2013年11月7日木曜日

【満尾】第四千句第十百韻『つくづくと』の巻


                      百韻『つくづくと』の巻   
                                                                                  2013.11.7〜12.12

発句  つくづくともののはじまる火燵かな   鬼貫 冬
脇     時雨るるさきに街へ買出し     春蘭 冬
第3  山茶花の垣を曲れば散歩犬       草栞 冬
4     馴染みとなりて掛けるひと声    真葛
5   行列が行列を呼ぶラーメン屋      野茨
6     つるべ落しに迫る夕闇        栞 秋
7   月と酒どつちと言へぬ友にして      蘭 秋月
8     霧の向かうに独り身の家      ね子 秋

9   こりもせず一人相撲の片おもひ      茨 恋
10    消えかかる炎に反故の恋文      葛 恋
11  受験より大切なもの今はなし       ね 
12    スマホ世代も占いが好き      曙水
13  LINEして親子関係良好に       茨
14    げにむつかしき以心伝心       栞
15  噂して七十五日里の村          葛
16    風吹きやんでのぼる炊煙       蘭
17  ちり鍋を囲む奉行の睨み合ひ       栞 冬
18    勝ちし力士の肌に湯気立ち      水 冬
19  満場は総立ち拍手なりやまず       茨
20    記憶は春の雨の場所取り       ね 春
21  川沿ひの花のトンネル往き戻り      蘭 春花
22    雲雀囀るホワイトハウス       栞 春
二オ
23  とりにくさのりこえ有休消化して     茨
24    南の島でゴーギャンの真似      葛
25  探すなよこころの中にユートピア     茨
26    吾児の寝顔にゆるむ口もと      蘭
27  朝は妻昼は上司にどやされて       ね
28    満月の夜の変身願望         栞 秋月
29  長き夜に中島みゆき独り聴き       水 秋
30    山のやうなるピーナツの殻      葛 秋
31  老いて食細いながらも秋渇        蘭 秋
32    はかりに乗つて一喜一憂       茨
33  釣り宿に更新記録の魚拓貼る       水
34    目を見張ること多き旅先       ね
35  レートなどお構ひなしに爆買ひす     葛
36    おもへば遠しバブル時代よ      茨
二ウ
37  行く川の流れは絶えず浮葉舟       栞 夏
38    決められぬままふたまたの恋     蘭 恋
39  涙ぐみ悲劇の女演じ切る         葛 恋
40    輝く星となりし魂          栞(恋)
41  なきひとをふと思ひ出すゆふの鐘     茨
42    親の苦労を親となり知る       蘭
43  放蕩の末の棲処の有難き         栞
44    ことこと煮立つ芋粥の鍋       葛 秋
45  すさまじき山家のそらに澄める月     茨 秋月
46    庭の浅茅にすだく蟋蟀        蘭 秋
47  来客のなき日曜はワイン風呂       ね
48    ヨガで瞑想うららかな午後      栞 春
49  ひらりひら花びらひらりひらひらり    茨 春花
50    池に残りし鴨の水尾曳く       蘭 春
三オ
51  そぞろなり都踊りの近づきて       葛 春
52    本番備へ着付け練習         茨
53  撮影の合間に食べるカツサンド      栞
54    NGだけでスペシャル作り      水
54    メイク早いも売れっ子の技      水
55  呼び物は伊達の十役早変はり       蘭
56    一期一会の一世一代         栞
57  わが庵で茶会はじめて主催して      茨
58    すわ引っ越しと騒ぐ店子ら      水
59  恬として噂のぬしは頬被り        葛
60    邪魔されやすき色恋の道       茨 恋
61  野茨を手折りて気づく愛の不義      栞 夏恋
62    ゲーテとギョーテ和解せしとや    葛
63  悩むとも外にいでよと春の月       水 春月
64    田は水たたへ蛙鳴き初む       蘭 春
三ウ
65  名にし負ふ高嶺は雪や里桜        茨 春
66    世界遺産に挑む人びと        ね
67  とりあへずゆるキャラつくる町おこし   蘭
68    大志抱かずめざすB級        水
69  ながらへば埴生の宿もまた楽し      栞
70    ハモニカの音すこし上達       葛
71  一列に並んで歩く七五三         ね 冬
72    カルガモ親子フラッシュに慣れ    水 夏
73  緑陰がオアシスつくるオフィス街     茨 夏
74    手つき見事にワープロを打つ     葛
75  自分史をものせん履歴書まづ書いて    蘭
76    夜明け前より霞立ちたる       栞 春
77  三輪山の裾野をたどり花遍路       水 春花
78    八十のちまたに萌える若草      茨 春  やそ
ナオ
79  ロリータと名付く娘の稚けなさ      葛
80    あひあひ傘に描かれ赤らむ      蘭 恋
81  濡れ事を隠す暇なく広まりて       栞 恋
82    秘密保護法ねがふ面面        葛
83  せいじかのきょうみ利権と保身のみ    茨
84    庶民はいつも質素倹約        蘭
85  新聞は折込チラシがあんこにて      茨
86    食傷気味の父の説教         ね
87  なんやかや実家に帰り愚痴を言ひ     蘭
88    ふらりと出れば肌寒き野良      茨 秋
89  さやけくも木の間にのぞく十三夜     蘭 秋月
90    ひとり筆持ち染みる虫の音      水 秋
91  夢に見た文学賞は夢のまま        葛
92    遥けき希み神のまにまに       栞 
ナウ
93  堕ちてみて知ることもあり恋の淵     水 恋
94    またぞろもたぐ浮気ごころよ     茨 恋
95  会社ってそとみなかみは違ふもの     蘭
96    偽りのある是は早く朽ち       蛉
97  誤表示の白状をさまる気配なし      茨
98    やけに羽音の耳につく虻       蘭 春
99  喧噪をよそに天園花盛り         栞 春花
挙句    水平線の霞むわだつみ        茨 春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用はフォト蔵さん

2013年9月7日土曜日

【満尾】第四千句第九百韻『蕎麦はまだ』の巻


                      百韻『蕎麦はまだ』の巻   
                                                                                  2013.9.7〜10.21

発句  蕎麦はまだ花でもてなす山路かな    芭蕉  秋
脇     峡の朝霧かすむ富士ヶ嶺      春蘭  秋
第3  ありあけに浅きゆめからふと覚めて   野茨  秋月
4     重陽の菊まずは一献        曙水  秋
5   五輪書を紐解き初心忘れまじ      草栞
6     還暦を機に飛び回る妻        蘭
7   追ひかける亭主の財布羽根生えて    真葛
8     ぴくりと動く梟の耳         栞  冬

9   浮世床うはさ話に花が咲く        茨
10    つけっぱなしのテレビちらちら    蘭
11  灰燼に帰せるタワーの残像か       栞
12    西に東に奔る大国          葛
13  二十一世紀もすでに十余年        蘭
14    みんなうつむきスマホいぢくる    茨
15  通学の憧れ王子やや寝癖         水
16    想ひを込めて落とすハンカチ     栞  夏恋
17  過去の恋また蘇るクラス会        茨  恋
18    茶々入れられて縒れしスピーチ    蘭
19  花見とて上司が居れば仕事にて      茨  春花
20    抜き打ち監査終へる朧夜       栞  春
21  山独活を芥子きかせた酢味噌和へ     蘭  春
22    長途の墓参も食の楽しみ       茨
二オ
23  海上の都に眠る作曲家          栞
24    四季をりをりに魅せる趣き      茨
25  遠距離の逢瀬を京で重ね来て       蘭  恋
26    失楽園の露と散りぬる        栞  秋恋
27  夢見じと酔はじと知りて濁り酒      葛  秋
28    小町も勝てぬ老いの秋風       茨  秋
29  幾千年かはらず光る望の月        蘭  秋月
30    孵化する命そつと育む        栞
31  歩数計数字かせぎに回る池        茨
32    画架立ち並ぶ定番の場所       蘭
33  手離せぬ懐炉たよりに待つ日の出     栞  冬
34    白らんだ息のかき消ゆる森      蛉  冬
35  緋袴にバイトの巫女もまざるらん     茨
36    鈴の音高く齢寿ぎ          栞
二ウ    
37  おめかしの馬コ引く馬子晴れがまし    蘭  夏
38    古本で見るパリ・コレの記事     葛
39  チョコレート色した染みは新しき     栞
40    旦那ゐぬ間のひるのママ会      茨
41  円満は互いに干渉しないこと       蘭
42    かたりかけそな仏像の笑み      茨
43  行き着かば希み叶ふやガンダーラ     栞
44    苦心の歌は舌足らずにて       葛
45  うぐひすのぐぜりをかしき竹のやぶ    茨  春
46    師の温情で卒業となり        栞  春
47  雲を得て伏龍天に昇るとや        蘭  春
48    おぼろ月にも影の仄見ゆ       葛  春月
49  石割の花の命の長からん         栞  春花
50    老眼鏡をふたつ重ねて        葛
三オ
51  積読を一念発起でよみ崩し        茨
52    資金不如意の休暇いただき      蘭
53  任せ切る安楽を知るバスツアー      茨
54    稲穂色づく豊穣のとき        蘭  秋
55  待宵に団子供へて縁を拭く        栞  秋月
56    少し派手目の秋袷着て        葛  秋
57  審美眼鍛へに上野の森へゆく       茨
58    ザックひとつでカスバ界隈      葛
59  わすれえぬきみのおもかげみにそへて   蘭  恋
60    熱きくちづけ分つ風花        栞  冬恋
61  ひなびたる湯宿埋もれん雪あかり     茨  冬
62    トンネル長しリハビリの日々     葛
63  介護ロボせめて相槌打てたなら      栞
64    生を佛にあづけ老い楽        蘭
三ウ
65  とりあへずなんでもかじる趣味三昧    茨
66    小節きかせてアリア熱唱       葛
67  当落の線上辺りひしめきて        栞
68    総選挙とはオタク商法        蘭
69  しかしまぁなべて日本は平和かも     茨
70    もうボケたかと連れの突っ込み    栞
71  阿と吽の区別つかぬもご愛嬌       葛
72    七福めぐり祈る開運         茨  新年
73  今年こそこころ入れ替へ肉断つて     蘭
74    骨の密度はいかにとやせん      栞
75  鱧捌く修業も月の法善寺         葛  夏月
76    待つ身にすれば永き短夜       茨  夏恋
77  ふくらみし花の蕾の初々し        蘭  春花
78    稚児のうぶ毛もそよぐはるかぜ    茨  春
ナオ
79  若駒の眼差しいつか荒らかに       葛  春
80    所領安堵の報せ巡りて        栞
81  ころころとブレていくのも処世術     茨
82    深く潜行大同団結          蘭
83  伝はりし皿鉢料理に舌鼓         栞
84    洗濯するは全自動にて        葛
85  古き良き昭和の不便さなつかしく     茨
86    掻いた落葉で作る焼き芋       蘭  冬
86    秋刀魚のけむりのぼる七輪      蘭  秋
87  みちのくの海はや秋の色深み       葛  秋
88    島影縫つて寄する月光        栞  秋月
89  野分過ぐ空気澄みきり夕あかね      茨  秋
90    淹れたて珈琲ほっと一息       蘭
91  ジョコンダのほほゑみの謎誰も触れず   葛
92    学生気分でオープン・カレッジ    茨
ナウ
93  何となく見覚えのある迷い猫       栞
94    下町情緒もとめ谷根千        蘭
95  買ひ喰ひで腹きつくなり昼は抜き     茨
96    嗚呼ややこしや8パーセント     葛
97  たまるのは嵩張る小銭ばかりなり     茨
98    近場の花を愛でてほろ酔ひ      蘭  春花
99  郎女の佳き日を前に暮遅し        栞  春
挙句    夕風かすか揺れるぶらんこ      葛  春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真借用は八ヶ岳山麓清里から~杏荘便りさん

離檀と観音像

離檀した。更地にする費用として請求されるまま40万円を払った。墓を開けてみると骨はなく、首の折れた観音像があった。父が創ったものだろう。気持ち悪いと家族は言うが修復し床の間の茶道具の箱に収めた。

※ 水瓶(すいびょう)が徳利のように見えるので俗称酒買い観音と呼ばれるようだ。水瓶は如意瓶とも言い、仏の命の水/慈悲の聖水/汚れを払う霊水が入っていると言われる。

2013年6月3日月曜日

【満尾】第四千句第八百韻『押しあひて』の巻


                      百韻『押しあひて』の巻   
                                                                                  2013.6.3 〜 7.8

発句  押しあひて生つてゐるなる実梅かな   青邨  夏
脇     しとど青葉をつたふ五月雨     春蘭  夏
第三  家二軒由緒有りげに並びゐて      真葛
4     通学の子に仔犬離れず       曙水
5   お気に入り散歩コースは苑池まで     蘭
6     少し急がん秋の夕暮れ       ね子  秋
7   月光に色濃くなりし蒼い影       草栞  秋月
8     仁王立ちする野良の藁塚       蘭  秋

9   西へ行く臨時列車の客となる       ね
10    システム手帳チェックこまめに    葛
11  コーヒーで時間調整角のカフェ      蘭
12    思ひ乱れて「来る来ない来る」    ね  恋
13  夏薊思わず舐むる君の指        風牙  夏恋
14    高嶺を越えて雲の峰立つ       蘭  夏
15  ついすすりやはり噎せたり心太     野茨  夏
16    節介過ぎて煙たがられる       葛
17  鼻つまみ厄介者と扇がれて        蛉
18    所変はれば屑もアートに       栞
19  ひび割れも窪みもありて望の月      水  秋月
20    秋の夜空に花火儚し         ね  秋花
21  一人とて淋しからずや獺祭忌       栞  秋
22    コンビニで買ふ珍味いろいろ     葛   
二オ
23  嘘をつきコンパの誘ひ断つて       茨
24    首つたけなの年下の彼        栞  恋
25  アイドルが引退をせず卒業す       水
26    メディアに踊らされる民草      蘭
27  今でしょの株価は今日も乱高下      葛
28    明日への希望持つて生くべき     茨
29  健診で精密検査勧められ         ね
30    凩吹けば疼く古傷          栞  冬
31  なにもなき庭に趣が添ふ枯尾花      蘭  冬
32    壁の蓑笠ゆかし落柿舎        茨
33  熟年の婚活サイト覗き見る        ね
34    寝起きのまんまぬしテレビ漬け    蘭
35  朝ドラのヒロインともに泣き笑ひ     栞
36    喜怒哀楽が惚け防止なり       茨
二ウ
37  拾ひ来し子猫の世話に明け暮れて     蘭
38    野火の煙に季節知らさる       ね  春
39  残る雪駒形描く山の膚          茨  春
40    水も温んでどぜう顔出し       栞  春
41  雲ひとつない大空を鳶の笛        蘭
42    寝転びをれば浮かぶ楽想       葛
43  東軍に馳せ参じたる将もあり       栞
44    クラブのジャック切り札にして    水
45  カジノにて美女の気を引く技披露     茨  恋
46    澄ましカクテル作るバーテン     蘭
47  何ごとも甘さよろこぶ世を嘆き      葛
48    月に吼えれば朧なる顔        茨  春月
49  花よりと口遊みつつ松の陰        葛  春花
50    遍路の度に事件解決         栞  春
三オ
51  フェミニスト過ぎて未だに独り者     蘭
52    鏡に向かひおかめひょっとこ     葛
53  やれ茶会なんやかんやと妻出掛け     茨
54    二時間かけて探す爪切り       ね
55  徘徊の道に迷へば夜も更けて       栞
56    タクシー代はりに使ふパトカー    蘭
57  お隣の学歴偏重すさまじく        茨
58    名門塾に通ふ幼な児         蘭
59  投資とは資金を投げることなのか     茨
60    堂堂めぐり嫌気いや増す       葛
61  追うほどに葛きり逃げる箸の先      水  夏 
62    お忍びデート涼しげな月       栞  夏月恋
63  パパの恋ママに内緒にしてあげる     ね  恋
64    ただより高きものは無しとぞ     葛
三ウ
65  延命てふ清水はるばる汲みにゆく     蘭
66    定年待ってるキャンピングカー    水
67  憧れの風のガーデン眼の前に       栞
68    地に足着かぬ頼りなさあり      葛
69  襲名は興行を打つ名目よ         茨
70    慢心禁物日々の精進         蘭
71  後輩を育て仕事をぶん取られ       茨
72    単身赴任に惑ふ四十         蘭
73  音に聞く須磨の浦波月に映え       葛  秋月
74    芒の蔭に消ゆる落武者        栞  秋
75  大文字幾千万の魂鎮め          蘭  秋  
76    冷酒効いて蓙に大の字        茨     
77  ひさかたの天より受くる花万朶      栞  春花
78    みやこの跡はかすみ敷く野辺     蘭  春
ナオ
79  口あいて探せど見えぬ揚雲雀       茨  春
80    メール通話はすべて筒抜け      ね
81  情弱にスマホ機能は持ち腐れ       蘭
82    第一志望書くだけは書き       水
83  狭き門タカラジェンヌの夢遠く      栞
84    思ひ切る都度進む人生        蘭
85  出会ひざま0.1秒で恋をして       茨  恋
86    一万ボルトに痺れ悩殺        栞  恋
87  ライブ後のカラオケやたらハイテンション 蘭
88    DJポリスお手柄となる       水
89  ユーモアと機知は話の潤滑油       茨
90    一発芸に寿限無暗唱         蘭
91  後光差す阿弥陀如来を拝みをり      栞
92    沈む日輪追ふや月の出        茨  秋月
ナウ
93  背なの児も静かになりぬ夕紅葉      蘭  秋
94    刈田もやがて水を湛へん       ね  秋
95  秋霖をうらめし顔の捨て案山子      茨  秋
96    変身願望叶ふ日はいつ?       栞
97  みずみずと薄翠に染む蝉生るる      水  夏 あるる
98    風雅は四時を友としてこそ      蘭
99  黒髪にちらちらかゝる花の雪       茨  春花
挙句    毛氈延べる土手の若草        蘭  春

・・・経過は#jrenga

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年5月8日水曜日

【満尾】第四千句第七百韻『すつと出て』の巻



                      百韻『すつと出て』の巻   
                                                                                  2013.5.8〜6.1

発句  すつと出て莟見ゆるや杜若       子規  夏
脇     片脚立ちて眠る青さぎ       草栞  夏
第三  日ざかりを鉄橋鳴らし汽車がゆく    春蘭  夏
4     一斉に鳴るシャッターの音     風牙
5   はきはきと夢語る子の頼もしさ     真葛
6     枕元には宇宙ロケット        牙
7   ジャズ聴けば飛び行けさうな望の月    栞  秋月
8     新酒かたむけ想ひいろいろ      葛  秋 

9   歌姫の噂は消ゑて秋深し        曙水  秋
10    肌寒にひと恋しかるらむ       蘭  秋恋
11  口下手はジンの濃いめにギムレット    牙  恋
12    待ち合わせには時計はずして     水
12    背中で語る昭和ヒトケタ      ね子
13  こりもせず妻の買ひ物つき合ひぬ     蘭    両句に
14    支離滅裂を斬新と褒め        葛
15  詠み人の正体実はプログラム       栞
16    親が結局こなす宿題         蘭
17  老いの目に矯めつ眇めつ凍てる月     葛  冬月
18    ぎしりぎしりと米を研ぐ音      水
19  田芹採り土筆を摘みて節約す       ね  春
20    高嶺は残る雪に際立つ        蘭  春
21  淡墨のごとく咲きにし花も散り      栞  春花
22    また来ん春とつぶやきてみる     葛
二オ
23  南仏風英国風と分譲地          水
24    懐乏し夢のあるとき         ね
25  平凡に生きてゐられるありがたさ     蘭
26    ひなたぼつこの猫の同胞       栞
26    ご飯炊けたの声に目覚める      牙
27  行く先はその日の気分旅衣        葛    両句に
28    発句でまづは亭主持ち上げ      蘭
29  一巻の終はりはいつも春の宵       ね  春恋
30    二人しとねに望む淡月        蘭  春月恋
31  菜の花も添へてオムレツふわふわに    葛  春
32    クチコミだけで伸びる行列      栞
33  予報ではことしの梅雨は長いとか     蘭  夏
34    はやりの服を美容師に聞く      水
35  カリスマに和すは易らぬ人の性      栞
36    選挙勝つには世論誘導        蘭
二ウ
37  若者よスマホを捨てよテレビ見よ     葛
38    俗事にうとく直に四十        蘭
39  室咲きの鉢に水やる塾講師        牙  冬
40    連獅子の夢果たし感慨        葛
41  三代目てて親よりも爺さん似       蘭
42    秘伝のたれの中身聞くまい      水
43  風に乗る匂ひ嗅ぎ分け秋渇        栞  秋
44    家路をせかす釣瓶落しよ       蘭  秋
45  今日の月誰かが住んでゐる気配      ね  秋月
46    憂さ晴らしする相手探して      栞
47  目指すのは世界遺産と山ガール      葛
48    背を追いかける息の切なさ      水
49  でおくれて樹下一面の花むしろ      蘭  春花
50    嵯峨念仏の舞台賑ふ         栞  春
三オ
51  風船に迷子やうやく泣きやみて      葛  春
52    日比谷公園昼寝天国         水  夏
53  新緑のまばゆし人もころもがへ      蘭  夏
54    見初めしよりもなほ麗しく      栞  恋
55  差し向かうプラットホームで手を振りて  水  恋
56    一期一会は旅の醍醐味        蘭
57  忘れゐし栞はらりと文庫本        葛
58    押し花造り姉に教わる        水
59  リタイアー正直ひまを持て余し      蘭
60    弱小チームならばレギュラー     牙
61  四股を踏む姿似合ふとおだてられ     栞
61  月影を相手に素振り百二百        蘭  秋月
62    腹一杯の茸飯喰ふ          栞  秋  両句に
63  爽涼に犬の散歩の距離延ばし       蘭  秋
64    手綱捌きはあなた任せで       葛
三ウ
65  何時の間に銀婚式も通り過ぎ       ね
66    へそくり投資ネット・トレード    蘭
67  喫煙所スマホ片手の美人秘書       牙
68    ミニスカートに動悸速まる      ね  恋
69  魔が差して嘆きの天使堕ち行けり     栞  恋
70    証拠写真は見つからぬまま      葛
71  知り合いは誰にもあたらぬ裁判員     水
72    初神籤引き末吉と出る        栞  新年
73  髪上げの晴れ着のひとを品定め      蘭  
74    辛口通し世間狭める         葛
75  花曇好みの酒は独り飲む         ね  春花
76    春の叙勲に並ぶ碁敵         水  春
77  縁側に広げし紙面みだす東風       蘭  春
78    ロイド眼鏡の行方訊ねる       牙
名オ
79  鼻濁音南部訛りのわざとめき       葛
80    ともの帰省に乗じ借るやど      蘭  夏
81  屋根裏のアパート照らす月涼し      栞  夏月
82    カルチェラタンのカフェで読書を   水
83  ツアーではフリータイムも魅力にて    蘭
84    時間差で出る駅の改札        ね
85  親どうし犬猿ゆゑに忍ぶ恋        蘭  恋
86    心中隠し告げる道行         栞  恋
87  飛びながら叱咤一声ほとゝぎす      蘭  夏
88    さみだれ縫つてめぐる鎌倉     野茨  夏
89  スタンプを集めて早くゴールへと     栞
90    カラコロ下駄のひゞく湯治場     蘭
91  おまけよとコロッケ一個加へられ     葛
92    無駄かも知れずトクホ飲料      水
名ウ
93  かそけくも生き永らへし冬の蝶      栞  冬
94    きのふの鍋に具を足して鍋      蘭  冬
95  書きさしの論文猶もまとまらず      葛
96    猫なで声で餌を催促         水
97  歌舞伎みて夫婦に会話もどる夕      茨
98    ちょろぎの酸味優しさ募り      蛉
99  てのひらに散れる花片うけとめて     蘭  春花
挙句    囀る鳥の仲間入りせん        葛  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年4月15日月曜日

『貞享式海印録』ー 正風復古の願ひを起して同じ流れに遊ばゝや


幕末に原田曲齋は芭蕉在世時の蕉門の式目作法を分析定義した。本書は正風の俳諧師を自認する人のための座右の書/虎の巻である。#jrenga 連歌 俳諧 連句   電子版が国立国会図書館の近代デジタルライブラリにアップされている。
所収:俳論作法集 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/39  
書籍は日本の古本屋  http://www.kosho.or.jp/servlet/bookselect.Kihon で俳論作法集を検索すれば数冊ヒットする。

電子版『貞享式海印録』を活用できるように目次をURLリンク化した。

       頁 コマ番号      画像のURL          
貞享式海印録  56 39 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/39  
目録      58 40 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/40 
一の巻
 発句     72 47 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/47   
 脇 身柄の論 74 48 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/48  
 第三の節  119 70 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/70  
 三物    136 79 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/79   
 表物    138 80 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/80  
二の巻
 去嫌惣論  141 81 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/81 
 表の事   143 82 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/82   
 四句目   149 85 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/85 
 裡移り   150 86 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/86 
 匂花挙句  151 86 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/86 
 奉納    159 90 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/90 
 夢想    163 92 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/92 
 追善    165 93 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/93 
 人倫と噂の弁172 97 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/97 
 支体    195 108 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/108 
 病     199 110 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/110 
 述懐    200 111 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/111 
 山類    202 112 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/112 
 水辺    204 113 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/113 
 雑場    207 114 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/114 
 居所    212 117 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/117 
三の巻
 恋     217 119 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/119 
 旅     236 129 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/129 
 名所    237 129 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/129 
 神釈無常  242 132 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/132 
 乾坤門   252 137 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/137 
 時分    263 142 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/142 
 夜分    266 144 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/144 
 時節    267 144 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/144 
 四季    270 146 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/146 
 雑     285 153 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/153 
四の巻
 月     294 158 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/158 
 素秋    322 172 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/172 
 日     326 174 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/174 
 星     330 176 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/176 
 花     330 176 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/176 
 植物    350 186 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/186 
 生類    358 190 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/190 
五の巻
 填字    365 193 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/193 
 別吟    367 194 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/194 
 留字    369 195 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/195 
 辞てには  381 201 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/201 
 体言用言  395 208 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/208 
六の巻
 火体    457 239 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/239 
 色立    459 240 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/240 
 畳付    460 241 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/241 
 一字一点  463 242 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/242 
 准付    467 244 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/244 
 軍事地獄  470 246 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/246 
 死活    475 248 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/248 
 一句立   477 249 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/249 
 両体用   481 251 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/251 
 輪廻    483 252 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/252 
 内外    485 253 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/253 
 禁物並変格 487 254 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950166/254


参考:佐々醒雪の解題

 全編芭蕉の伝書といふ貞享式、一名二十五条を根拠として、許多の俳諧に例証を求め、蕉門俳諧の式目を帰納的に論断せんとしたるものなり。 

 かの二十五条が芭蕉より其角、去来に伝り、去来より支考に伝りたりといひ、又は支考の偽作なりといふ、その当否は今必しも定むるを要せず。 

 曲斎は芭蕉の出席せる俳諧の巻々を悉く調査し、その足らざるものを、直門の高足等が俳諧によって補ひて、実例を根拠としたる通則を発見し、これを二十五条及び貞徳風と比較したるものなれば、蕉門の式目としては、既に疑念を挿み難き断案を下したものといふべし。  

 引用せる俳書数百部、芭蕉とその高弟との著は成し得る限り渉猟せるものにして、天明期以前の俳諧の形式は殆どここに尽きたりといふべし。

2013年4月8日月曜日

【満尾】第四千句第六百韻『若草や』の巻



                      百韻『若草や』の巻   
                                                                                2013.4.8〜5.5

発句  若草や文庫で読みし資本論       風牙  春
脇     げんげ田かへす耕耘機の音     春蘭  春 
第3  春疾風聟取りの村華やぎて       曙水  春
4     日舞の稽古手取り足取り      草栞
5   顔に似ぬ厳しさが売り評判に      真葛
6     無垢の一枚板カウンター       牙
7   頬杖で眺むる今日の月明し       ね子  秋月
8     添い臥の稚児包む虫の音       水  秋  そいぶし

9   鬼の子と言はれ父恋ふ健気さよ      葛  秋
9   つりあはぬちぎりはかなくそでのつゆ   蘭  秋恋
10    面影慕ひ干せる中汲         栞  秋恋 両句に
11  長旅を終えて見下ろす滑走路       牙
12    リノリウムさへ匂ひ懐かし      蛉
13  若作りしてゆく孫の参観日        蘭
14    フォークダンスの足がよろける    葛
15  打ち上げはキャンプ・ファイアー缶ビール 蘭  夏
16    祭終ればむら冬支度         水  秋
17  最果ての海峡越えて鶴渡り        栞  秋
18    孤独身にしむ教室の窓        ね  秋
19  彫像の遠き眼差し月浴びて        葛  秋月
20    乙女らまとう春色の服        水  春
21  枝々に小鳥さへづる花大樹        蘭  春花
22    ランドマークの鐘は霞めり      葛  春
二オ
23  ツイートもメールも返信待ちの僕     水  恋
24    予約の取れぬ店で決戦        牙  恋
25  あかつきに羊羹めあての列のびて     蘭
26    ネズミいつしか寺に住みつく     葛
27  鍵つ子で街を彷徨ふローティーン     ね
28    亡き母想ふコゼットのごと      栞
29  成長の糧と不幸を乗り越えん       蘭
30    さざ波立てば揺れる満月       水  秋月
31  川霧のはれて顕はる舫い船        葛  秋
32    木犀薫る隠れ処の径         栞  秋
33  密造酒蔓延る街は風強し         牙     はびこる
34    ゴミに群がるからす艶よき      蘭
35  ばっさりと黒髪切るも二十の子      葛     はたち
36   「時分の花よ」乙女心は        水
二ウ
37  幽玄の風姿とどめよ今しばし       栞
38    烏賊に見立ててアロエベラ切る    牙
39  万能といふ触れ込みに騙されて      ね
40    うちの文化は包丁と鍋        水
41  母の日や筍めしの薄き味         蘭  夏
42    青嵐吹きて木々のざわめき      栞  夏
43  隣国に戦さ間近の噂あり         葛
44    スマホ出す度相場気になる      牙
45  鑑定は銀月錆びた大屏風         水  秋月
46    相続協議冷ややかに過ぐ       蘭  秋
47  藷掘りの続く道程一時間         牙  秋
48    二人で過ぐすときは短かく      ね  恋
49  めぐり逢ひて花の命を惜しみけり     栞  春花恋
50    山菜採りに入る奥山         蘭  春
三オ
51  穴を出て熊は行く手を見失ひ       葛  春
52    ダンプばかりとよくすれ違う     牙
53  立て看は頭を下げて「工事中」      水
54    忘れた頃に余震頻発         栞
55  飯いいと言はず帰りが遅くなり      蘭
56    これ見よがしにプラチナピアス    葛
57  昇降機五十階より降りてきて       牙
58    住まひ選びは実に難問        蘭
59  年の瀬のローンの重みいや増しぬ     栞  冬
60    子を叱りつつ先思いやる       水
61  ゆふぐれの植田ころころ啼く蛙      蘭  夏
62    打ち捨てられし緒の切れた下駄    葛
63  面影を思いきれずに春の宵        水  春恋
64    朧月にも著き恋やせ         葛  春月恋 しるき
三ウ
65  はらはらと散りて花びら埋む径      蘭  春花  うづむ
66    たゆたふ河の流れアダージョ     栞
67  悠久を求め私もインドへと        水
68    熱にうなされまた同じ夢       牙
69  猛暑日の予報うらめし蝉しぐれ      蘭  夏
70    草刈鎌は錆びる暇なし        葛  夏
71  下町の職人芸の活きてをり        栞
72    路地に並びし丹精の菊        水  秋
73  声掛けて声の戻らぬ月の夜        牙  秋月
74    新酒をあけて手向く一献       蘭  秋
75  様になる見よう見まねの太郎冠者     葛
76    村おこしにと舞台復活        蘭
77  奈落より脱出するも道険し        栞
78    百日紅とて落ちぬ空蝉        牙  夏
ナオ
79  うな重で上手くなりたる箸づかひ     蘭  夏
80    円安に乗りツアー賑はふ       葛
81  近くとも遠き国より使者来る       栞
82    スワンの息の白き寒靄        蘭  冬   かんあい
83  黄昏の枯野に独り佇みて         栞  冬
84    指折りてみる夢のあれこれ      葛
85  巷では景気良くなるてふ噂        牙
86    着飾つてゐる歌舞伎座の前      ね
87  背伸びしてメニューに迷ふ初デート    蘭  恋
88    告白タイム給仕目くばせ       栞  恋
89  転職の場にも刑事の名残出て       葛
90    あぶれ蚊あはれ打つ人もなし     蘭  秋
91  十五夜は戦国の世も丸き月        ね  秋月   まろき
92    古りにし城趾色変えぬ松       蘭  秋
ナウ
93  正宗は酒と限らぬ上戸殿         水
94    泣くも笑ふもこれが青春       葛
95  後知恵の先に立たずは道理なり      栞
96    末は議員と競う弁論         牙
97  茶と菓子を子が指図する春炬燵      蘭  春
98    雛の家にもランドセル増え      栞  春
99  二宮の像よ上見よ花の影         牙  春花
挙句    巣立ちの鳥の声のにぎやか      葛  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年3月9日土曜日

【満尾】第四千句第五百韻『径なくて』の巻



                      百韻『径なくて』の巻   
                                                                                2013.3.9〜4.2

発句  径なくて篁くづる菫かな       楸邨  春 たかむら:竹薮     
脇句    番ひの雉子の葎ゆく影      春蘭  春 つがひ
第三  座敷中雛道具など散らかして     ね子  春
4     下手な習字を見つけ赤面     草栞
5   初孫の授業参観いそいそと       蘭
6     高度成長時代駆け抜け      風牙
7   望くだり飲み友達はちりぢりに    真葛  秋月
8     夜長を過ごすアパートの鍵     ね  秋

9   虫すだくクロスワードのあと一語   曙水  秋
10    はぐらかされし愛の告白      蘭  恋
11  ドン・ファンはお手をどうぞと繰り返す 栞  恋
12    踊る阿呆は寂しからずや      ね
13  いざブログ牧水調の歌添へて      葛
14    本郷の坂息たへだへに       蛉
15  二人の子乗せる自転車母強し      牙
16    スケッチブックに素描描き留め   栞
17  復興の願ひ膨らむ遠花火        ね  夏花
18    祭囃子に惹かれ行く町       蘭  夏
19  そそくさと夕餉は残りごはんにて    〃
20    ドラマの録画溜まる一方      牙
21  山の端に見る人もなき冬の月      葛  冬月
22    湖面に降るる水鳥の群       ね  冬
二オ
23  故郷を持たぬ身軽さ頼りなさ      水
24    都市伝説の嘘も真に        栞
25  左手の小指の爪は桜色         牙  恋
26    春の恋なら春に終はらす      ね  春恋
27  ぬくもりをいざ断ち切らん巣立鳥    蘭  春
28    良きことあるや初虹の見ゆ     葛  春
29  名画より光と影の溢れ出で       栞
30    二時間待ちの札にげんなり     牙
31  拉麺は蘊蓄よりも食うが良し      水
32    つけつぱなしのテレビながら見   蘭
33  頷いて済ます会話も十年目       牙
34    強気の陰に透ける小心       葛
35  ミシュランを信じぬシェフの匙加減   栞
36    しかめっ面も弛む絵葉書      牙
二ウ
37  蜜月を終えてパンダ舎再開す      ね
38    うららに釣られぞろり出不精    蘭  春
39  見渡せば散るを厭わず花は咲く     水  春花
40    陽炎のごと去りし武士       栞  春  もののふ
41  待ち合わせ場所はSL広場にて     牙
42    腕絡ませる休日の午後       ね  恋
43  君がなほ辛き身なりと耐へる愛     葛  恋
44    溢るるばかりのビールごくごく   水  夏
45  いつかはと念ひし山を踏破して     蘭  夏
45  夏フェスを終えてバンドは舞台裏    牙  夏
46    ローカル局の取材厭はず      栞     両句に
47  落選の噂もありて元大臣        ね
48    我が世の春よ窓に望月       水  春月
49  桜咲く門の内にて八文字        牙  春  はちもんじ
50    軟東風吹きて揺れる簪       栞  春
三オ
51  卒業の旅で変身舞妓さん        蘭  春
52    慣れぬ手つきでシャッターを切る  牙
53  ツチノコを探すと友は西ひがし     ね
54    リタイアしたら俄然生き生き    蘭
55  蕎麦打ちに連歌の道を極めたる     栞
56    祭り上げられ親善大使       葛
57  尼寺の庵主しるせし本売れて      蘭
58    続き見るには有料となる      牙
59  三月ごと新聞替へて映画券       蘭     みつき
60    ミンク捲きたる顔の卑しき     葛  冬
61  狩人の道に迷えばレストラン      牙  冬
62    秘密のレシピ身体には毒      ね
63  ピアノの音漏るる洋館月赤し      牙  秋月
64    郵便受けに絡む蔦の葉       栞  秋
三ウ
65  待ちかねた嫁の里より新走り      水  秋
66    汲めど尽きせず古典逍遥      蘭
67  とくとくの清水流るる棲処にて     栞
68    お血脈札閻魔欲しがり       水
69  真打ちとなるには足らぬ色と艶     牙
70    憎まれ口をたたき気を引く     葛
71  こゝろとは逆に振る舞ふをさな恋    蘭  恋
72    フォークダンスの手に滲む汗    牙  夏恋
73  隊商の砂漠越えゆく月暑し       水  夏月
74    広場に響む物売りの声       栞     どよむ
75  真作のはずは無けれどガレの壺     牙
76    貸し借りなしの長き付き合ひ    葛
77  パッと咲きサッと散り行く花は友    ね  春花
78    千歳の松のみどり美し       蘭  春  うるはし
ナオ
79  恨み言一つ言わずに蜆汁        牙  春
80    絆絆とポスターを貼る       水
81  慕はしき名前何度も確かめて      栞  恋
82    相合傘は五月雨の中        ね  夏恋
83  籠り居る宿に想練る次回作       葛
84    伸ばしては剃るごま塩の髭     蘭
85  我が家にはサンタクロースは来ないのよ 水  冬
86    仏の煤を払ふ小坊主        蘭  冬
87  居酒屋に隠語で話す二人組       牙
88    ワインのコルク床に転がり     栞
89  難破船噂ありしがいつか消え      葛
90    店舗誘致で決まる集客       牙
91  廃屋と残土を照らす朧月        水  春月
92    風船飛ばす定年の人        ね  春
ナウ
93  花の香は古き枝にも蘇り        栞  春花
94    壁画の下の別の絵を知る      牙
95  講釈のおまけ付けられ吟醸酒      葛
96    木彫りの鼠張り扇で鳴き      水
97  江戸情緒探索〆に寄席へ行き      蘭
98    スカイツリーの消ゆる電飾     栞
99 「夜の梅」土産に貰ひ春の星       牙  春
挙句    鈴の音もあり遍路笠見ゆ      ね  春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年2月6日水曜日

【満尾】第四千句第四百韻『さざ波は』の巻  


                      百韻『さざ波は』の巻   
                                                                                2013.2.6〜2.28

発句  さざ波は立春の譜をひろげたり  水巴  春     
脇句    東風に吹かるゝ堤のをとめら 春蘭  春  てい
第3  雉ほろろ玉追う子には罪もなし  風牙  春
4     無垢の小筥に仕舞ふ臍の緒  草栞
5   旅立ちの準備万端整ひて     真葛
6     無料アプリも割と役立つ    牙
7   待宵の今日の運勢占ひぬ     ね子  秋月
8     貴人挿頭す紅葉一枝     曙水  秋  あてびと かざす

9   初嵐芸妓のひとり路地急ぐ    玄碩  秋
10    ”妻”と記して君を待つ宿    蘭  恋
11  俳句でも一つ捻つて捧ぐ愛     栞  恋
12    声高にては云へぬ腰痛     葛
13  孫娘前にすべてをそっちのけ    蛉
14    パソコン慣れてネット通販   蘭
15  口コミの評判さへも金次第     ね
16    暇な隠居は地獄耳にて     栞
17  犬吠えて向かいの娘は朝帰り    碩
18    有明月をとどむ夏空      葛  夏月
19  大漁と烏賊釣船の旗なびく     牙  夏
20    白寿赤飯お裾分けきて     水
21  枯枝に花咲くごとく若返り     栞  春花
22    子供のお古似合ひ麗らか    蘭  春
二表
23  奪ふべき愛ふらここに託し漕ぐ   葛  春恋
24    四月馬鹿にも淡き初恋     ね  春恋
25  付け文に差出人の名の無くて    牙  恋
26    告白披露罰ゲームなり     蛉
27  振り返るわが青春は悔いに満ち   蘭
28    古い手帳にペンは走らず    碩
29  ブラインド・タッチ華麗な新世代  蘭
30    国会中継コンサートなみ    葛
31  冬ざれの日本経済上向いて     ね  冬
32    滑らぬやうに歩く雪道     栞  冬
33  学校は知育偏重試験漬け      蘭
34    やる気演技でみせる就活    〃
34    世にはざらなり答えなき問ひ  〃
34    可愛さ変わらずどれもどんぐり 水  秋
35  月よ月我ら等しく死に近し     ね  秋月 三句に
36    山海の幸並ぶ賢治忌      牙  秋
二裏  
37  猫の手も借りたいほどの芋煮会   栞  秋
38    本家争ひしばし休戦      葛
39  呼び込みの熱さで決めるあぶり餅  蘭
40    青空市は今日も賑やか     ね
41  アンティークグラス二脚のクリスマス 牙 冬
42    嘘かまことか王の血筋と    葛
43  山陵を越えて広がる青田波     碩  夏  みささぎ
44    不意に現る虹の架橋      栞  夏
45  ポケットの婚約指輪取り出せず   ね  恋
46    葡萄酒醸し刻む君の名     牙  秋恋
47  待たされて有明の月薄蒼く     水  秋月
48    花紅葉敷く寺の延べ段     蘭  秋花
49  千年の古都の誇りは今もなほ    葛
50    ゴンドラ漕ぎもベルカントにて 栞
三表
51  チップにと覗く財布に小銭無し   牙
52    唇赤き七五三の子       ね  冬
53  初時雨止みて手水に光満つ     栞  冬
54    人気作家の返本の山      葛
55  評判は良くも悪くもバズられる   蘭
56    重き扉を開くる躊躇ひ     牙
57  教会に憬れ抱く仏教徒       ね
58    バージンロード父は疎まし   水
59  身ごもりを服で隠せぬやうになり  蘭
60    ここが出番と鳩の飛び出す   葛
61  道化師の子等はやしたて辻舞台   蛉
62    夏草燃ゆる城の坂下      栞  夏
63  刀から蚊遣りまで売る骨董屋    水  夏
64    伏し目にかくす志しあり    葛
三裏
65  少年の夢は宇宙に植民地      ね
66    アニソンばかり歌うカラオケ  牙
67  オフ会やハンドル名のこそばゆさ  蘭
68    闇にまぎれて触れる君の手   葛  恋
69  ボエームを想ひ耳まで赤くなり   栞  恋
70    大気汚染で意識失ふ      ね
71  噂して曹操がくる四千年      水
72    歴史は知恵の宝庫なりとや   蘭
73  鷄か卵が先か気になりて      ね
74    食欲誘ふ三つ葉芹の香     牙  春
75  水音を空耳かとも月朧       葛  春月
76    日永過ごすに足りる狭筵    蘭  春
77  孫ひまご祖父母の家は花盛り    ね  春花
78    写真館にて記念撮影      栞
名表
79  星屑の落ちし北の地五稜郭     牙
80    出張ついでに市内観光     蘭
81  庭先の路面電車に菊ゆるゝ     蛉  秋
82    駅長のごと案山子佇む     ね  秋
83  瓢の笛誰ぞ吹きたる月の夜     牙  秋月
84    人さらひとや聞くも恐ろし   葛
85  韓流を追っかけ家事はそっちのけ  蘭
86    目が離せない字幕スーパー   水
87  顧て初めて気づく恋心       栞  恋
88    相合傘を書いてまた消し    葛  恋
89  放課後に一人残されドリル解く   牙
90    おやの渋面浮かぶゆふぐれ   蘭
91  ひと月に十三回の里帰り      ね
92    政策変わって弟妹ができ    水
名裏
93  口遊むいろはにほへとほろ酔ひて  葛
94    あさきゆめみてさめしあけぼの 蘭
95 「芝浜」のかみさんほどに芸もなく  水
96    付け払ひせでお後よろしく   栞
97  春風に列みだれなきラーメン屋   蘭  春
98    頑固一筋山も笑へり      ね  春
99  花守の留め置き事項また増えて   葛  春花
99  若松の堀を染めたる花鏡      牙  春花
挙句    筵で待つは新社員らし     牙  春  両句に 

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方
写真提供はフォト蔵さん

2013年1月18日金曜日

発句考


1、 蔦の葉は残らず風のそよぎ哉 荷兮  発句はかくのごとく、くま
   ぐままでいひつくすものにあらずとなり。(去来抄 去来)

2、 下臥につかみわけばや糸ざくら 其角  いひ課(おほ)せて何か
   ある。(言い尽くして何があるか、何も残らない。)(去来抄)

3、 発句は物をとり合せすれば出来る物なり。それをよく取合せするを
   上手といひ、あしきを下手といふなり。(去来抄)

4、 発句の事は行って帰る心の味なり。たとえば、山里は万歳おそし梅
   の花 といふ類なり。(三冊子 土芳)

5、 句姿も高く位よろしきをすべしとむかしより言ひ侍る。先師は懐紙
   の発句かろきを好まれし也。時代にもよるべき事にや侍らん。(三冊子)

6、 切字なくては発句の姿にあらず、付句の体也。切字を加へても付句
   の姿ある句あり。誠に切れたる句にあらず。又切字なくても切れる
   句有り。(三冊子)

7、 発句はその座の風景、時節相応、賓主の挨拶による事常の習也。(俳諧
   無言抄 梅翁)

8、 発句案じ方の事 発句を案ずるには先づ題に結ばむと思ふものを、
   胸中に画きて見るべし。鏡花水月の案じ方といふなり。。。只句は
   言尽すまじきものなり。。。上手の画は画外に在り、上手の詩歌は、
   言外に風情を備ふ。(俳諧発句小鏡 蓼太)

9、 句に理屈を抜く事 発句は理屈より案ずべからず。(俳諧発句小鏡)

2013年1月15日火曜日

俳諧の本質的概論 (抄) 寺田寅彦


現代のいわゆる俳壇には事実上ただ発句があるばかりで連句はほとんどない。子規の一蹴いっしゅうによってこの固有芸術は影を消してしまったのである。しかし歴史的に見ても連俳あっての発句である。修業の上から言っても、連俳の自由な天地に遊んだ後にその獲物を発句に凝結させる人と、始めから十七字の繩張なわばりの中に跼蹐きょくせきしてもがいている人とでは比較にならない修辞上の幅員の差を示すであろう。鑑賞するほうの側から見ても連俳の妙味の複雑さは発句のそれと次序オーダーを異にする。発句がただ一枚の写真であれば連俳は一巻の映画である。実際、最も新しくして最も総合的な芸術としての映画芸術が、だんだんに、日本固有の、しかも現代日本でほとんど問題にもされない連俳芸術に接近する傾向を示すのは興味の深い現象であると言わなければならない。

参考文献:
(1) 青空文庫 俳諧の本質的概論 寺田寅彦
(2) うわづら文庫 連句藝術の性格 能勢朝次 
  第一章 連句研究の現代的意義 第一節 一対三十五において引用 

2013年1月10日木曜日

俳諧に迷ひて俳諧の連歌といふ事を忘れたり 

去来抄  日本名著全集 江戸文芸之部第二巻 芭蕉全集  

魯町曰。俳諧の基とはいかに。

  訳:魯町が言った。「俳諧の基(もとい:基礎・土台)とはなにか?」

去來曰。詞にいひがたし。凡吟詠するもの品あり。歌は其一なり。其中に品
あり。はいかいは其一なり。其品々をわかちしらるゝ時は、俳諧連歌はかく
のごときものなりと、おのづからしらるべし。

  訳:去来が言った。「一言では言いにくい。おおよそ吟詠する詩歌にも
    種類がある。和歌はその一つだ。その中にも種類がある。俳諧歌は
    その一つである。その種類を分けてそれぞれが理解できた時に、俳
    諧の連歌とはこういうものだと自然にわかるだろう。」

それをしらざる宗匠達はいかいをするとて、詩やら歌やら、旋頭・混本歌や
ら知らぬ事をいへり。是等は俳諧に迷ひて、俳諧連歌といふ事を忘れたり。

  訳:「それ(俳諧の連歌の詩歌における成り立ち・位置付け)を知らな
    い宗匠達は、俳諧をすると言って漢詩やら和歌やら、旋頭歌、混本
    歌やらわけのわからぬことを言っている。これらは俳諧という言葉
    に迷わされて、俳諧が俳諧の連歌だということを忘れてしまったの
    だ。」

俳諧をもて文を書ば俳諧文なり。歌をよまば俳諧歌なり。身に行はゞ俳諧の
人なり。唯いたづらに見を高くし、古をやぶり、人に違ふを手がらがほに、
あだ言いひちらしたるいと見苦し。

  訳:「俳諧の心(滑稽、おかしみ、戯れ)をもって文章を書くならば俳
    諧文である。俳諧の心をもって和歌を詠むならば俳諧歌である。俳
    諧の心をもって行動するならその人は俳諧の人である。ただ無駄に
    考え方を高慢にし昔からのやり方を破り、他人と違うことを自慢顔
    にいいかげんなことを言い散らしている輩がいるがとても見苦しい。」

かくばかり器量自慢あらば、はいかい連歌の名目をからず、はいかい鐵炮と
なりとも、亂聲となりとも、一家の風を立てらるべし。

  訳:「それほど自分の才能が自慢ならば、俳諧の連歌という名前を借り
    ずに、俳諧鉄砲とでも、乱声(らんじょう)とでも名付け、俳諧の
    軒を借りずに一家を立てるべきであろう。」

コメント:
『去来抄』の修業教の冒頭に不易流行と並んである一文である。芭蕉の在世
当時から本分を忘れたあやしい俳諧もどきが横行していたようだ。

●「俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。」支考『芭蕉翁二十五箇条』の第一条で心は去来抄の一文と同じである。以下の記述も同様である。

●「俳諧もさすがに和歌の一体なり。句にしをりの有るやうに作るべし。」(去来抄)

●「発句の脇は歌の上下(かみしも)也。是を連ねるを連歌といふと云。一句一句に切るは長くつらねんが為なり。」(去来抄)

●「俳諧は歌なり。。。和歌に連歌あり。俳諧あり。。。古今集にざれ歌を俳諧歌と定む。是になぞらへて連歌のただごとを世に俳諧の連歌といふ」(三冊子)

現代の連句界はとながめてみると、俳諧は俳諧の連歌で二句で短歌になるよ
うに詠むことを忘れた、温厚な去来が思わず怒りをこめて言った俳諧鉄砲や
乱声の輩の末流が跋扈している感がある。

参考: 連歌とは

2013年1月2日水曜日

【満尾】吉例新春顔見世興行 連歌百韻『初御空』の巻

第四千句第三百韻 #jrenga

      百韻『初御空』の巻   
                    2013.1.2〜1.13

発句  初御空鴉はいつも自在なり      真葛 新年 
脇句    淑気満ちたる白銀の富士     春蘭 新年 しろがね
第三  獅子頭蔵開けたれば陽を浴びる    ね子 新年
4     町おこしにと祭り復活       蘭
4     おぼえず酔ひの回るきき酒     〃
5   深更に正座して聴く秘伝あり     滋音    両句に
6     弓張月の行方追ひかけ      草栞 秋月
7   新蕎麦を粋にたぐりて寄席帰り    曙水 秋
8     店主こころ得秋袷褒む       葛 秋
8     扇忘れし客は二代目       風牙 秋

9   座敷より眺むる溪を紅葉染め     玄碩 秋  両句に
10    錦の帯締め秋の吉日        水 秋
11  松風の耳に清しく居を直し       蛉
12    しのぶ栄華は夢の城あと      蘭
13  定年後世界遺産に想い馳せ       牙
14    夏至のローマに二人落ち合ふ    ね 夏恋
15  ライバルもひしめき恋のさや当てか   栞 恋
16    君は知らじな桑田清原       水
17  蛮勇を部下に自慢のガード下      牙
18    思はぬ方に落し穴あり       葛
19  子が出来て構ってくれなくなった妻   蘭
20    ダイエットする決意固める     音
21  雲海に昇る朝日の花照らす       牙 春花
22    春嶺遥か八重に連なり       栞 春
二オ
23  通学の自転車のベル夏近し       碩 春
24    サンキュと云へばサンキューと云ふ 葛
25  円満の秘訣は笑顔と忍耐と       ね
26    月末に見るカード明細       牙
27  ケ・セラ・セラ江戸っ子気質はやせ我慢 蘭
28    掛け算九九は風呂で覚える     牙
29  あこがれの一人一部屋一戸建て     蘭
30    みかん食べつつテレビ三昧     葛 冬
31  未だ見ぬ寺より響く除夜の鐘      栞 冬
32    これも煩悩ねこを侍らす      ね
33  両の手に紙袋下げ入るカフェ      蘭
34    日当貰いシャワー使える      牙
35  夏の月リゾートバイトは海の家     蘭 夏月
35  洗い髪振り向く君が眩しくて      水 夏恋
36    虹を指しつつ初な告白       栞 夏恋
二ウ
37  ポケットに入れし詩集の紙魚の跡    牙 夏
38    話が弾む職務質問         ね
39  高跳びの自慢噺は封印し        葛
40    五輪招致につきまとう影      牙
41  好景気望まぬ人は居らぬらん      蘭
42    ジュリアナ世代今や美魔女に    水
43  若返りこそ人間の永遠の夢       蘭
44    iPSに賭けてみようか      栞
45  秘中の秘あなただけにと囁かれ     牙
46    春競馬にて狙ふ大穴        ね 春
47  風邪っ気も吹き飛ばしてや花吹雪    蘭 春花
48    ツンと抜けたる山山葵の香     牙 春
49  朧夜の回転寿司にトロを食ふ      ね 春
50    カネの話はひとに任せて      葛
三オ
51  腕利きの職人気質衰へず        栞
52    老舗と本家張り合いて居り     水
53  暖簾にはかからぬようにと水を打ち   碩 夏
54    小僧十三甘味恋しき        蛉
55  毘沙門天を右に折れれば石畳      牙    びしゃもん
56    ロケ地効果を皮算用し       水
57  リゾートに突如戦国館でき       蘭
58    フリーパス持ち西へ東へ      葛
59  枯菊を残して消えた男追ひ       ね 冬恋
60    待伏せ辛き寒の有明        栞 冬月恋
61  ひとげ無き氷湖に残る穴二つ      牙 冬
62    悪童まえにつづく怪談       葛
63  草廬出て大路日課の辻説法       蘭
64    荷駄も歩みを少し緩めて      碩
三ウ
65  少しだけ横顔見せた異邦人       栞
66    モロッコ革のカバー手擦れて    水
67  背伸びする父の書斎のウイスキー    牙
68    親の旅中に友と留守番       蘭
69  待ち受けの画面はなぜか猫ばかり    葛
70    ブログに綴る人気スイーツ     牙
71  結界を囃し虚ろになりにけり      蛉    はやし
72    見返り柳ゆれる後朝        蘭 恋
73  南風見せるうなじはか細くて      碩 夏恋
74    海霧に汽笛の咽び泣くとや     栞 夏  じり
75  六十路坂初クルーズに漕ぎ着けて    蘭
76    恐る恐るのタンゴステップ     葛
77  花形となりし片鱗窺はせ        栞 雑花
78    匠究めて深き眼の人        蛉
ナオ
79  泥沼流さわやか流とも呼ばれけり    ね
80    番狂わせと言えぬ風格       牙
81  勝越しに斗酒まだ辞せぬ午前二時    碩
82    手水の窓を中天の月        蘭 秋月 ちょうず
83  回廊を渡れば菊の馥郁と        牙 秋
84    春日の杜に鹿の群れなす      栞 秋
85  やはらかき煎餅好むばばと孫      葛
86    障子を透し届く小春日       碩 冬
87  川の字の天井躍る影絵かな       蛉
88    生謳歌する如く啼く蝉       蘭 夏
89  短夜をともに過せる終の刻       栞 夏恋
90    肩抱きくれし御手の恋しき     葛 恋
91  通学路メニュー変わらぬ喫茶店     牙
92    卒業写真ひとりわからず      水
ナウ
93  自分史で賞を狙ってネタ集め      蘭
94    こんぐらかりし編みかけの糸    葛
95  縁側に猫は寛ぎ毛づくろひ       蘭
96    苔むす石はやや陽溜まりに     蛉
97  水温む頃となりしや潦         栞 春 にわたずみ
98    逃げる蝌蚪追う子のはしゃぎ声   牙 春
99  早咲きの花を門出に栄転す       水 春花
挙句    ますます高く上がる風船      ね 春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方

写真提供はフォト蔵さん