2012年9月24日月曜日

俳諧武玉川 二篇

俳諧武玉川 二篇
(底本:日本名著全集 江戸文藝之部第廿六巻 川柳雑俳集 )

冬嶺之篇(十五点)
718 あんばいのよい朔日の空 
719 陽炎やとかく何ぞに倦た時 
720 口洗ふ馬のくはへるかきつばた 
721 紙漉のたま〳〵よめてかこち草 
722 雑司谷駕から顔が二つ三つ 
723 親父が見ては済ぬからかさ  
724 去られてもさられても未だ美しき 
725 鰒の師匠の駒下駄で来る  
726 四十から老曾の森へ飛んで行(おいそ)
727 さし上て見る縫紋の出来  
728 眼薬をさして大事に起あがり 
729 病上り工夫して居る遊び所 
730 年忘何ぞ降のを待て居る 
731 隅田の渡しの夕暮を骨 
732 物買て背筋のゆがむ小侍 
733 河竹の本のこゝろは女也

734 赤子は膳で見えぬ正月 
735 井戸掘の心覚えに蛙啼 
736 一分くはへて内へ引く息 
737 九つは禿の消える鐘の聲 
738 朝顔を粉にして歩行く男の子 
739 春寒く廻り人のない法輪寺
740 子を持妾観音を引
741 奥に娘の光るかざり屋 
742 やもめがらすに張のない風 
743 切賃は金のなくなる始なり  
744 足で鼠をおどす万歳 
745 薮入の田の近道をうち忘れ 
746 うまい事言うた師走に助け舟 
747 一葉づゝきたなびれずに散る柳 
748 似ぬ顔を産んで我が身も疑はれ 
749 掟が有て同じ黒髪 
750 隣の顔も飽るくすり湯 
751 はね馬に逃込む顔の久しぶり 
752 札配リ遠くも来ぬる角田川 
753 日向で灸をすゑる四阿 

754 あぶない義理の届く吉原   
755 富士を見て田植の髪をゆり直し 
756 更るほど気の若くなるとし忘  
757 辛子が利て時過た声  
758 物ぐさひ瞽女に引るゝ糸ざくら
759 鹿聞の淋しい足をうち違 
760 犬死の側で妾に成リおほせ 
761 鳥屋の前でおりる遠乗  
762 榊来て鱠の山は低く成 
763 投れば切る枚方の銭   
764 東路は仕舞仕事に風の神 
765 袷着て新地は寒い赤蜻蛉 
766 婆々が死んで中垣がとれ  
767 節句前文も五尺のあやめ草 
768 あふひの上の袖に護摩の香  
769 身のうちに帯がふえると芥川 
770 入相に向ふ姿の膝をたて 
771 田楽がみじかく成と冬籠 
772 かんこ鳥江戸の暑さはしらぬ也 
773 若菜に揃ふ桶川の君 

774 角万字屋で折るゝ稲妻  
775 出代の門四五間はかけて行 
776 しかられた日の分けて夕ぐれ 
777 宵闇の夜のしまる行燈 
778 尖に毛抜もありがたき物 
779 うそがかうじて上下で来る 
780 蕣にあついきせるの打違 
781 をどりを押てはいる蓬生 
782 たいこの年の星をさゝれる 
783 聞捨にしてはおかれぬ梓弓 
784 をとこのほしい勢田の真中 
785 蜘の巣ぎりで戻る売居(うりすえ) 
786 ふすまを覗く太郎国経 
787 我たつ杣のしらぬ年号 
788 曳たび袖のみえる罔両(かげぼうし) 
789 行燈にまだ気のつかぬ暇乞 
790 浪人の羽のぬける元日 
791 妾の智恵も河竹の風 
792 虫の命の燃るあさぢふ 
793 他人の足に負る鳥辺野 

794 雲の行衛の住吉で散る 
795 嵯峨より深きあみ笠の奥 
796 雉子鳴て震か〳〵と撥を留 
797 鏡にせいてかゝる庭鳥  
798 けふ九重を裸にて立 
799 入墨を消す気に成れば夜が明 
800 紅裏のないも笑止な土用干 
801 心ある酒とはしらぬ従弟間 
802 三人傘にうたがひはなし 
803 様と云ふ名で来る時は忍ぶ草 
804 神風に吹消れたるもみぢの火 
805 吾妻くだりの青いからかさ 
806 不沙汰の顔に合ふ面がなし 
807 つまみ洗ひの手を振て置 
808 あり甲斐なしの笙吹の鼻 
809 陰間の声の二筋にたつ 
810 四十二の子の親が沢山 
811 ほとゝぎす皆出来合の葉也けり
812 三味線の跡を因果と引かぶり
813 朝みれば御油赤坂の家計(ばかり)

814 宵のうらみの二段目が出る 
815 女房も只取るやうに通り者
816 夏野に家のつまむほど出  
817 降ものゝおのれを諷ふ板庇
818 酔狂の翌は浮世に突あたり(あす)
819 明がたの戸をたゝく高声 
820 情しらずの笑ひ大きし 
821 看病に薬のやうな顔一つ
822 座頭はなせば文のうへ行 
823 鰒買て余所の流しへ持て行
824 夫婦喧嘩の外で小便 
825 倒れ序でに住よしの市 
826 松風の裾わけをする萩の上 
827 帆かけ舟先が直てたはいなし 
828 隠居の小判うごくあつかひ
829 子の口吸うて音頭分れる 
830 立ながら見て帰る金元 
831 紙燭の反りを土器で摺(かわらけ)
832 海馬もらへば背中たゝかれ  
833 生酔の次第〳〵に丸く寝 

834 瑞軒を見た杣の長命  
835 利そうに思ふは銀のくすり鍋 
836 鯲の中へはかるうの花(どじょう) 
837 めぐろの犬も冬がれに成  
838 検使にこ〳〵下帯に金  
839 旦那へさして逃るさかづき 
840 向ふ木挽の揃ふ鼻息 
841 浅草も上野もなりて郭公(ほととぎす)
842 三疋ではねれば馬も詠あり(ながめ) 
843 早乙女の笠は裏から日があたり 
844 醫者に二度まで積らるゝ顔 
845 二つ重なる囁きの傘 
846 後家のやうなる牛若の影 
847 くやしい声で横顔へ向  
848 下戸ふたり起して廻る司召(つかさめし) 
849 通りの傘へあたる豆蒔  
850 物思ふ相手がなさに幮を釣り(かや) 
851 うしろ姿はしれぬ関守  
852 狩衣は茶を呑たびに腕まくり 
853 肩へかけると活る手ぬぐひ(いきる)  

854 むだ書をして梶の葉をかむ  
855 雨だれ越にかるい相談  
856 朝日のあたる盗まれた窓 
857 掌を死所にするきりぎりす 
858 鳥辺山送り出して耳が鳴 
859 工夫してきのふへ返る紺屋形 
860 美しい顔で咄が長く成 
861 誘ひに来ると見えて割膝 
862 へん〳〵と扣く御寺の大工小屋 
863 母の自慢は錦木の数 
864 ながらへて新地にすたる真桑瓜 
865 向ふへ鑓のしづむ長橋 
866 いつ逃て樒に光る飼蛍(しきみ)
867 弟に余つた乳の水くさき 
868 鐘の音計黒き雨乞(ばかり) 
869 銀のちろりの通ふ紅閨(こうけい)
870 京町のやりての声で猫の真似 
871 土埃うしろへ請けて梅の花 
872 長い祈に割れる勝山  
873 両陣をすくひ仕廻て勧化帳 

874 取楫は畳のうへで成仕事 
875 巻くのも手間のとれる国状  
876 泊客主の口が辛くなり 
877 金に勝のは只ならぬ顔 
878 売家を隣に持て淋しがり 
879 雪やくそくは雨性の伊達  
880 直のなつた跡の祭にはつせ山(ね:値)
881 鶯は谷へ戻してかたみ分 
882 夜は老そめる九つの鐘(ふけ)  
883 人のくすりに燈す峰の火  
884 書置に引くらべたりあづさ弓 
885 蚊屋一重向ふに人をあやまらせ 
886 言訳のくらい男へ飛ぶ蛍 
887 傾城と見たはひが目か竹の奥 
888 をどり子下地しぼり出す声 
889 腹だちの手元へ見える鳴子引 
890 水を女の怖そうに掃く 
891 我物に師走は戻る貸座鋪 
892 精進落に大判を見る 
893 さし合を抜けば聞へぬ願書(ねがいがき) 

894 ゆく〳〵は蛍にならん草の菴 
895 痞の毒を知りてかむふみ(つかえ) 
896 鏡から崩れそめたるおさな顔
897 畳んだ物の見へぬ独身 
898 人形に惚れて禿はしばられる 
899 後藤が馬の帰る夕陽 
900 雨あられ雪と替りて日がつぶれ 
901 楼船と聞てぞつとする冬(やかた)
902 針仕事手がるく成て夏近し
903 勘定づくの馬でよめ入 
904 塩気の抜る蜑のおとろへ(あま) 
905 ふつた所がけいせいの禅 
906 我身ひとりのやうな神託
907 ういた浪とやむかし人乗 
908 山科や集るうちによいをとこ
909 奢かへしておごる逗留 
910 夕顔咲て井戸掘の帯 
911 飯入て少賤しきあま小舟 
912 初老のまだ竪縞をはなれ兼(はつおい) 
913 夜に飽く初は奥の紙きぬた 

914 凩も生れのまゝの材木屋 
915 五人に問へば五色な墓 
916 哀れさは千両箱に鰹ぶし 
917 六はらにしくじりさうな顔計(ばかり) 
918 帆を揚てから咄なくなる 
919 ちぎれ〳〵に石燈篭つく 
920 草履打片々足を洗ひけり 
921 汐曇はれて主なき桶二つ
922 青物や玉子の色の目にかはき 
923 こよりと聞て起る狸寐 
924 伐られぬ卯木九日にさく 
925 唐扇の自慢をしたる通り雨 
926 橋守の煙の高きわかれ霜
927 かる焼の忍び心はしめり合
928 帆におそはつて傘は売行 
929 烏帽子計で生て居る顔 
930 惚られた事を思へば気が抜けて
931 地紙うり笠着る時は物詣
932 さまざまに世はかはる呑喰 
933 咄しにも千人切は多過て

934 病人の手へしつとりと秋袷 
935 大江の岸を浮て行く下駄 
936 新地の間夫に蚊柱がたつ(まぶ) 
937 元服に又改て言かはし 
938 おつぼねの名に近い子卸 
939 ゆるひ黒木に笋をさす(たけのこ) 
940 栄花な腹を医者は怖がり 
941 呼声を母のにくがる李売(すももうり) 
942 うそのない旭を戻る小松原 
943 死ねば煙ではひるよしはら 
944 誰植ゑて人に淋しき峰の松 
945 けいせいの親に逢ふ日は雪が降 
946 糸遊のたんごに早きうつの山 
947 寐姿がよくて哀なすまふ取 
948 放し鳥とまれと思ふ木を過て 
949 事納着かへる程の日ではなし(ことおさめ) 
950 朝顔に追立らるゝさしむかひ 
951 背中へしれる猫の腹立 
952 雪の日はころげた侭の樒桶(しきみおけ) 
953 闇のとぎれるうどん屋の前 

954 須磨寺に夜着きて寐るぞ怖しき 
955 角力とりめと撫る子の尻 
956 母も哀と思ふほど惚れ 
957 夜かぐらやつめつた前へ廻りけり 
958 洛外へ出して目にたつ拂物 
959 若党をだいなしにする初蛍 
960 死だ和尚を誉るとうふ屋  
961 机ではたく梶の葉の虫  
962 直切ころして歩行く巡礼(ねぎり) 
963 葉桜に成つて気の減る銭の音   
964 指櫛が網に懸つて人だかり(さしぐし) 
965 馳走に竿を添る柹の木(かき)  
966 夜着の日陰に臼の目を切る 
967 いらたかを投ればしばし湯気が立 
968 段々に音のなくなるとろゝ汁 
969 みどり子に膳をとられて茶漬くふ 
970 竹植る日を主の聞捨 
971 脇の下から寒い羽ごの子 
972 送り火は他人の手にて燃上リ 
973 初奉公のこりるくらやみ 

974 よいおとこにも二通り大つゞみ
975 買人の手でつまゝせる薺草(なずな)
976 凩に買物使あはれなり
977 恋しい時は猫を抱上 
978 つむじ風格子の前で二つ巻
979 疱瘡にうどんの桶も出して見せ
980 郷侍の名を付る神 
981 あみ笠の鼻につかへるむかう風
982 座頭が出るとこぼす居風呂(すえふろ) 
983 娘から手代の間は紙一重(あい)
984 よい日和子守をなぶる松の影
985 従弟夫婦の両方に伯父 
986 町のはづれで仕舞ふ錫杖
望楼之篇(二十点) 
987 吉次が供のしたい事する 
988 狼の命拾ひは寒のうち
989 今がよいとは言ぬ後添 
990 燃る間を柄杓で扣く八重葎 
991 給仕の顔の遠い住吉 
992 辛崎は狐火までも朧にて 

993 人の物着て夜の岩倉 
994 そむけて糸を結ぶ綻び 
995 酒買時に灯のうつる川 
996 阿部川で人と思はぬふとり肉(じし)
997 高野聖も金の明るみ 
998 遊び尽した人を後見
999 伽藍の雨戸昼過にくり 
1000 朝顔くらく馬の髪結ふ 
1001 噛む爪も極つて居る物思ひ 
1002 庵の主聞へる方の耳を出し 
1003 我家へ漏をあてゝ雨乞 
1004 寺の余情に匂はせる蓮 
1005 烏帽子の跡の伏見まで見え 京都宝泉院の血天井
1006 門口へ野分の届く住居也 
1007 初雪のつまみ心もなくてよし 
1008 撫子に火の出る鍬の夕河原 
1009 我智恵で逃げた心の放し鳥 
1010 質に直のせぬ寶久しき(直:ね) 
1011 石をおろせばゆれる四阿 
1012 礫を拾ふうちに小舅 

1013 重着の数をあらそふ冬籠 
1014 放下遣ひの来ると見渡す 
1015 合羽の下の痒い志賀越 
1016 妻の小袖の尽る七種(ななくさ) 
1017 面白さうに振廻す幣 
1018 赤子の顔の似ても水物 
1019 夕顔が宿取人の眼にとまり 
1020 遠い思案に蚊屋を出て居  
1021 笈摺を縫ふ母の野心 
1022 憎い女を誉る薙刀 
1023 道成寺人のかけ出す雲が出る 
1024 拵すます殿のあけぼの(こしらえ) 
1025 下前にさゞ浪よせる志賀の浦 
1026 きりぎりす踊の足を間違せ 
1027 手数が入て返る羽衣 
1028 参宮とおもひ立にも身を忍び  
1029 こんにやく桶をこぼす弔ひ 
1030 八十七は手をあてる年  
1031 外を見ながら這入る乗もの  
1032 市迄は桶屋の夫婦身をちゞめ 

1033 葉薑も笹の雫の振心(はしょうが)
1034 総領は土蔵へ向てものおもひ 
1035 直きに妹と見える人代(にんだい)  
1036 律義に宿へ帰る節分  
1037 船の喧嘩の棒が流るゝ  
1038 一つはちすのもめる後添  
1039 ぐみがくばつて目鼻ちゞまる  
1040 むぐらの宿へ夜々の客  
1041 山茶花を折て左官はしらぬ振 
1042 起々は女の顔が大事也  
1043 損もなく遊んで歩行く屋形舟 
1044 行水こぼす先を皆飛ぶ 
1045 何ぞ鳴らして見たい護摩壇 
1046 虫干に仕舞ひ残して貸小袖 
1047 広げた所怖しい夜着 
1048 柏の虫の台所這ふ 
1049 短い袖に娘出で兼ね 
1050 棒の中行く外科の挑灯 
1051 新尼のことばのはしに貸しなくし 
1052 鵜舟の掃除子が付て来る 

1053 蜑も恵方へ潜る身祝(あま)
1054 先づ媒のなびく吉日(なかだち) 
1055 風車外山の松の吹あまり 
1056 隣へ行も鶴の粧ひ 
1057 疱瘡の後に仲人の寄付かず 
1058 娘にあてゝ誉る水仙 
1059 山伏のなぶられて越す日高川 
1060 広々と物を思へと留守に置 
1061 座頭の下駄の知れぬ五月雨
1062 大釜へ投込む薪のうはの空 
1063 軒をはなれて杖の商 
1064 江戸の起請を見せる島原 
1065 小声にて暇をさはぐ草履取 
1066 関取の巾着に行く若旦那 
1067 一日をきれいに歩行く藁草履 
1068 鹿聞の都へ出ても耳が痩せ(しかきき) 
1069 江戸見物の怖さうに寐る 
1070 河がつぶれて亭の捨うり(ちん) 
1071 黙礼の中を流るゝ割下水 
1072 三味線の次第に憎き年と成 

1073 姉の礫の届く蓬生 
1074 音のつめたい夜神楽の銭 
1075 くらい心に智恵は借し損 
1076 せきれいの尾のうごく筆癖 
1077 子心にさへ嫌ふ半襟 
1078 鏡売日に成て女気 
1079 衣々に木辻の鹿を追廻し(きぬぎぬ) 
1080 揚屋でつらのにくい伽羅利き(きゃらきき) 
1081 鶯や我罔両に啼ならひ(かげぼし) 
1082 舞子の親の橋へ来て居 
1083 椀へなみだのかゝる松山 
1084 鳴ながら身を振ほどく朝烏 
1085 南湖の銭の一両はなし(なんこ)
1086 むすめに智恵を付る雷 
1087 金剛杖でありく闇の夜 
1088 ひだるい猿の桃色に成 
1089 隣の蔵が涼風を蹴る 
1090 闇のうち曾我へ片身は届けり 
1091 なぶつた舟の一所へ着く 
1092 請られてから産んで見たがる 

1093 鎌倉で嫌らひに成し夕間暮 
1094 我膝を見て笑ふ病人 
1095 乗掛へ伸上る茶はいとま乞ひ 
1096 ひやうきんな人の仕当る汐干狩 
1097 元結の入らぬ女となりにけり 
1098 身をさまざまにひねる霜解 
1099 衣紋の顔の矢に付て行 
1100 泉水を挑灯で見るいとま乞 
1101 手代まで蚊を疵にして内に寐ず 
1102 来た先を聞けばあはれな拂物 
1103 そとば小町も言懸りなり 
1104 検校の咄の下卑る年忘 
1105 橋を限りに帰る抱守 
1106 出る恋に内へ来る恋摺違ひ 
1107 ついへな顔の多い正月 
1108 つまむほど寐て明るはつ春 
1109 気のつかぬうち通るのり物 
1110 鏡研顔に飽れば日がくれる
1111 日本の金のうごく晴天 
1112 妾のふりにこまるふり付け 

1113 なぶりついでに聟の弟 
1114 洗粉の身を逆様に摺みがき
1115 夜泣の屋根を見舞ふて寐る  
1116 鮎くへとさそひ人もなく鶉鳴(うずら)
1117 出舟へ見廻住吉の祢宜  
1118 枇杷の花千畳敷はねかし物 
1119 又降る雪に鮟鱇を吹く  
1120 天秤棒に遣ふ手はなし   
1121 蛍が好きで気の抜けた昼  
1122 所化うき〳〵と九十台射る(しょけ)
1123 むらさきに合ふ江戸の根性 
1124 下女は男をほめる小つゞみ 
1125 握りこぶしは母の奥の手 
1126 二親有て夢を忘るゝ 
1127 三味線引に山下の埃(ちり) 
1128 飛脚の膳は目の前で盛 
1129 呑めと計は主の和らぎ(ばかり) 
1130 立のまゝにて遠い約そく 
1131 庭のたき火も知て居る顔 
1132 嗅いで退く人を見限る肴売(のく) 

1133 かゝり舟鷗の中に銭の音 
1134 紬から上のすくなき奈良の京 
1135 峠の家の尾も鰭もなし 
1136 首途の草鞋履かせてうち詠め(かどいで) 
1137 供を呵つて這入る検校 
1138 日蓮記よむ聟は入智恵 
1139 船は捨るに乗物の恥 
1140 又一度十六七で人見知り 
1141 逆おもだかが質の始り 
1142 有馬筆鰒と言ふ字に顔を出(ふぐ) 
1143 しやぼんの玉の門を出て行 
1144 乞食の壁もあたり狂言 
1145 よい中は人形よりも静也 
1146 めつたにはねる五奉行の馬 
1147 神鬮にあたる聟は不器量(みくじ) 
1148 聞干た跡のつまらぬ丙午
1149 雪さへふれば女房ぬからず 
1150 冬のすがたへ戻る人の日 
1151 彼岸ざくらを後家の喰物 
1152 先見た物の帰る引汐 

1153 軽業へ残リすくなく日があたり
1154 九十九両は駕舁の損(かごかき) 
1155 生洲の魚の耳が聞える 
1156 俄分限の我顔に倦く(成金) 
1157 身のうちつれて後家の足早 
1158 船頭の闇をつかんで蚊遣り草
1159 身請の顔を村の眼ざまし 
1160 我内で評判に合肘まくら
1161 匂ふ物皆追詰て菊の花
1162 二度子おろしに逢ふではなし 
1163 別霜人の奉公の跡を行 
1164 梅咲て手心かろき鉢たゝき 
1165 まだ惚た気で追善の歌 
1166 瘧のうへに乗て居る母(おこり=マラリア、経験あり(^^;)) 
1167 雛形に最う手の切る枯野原 
1168 娘は尾羽のかれぬ顔付 
1169 ゑびす講から嫁のしこなし 
1170 六人の子のうちに玉川 
1171 金の減たもしらで本服 
1172 夜はしらじらと生残る下戸 

1173 小僧の仕落舌をちらりと 
1174 眉毛から算へ覚える若狐 
1175 投出す財布うそにない音 
1176 柔取此度の店も追出され(やわらとり) 
1177 誉ちぎられた笛で歯がなし 
1178 後家若々ときりぎりす飼 
1179 煉供養笑ひそうなを跡に立
1180 瀬戸物鄽に余念なき尼(みせ)
1181 雨やみを行聟のだいなし 
1182 あばら屋のとう〳〵松に寄懸り
1183 笠から先はしらぬ生霊
1184 玉の緒のぐる〳〵巻に五十両
1185 曳舟の引かぬ時にも荻の風
1186 三念仏へ引ける銭さし 
1187 日陰〳〵とすいかづら売 
1188 膝抱てうらみの泪あつくなり 
1189 伊達を残して戻る奉公 
1190 弁慶ふたり貰ふ五月雨 
1191 田は寒く夫婦烏の口を明 
1192 三嶋のもぐさ夜計うれ 

1193 我恋の人の恋まて眼に懸リ 
1194 最う似た顔の出来る元服 
1195 汁粉の使戸も明ぬ家 
1196 同じはちすの夜着を踏さく 
1197 紙燭の反リの出来合で済 
1198 雁金の棹の先には鈴鹿山
1199 女房にくれぬ戸板へ夜入道(よにゅうどう:ヘマムシヨ入道の落書き)
1200 看病へ突出して遣る忍冬酒(にんとうしゅ)
1201 春に似た日も十日ほど八手咲(やつで)
1202 言せて置けば傾城はなし 
1203 くぼく見られてづぶぬれて行 
1204 よいをとこ悪い男に逃かくれ
1205 手代へ錠をおろす高聲 
1206 反橋を先へ渡て口を利き
1207 三味線免す親のあやまり 
1208 母も内證は知て寐る金 
1209 質屋の口をとめる束帯(くげが質)
1210 門跡へ向く大舟の尻 
1211 生れた事は誉ぬ晴天 
1212 二親も背中へは手の届きかね 

1213 衣着て見る孫のよめ入 
1214 朝顔のかき廻さるゝ奈良の町 
1215 妻のゑくぼの段々に減 
1216 居つただけの低い口よせ(すわった) 
1217 若衆の髢を辷る雨だれ
1218 二三畳雀目の闇は日が残り(とりめ)
1219 湯治からひよつと気のつく内普請  
1220 法印の早合点で闇になり 
1221 引摺おとす御油の近付
1222 只有體に瞽女の手まくら  
1223 住持代リの味に若やぐ  
1224 地頭の智恵の出ると夜が明  
1225 初午にむす子の供の口が過 
1226 翌といふ紺屋の女房美しき 
1227 心ほど言かねて居る袖だゝみ 
1228 もとの京から通ふ棚経 
1229 寺に寐たのも吉原のうち 
1230 新しくなる九日の釈迦  
1231 堪忍はくらい所へ連れて行 
1232 まだ塗箸に逢ぬ正月 

1233 聟は大事のうは言をいふ 
1234 うつくしい意趣を柱に寄かゝり  
1235 機嫌直しの夜着に三人 
1236 夜中ふまれて大坂へ着く  
1237 胸の火は拵へ物の奉公人 
1238 音羽の瀧にぬれる乗もの 
1239 三味線を弾く斎日の嫁 
1240 日本の伊達に筑た耳塚 
1241 野郎に成て帰る浜荻
1242 男自慢の誉めぬはつ雪 
1243 ほんに泣時地女のこゑ 
1244 辷た時に悪心はなし 
1245 裸で歩行く海士の貰乳 
1246 遣唐使青海原に口を明き
1247 泣止まぬ子に蔵の戸が明く 
1248 先も女で恥る借り物 
1249 寐せる心で我も手枕  
1250 祝日の持料ほどは美しき
1251 来ると鸚鵡の日本物言(ものいい) 
1252 精進を落て目出度人に成 

1253 戸へとりつくと地震ゆり止 
1254 吉原見せて伯母を立せる 
1255 衣にたすき蕎麦奇妙なり
主寿昌之篇 
1256 初めて青し十月の猪口 
1257 きのふけふ翌は見捨る小松原 
1258 寄合て解く牛若の帯 
1259 傘を外れて歩行く若殿 
1260 ふるへば塩の落る行平 
1261 やはぎは橋のうちで大名 
1262 鎌倉の代に喰ぬ鰹ぶし 
1263 菅笠の加賀を通れば田うゑ笠
1264 互に笑ふそも〳〵の文 
1265 寒い所の多い義経記 
1266 沈んではうく質の行末 
1267 雨風にかき廻されて十二月
1268 合歓の葉の涼しい夜を握詰
1269 大名戻リさびしがる蓑
1270 子の口をふさいだ窓へ顔二つ
1271 通すと眉の下る関守 

1272 家督の祝義仰向に寐る 
1273 鯨のうそを七村がつく 
1274 黒小袖どちらへ出ても口が合
1275 銭提て大津を帰る山法師 
1276 親孝行の蓑を着て泣く 
1277 有し世の一つ残リし釘隠し 
1278 面白い人と言れて草の庵  
1279 莚帆の恥を思はず岸を行 
1280 駕に乗たは弔のまゝ 
1281 友達のひや〳〵おもふ誉詞 
1282 冬からのうそが溜つて鯛を買ひ 
1283 林間の今焼付と又しぐれ  
1284 猟師の妻の虹に見とれる 
1285 四も五もくはぬ下戸の関守  
1286 佃の休み貝で髭ぬく 
1287 いつの間に喰ふ神子の弁当 
1288 せちがらい都で歌をよみ習ひ 
1289 尻も結ばず神無月降 
1290 書たい事の多い去リ状 
1291 都の雪の鱛ほど降る(なます) 

1292 落すがいやで廻る雪の戸 
1293 石の地蔵の清い唇 
1294 瞳すわらぬ四辻の顔 
1295 親に奢て見せる籔入 
1296 恋風も思へば四季に替へて吹き  
1297 物縫の誉られはじめ衣がへ 
1298 腕づくの女房見に行く交肴(まぜざかな) 
1299 人を呼ぶ鉦に我子を膝へ上げ 
1300 泊客言訳過てうたがはれ 
1301 題目おどり顔も手も筋 
1302 度々壁を拝む門前 
1303 酔て戻つた妻を見上る 
1304 天下に知れた愚癡な吉原 
1305 誠皆うそに消さるゝ落し文 
1306 うたれた瀧の末に膏薬 
1307 つまぐつて帰る昔のしのび道 
1308 酸いもの並ぶ小梅梅若 
1309 年明の心にしづむ灯篭の火 
1310 抜身を軽く思ふ高縄 
1311 草の中にも傘は三本 

1312 朝顔が咲と蛍は馬鹿に成 
1313 もはや男に成果し後家  
1314 風呂敷の度々主を取違ひ 
1315 膏薬の二重心は穴を明け 
1316 干鰯の仕切見ても眼が覚(ほしか)
1317 記念の琴になみだかき交ぜ(かたみ) 
1318 五月雨に肴の顔を見忘れる 
1319 六畳敷へ無理な藝呼ぶ 
1320 蒸薬息を吹のが癖に成り 
1321 口のうちで言ふ念佛がほんの事 
1322 客夜着に土蔵の鍵をのせて出 
1323 十月の霞のかゝる本願寺
1324 古い屋敷で椶櫚の葉を買(しゅろ)
1325 黒雲かゝる焚出しの飯 
1326 ぬれずに戻る傘にうたがひ 
1327 看病の一間隔てころもがへ
1328 小判へも鏡の息のあいしらへ
1329 旅だちの跡の座敷へ日が当リ
1330 塩鳥のおよいだ形に堅く成
1331 だまつて瞽女をすゑる明るみ 

1332 燕より一月はやきつばめ口
1333 珍らしく見る旅のからかさ 
1334 こらへ〳〵て鐃鉢に泣(にょうはち) 
1335 藤の花最う此うへは日も延びず
1336 見附の屏風盃を見ず 
1337 蜊鳫木に汐の見合せ(あさりがんぎ) 
1338 縮緬も繻子も仏の道しるべ
1339 昼寐の顔へ掃かけて見る 
1340 木馬に似たりうどん屋の音 
1341 寒念仏鳥屋の門も野辺の数 
1342 手の届くだけはたふして松囃子 
1343 わさびおろしに日の残る留守 
1344 挑灯が消ると直に突あたり 
1345 脇から見える公事の近道 
1346 吉原近く尖るからたち 
1347 松風や関の障子の喰違ひ
1348 格子から禿の髪へあやめ指し 
1349 碁うちの見出す宵の明星 
1350 かつがれて初会へ上る枝紅葉 
1351 気の勝て居る品川の猪牙 

1352 伴頭の異見に下る春の空 
1353 浄るりで殺した声を鉢扣き
1354 桑の杖おもへば遠きはかりごと 
1355 水かゞみ見る舟の退屈 
1356 焼塩を削る女房の膝せまき 
1357 地紙売我物好も言うて見る 
1358 蚊屋越にゆり起されて早合点 
1359 他人の目からしれる一生 
1360 逗留の二晩めから能く寐入 
1361 抱つくまでが恋の道行 
1362 大工の智恵を寐ころんで見る 
1363 猪牙のふとんを撫る椎の実 
1364 真顔に成て武士の付ざし 
1365 さくらを浴る馬の横面 
1366 大根馬ふしょうぶしょうに引廻し 
1367 気の軽ひ母は見て居る水浴せ 
1368 淋しさは巨燵やぐらのゆるく成 
1369 まがらぬ心瞽女の手を引 
1370 母は箸にも楊枝にも栗 
1371 沈んで乳を隠す居風呂(すえふろ) 

1372 鳥屋の見世のくらい年越
1373 畑の鶴をみせに遣る雪 
1374 須磨の浦雛も柄杓に汲込れ(ひしゃく)
1375 明星がくるりとふれて淀へ着く 
1376 恥かしの火燵の出来る煤拂 
1377 半夏生隣も合ぬ井戸の蓋 
1378 むかしの通り念仏て起 
1379 四ツ谷の埃に伊達染が行 
1380 負た子の目ばたきをする葭簀編(よしずあみ) 
1381 生男も琴柱に落る中の町 
1382 髪かたち笠もかたちの内に入 
1383 鬼と言るゝ後家の革足袋 
1384 富士の夢見てまめに成る母 
1385 女ごゝろに見たい竜宮 
1386 かんこ鳥啼く庵に鳶口 
1387 ひとりで飯のにえるかみなり 
1388 二百十日にあぢなよめ入 
1389 石の井筒を母の念願 
1390 手品きれいに紙燭よる妻 
1391 袂で銭を遣ふ墨ぞめ 

1392 鏑木を内から立て縁遠き
1393 松明を結ふ村の葬礼(ゆふ) 
1394 俤の夜の障子やたばこ鄽(店)
1395 小つゞみに恋を仕まける大つゞみ 
1396 糊立のせぬ衛士の顔付 
1397 清書は障子に残りたゝき鉦(きよがき) 
1398 五箇村すくふ主の有る池 
1399 降ぬ日の勅使を誉る角田川 
1400 人礫うつ浪人の夢
1401 立聞にやり手は鍵を握リ詰 
1402 大僧正も材木を問 
1403 棹ぬく跡にきり〳〵とうづ 
1404 懸乞帰る向うから春 
1405 なみだぬぐうて袖の片ゆき 
1406 子の扱いの下手な連歌師  
1407 五条の橋で安い主従 
1408 久しい先の奉加帳出る 
1409 水仙の舟は入日を漕流し 
1410 田の中を蝶々も飛文も飛 
1411 名もしらで何かうれしき生肴

1412 横平に念者の手紙むつまじき
1413 始からはづす合点のとしわすれ
1414 篠をつく降に戸板の年が知れ
1415 梅に向て歯を鳴らす妻 
1416 詫言に若衆の母も手を合せ
1417 娘が逃て髪結はぬはゝ 
1418 二羽鳴雁も極月の聲 
1419 与力町一人か二人よいをとこ
1420 くらい所で笑ふあやつり 
1421 一逃にげて口を吸せる 
1422 袖の梅きかぬは妻の心也
1423 泣子の口へしたむさかづき 
1424 浅い新地に朽るがつそう(合総=総髪) 
1425 行合せねばしれぬ達磨忌 
1426 山帰来かならず城の落る時
1427 たからの市で聟は倒れる 
1428 草履とりまで息杖の息 
1429 明地が出来て新らしい棒 
1430 合点の上で遠い寐所 
1431 宇治にちらばふ殿の紋所 

1432 夜更て人を遣ふいんぎん 
1433 そば切は投込ほどが馳走也 
1434 たゝらの中へ薬鍋かけ 
1435 相人が瞽女で恥をかゝせる(あいて) 
1436 小野が曇てほとゝぎす降 
1437 下戸の鼻にはうまい木犀 
1438 二代とは続ぬ下戸の蔵を買ひ 
1439 めくらむす子の乳を長く呑み 
1440 仙台へ歯の立ぬ稲虫 
1441 気の強い女の落るあまの川 
1442 飼ねずみ来るよし町の屋根 
1443 むつくり起た醫者の横平 
1444 名代の狐白い飯喰ふ 
1445 向うの顔をふさぐ蘆刈 
1446 葉ほど世間をしらぬ茶の花 
1447 夜はほのぼのと通り者散る 
1448 染風呂敷の美しい供 
1449 かぼちやを抱て下るさし茅 
1450 無念なりけり山伏の餅 
1451 是切の布子着て買ふはつ鰹

1452 昼を大事に遣ふ十月
四季混雑 紀逸述 
法楽
1453 裏なきは神のこゝろぞ夏衣 
1454 鶯の聲かけて割る氷かな 
1455 我が年をかぞへて寒し冬籠 
1456 名月や茗荷の鶴も生のこり  
1457 あくる日に家の床しき碪哉 
1458 樹に寐るとおもへばやすし渡鳥 
1459 二夜啼一夜はさむしきりぎりす 
1460 菜の花や庵のうちに曾我の母 
1461 はつ雪や牡丹のごとく手の如く
重九  
1462 朝顔に着せる物なし菊の花 
1463 稲づまや椽まで来ては帰る波(縁) 
1464 顔みせや狐もひとつ人の中 
1465 初雁や結んで投る雲の袖 
1466 夏行て誉たる所皆寒し  

1467 樽買の二十日めに来る牡丹哉 
1468 降そうな三十日をふらで時雨かな 
1469 袴着やうしろにおやま二郎三郎 
1470 鼠追ふ夫婦の声も夜寒哉 
1471 木がらしや眼につけて吹く柳原 
1472 あたゝかに猫を寐せるや寒牡丹
上巳
1473 酔ぬとは言れぬ雛のあぐらかな 
1474 鹿の恋猶焚つけるもみぢ哉
神明法 
1475 正直の種を植るや杉の苗
1476 初午に狐を乗せる遊びかな
1477 根を付て提ればいやし菊の花
1478 海老網の引明さむきもみぢ哉
1479 五月雨や焚ぬ煙の小松ばら
1480 からたちも手の出し安き若葉哉
1481 二日から月も匂ふや梅のはな
1482 ゆかしさよ嫁菜揃へる暖簾下
1483 むら雀躍らば着せん梅の笠

1484 大空に無事と書く字や春の雁 
1485 雲雪は跡での事よ花ざかり 
1486 眼に白き物のくすりや山ざくら 
1487 麦飯にとろゝと啼やきじの聲
更衣 
1488 袖笠のかへりもかろし衣がへ 
1489 しら鷺の眼にはあぶなし郭公 
1490 夕ぐれやさくらに沈む人の聲
はるかにてらせ山のはの月 
1491 時花眼の闇のあかりや仏生會(はやりめ) 
1492 銭の事わるく言れぬぼたんかな 
1493 さわらびや煙をつかむ雨の中 
1494 鵜遣ひの躍り見て居る月夜哉 
1495 紫に身を投出すや萩の露 
1496 宵の雨抜るほどゝは雲見草 
1497 松虫の松もどきにも茄子かな(なすび)
五歳に成る愛子を失へる人に 
1498 五の字にも油断はならず五月雨 
1499 ぽた〳〵と桃の花さく垣根哉 

1500 笛吹て啞も遊ぶや花すゝき  
1501 魂や鐘に勝つ夜のきりぎりす  
1502 はゝきゞや入日の中のいかのぼり 
1503 八朔や機嫌の直る風の神  
1504 利口には波のしいれる千鳥哉 
再会
1505 同じ根は寄り添やすし雪の竹
留別 
1506 まあとあるをしほに戻るや川千鳥 
1507 大黒の身をうき草やゑびす講 
1508 雛の前かしこまりたる雨夜哉 
1509 町中に医者の桜の咲にけり
他国の人をいたみて 
1510 聞てから寐られぬ夜半や寒念仏 
1511 初雪やつまむで付る垣のはな 
1512 屋根板を鳶のくはへる野分哉 
1513 づぶぬれて芙蓉を出る兎かな
五月十三日首途
1514 簔と笠竹植る日の旅出かな 
上野にて
1515 しのばすはことしも花の鏡かな 

鉢の木の讚
1516 あたりながら梅に梅田の工夫哉
煙の中に女の顕れし画讃
1517 炭はねて言残したるうらみかな 
1518 吸ふてだに鶴の千とせや菊の露 
1519 聟に成人うつくしき師走哉 
1520 飛ぶ中にありく蛍やみをつくし
再会 
1521 二度めには戸の明てある水鶏哉
あはれなる物
1522 子を抱て鶏の丸寐や霜の声
丹五 
1523 立並び小褄のかへる幟かな(こづま、のぼり)
看病 
1524 火の下に生姜の匂ふ霜夜哉 
1525 鳥黒し硯洗ひの橋ばしら 
1526 朝顔を朝食にする胡蝶かな
七十賀
1527 その上に三十足さん百千鳥 

1528 名月やうき世の隅に念仏講 
1529 白瓜に思ひがけなき手綱かな 
1530 名月やそれ程もなき雲の帯 
1531 よい陰へ放しうなぎや蓮の花
1532 鉢たゝき同じ所の夜明哉
出山の像を拝して  
1533 吹度に佛の肉の落葉哉
別荘にて
1534 かんこ鳥見る気はないか上屋敷
1535 薮入のうき世に飽た顔もなし
起出て又何事をいとなまむ
1536 起々の筆にちからや大根引
1537 玉霰鼠の嫁を呼ぶ夜かな
1538 山茶花や障子のうちに尼の聲
1539 鳥さしの振かへりたるやなぎかな
1540 椀久が蒔て花さく菜種かな
1541 年と日のかゝりむす子や太郎月
1542 田作リの鱠は寒し梅の花
1543 万歳や今はむかしの縣召(あがためし)

神農  
1544 一日の口に余るを蚊やりかな
1545 はつ霜や湯屋よりあまる水煙
1546 風はなやねぶかに落て入性根(いりしょうね) 
1547 秋までは我を張通すかゞし哉 
述懐  
1548 鬼灯や人は口から年が寄り
 
俳諧武玉川 二篇 終

初篇
三篇

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