2012年12月6日木曜日

【満尾】第四千句第二百韻『荒星や』の巻


     百韻『荒星や』の巻   
                2012.12.6〜12.24

発句  荒星や黒塊となる屋敷林      曙水 冬
脇句    大根簾叩く幼子        風牙 冬
第三  喝采の受賞祝ひは炬燵にて     草栞 冬
4     けふもけふとて酒が飲めるぞ  春蘭
5   木の下にぽつねんと待つ新社員   玄碩 春
6     夜明けの花を慰めとして    ね子 春花
7   ふらここを立ち漕ぎすれば月近く   水 春月
8     良い子は帰宅せよと童謡     蘭

9   テーブルに一つ置かれしカップ麺   牙
10    なんだかんだと飛んでゐる妻   蘭
11  ”出張”の土産物とて水中花       ね 夏恋
12    禊を済ませ受け容れる愛     栞 夏恋
13  漸くに払い終えたる養育費      牙
14    血筋守りて女流家元       水
15  植木屋が入り清しき見越し松     蘭 
16    野球少年前をうろうろ      碩
17  ランニングコースはぐれて一休み   栞
18    寺深閑とつくつくし啼く     蘭 秋
19  置き去りのビニール傘に月明り    ね 秋月
20    枯れ葉舞い込むコンビニのドア  水 秋
21  止められぬ酒と煙草は人のせい    牙
22    ネオンまたゝく我が家への道   蘭
二オ
23  ツーショット撮られぬやうに手を離し 栞
24    CM場面あはや惨事に     夏木
25  山の午後天気急変ガスが出て     蘭
26    記憶に想像交へ描く絵      〃
27  次の世は鳥となりたし風うらら    牙 春
28    余寒か悪寒か総選挙前      ね 春
29  後出しのジャンケンで負ける新入生  水 春
30    尾鰭ばかりが幾重にもつき    木
31  判官へ贔屓が高じ諸伝説       蘭
32    青菜を並べ交わす冷や酒     碩 夏
33  短夜を連句仲間と過ごさまし     ね 夏
34    夏の霜降る露地を進みて     栞 夏月
35  誰何され初めて気づく己が影     木
36    忍んでつけるペアのウォッチ   水 恋
二ウ
37  既婚者もおもひを寄せる許嫁者    蘭 恋
38    朝まで語る白き息して      ね 冬恋
39  ぬけぬけと嘘吐く遅刻常連者     水
40    小エビで釣りし鯛は大味     木
41  豊饒の海隔て無き日は何処      栞
42    雲縹渺と東する空        蘭 ひょうびょう
43  少年の自転車速くも橋渡る      水
44    うれしい時はいつも口笛     木
45  アンティークグラス並べば巴里の色  牙
46    地上を走るメトロ懐かし     栞
47  どの街も似たよなビルや店ばかり   蘭
48    一家言士の供はつらいよ     木
48    土筆たんぽぽ残る一角      ね 春
49  茣蓙敷きて花見弁当広げたる     栞 春花 両句に
50    春颯吹きひらりスカート     水 春
三オ
51  やすみなし又候恋の季節にて     蘭 恋 またぞろ
52    更衣さへ上の空なる       木 夏恋
53  ヴェランダの下より聞こゆセレナーデ 栞 夏恋
54    ロミオに飽いたジュリエットゐて ね 恋
55  日替わりといいつつ変わらぬ定食屋  水
56    午後の講義はさぼり名画座    蘭
57  懐メロも交じりて偲ぶイケブクロ   木
58    ウーパールーパー飼っていた頃  牙
59  真四角の窓に異国の月が出て     ね 秋月
60    酔うた箸先衣かつぎ逃げ     水 秋
61  秋収めご相伴にと寄るすずめ     蘭 秋
62    温習会のはねて賑はふ      木
63  雪洞のあかり妖しき抜け小路     蘭
64    足速に行くキャリア官僚     ね
三ウ
65  外交の機密聞き出す暇もなく     栞
66    憶測で書く新聞の記事      牙
67  ノーベル賞とうとう賭けのネタになり 蘭
68    はずれのボクは飴ひとつだけ   木
68    似非科学者の野望はてなし    ね
69  ママごとも戦争ごっこもオンライン  ね 両句に
70    ランドサットはすべて見通し   水
71  此は如何に着地は釈迦の掌に     木
72    悟り開ける菩提樹の下      栞 夏
73  炎天に佇んでゐる人の顔       ね 夏
74    心霊写真プレミアがつき     水
75  彷徨へるオランダ船の噂して     栞
76    隠れ家となるフィヨルドの村   牙
77  亜麻色の髪の花嫁ばらの笑み     蘭 雑花恋
78    貧しき聖夜贈りしは愛      木 冬恋
名オ
79  影ふたつ暖炉の前に重なりぬ     ね 冬
80    推理ドラマの居間の豪華さ    水
81  バリスタで束の間気分リッチにて   蘭
82    掃除に邪魔と出され図書館    〃
83  宿酔いのあるじに懐く迷い猫     碩
84    今日人類の滅亡のとき      ね
85  週末を平和に過ごす有難さ      栞
86    涙もろきは齢の所為にや     木
87  オペラ座の幕間に列の化粧室     牙
88    きものがにあふやまとなでしこ  蘭
89  春の月女子力アップのマツゲ付け   水 春月
90    後はおぼろとアヴァンチュールへ 栞 春恋
91  君の影あは雪よりもはかなくて    木 春恋
92    きぎす鳴きそむ小野の下萌    蘭 春
名ウ
93  敗戦の将にもならず会社去る     ね
94    裏目となりし損得の計      木
95  土地買つて立ち消えとなる首都移転  蘭
96    草のいきれに二千円札      牙 夏
97  夏休み子には何でもやらせよう    蘭 夏
98    日本一周マラソンの旅      ね
99  見上げれば甍の波に花がすみ     碩 春花
99  ひとひらの潜む便りに花の時     牙 春花
挙句    気配はすれど見えぬ若鮎 青村豆十郎 春 両句に
挙句    城下を後に遍路再び       栞 春 両句に

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目

写真提供はフォト蔵さん

2012年12月5日水曜日

芭蕉の仕損じ



          (『誹諧深川集』元禄六年)


#jrenga 所収:原田曲齋『貞享式海印録』

許六曰く。巻出来終りて師曰く。「此誰の字は全く前句の事也。これ仕損じ也」といへり。(『こ東問答』) 

    薄りと門の瓦に雪降て     許六 (うっすりと)
      高観音に辛崎を見る    洒堂
    今はやる単羽織を着連立ち   嵐蘭
      奉行の鑓に誰れも隠るゝ  芭蕉  

四句目の芭蕉の付句、別に問題ないんじゃないと思う人は連句は今一。アウト! 誰れは前句の人々のことで前句に縋っている。

「蕉門の付句は前句の情を引き来るを嫌ふ。ただ前句はこれいかなる場、いかなる人と、其事其位をよく見定め、前句を突き放して付くべし」と言っている張本人の失策である。

仕損じならば直し給えと弟子らは言わず、芭蕉本人も自ら直そうとしなかったらしい。悪い例も残せば後人の為になると考えたのだろうか。

2012年12月4日火曜日

蕉門の前句の意を転ずる妙法

見立・趣向・句作の定法十三条  所収:原田曲齋『七部婆心録』


俳諧の連歌において付句は、以下の三つのプロセスによって行われる。
(1)見立:前句の意を転ずる案じ方で前句をどういう場面と見立てるか、
決める。
(2)趣向:初念の見立に対し付句をいかなる場、人、体、用、情、趣意
の趣向(付けの物柄)とするか、前句に対しいかなる姿勢、重ー起
情、中ー会釈、軽ー遁句で付けるか、起情、会釈は曲節ありなしの
どちらでいくか決める。
(3)句作:見立と趣向を掛け合わせ、古語、俤取り、余情などを加味し 
て一句を仕立てる。
この三つを備えない句は大方、前句の註(説明)か一向に付かない句で
ある。

見立の五条
一、前句の上中下に言葉を添えて魂を替える法。

一、に留て留の句を見替えるには、に、ての後ろに言葉を添えること
定法なり。

一、何に対してかく言うと前句を咎める案じ方あり。

一、前句を虚(嘘)に言う言葉と見て、付句にその続きの戯言を付ける。
付句例 鼓手向くる弁慶の宮、麻刈といふ歌の集む

一、即体 其用や其情の句が並んだとき体ある物に見立てる。

趣向の五条
一、准(なぞらえ)付 人情をものに譬えた前句には其のものに対
して付ける。

一、逆付(後付) 前句より先に起こるべき事象を後から付ける。

巾に木槿を挟む琵琶打
牛の跡弔ふ草の夕暮に

一、裏付 前句の言葉の裏の意味を読み付ける。

道のべに立ち暮らしたる禰宜が麻
楽する頃と思ふ年延

一、それにつけてもの用 前句の内容であるが、それにつけてもと
案じる。

一、空撓め 前句とは何の付け筋もなくふと思い浮かんだ姿をもっ
て直感的に句を付ける。それでいながら無心所着(短歌として意
味不明)ではない。蕉門の秘法・妙法とも言われるが芭蕉自身も
直弟子にも具体的に説明し得ない絶妙の術と言う。支考は証句と
して以下を挙げたが、七部集を繙き付け筋はわからないが意味は
通じる付句を探して、自分で判断し学ぶしかないのかも知れない。

障子に影の夕日ちらつく
婿殿はどれぞと老の目を拭ひ

句作の三条
一、相係り(前句の見立に半ば係りの言葉があれば付句も前句に
半ば懸けて作る。)、係付(前句を平生ならず見立てるとき
は、見立ての中の言葉で前句にもたれるように作る。) 結
付(前句に情か用の言葉がありその意を転ずるときは、付句
は其場、其体をもって作る。)

一、不用の用 後句を付けやすくするために付句には不用な言葉を
付加する。

一、執中の法 前句の余情から中心となる一二三字の単語を連想し意
味的には直接関係のない句を付ける。

糊強き袴に秋を打うらみ
鬢の白髪を今朝見付けたり    老を連想

手紙を持ちて人の名を問ふ
本膳が出ればおのおのかしこまり   振舞を連想    

此の秋も門の板橋崩れけり
赦免にもれて独り見る月      左遷を連想

感想:
曲齋の『貞享式海印録』は、芭蕉俳諧の作法がどういうものだったか窺う
には最適な書である。芭蕉門には前句の意を転ずる妙法なるものがあるか
ら古式のような式目は不用なのだという記述が含まれている。

その妙法とは匂付け(余情付け)、執中の法、空撓め、見立て替えかと私
は見当を付けたが自信はない。評釈が嫌いできちんと読んだことがなかっ
た芭蕉七部集の評釈本『七部婆心録』の註釈の仕方を解説した中に上述の
コンパクトな記述を発見(^^)した。曲齋はこれを基に『附句見立鏡』という
書を構想していたらしい。実際に発刊したのかは今の所不明である。

曲齋が考える妙法には、私が見当を付けた四項目は含まれていたがそれば
かりではなかった。また、すべての付けは、前句の見立てなのだという考
えに立っており、連句は見立て替え(曲解)の文芸なのだという説の論拠
になり得そうである。難解で正しく咀嚼できたかは自信がない。今まで見
立、趣向、句作を一緒くたにしてきた自身の付け転じに光明となることを
祈る。

上述を踏まえて平易な短い言葉で芭蕉流の付け転じ方を縮めて言えば以下
のようになるだろうか。

【前句の言外に言ひ残したるもの・余情・曲解から見立て、趣向は遠く、
句作は近く(短歌になるように)付けるべし。】