふ主の有る池 
1399 降ぬ日の勅使を誉る角田川 
1400 人礫うつ浪人の夢
1401 立聞にやり手は鍵を握リ詰 
1402 大僧正も材木を問 
1403 棹ぬく跡にきり〳〵とうづ 
1404 懸乞帰る向うから春 
1405 なみだぬぐうて袖の片ゆき 
1406 子の扱いの下手な連歌師  
1407 五条の橋で安い主従 
1408 久しい先の奉加帳出る 
1409 水仙の舟は入日を漕流し 
1410 田の中を蝶々も飛文も飛 
1411 名もしらで何かうれしき生肴

1412 横平に念者の手紙むつまじき
1413 始からはづす合点のとしわすれ
1414 篠をつく降に戸板の年が知れ
1415 梅に向て歯を鳴らす妻 
1416 詫言に若衆の母も手を合せ
1417 娘が逃て髪結はぬはゝ 
1418 二羽鳴雁も極月の聲 
1419 与力町一人か二人よいをとこ
1420 くらい所で笑ふあやつり 
1421 一逃にげて口を吸せる 
1422 袖の梅きかぬは妻の心也
1423 泣子の口へしたむさかづき 
1424 浅い新地に朽るがつそう(合総=総髪) 
1425 行合せねばしれぬ達磨忌 
1426 山帰来かならず城の落る時
1427 たからの市で聟は倒れる 
1428 草履とりまで息杖の息 
1429 明地が出来て新らしい棒 
1430 合点の上で遠い寐所 
1431 宇治にちらばふ殿の紋所 

1432 夜更て人を遣ふいんぎん 
1433 そば切は投込ほどが馳走也 
1434 たゝらの中へ薬鍋かけ 
1435 相人が瞽女で恥をかゝせる(あいて) 
1436 小野が曇てほとゝぎす降 
1437 下戸の鼻にはうまい木犀 
1438 二代とは続ぬ下戸の蔵を買ひ 
1439 めくらむす子の乳を長く呑み 
1440 仙台へ歯の立ぬ稲虫 
1441 気の強い女の落るあまの川 
1442 飼ねずみ来るよし町の屋根 
1443 むつくり起た醫者の横平 
1444 名代の狐白い飯喰ふ 
1445 向うの顔をふさぐ蘆刈 
1446 葉ほど世間をしらぬ茶の花 
1447 夜はほのぼのと通り者散る 
1448 染風呂敷の美しい供 
1449 かぼちやを抱て下るさし茅 
1450 無念なりけり山伏の餅 
1451 是切の布子着て買ふはつ鰹

1452 昼を大事に遣ふ十月
四季混雑 紀逸述 
法楽
1453 裏なきは神のこゝろぞ夏衣 
1454 鶯の聲かけて割る氷かな 
1455 我が年をかぞへて寒し冬籠 
1456 名月や茗荷の鶴も生のこり  
1457 あくる日に家の床しき碪哉 
1458 樹に寐るとおもへばやすし渡鳥 
1459 二夜啼一夜はさむしきりぎりす 
1460 菜の花や庵のうちに曾我の母 
1461 はつ雪や牡丹のごとく手の如く
重九  
1462 朝顔に着せる物なし菊の花 
1463 稲づまや椽まで来ては帰る波(縁) 
1464 顔みせや狐もひとつ人の中 
1465 初雁や結んで投る雲の袖 
1466 夏行て誉たる所皆寒し  

1467 樽買の二十日めに来る牡丹哉 
1468 降そうな三十日をふらで時雨かな 
1469 袴着やうしろにおやま二郎三郎 
1470 鼠追ふ夫婦の声も夜寒哉 
1471 木がらしや眼につけて吹く柳原 
1472 あたゝかに猫を寐せるや寒牡丹
上巳
1473 酔ぬとは言れぬ雛のあぐらかな 
1474 鹿の恋猶焚つけるもみぢ哉
神明法 
1475 正直の種を植るや杉の苗
1476 初午に狐を乗せる遊びかな
1477 根を付て提ればいやし菊の花
1478 海老網の引明さむきもみぢ哉
1479 五月雨や焚ぬ煙の小松ばら
1480 からたちも手の出し安き若葉哉
1481 二日から月も匂ふや梅のはな
1482 ゆかしさよ嫁菜揃へる暖簾下
1483 むら雀躍らば着せん梅の笠

1484 大空に無事と書く字や春の雁 
1485 雲雪は跡での事よ花ざかり 
1486 眼に白き物のくすりや山ざくら 
1487 麦飯にとろゝと啼やきじの聲
更衣 
1488 袖笠のかへりもかろし衣がへ 
1489 しら鷺の眼にはあぶなし郭公 
1490 夕ぐれやさくらに沈む人の聲
はるかにてらせ山のはの月 
1491 時花眼の闇のあかりや仏生會(はやりめ) 
1492 銭の事わるく言れぬぼたんかな 
1493 さわらびや煙をつかむ雨の中 
1494 鵜遣ひの躍り見て居る月夜哉 
1495 紫に身を投出すや萩の露 
1496 宵の雨抜るほどゝは雲見草 
1497 松虫の松もどきにも茄子かな(なすび)
五歳に成る愛子を失へる人に 
1498 五の字にも油断はならず五月雨 
1499 ぽた〳〵と桃の花さく垣根哉 

1500 笛吹て啞も遊ぶや花すゝき  
1501 魂や鐘に勝つ夜のきりぎりす  
1502 はゝきゞや入日の中のいかのぼり 
1503 八朔や機嫌の直る風の神  
1504 利口には波のしいれる千鳥哉 
再会
1505 同じ根は寄り添やすし雪の竹
留別 
1506 まあとあるをしほに戻るや川千鳥 
1507 大黒の身をうき草やゑびす講 
1508 雛の前かしこまりたる雨夜哉 
1509 町中に医者の桜の咲にけり
他国の人をいたみて 
1510 聞てから寐られぬ夜半や寒念仏 
1511 初雪やつまむで付る垣のはな 
1512 屋根板を鳶のくはへる野分哉 
1513 づぶぬれて芙蓉を出る兎かな
五月十三日首途
1514 簔と笠竹植る日の旅出かな 
上野にて
1515 しのばすはことしも花の鏡かな 

鉢の木の讚
1516 あたりながら梅に梅田の工夫哉
煙の中に女の顕れし画讃
1517 炭はねて言残したるうらみかな 
1518 吸ふてだに鶴の千とせや菊の露 
1519 聟に成人うつくしき師走哉 
1520 飛ぶ中にありく蛍やみをつくし
再会 
1521 二度めには戸の明てある水鶏哉
あはれなる物
1522 子を抱て鶏の丸寐や霜の声
丹五 
1523 立並び小褄のかへる幟かな(こづま、のぼり)
看病 
1524 火の下に生姜の匂ふ霜夜哉 
1525 鳥黒し硯洗ひの橋ばしら 
1526 朝顔を朝食にする胡蝶かな
七十賀
1527 その上に三十足さん百千鳥 

1528 名月やうき世の隅に念仏講 
1529 白瓜に思ひがけなき手綱かな 
1530 名月やそれ程もなき雲の帯 
1531 よい陰へ放しうなぎや蓮の花
1532 鉢たゝき同じ所の夜明哉
出山の像を拝して  
1533 吹度に佛の肉の落葉哉
別荘にて
1534 かんこ鳥見る気はないか上屋敷
1535 薮入のうき世に飽た顔もなし
起出て又何事をいとなまむ
1536 起々の筆にちからや大根引
1537 玉霰鼠の嫁を呼ぶ夜かな
1538 山茶花や障子のうちに尼の聲
1539 鳥さしの振かへりたるやなぎかな
1540 椀久が蒔て花さく菜種かな
1541 年と日のかゝりむす子や太郎月
1542 田作リの鱠は寒し梅の花
1543 万歳や今はむかしの縣召(あがためし)

神農  
1544 一日の口に余るを蚊やりかな
1545 はつ霜や湯屋よりあまる水煙
1546 風はなやねぶかに落て入性根(いりしょうね) 
1547 秋までは我を張通すかゞし哉 
述懐  
1548 鬼灯や人は口から年が寄り
 
俳諧武玉川 二篇 終

初篇
三篇

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2012年9月8日土曜日

第三千句第十百韻『によつぽりと』の巻

 

      百韻『によつぽりと』の巻
                     2012.9.8〜10.4

発句   によつぽりと秋の空なる富士の山   秋  鬼貫
脇      瑞穂たわわに光る里の田     秋  私
第三   寂しさの望のころには慰みて     秋月 ね子
4      秘伝のレシピハーブティー飲む     風牙
5    おもむろに古い日記の塵払ひ        草栞
6      思い馳せるは雪の箱根路     冬  玄碩
7    春支度痩せる努力ぞ河川敷      冬  坦庵
8      そろそろ本気を出さん婚活       私

9    出世より老後気になる四十代        ね
10     地下に降りればジャズの聞こゆる    牙
11   ビレッジにコスモポリタン集ひ来て     栞
12     ねずみ花火に猫も怯える     夏  碩
13   線香が尽き果て庭の萩見れば     秋  坦
14     蓑虫だつて恋をしたいよ     秋恋 ね
15   さを鹿の妻どふ声の身に入みて    秋恋 私
16     傾くまでの月の彷徨       秋月 栞
17   まだ耳に残りしままの胡弓の音       牙
18     四隣携へことを起こさず        坦
19   霜柱踏まぬようにとごみを出し    冬  碩
20     脱いでさわやか厚着一枚     冬  私
21   村里に笑ひ溢るる花の宴       春花 ね
22     たなびく旗に木の芽田楽     春  牙
二オ
23   夕霞ドライブインも灯を点し     春  栞
24     耳をすませば遠く波音         碩
25   尻敷かれ一国一城主つきて         坦
26     今や天下はおねねばかりぞ       ね
27   図書館は用無し爺のたまり場か       私
28     黄昏時に蝦蟇の声して      夏  栞
29   バリトンの父と輪唱夏の星      夏  牙
30     失せし単簧あしで探さん        坦
31   初嵐ブルーシートも巻き上げて    秋  碩
32     流れに乗れず流灯の骸      秋  私  から
33   群がりて咲く知恵のあり曼珠沙華   秋  ね
34     鰯雲飛ぶ下で再選        秋  牙
35   有明の夢ばかりなる戯れ事か     秋月 栞
36     街行く人の映る水滴          碩
二ウ
37   待ち侘ぶる朝の山門雨に濡れ        坦
38     峠の茶屋で歌仙巻くとか        ね
39   風狂人よそ目なんぞは憚らず        私
40     女心を弄びつつ         恋  栞
41   火傷などするはずなしと喋々し    恋  牙
42     暁覚へきよう別れん       恋  坦
43   気がつけば日毎に増えし都鳥     冬  碩
44     萎びゆくさま競ふ枯蓮      冬  私
45   極楽の池を見上ぐる罪人と         ね
46     月の光りに濡るる蜘蛛の囲    夏月 牙
47   アラベスク模様の誘ふラビリンス      栞
48     ハレムの宵は香に満ち満ち       碩
49   鹿の園ねむれる花を待ち続け     春花 坦
50     風の仕業か揺るるふらここ    春  ね
三オ
51   春雨に降られ同士の手が触れて    春恋 碩
52     素知らぬ顔で同じオフィスへ   恋  牙
53   月曜にしては服装少し派手         栞
54     デモに参加の決意固めて        ね
55   鍵忘れ爺の家行き飯くらう         坦
56     ほめておだてゝ出さす秘蔵酒      私
57   一重帯女将肴に賑ふて        夏  牙
57   一重帯女将肴に路地の奥       夏  牙
58     言葉少なにそっと目配せ     恋  碩
59  「王様は裸」と誰か叫ぶべし         ね
60     スタイリストも慌てふためき      栞
61   このごろはゲリラの如く雨が降る      私
62     家路を急ぎバイク操る         坦
63   見上げれば月あちこちにビルの街   秋月 碩
64     火照りし頬を撫づる秋風     秋  牙
三ウ
65   松茸の薫りの元を捜し当て      秋  栞
66     隣の卓は若き女子会          ね
67   落雷に足止めくらう帰り道      夏  坦
68     立錐の地なし夏の山小屋     夏  私
69   白シャツに跳ねるカレーの汁薄く   夏  牙
70     窓の外には熱きデモ隊         碩
71   攻防の激しさのなか一目惚れ     恋  ね
72     リング降りても追ふストーカー  恋  栞
73   人ごみを縫つてすゝむも技のうち      私
74     懲りぬ深酒朝もアタフタ        坦
75   夕闇の包む湖畔の温泉地          碩
76     ピンポン球の跳ねる音する       牙
77   外交と呼べぬラリーに帰り花     冬花 栞
78     海の果てまで吹くは木枯     冬  ね
ナオ
79   さめざめと裸の兎泣き濡れて     冬  坦
80     慈悲をかければ湧くや改悛       私
81   蝋燭の揺らめきをただ見つめをり      牙
82     閉店時間と肩を叩かれ         碩
83   街道へ座敷童と出でにけり         ね
84     遠き野辺には馬頭観音         栞
85   帰る家たゝんでまでするおくの旅      私
86     足袋の置き場を母にたずねる      坦
87   嵐過ぎ慶事日和の青き空          碩
88     解けぬやうに結ぶ水引         牙
89   鶺鴒の案内する後追ひかけて     秋  栞
90     葦の繁みに見る夜這星      秋  ね
91   はし歩き月読宮詣でれば       秋月 坦
92     大吉出るまでおみくじを引く      私
ナウ
93   子の寝顔今宵肴は出世魚          牙
94     鴨居の上に並ぶ賞状          碩
95   メールにはスマイルマークだけ描かれ    ね
96     やがて消えゆく村の道化師       栞
97   トランクに希望忍ばせ汽車に乗り      坦
98     なごりの雪のかすむ山影     春  私
99   古寺も分相応に花の頃        春花 碩
挙句     囀り聞こえ休む石段       春  牙

    鬼貫 一 
    ね子 十七 
    風牙 十七 
    草栞 十六 
    玄碩 十七 
    坦庵 十六 
    私  十六

・・・ 経過閲覧

※定座は守っても守らなくてもよい。           四花四月〜七月
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

式目  
正風芭蕉流準拠十カ条
投稿用

写真提供はフォト蔵さん