2013年1月18日金曜日

発句考


1、 蔦の葉は残らず風のそよぎ哉 荷兮  発句はかくのごとく、くま
   ぐままでいひつくすものにあらずとなり。(去来抄 去来)

2、 下臥につかみわけばや糸ざくら 其角  いひ課(おほ)せて何か
   ある。(言い尽くして何があるか、何も残らない。)(去来抄)

3、 発句は物をとり合せすれば出来る物なり。それをよく取合せするを
   上手といひ、あしきを下手といふなり。(去来抄)

4、 発句の事は行って帰る心の味なり。たとえば、山里は万歳おそし梅
   の花 といふ類なり。(三冊子 土芳)

5、 句姿も高く位よろしきをすべしとむかしより言ひ侍る。先師は懐紙
   の発句かろきを好まれし也。時代にもよるべき事にや侍らん。(三冊子)

6、 切字なくては発句の姿にあらず、付句の体也。切字を加へても付句
   の姿ある句あり。誠に切れたる句にあらず。又切字なくても切れる
   句有り。(三冊子)

7、 発句はその座の風景、時節相応、賓主の挨拶による事常の習也。(俳諧
   無言抄 梅翁)

8、 発句案じ方の事 発句を案ずるには先づ題に結ばむと思ふものを、
   胸中に画きて見るべし。鏡花水月の案じ方といふなり。。。只句は
   言尽すまじきものなり。。。上手の画は画外に在り、上手の詩歌は、
   言外に風情を備ふ。(俳諧発句小鏡 蓼太)

9、 句に理屈を抜く事 発句は理屈より案ずべからず。(俳諧発句小鏡)

2013年1月15日火曜日

俳諧の本質的概論 (抄) 寺田寅彦


現代のいわゆる俳壇には事実上ただ発句があるばかりで連句はほとんどない。子規の一蹴いっしゅうによってこの固有芸術は影を消してしまったのである。しかし歴史的に見ても連俳あっての発句である。修業の上から言っても、連俳の自由な天地に遊んだ後にその獲物を発句に凝結させる人と、始めから十七字の繩張なわばりの中に跼蹐きょくせきしてもがいている人とでは比較にならない修辞上の幅員の差を示すであろう。鑑賞するほうの側から見ても連俳の妙味の複雑さは発句のそれと次序オーダーを異にする。発句がただ一枚の写真であれば連俳は一巻の映画である。実際、最も新しくして最も総合的な芸術としての映画芸術が、だんだんに、日本固有の、しかも現代日本でほとんど問題にもされない連俳芸術に接近する傾向を示すのは興味の深い現象であると言わなければならない。

参考文献:
(1) 青空文庫 俳諧の本質的概論 寺田寅彦
(2) うわづら文庫 連句藝術の性格 能勢朝次 
  第一章 連句研究の現代的意義 第一節 一対三十五において引用 

2013年1月10日木曜日

俳諧に迷ひて俳諧の連歌といふ事を忘れたり 

去来抄  日本名著全集 江戸文芸之部第二巻 芭蕉全集  

魯町曰。俳諧の基とはいかに。

  訳:魯町が言った。「俳諧の基(もとい:基礎・土台)とはなにか?」

去來曰。詞にいひがたし。凡吟詠するもの品あり。歌は其一なり。其中に品
あり。はいかいは其一なり。其品々をわかちしらるゝ時は、俳諧連歌はかく
のごときものなりと、おのづからしらるべし。

  訳:去来が言った。「一言では言いにくい。おおよそ吟詠する詩歌にも
    種類がある。和歌はその一つだ。その中にも種類がある。俳諧歌は
    その一つである。その種類を分けてそれぞれが理解できた時に、俳
    諧の連歌とはこういうものだと自然にわかるだろう。」

それをしらざる宗匠達はいかいをするとて、詩やら歌やら、旋頭・混本歌や
ら知らぬ事をいへり。是等は俳諧に迷ひて、俳諧連歌といふ事を忘れたり。

  訳:「それ(俳諧の連歌の詩歌における成り立ち・位置付け)を知らな
    い宗匠達は、俳諧をすると言って漢詩やら和歌やら、旋頭歌、混本
    歌やらわけのわからぬことを言っている。これらは俳諧という言葉
    に迷わされて、俳諧が俳諧の連歌だということを忘れてしまったの
    だ。」

俳諧をもて文を書ば俳諧文なり。歌をよまば俳諧歌なり。身に行はゞ俳諧の
人なり。唯いたづらに見を高くし、古をやぶり、人に違ふを手がらがほに、
あだ言いひちらしたるいと見苦し。

  訳:「俳諧の心(滑稽、おかしみ、戯れ)をもって文章を書くならば俳
    諧文である。俳諧の心をもって和歌を詠むならば俳諧歌である。俳
    諧の心をもって行動するならその人は俳諧の人である。ただ無駄に
    考え方を高慢にし昔からのやり方を破り、他人と違うことを自慢顔
    にいいかげんなことを言い散らしている輩がいるがとても見苦しい。」

かくばかり器量自慢あらば、はいかい連歌の名目をからず、はいかい鐵炮と
なりとも、亂聲となりとも、一家の風を立てらるべし。

  訳:「それほど自分の才能が自慢ならば、俳諧の連歌という名前を借り
    ずに、俳諧鉄砲とでも、乱声(らんじょう)とでも名付け、俳諧の
    軒を借りずに一家を立てるべきであろう。」

コメント:
『去来抄』の修業教の冒頭に不易流行と並んである一文である。芭蕉の在世
当時から本分を忘れたあやしい俳諧もどきが横行していたようだ。

●「俳諧は上下取り合わせて歌一首と心得べし。」支考『芭蕉翁二十五箇条』の第一条で心は去来抄の一文と同じである。以下の記述も同様である。

●「俳諧もさすがに和歌の一体なり。句にしをりの有るやうに作るべし。」(去来抄)

●「発句の脇は歌の上下(かみしも)也。是を連ねるを連歌といふと云。一句一句に切るは長くつらねんが為なり。」(去来抄)

●「俳諧は歌なり。。。和歌に連歌あり。俳諧あり。。。古今集にざれ歌を俳諧歌と定む。是になぞらへて連歌のただごとを世に俳諧の連歌といふ」(三冊子)

現代の連句界はとながめてみると、俳諧は俳諧の連歌で二句で短歌になるよ
うに詠むことを忘れた、温厚な去来が思わず怒りをこめて言った俳諧鉄砲や
乱声の輩の末流が跋扈している感がある。

参考: 連歌とは

2013年1月2日水曜日

【満尾】吉例新春顔見世興行 連歌百韻『初御空』の巻

第四千句第三百韻 #jrenga

      百韻『初御空』の巻   
                    2013.1.2〜1.13

発句  初御空鴉はいつも自在なり      真葛 新年 
脇句    淑気満ちたる白銀の富士     春蘭 新年 しろがね
第三  獅子頭蔵開けたれば陽を浴びる    ね子 新年
4     町おこしにと祭り復活       蘭
4     おぼえず酔ひの回るきき酒     〃
5   深更に正座して聴く秘伝あり     滋音    両句に
6     弓張月の行方追ひかけ      草栞 秋月
7   新蕎麦を粋にたぐりて寄席帰り    曙水 秋
8     店主こころ得秋袷褒む       葛 秋
8     扇忘れし客は二代目       風牙 秋

9   座敷より眺むる溪を紅葉染め     玄碩 秋  両句に
10    錦の帯締め秋の吉日        水 秋
11  松風の耳に清しく居を直し       蛉
12    しのぶ栄華は夢の城あと      蘭
13  定年後世界遺産に想い馳せ       牙
14    夏至のローマに二人落ち合ふ    ね 夏恋
15  ライバルもひしめき恋のさや当てか   栞 恋
16    君は知らじな桑田清原       水
17  蛮勇を部下に自慢のガード下      牙
18    思はぬ方に落し穴あり       葛
19  子が出来て構ってくれなくなった妻   蘭
20    ダイエットする決意固める     音
21  雲海に昇る朝日の花照らす       牙 春花
22    春嶺遥か八重に連なり       栞 春
二オ
23  通学の自転車のベル夏近し       碩 春
24    サンキュと云へばサンキューと云ふ 葛
25  円満の秘訣は笑顔と忍耐と       ね
26    月末に見るカード明細       牙
27  ケ・セラ・セラ江戸っ子気質はやせ我慢 蘭
28    掛け算九九は風呂で覚える     牙
29  あこがれの一人一部屋一戸建て     蘭
30    みかん食べつつテレビ三昧     葛 冬
31  未だ見ぬ寺より響く除夜の鐘      栞 冬
32    これも煩悩ねこを侍らす      ね
33  両の手に紙袋下げ入るカフェ      蘭
34    日当貰いシャワー使える      牙
35  夏の月リゾートバイトは海の家     蘭 夏月
35  洗い髪振り向く君が眩しくて      水 夏恋
36    虹を指しつつ初な告白       栞 夏恋
二ウ
37  ポケットに入れし詩集の紙魚の跡    牙 夏
38    話が弾む職務質問         ね
39  高跳びの自慢噺は封印し        葛
40    五輪招致につきまとう影      牙
41  好景気望まぬ人は居らぬらん      蘭
42    ジュリアナ世代今や美魔女に    水
43  若返りこそ人間の永遠の夢       蘭
44    iPSに賭けてみようか      栞
45  秘中の秘あなただけにと囁かれ     牙
46    春競馬にて狙ふ大穴        ね 春
47  風邪っ気も吹き飛ばしてや花吹雪    蘭 春花
48    ツンと抜けたる山山葵の香     牙 春
49  朧夜の回転寿司にトロを食ふ      ね 春
50    カネの話はひとに任せて      葛
三オ
51  腕利きの職人気質衰へず        栞
52    老舗と本家張り合いて居り     水
53  暖簾にはかからぬようにと水を打ち   碩 夏
54    小僧十三甘味恋しき        蛉
55  毘沙門天を右に折れれば石畳      牙    びしゃもん
56    ロケ地効果を皮算用し       水
57  リゾートに突如戦国館でき       蘭
58    フリーパス持ち西へ東へ      葛
59  枯菊を残して消えた男追ひ       ね 冬恋
60    待伏せ辛き寒の有明        栞 冬月恋
61  ひとげ無き氷湖に残る穴二つ      牙 冬
62    悪童まえにつづく怪談       葛
63  草廬出て大路日課の辻説法       蘭
64    荷駄も歩みを少し緩めて      碩
三ウ
65  少しだけ横顔見せた異邦人       栞
66    モロッコ革のカバー手擦れて    水
67  背伸びする父の書斎のウイスキー    牙
68    親の旅中に友と留守番       蘭
69  待ち受けの画面はなぜか猫ばかり    葛
70    ブログに綴る人気スイーツ     牙
71  結界を囃し虚ろになりにけり      蛉    はやし
72    見返り柳ゆれる後朝        蘭 恋
73  南風見せるうなじはか細くて      碩 夏恋
74    海霧に汽笛の咽び泣くとや     栞 夏  じり
75  六十路坂初クルーズに漕ぎ着けて    蘭
76    恐る恐るのタンゴステップ     葛
77  花形となりし片鱗窺はせ        栞 雑花
78    匠究めて深き眼の人        蛉
ナオ
79  泥沼流さわやか流とも呼ばれけり    ね
80    番狂わせと言えぬ風格       牙
81  勝越しに斗酒まだ辞せぬ午前二時    碩
82    手水の窓を中天の月        蘭 秋月 ちょうず
83  回廊を渡れば菊の馥郁と        牙 秋
84    春日の杜に鹿の群れなす      栞 秋
85  やはらかき煎餅好むばばと孫      葛
86    障子を透し届く小春日       碩 冬
87  川の字の天井躍る影絵かな       蛉
88    生謳歌する如く啼く蝉       蘭 夏
89  短夜をともに過せる終の刻       栞 夏恋
90    肩抱きくれし御手の恋しき     葛 恋
91  通学路メニュー変わらぬ喫茶店     牙
92    卒業写真ひとりわからず      水
ナウ
93  自分史で賞を狙ってネタ集め      蘭
94    こんぐらかりし編みかけの糸    葛
95  縁側に猫は寛ぎ毛づくろひ       蘭
96    苔むす石はやや陽溜まりに     蛉
97  水温む頃となりしや潦         栞 春 にわたずみ
98    逃げる蝌蚪追う子のはしゃぎ声   牙 春
99  早咲きの花を門出に栄転す       水 春花
挙句    ますます高く上がる風船      ね 春

・・・経過は

※定座は守っても守らなくてもよい。四花四月〜七月。
____________________________________
初折表 123456月8       (1〜8)   花一つ、月一〜二つ
初折裏 12345678月012花4 (9〜22) __________
二折表 123456789012月4 (23〜36) 花一つ、月一〜二つ
二折裏 12345678月012花4 (37〜50)__________
三折表 123456789012月4 (51〜64) 花一つ、月一〜二つ
三折裏 12345678月012花4 (65〜78)__________
名残表 123456789012月4 (79〜92) 花一つ、月一つ
名残裏 123456花8       (93〜100)_________

作法式目
付け転じ方

写真提供はフォト蔵さん